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子どもが大人に、素人が達人に“たまに”勝てる……らしい。浅草にある謎の店「発明家ショップトキメキ」を訪問し、ヒラメキゲームで遊んできました!

先日浅草を歩いていたら、謎のお店を発見しました。

発明家ショップトキメキ」。

その店名も、佇まいも、ピンクのシャツを着た少年のマネキンも、何もかもが怪しい魅力を放っています。

まじまじと凝視していたところ、

朗らかな笑顔を浮かべたおじさんから手招きされました。これは……入ってみるしかありません。

中は土間にカーペットを敷いたような8疂ほどの空間で、中央に長テーブルと椅子が6脚。腰掛けるや否や、「はい、じゃあまずこれやって」とカラフルなおもちゃのようなものを差し出されました。「できたら自分をほめるパズル ザ・カメレオン」。どうやら、この紙に書かれている色・形を目指すパズルのようです。

レベルは「園児」「小1」などに分類されています。「園児」クリア!

「あれ、意外と難しいぞ?」と四苦八苦していると、「大丈夫、小学生もできるんだからできるできる!!」と発破をかけられ、クリアすると「おー! 小3に進級した! おめでとう! はい次、小4に挑戦!」と畳み掛けられます。次々挑戦しちゃうじゃないか……。

「よし、じゃあそろそろ次のゲームに移ろうか」とおじさんが広げたのは「グーチョキパーゲーム」。赤と青に分かれて1マスずつ駒を進め、ジャンケンのルールで相手の駒を取り、王を取ったら勝ち。

初めて見るゲームですが、すぐにルールを飲み込めました。「そう、遊び慣れたジャンケンのルールだから誰でも直感的に理解できるんですよ。ジャンケンは世界共通だからね、こないだはアフリカ人が来て、一緒に遊びましたよ」とおじさん。

ますます謎が深まります。ここは一体何のお店なんでしょう?

ここはね、私が発明した頭脳アナログゲーム、「ヒラメキゲーム」を無料体験できるお店です!

おじさんの名前は関場純さん。先ほど遊んだゲームの生みの親であり、発明家ショップトキメキの店長です。好奇心が疼き、思わずその場でインタビューを申し込んでしまいました。しかし、はたしてグリーンズのテーマである「ソーシャルデザイン」に通じるところはあるのでしょうか……?

初対面でも、世代や国籍が違っても、
ゲームをすればすぐに仲良くなれる

日を改め、友人を連れて再びトキメキを訪問。さっそくインタビューを……と思ったのですが、着いてすぐに「はいじゃあこれを組み立てて」と木の板と棒を9本渡されました。トキメキに来たら話をするよりも、まずはゲームが先のようです。

このゲームは関場さんの新作、「多段3目ならべ」。2色の駒を各20個使い、順番に軸木に差し入れていきます。縦方向でも横方向でも斜め方向でも、とにかく直線に3つ並ぶと1点。玉をすべて入れて最後に得点の多いほうが勝ち。または、1度に2点取ると勝ち、という遊び方もできます。ちなみに現在、このゲームを量産するためのクラウドファンディングに挑戦しているとか。

2回遊んだところでそろそろ……とインタビューを切り出そうとしたら、「あれっ何それ、また新しいの考えたの?」と、通りがかった男性が中に入ってきました。柴田さんという方で、どうやら常連さんの様子。あれよあれよという間に、対戦することになりました。

ゲームの途中で「ひょっとして俺、ひとつ前で別の場所に駒を入れたら勝ってた?」と気づき、駒を指差して「んじゃ消えろ」と大真面目に言う柴田さん。なんともお茶目な姿に一同大笑い。大人も童心に返り、10分前に会ったばかりの人とも楽しく笑い合える。これがアナログゲームの魅力なのかもしれません。

ゲームを終えると、「俺、仕事中だからまたね!」と帰っていった柴田さん。仕事中だったのか。

2010年にオープンしたというトキメキには、学校帰りの小学生、スカイツリーを見に来た外国人、近所の商店主、大学生など、多種多様な人がやってくるといいます。個人商店が減り、公民館に行く世代も限られている現代において、こうして地域の人と気軽に交流できる場所は貴重だな、と思いました。

国の知的財産として自分の発明と名前が残る。
そこにときめいた!

さて! 今度こそ本当に、本題に入りましょう。関場さんはいつからアナログゲームをつくりはじめたのか、その動機は何だったのか、聞いてみました。

大学の授業でね、特許の話を聞いたの。特許の出願をするとね、政府が発行する広報誌に名前と住所と出願番号が載るんだって。しかもね、国の重要な知的財産として永久に保存されると。孫が国会図書館に行って名前を調べるとヒットするわけ。すごくない? 俺はすごいと思ったよ。「やっぱ大学は違うな、いいこと教えてもらった」って。そ〜こにときめいたね!

