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今の社会と切り結ぶ本をつくる。新しい状況に言葉をつけてみる。編集者・綾女欣伸さんと鈴木菜央の「新しい出版」をめぐる対話

綾女さん

菜央さん

「ソーシャルデザイン」という言葉が開いた視界

菜央 これからグリーンズは進化していきたい。そのひとつとして、出版をやっていきたいなと思っています。

ウェブマガジンは会話的で、読者ともすぐつながるけれど、一方で蓄積されていない感覚があって。本は、人によって違った読まれ方をするし、人と人との会話を生み出したり、「これを読みなよ」と好きな人に渡したりできます。

greenz.jpには65人のライターと7人の編集者、そしてコアメンバーがいて、たくさん取材を重ね、いろいろな人に会っています。その人的な資源や知識をうまく本にできる仕組みをつくって、読みたいという人に届けられるようになるとおもしろいんじゃないかと思っていて。

綾女さん 本に賭ける思いについては、前からお話しされていましたよね。

菜央 綾女さんと一緒につくった『ソーシャルデザイン』(朝日出版社、2012。菅付雅信氏との共編)が、本の力を感じる転機になりました。グリーンズのひとつの到達点として、それまでの仮説をまとめて提案することができた一冊です。

これを出すとき、僕らはたしか、「“ソーシャルデザイン”という言葉でいいのだろうか」と直前まで悩んだんですよね。ソーシャルデザインというキーワードは、誰かひとりでじっくり考えてつくり出したものではないし、そのころはもっとプリミティブな概念だったから。

でも、綾女さんに「『ソーシャルデザイン』って言い切っていいんじゃない」と言われて。結果としては正解でした。

綾女さん グリーンズとの出会いは、2011年の秋頃だったと記憶しているんですが、震災から間もない空気の中で、楽しみながら社会を変えていくアイデアを押し出していましたよね。ふつう、「社会を変える」というと真面目な顔つきで、眉間にシワを寄せがちですけれど、そうではない可能性があるんだ、と。

菜央 そうなんです。社会がこうなったらいいのに、という気持ちを表明して、目の前に自分が信じられる社会をつくってもいいんだよ、っていうメッセージが広く共有できたのは、本当に素敵なことでした。

綾女さん 「ソーシャルデザイン」というのは、社会の底にもともとうごめいていたものを捉え直す視界が言葉によって開けた良い例のひとつなんじゃないかなと思います。

東日本大震災後の2012年、綾女さん編集のもとで朝日出版社から刊行された『ソーシャルデザイン』(手前右)は、世界中のソーシャルグッドな事例を収めたアイデア集。グリーンズにとって初めての書籍になりました。好評を受けて、翌年には同じ〈アイデアインク〉シリーズから『日本をソーシャルデザインする』(手前左)もリリース。こちらでは日本発のグッドアイデアをまとめました。

「アクティブ」な動きに注目する

菜央 ただその後、世の中も進んで、社会的なテーマを持った活動も大幅に増えたし、そう謳っていなくても、社会的課題の解決を目指していくさまざまなアプローチがある意味あたりまえのことになってきました。

そういったことをすべて「ソーシャルデザイン」という考え方で捉えて良いのか、それとも「ソーシャルデザイン」はこれまでに定義してみた領域に留めておいていいのか、 なんだかわからなくなってしまって。

それを解決しようと思って、2016年9月、greenz peopleに向けて配布している「People’s Books」の7冊目として『ソーシャルデザイン白書2016』をつくりました。

綾女さん 「ソーシャルデザイン」の領域が広がってきた、と。

菜央 そうなんです。

たとえばそのひとつが、持続可能性をめぐる議論です。「ソーシャルデザイン」は個人でも「社会」をデザインできるんじゃない?という提案でしたが、僕らと僕らの社会を支えている「自然」との関係までは想定していない。一方で、僕らと社会と自然の関係をつくるデザイン体系が、パーマカルチャーという分野だと思います。パーマネント+カルチャー、つまり共生型社会のデザインです。

綾女さん 菜央さんが、最近取り組んでいるものですね。

菜央 そうです。もうひとつは、アクティビズム。アクティビストを翻訳すると「活動家」ということになるけれど、なんかものすごくイメージが悪い(笑)

けれど、昨年、アメリカに取材旅行に行って知りましたが、僕の中でアクティビストの概念がガラッと変わった体験がありました。アメリカではアクティビズムはもっと大きい概念として捉えられている 。社会に対して能動的に動くひとは、みなアクティビスト、活動家。

人びとがつながりを大事にしながら、暮らしをつくる。コミュニティを育てる。社会に問題があると思えば抗議する。代替案を提案する。地域の小商いを、買い物を通じて応援する。僕らが「ソーシャルデザイン」と呼んでいる概念の向こう側に、地続きで社会運動があると知りました。そういうふうに捉えたら、アクティビズムはステキなものだし、日本にもすてきなアクティビストがたくさんいます。

綾女さん 「ソーシャルデザイン」の核にある「自分ごととして社会参加する」って、まさにアクティビズムですよね。

菜央 ソーシャルデザインだと思っていた領域から、生き方の哲学や社会活動、ビジネスの新しい考え方まで、いろいろな方向に進化し始めていて、エキサイティングだなと思って。

greenz.jpはあまりアクティビズムに対して発信してきませんでした。そこをもう少し定義し直して、アクティビズムとソーシャルデザインがどういう風につながるかを考えたいんです。

綾女さん おもしろい捉え方ですね。他国との比較で言えば、とあるきっかけがあって僕は最近よく韓国に行くんですけど、似たようなことを思います。

実は今、韓国は本屋ブームなんです。日本同様、経済状況が良くなくて、就職も厳しい。そこで若い人が自ら何かをやってみようというときに、本屋を開くというのが現実的な選択肢のひとつになっています。

