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マイノリティであることが、自分の強み。異文化シェアハウスや子ども食堂を運営する李成一さんが、コミュニティを大切にする理由とは?

ソーシャルビジネスにたずさわる動機は、人それぞれ異なるでしょう。

現在、異文化交流がテーマのシェアハウスや、子ども食堂といった、さまざまなコミュニティをはぐくむ事業をおこなっている李成一さんの原点は、在日コリアンというルーツです。

彼がどんな想いで、どのように事業に取り組んでいるか。そして彼がコミュニティを大切にする理由をおうかがいしました。

李成一(り・せいいち)
ボーダレスハウス株式会社代表取締役。1981年大阪生まれ。東京、関西だけでなく、韓国、台湾へと広がるシェアハウス「ボーダレスハウス」、子育て応援型コミュニティ食堂事業「のいえ食堂」を手掛ける。「グリーンズの学校」のコミュニティオーガナイジングクラス第三期卒業生。座右の銘は、Cool head but Warm heart

在日コリアンのコミュニティから、新たなコミュニティに出会って

李さんのコミュニティに対する想いは、在日コリアンというルーツと深い関係があります。

小学校から、在日コリアンの子どもたちが通う朝鮮学校に通った李さん。それまで一緒に遊んでいた周囲の友だちと、自分だけが違う学校に通うことになりました。

当時は、他の人と違うことが「何となく恥ずかしかった」そうですが、高校まで朝鮮学校に通い、在日コリアンのコミュニティで育ちます。やがてバスケットを通してこのコミュニティと深く関わるようになると、そのコミュニティは、いつでも自分が帰れる場所として大切なものとなりました。

高校時代の李さん(左端)

一方で、外を見てみたいという気持ちもあって進学した日本の大学では、自分に対して新たな発見があったといいます。

初めて出会う人たちに自己紹介すると、レアな存在や興味深い存在として見てくれたんですよね。名前も李なので、すぐ覚えてもらえて友だちができたりしたんです。

就職活動でも、国籍が韓国であることや韓国語が話せること、ルーツについての考えを熱く語れたことなどが、韓国にも支社のある上場企業の商社に就職することにつながりました。それらの経験を通して、李さんは自身のルーツがアドバンテージになると感じたのです。

マイノリティである在日コリアンというルーツを「リスペクト」し、「アドバンテージ」だと話す李さん。それは、彼が出会った日本のコミュニティのおかげだそうです。

大学に入学したときに、最初に変な目で見られたりしたら、自分の価値観は違ったと思うんです。僕は偶然にもコミュニティに恵まれたから、マイノリティであるルーツをリスペクトできるようになったんです。そういうコミュニティに対してありがたみを感じているんですね。

韓国と関われる仕事に就こうと考え、大学卒業後、商社に就職した李さんですが、仕事に慣れてくるに連れ、自分のコミュニティへ恩返しをしようという気持ちが強くなっていきました。

大卒後に入社した株式会社ミスミで働いていた頃。韓国語を話せることも活かせ、充実していた。

コミュニティに救われてきた自分がいたので、コミュニティをつくって仕掛けることで、いろいろな人が救われるんじゃないかと思ったんです。

ボランティアとして活動することも考えますが、仕事として全力で取り組んでいこうと、ソーシャルビジネスにたずさわることを決断。それは、就職から7年後のことでした。

生活を通して異文化を理解することから、家族に準ずる関係が生まれる

李さんは、商社時代の同期が起業していた「ボーダレス・ジャパン」に入社。ボーダレス・ジャパンは社会起業家のプラットフォームをつくり、さまざまな社会起業家の事業に投資することで、社会課題の解決に取り組む会社です。

入社後は、異文化理解をテーマにしたシェアハウスである「ボーダレスハウス」という事業にたずさわり、韓国でも「ボーダレスハウス」事業を展開することに成功し、「韓国でビジネスをする」という自身の目標も実現しました。現在、李さんはボーダレスハウス株式会社の代表取締役を務めています。

「ボーダレスハウス」は、居住者の国籍の比率が外国人と日本人で半分ずつになるようなカルチャーミックスにこだわって運営されています。中国や韓国などのアジアから、フランスやカナダなど、さまざまな国籍の人たちが、日本人と生活を共にしています。

さまざまな国籍の人が暮らすボーダレスハウス。日本にいながら留学生活のような毎日が送れる。

異文化理解が深まれば、マイノリティである外国人も生きやすくなるし、マジョリティの日本人にとっても違う文化などに触れることで価値観が一気に変わったり、メリットがあるんです。