大学を卒業してサラリーマンになってからも、「いつか自分で発明して特許を」と思いつづけてきた関場さん。アナログ頭脳ゲームをいくつも考案し、あちこちのコンクールで入賞しました。そのうちのひとつを企業に売り込んだところ、商品化してもらえることに。長年の夢だった特許も取得し、2004年、50歳のときに独立して「ヒラメキ工房」を設立しました。以来、毎年1つずつ新たなヒラメキゲームを生み出しているのだとか。

こちらはトキメキのある吾妻橋地区を活性化するためつくったローカルボードゲーム、「あづちゃんならべ」。色か柄を3枚揃えると1点です。駒に書かれているのは、商店街のお店の名前。ゲームを通して、自然と地元商店の名前に親しんでいくというわけですね。うちの地元版もつくってほしい!

エジソンの時代ならまだしもね、現代は既にたくさんのもので溢れてるでしょう。全く新しいものを0から生み出すのは難しいの。だから私がゲームをつくるときもね、周辺特許といって、既にあるものを革新するんです。

「ルービックキューブを平らにしたらどうなるだろう?」と考えたのが「ザ・カメレオン」だし、「多段3目並べ」も既にあった4目並べの欠点を改善したもの。どこが欠点だったかというとね、4目並べは引き分けになっちゃうのよ。引き分けだとさ、大会で決着がつかないじゃない。ジャンケンで決めたら白けるし、もう1回やるのも大変でしょ。そういうところに発明のヒントがあるんですよ。

オセロの「角を取ったら勝敗が決まってしまう」点を改良した「反転はさみゲーム 遊宝」

先生を困らせていた問題児に起こった変化

実は塾講師もしている関場さん、ゲームを通して子どもたちのコミュニケーション力や考える力を育むことも大事にしています。

いまの子どもって、人に迷惑かけたくないっていう気持ちが強いんだよね。だからあんまり喋らないし、スマホで一人遊びする。そんな子がここに来るとね、スマホを放り出してヒラメキゲームに没頭するんですよ。一所懸命考えて、負けると悔しがって。それで、「今日は頭使って疲れた〜」と満足げに帰っていく。でも、子どもって面白くないとやってくれないから、スマホより面白いと思ってもらえるゲームを発明しないとね。

子どもたちがいい手を打ったときは「すごい! 天才!」と手を叩いて褒めて、次の手が浮かばず止まってしまったときはヒントを出して励まして。ちゃんと自分を見てくれていることがわかるから、子どもたちも嬉しくて通ってくるのかもしれません。

関場さんがつくるゲームのキャッチコピーは、「子どもが大人に、素人が達人に、“たまに”勝てるゲーム」。100回対戦して100回大人が勝つようなゲームでは子どもは面白くありません。閃きによって勝てる隙があるから挑戦しようと思えるのです。関場さんは小学校でのエピソードを話してくれました。


ヒラメキゲームで遊ぶ子どもたちの様子。ヒラメキ工房公式動画より。

毎週、近所にある小学校の放課後子ども教室のお手伝いをしてるんだけどね、キカンボで先生を困らせてた男の子がいたのよ、当時小4だったかな。その子に「グーチョキパーゲーム」を挑んだんだけど、まあ私が勝つから、彼はギャーギャー騒ぐわけ。それでハンデをつけるために、私の駒も彼に並べさせたんですよ。最初に駒をどう配置するかが勝敗の鍵を握るからね。

それでも私が勝つ気でいたんだけど、負けちゃったんだな。そしたらその子、「発明家に勝ったよー!!!」って大声で叫びながら、校長室まで走って行ったの。よっぽど嬉しかったんだなぁ。

普段は校長室に来るような子じゃないから、校長先生もびっくりだよ。「本当ですか?」と教室に来たから、「ほんとほんと」って説明してさ。それからがまたびっくりで、その子、その日を境にピタッと悪さをしなくなったの。

ええっ、それはすごい! でも、どうしてそんなに変化したのでしょうか?

以前は先生を困らせることで注目を集めたかったんだろうね。そういう子は多いんだよ。でも、大人にゲームで勝ったことで、自分で自分を認めることができたんだな。やればできる、考えれば勝てるんだって、ぐんと自信がついた。

国語や理科、音楽や体育といった学校で教える科目では落ちこぼれてしまう子も、別の分野で成功体験をすれば、自信がついてぐんぐん伸びるものなのかもしれませんね。


「ヒラメキマン」として、文部科学省主催の「夏休み出前授業」などにも登場しています。

引っ込み思案で「グーチョキパーゲーム」もやりたがらないような子にはね、「ザ・カメレオン」の出番ですよ。ひとりで黙々と遊べるでしょう。それで、小学校2年生なのに小学校3年生レベルを達成すると、自分のこと「天才かも」って思う。そうすると、人にやらせたくなるんだなぁ。「こうやるんだよ」って、自分から人に話しかけちゃう。いいでしょう、そういうの!

