みなさんは普段、どんなコーヒーを飲みますか?
自家焙煎コーヒー、こだわりのブレンドコーヒー、または何杯でも惜しみなく楽しめるプチプラコーヒー。豆の種類や値段は気になる一方で、「”誰”が淹れてくれたのか?」を真っ先に思い浮かべることは少ないのかもしれません。
しかし、カリフォルニア州のシリコンバレーでは「”誰”が淹れてくれたのか?」にフォーカスしたカフェ「1951 Coffee」が注目を集めています。
なんと「1951 Coffee」では、「難民」が淹れるコーヒーを味わえることに加え、難民問題への理解も深めることができるんです! 「難民の自立の手助けをしたい」という創業者の熱い想いと、そこで働く難民のほろ苦い努力が隠れた「1951 Coffee」はカフェを運営することを目的とせず、難民問題を解決するための手段としています。
お店の名前にある「1951」は、難民条約ができた年。この条約で初めて、難民の定義と権利、そして難民受け入れ国の法的義務が定められました。
彼らが、軸として取り組んでいるのは2つの活動です。
1つ目は、「難民に職業訓練と雇用を提供する」こと。
お店では「Specialty Coffee Association of America」と呼ばれる、世界40か国以上で通用するバリスタのトレーニングを受けることができます。毎年40人ほどいる卒業生は、「1951 Coffee」のみならず、有名企業が密集するシリコンバレーの特徴を活かし、「Dropbox」や「Blue Bottle Coffee」などの経済的に安定した大きな企業へ就職することもできるのだとか!
2つ目は、「難民の苦境を伝え、彼らへの正しい認識を広める」こと。
店内には、壁や床いっぱいに装飾が施さており、難民がたどる長く困難な旅路がストーリー仕立てに表現されています。
カフェを利用することで、ささやかながら難民問題解決へ貢献できる「1951 Coffee」を運営するのは「1951 Coffee Company」。
団体の誕生背景には、創業者のRachel Taber(以下、レイチェルさん)とDoug Hewitt(以下、ダグさん)が国際救援委員会で働いていたときに目の当たりにした、難民たちの過酷な現状がありました。
それは、「新しい国で一から生計を立てる」という厳しい試練が難民に課せられること。アメリカ国外の経験はカウントしない、という採用プロセスが障害となり、多くの難民が安定した収入のある仕事を見つけ出すことができないのです。
実際に、2015年に祖国を追われた約6530万人のうち再定住を実現できたのは、たった0.1%の約10万人。(出典元)このような状況を解決するために「1951 Coffee Company」を立ち上げたふたりは、
ここでのトレーニングや仕事を皮きりに、次の仕事につながっていってほしい。
と、ひとりでも多くの難民が自立した生活を送れることを望んでいます。
働く難民の人たちも、「1951 Coffee」への感謝の気持ちであふれています。
シリアで続く内戦から逃れてきたRama(以下、ラマさん)、ウガンダ政府の抑圧的政策下での迫害を恐れてやってきた元弁護士のDavid(以下、デビッドさん)は、こう話しています。
ラマさん アメリカで暮らすのは大変でいろんな困難はあるけど、ここのコミュニティは好きよ。世界中の人が集まる美しいところだから。ここは、私にとって第二の家族なの!
デビッドさん 僕は心が打ち砕かれたよ。ここに来るまではとても大変で、何年もの間、取り調べを受けたんだ。仕事も資金がなくなるまで探したけどダメで、希望を無くしかけた。でも今は、週に5日、ここで働いているんだ!
これからは、何らかの形で、僕にこの機会を与えてくれたことに対する感謝の気持ちを伝えていきたいよ。
何気ないくつろぎの時間に楽しむたった1杯のコーヒーで、なんだか遠い存在だった難民も、彼らを迎え入れるコミュニティ両方の「心と体」をも、ほんのり温めてしまうカフェ「1951 Coffee」。
今度コーヒーを飲むときは、ふと、それを淹れてくれた人に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか? きっと、いつもよりもずっと深みのある「おいしい」1杯になりますよ。
[via Fastcompany,1951 Coffee, AFP, Daily Coffee News, IRC, UNHCR, KQED, Barista Magazine, Focus:Snap:Eat, 7×7]
(Text: 棚元ひな子)