異文化を理解することの価値や意味を、李さんは自身の経験から高く評価しています。そして、なかなか異文化に触れる機会の少ない日本では、共に暮らすという形で異文化と触れ合うことが大きな意味を持つと考えているのです。

シェアハウスで生活を共にし、密な時間を過ごした結果、「ボーダレスハウス」では、シェアメイト同士が“準家族”と呼べる深い関係で結ばれることも少なくないといいます。311の震災の際には、関東が危ないのではと感じる外国人のシェアメイトを、関西の実家に帰る日本人が一緒に連れて帰ったこともありました。

全く日本に興味のなかった韓国人の女の子が、韓国の「ボーダレスハウス」で日本人のシェアメイトと仲良くなったことをきっかけに、日本にワーキングホリデーに来るほどになったこともあったそうです。そんな風に、“準家族”と呼べる関係を築けるのは、生活を共にするゆえ。

外国人ってこうだよね、ああだよねって言うんじゃなくて、実際に深く関わるのが異文化交流には一番だという確信だけはあります。

異文化に理解のある人が一人でも増えればいいという想いのもと、事業拡大を続け、現在では、東京と関西、韓国、台湾に、100棟以上、1000人を超える人が住むまでに成長しています。

2017年からは、さらにそこへ、地域交流という新たなコミュニティとのつながりを生む試みも始めています。地域のお年寄りや子どもたちをシェアハウスに招くことで、外国人と言えば観光客や遠い存在だった感覚を変化させ、お互いの理解を深めている事例もあるそうです。

これからは、外国人との交流の角度を変えていって、地域の多世代の人たちと深い交流ができるサービスや、外国人旅行者もターゲットにした地域交流などの付加価値も増やしていきたいと思っています。

地域にねざしたコミュニティづくりを目指す

異文化交流にとどまることなく、李さんはさらに異なるコミュニティをつくることにも取り組み始めました。それが昨年から手掛けている、「のいえ食堂」です。子どもの貧困問題が叫ばれるようになり、全国に子ども食堂は増えてきています。「のいえ食堂」も、働く一人親世帯の支援をしたいというところが発想の起点です。

のいえ食堂で食べられる夜ごはん。おとなメニューとこどもメニューがあります。

横浜にある「のいえ食堂」は、昼はランチを提供する定食屋さんとして地元の人たちを迎え、そこで使用した食材などを活用して、安価で夕食つくります。経営の仕組みは考えたものの、オープンしてみると、李さんの予想とは少し異なるお客さんたちが利用してくれていることに気づきました。

小学校低学年や幼稚園児の子どもたちを連れたお母さんたちが喜んで来てくれたんです。

また、ランチを食べに来るひとり暮らしと思われるお年寄りと接して、「もしかするとこのおじいさんは、今日は僕としか話さないのかもしれない」と想いを巡らし、独居老人の問題も身近に感じられるようになりました。

実際にお店を開いてみることで、その地域のニーズや抱える問題がはっきりと見えてきたのです。李さんは、より幅広い視点からその地域が求めるコミュニティをつくり出せるように、そしてビジネスとしても成立するように、これから工夫を重ねていこうと考えています。

のいえ食堂の前で。オフィスで仕事をするだけでなく、現場が大好きという李さんです。

もちろん当初の目的であった、働く一人親や共働き世帯の、親の帰りを待つ子どもたちのことも忘れてはいません。

子ども時代の体験として、のいえ食堂みたいなところに来て、いろんな大人たちに囲まれながら遊んだり勉強したり一緒にご飯食べたりすることで、親の帰りを待つのが寂しくなかったって、むしろ夕方は楽しい時間だったって、そんな孤独感を感じずにすむ環境をつくっていきたいんです。

子どもたちが自分の環境のせいで寂しい想いをしてしまい、その環境自体をネガティブに感じないようにしたいというのが、李さんの願いです。そしてそれができるのが、コミュニティだと考えているのです。

そこには、マイノリティである在日コリアンというルーツを「アドバンテージ」だと感じられた、李さん自身の経験が根拠としてあります。李さんが、大学に進学して出会ったコミュニティから前向きな影響を受けたように、孤独感を感じてしまっている子どもたちも、「のいえ食堂」を取り巻くコミュニティによって、自分の環境をポジティブに受け止められるようになってほしいと願っています。

コミュニティに対する想いが高まって出会ったコミュニティ・オーガナイジング

「のいえ食堂」という、新たなチャレンジをスタートさせる前、李さんは「もっと自分からコミュニティを仕掛ける活動をしたい」と考えるようになっていました。コミュニティそのものへの興味が、より深まっていたのです。