特別支援学級の子たちにも遊んでもらってるんですよ。自分と同じ学年の子たちより、どうしても学ぶ内容が遅れてしまうじゃない。でも、これは追いつけるから。3年生の子が3年生レベルをクリアできると「みんなと対等だ」と満足できる。そういう経験は中々できないんですよ。自分で自分に納得できる、自分の良さを自分で見つけられる。そういう機会をたくさん用意することが大事なんだな。

健常児と視覚障害児が一緒に楽しめるユニバーサル点字絵本も製作しています。「点字絵本って高いんだよね。だめだよ高くちゃ、一部の人しか買えないもん。だからうんと安くしたの。そしたら大した利益にならないって言って、本屋さんで置いてもらえないんだよなぁ」と関場さん。気になる価格は1,000円。確かに安い……! 特別支援学級への寄贈もしているそうです。

めっちゃいい話だな……と頷きながら聞いていましたが、「でもそういうの、デジタルゲームでも体験できるんじゃないですか? 最近のゲームって頭使うもの多いし、コミュニケーションが必要なものもあるし」と、ちょっと意地悪な質問を投げかけてみたところ、「そうだね! でもさぁ、電気使わないほうがいいじゃない。エコで行こうよエコで。エコの時代ですよ!」と返ってきました。確かに。

ちなみに、「ザ・カメレオン」は高齢者介護施設でも人気なのだとか。頭を使うので認知症の予防になるし、「ルービックキューブ」と違って投げたり振り回したりしても安全です。クリアすると、利用者が「できたーっ!」とスタッフに見せるそう。何かを達成する喜びは、全年齢に共通するものですね。

真剣に対戦する私たち

ヒラメキ、キラメキ、トキメキ

ところで、どうして会社の名前はヒラメキなのに、お店の名前はトキメキなのでしょうか。そう聞くと、「じゃあね、歌を披露しましょう! よかったら一緒に歌ってよ、簡単だから!」と関場さん。もう慣れてきたぞ、この感じ。


♪人はヒラメキで進化してきた 人はキラメキで生き生きできた
ヒラメキ キラメキ トキメキ みんなで仲良くヒラメキ
ヒラメキ キラメキ トキメキ みんなで仲良くヒラメこう

♪人はキラメキで輝いていく 人はトキメキで幸せになる
ヒラメキ キラメキ トキメキ みんなで仲良くキラメキ
ヒラメキ キラメキ トキメキ みんなで仲良くキラメこう

♪人はトキメキで感動できる 人はヒラメキで未来をつくる
ヒラメキ キラメキ トキメキ みんなで仲良くトキメキ
ヒラメキ キラメキ トキメキ みんなで仲良くトキメこう


動画は3番を歌っているところです。<作詞:関場純 作曲:千国江美子>

色んなことにときめいてドキドキすること、自分自身を輝かせること、自分の頭で考えて閃くこと。これが人間として生きていく上で大切なことだと、ヒラメキゲームを通して感じてもらいたいと思っているんですよ。

ちなみに、店頭に置かれているマネキンは、色んなことにときめいていた少年時代の関場さんなのだそう。かつての「トキメキ君」は「ヒラメキマン」へと成長し、今度は自分の発明によって、たくさんの人をときめかせ、きらめかせているのですね。

謎だったマネキンの正体が明らかに……!

勢いで申し込んでしまった取材ですが、思った以上に濃厚な話を聞くことができました。普段グリーンズで紹介している活動とはちょっと毛色が違いますが、“まちかどのソーシャルデザイン”とでも言いましょうか。関場さんのような大人がたくさんいたら、その地域は面白くなっていくに違いありません。

興味を持ったみなさん、ぜひ発明家ショップトキメキを訪問してみてください。関場さんは、有無を言わさずゲームを勧めてくるはずです。思う存分遊んだ帰り道、きっとあなたは足取り軽く、トキメキの歌を口ずさんでいることでしょう。

♪ヒラメキ キラメキ トキメキ …… 

発明家ショップトキメキ

スカイツリーから10分、浅草から3分。吾妻橋1丁目の実店舗「発明家ショップトキメキ」。アクセス情報は、こちら!
〒130-0001 東京都墨田区吾妻橋1-14-7
03-6658-8092
営業時間: 平日 13:00-19:00 / 土日 10:00-19:00
(※イベント等で休むことも多いので、訪問前に連絡することをおすすめします)
http://www.hirameki.co.jp
こちらの記事は「greenz people(グリーンズ会員)」のみなさんからいただいた寄付をもとに制作しています。2013年に始まった「greenz people」という仕組み。現在では全国の「ほしい未来のつくり手」が集まるコミュニティに育っています!グリーンズもみなさんの活動をサポートしますよ。気になる方はこちらをご覧ください > https://people.greenz.jp/