また、スタッフのチームビルディングに苦労していたこともあって、李さんが受講したのが、「グリーンズの学校」のコミュニティ・オーガナイジングのクラスでした。

コミュニティ・オーガナイジングは、アメリカで生まれた、市民の力で社会を変えていくための方法や考え方です。市民たちは、コミュニティ・オーガナイジングの手法を使って、社会を変えてきました。

過去には、キング牧師による公民権運動やガンジーによる独立運動、オバマ大統領の大統領選挙などでも、コミュニティ・オーガナイジングの考え方が大きな力を発揮しました。

グリーンズでは、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンとともに、コミュニティ・オーガナイジングのクラスを行っています。

コミュニティ・オーガナイジングでは、自分自身のストーリーを語って(Story of Self)、聞き手の共感を呼び、人の心を動かすことが、コミュニティをつくり、活動を始めるスタートと考えています。自分は何者なのか、どういった経験の結果、今のような考えにいたったのか、聞き手の共感を呼べるように、その想いを伝えることが大切です。

李さんは、仕事柄、自分について話す機会は多く、得意でした。けれども、あくまでその語りはわかりやすく説明するだけのもの、いわゆるロジカルな語りだったといいます。

スクールで、「ロジックでは人は動かない」ということを学んだ李さんは、具体的に、どのように話すことで、人が共感して、動きたくなるような話し方ができるのかを学びます。

それまでは、相手に伝えるために、声のトーンや大きさ、ジェスチャーをつけるぐらいのことしか考えてなかったんですけど、状況や自分の心境が思い浮かぶような話し方をするようにとか、固有名詞を出すといった具体的な方法を教えてもらって、トレーニングできたのがよかったです。

コミュニティ・オーガナイジングは市民運動のために考えられた手法ですから、ウィンウィンを求めるビジネスでの関係とは異なる、人との関係性の構築の仕方や、チームビルディングを学ぶことができました。

名刺を交換すれば済むビジネスとは違って、自分のことをまずどう話して、そこから人をどう巻き込んでいくか、を考えられました。それにビジネスでは一番効果の高いものを求めがちですけど、まずはできることから、どうステップアップしていくかとか、事例を交えながら学べたのもよかったです。

李さんは、普段の仕事にもクラスでの学びを自然と活かすようになったそうです。

ミーティングをするときに、なぜ自分たちがここに集まっていて、どういう目的なのかというチームの考え方を確認したり、なぜ自分がここにいるのかという理由を同席するメンバーに話させたりしています。感情で人が動くはずだと思うようになったので、自分の気持ちを話させたり、みんなで共感することを意識するようになりました。

さらに、会社のコミュニティとも、コリアンのコミュニティとも、日本人の友だちのコミュニティとも異なる、価値観の角度の違う人と接することができたのもよかった点だと振り返ります。

クラスでは、全然違う価値観の人と話して、自分の価値観をブラッシュアップする機会にもなりました。

コミュニティが持つ可能性

最後に、これからやっていきたいことをおうかがいしました。「意外とブレブレなんですよ」と苦笑いしながらも、彼にしっかりと根付いている信念とも呼べる価値観を大切にしていることが伝わってきました。

在日コリアンという自分らしいテーマはもちろんあるんですけど、新しいことを仕掛けるのが楽しいんですよね。実際はダメダメなんで新しいことが得意とは言えないんですけど、やっぱり楽しいんですよ。それで少しでも世の中がよくなっていって、今まで課題を抱えていた人が少しでもハッピーな状態になってくれるような、そんな新しいソリューションをつくれたら最高ですし、それが一番のやりがいなんです。

新しいことをやることで、社会をよくするのはもちろん、自身も新しい自分に出会え、そしてさらに意欲が出てくるといいます。そうやって自分の限界をどんどん伸ばしていくことそのものを、李さんは楽しんでいるのかもしれません。

コミュニティをキーワードに、人と関わりのあるテーマで、どんどん新しいことにチャレンジしていきたいですね。

グローバルという言葉がごくごく身近になり、インターネットのない生活など考えられない毎日ですが、だからこそ、暮らしのすぐそばにあるコミュニティに目を向けることで、新たな発見がありそうです。

コミュニティは与えられるものですが、自ら参加し、はぐくんでいくものでもあります。多くの人がコミュニティに自覚的であることで豊かなコミュニティが増えれば、一人ひとりがお互いの存在を認め合える、大人にも子どもにもお年寄りにも、マジョリティだけでなくマイノリティにも、やさしい社会の実現に近づくことでしょう。

– INFORMATION –

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