実際、2016年の夏くらいから、ソウルでは毎週1軒のペースで新しい本屋ができている。それも、詩人が経営する詩集書店とか、猫専門やミステリー専門の本屋とか、特化した書店。店主もだいたいみんな80年代生まれの若い人たちなんですよ。5年後にどれだけ残っているかはわからないですけれど、彼らは「やってみて失敗しても、勉強だと思えばいい」、みたいな瞬発力でやっているんですよね。

菜央 うわぁ、おもしろいですねぇ。

綾女さん そんな若い書店人のひとりが、「韓国の出版界は一度滅びた」と言ったんです。一時期、あまりにも出版社や本屋が潰れて。だから、韓国に行った僕たちが見たのは、滅びた後の世界。それは同時に、若い人たちが本を通じて社会やコミュニティを再生していこうとする世界でもある。

いわば、韓国の人たちが、日本の未来を先取りして壮大な社会実験をしてくれているのではという問題意識が芽生えたんですね。「本屋がブーム」という表面に隠れている、そうした彼らのマインドの動きこそが大事だと思うんです。

僕もそうした広義のアクティビズムを伝えたいなと思います。日本人がアジアをあまり気にかけないうちに、実はいろいろ進んでいる分野があります。韓国でも台湾でも、アメリカの西海岸でも、海外の状況が日本の現状と地続きだと認識できれば、学べるところは大いにある。それをもっと伝えられれば、「ソーシャルデザイン」は加速するかもしれませんね。

昨年9月、greenz.jpが手がけるブックレーベル「People’s Books」の7冊目としてつくられた『ソーシャルデザイン白書』。greenz.jpが10周年を迎えた区切りのタイミングで、グリーンズにとって大切な「ソーシャルデザイン」という概念の過去、現在地、そして未来を見つめ直したいという思いのもとで制作されました。見どころなど詳しくはこちら

今の社会との接点になる本をつくる

菜央 ところで、最近の綾女さんはどんなお仕事をされていますか?

綾女さん グリーンズ本が2冊出ている〈アイデアインク〉シリーズは11巻目の『ヒップな生活革命』(佐久間裕美子著、2014)からちょっとストップしてしまっているんですが、それ以降、その時々の「これは」と思うテーマにくらいついて、年間4〜5冊ほど単行本を出してきました。

菜央 昨年出されたのはどんな本ですか?

綾女さん まずは、2016年の春に公開された園子温監督『ひそひそ星』の作品集です。最初は「映画のカタログを」というような依頼だったんですけど、ありきたりなものをつくるのはおもしろくないので、映画のロケ地でもある福島に取材に行って、エキストラとして映画に出演された、仮設住宅で生活する被災者の方や東電で働く方など、現地の声を本の中に収録して、1冊にまとめました。園監督にも2万字ほど書き下ろしてもらったんですよ。

綾女さん 最近のものだと、『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』という本があります。北は仙台から南は那覇まで、若い世代を中心とした全国の書店員の方々が、自分のとっておきの本屋を紹介するというガイドブック。なんですが……実は登場するのはすべて架空の本屋です。

菜央 架空の本屋ガイド!

綾女さん この本は、マルノウチリーディングスタイルなどを手掛けられた北田博充さんと、ヴィレッジヴァンガードなどを経て今は「パン屋の本屋」で店長を務める花田菜々子さんの2人が自主制作したZINEを元にしています。3000部発行して書店で無料配布、在庫がなくなるほど話題になった、知る人ぞ知るZINEだったんですけど、その発展形をなぜかぜひ朝日出版社で出版してほしいと指名されて、引き受けました。

菜央 エッジを攻めている感じでいいですね。

綾女さん 「夢の本屋」ということでギリギリ嘘はついていないラインの内側で本としてパッケージしたんですが、反応を見るかぎり、本当に信じてしまっている人や、怒っている人もいて申し訳ないなと(笑) 賛否両論ありますね。

菜央 リアルとも虚構ともとれない、ギリギリのあたりが綾女さんの領分なんですね。

綾女さん 突発的でヒリヒリするような企画が好きなんです。『園子温作品集 ひそひそ星』も『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』も企画がスタートしたのは昨年中で、今の世相を反映させた、もしくは反映させようとした本でした。

作品の力で、現代社会を象徴する。夢の力で、出版業界に提言する。ただ読んで満足するだけの本じゃなくて、社会との接点を示す。ボルダリングのホールドみたいに。しかもそれは過去じゃなくて、今と切り結び、今の身体を支える接点でありたいと思っています。

現役の書店員22名が架空の本屋を案内する文章を寄せた『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)。目次を眺めてみると、「プックス高円寺」に「陽明書房」と、いかにも実在していそうな書店の名前が並んでいます。

懐を痛めてこそわかること

綾女さん あと、最近は自費出版というか自主企画も始めました。

菜央 どのような本ですか?

綾女さん 一人出版社ごっこ、というと怒られますが(笑)、フレッシュな気持ちで本づくりがしたくて(といっても怒られそうですが)、デザイナーや写真家とチームを組んで進めたプロジェクトです。

この『Tokyo Halloween』は、2014年にたまたま渋谷のハロウィンに遭遇してカメラを持ってなかったことを悔やんで、「来年は絶対に撮りに来よう」と決めたのが始まり。2015年にプロジェクトを立ち上げて、カメラマン5人とデザイナーと一緒に、朝から翌朝まで渋谷の騒乱を撮りに行きました。で、撮ったはいいけれど出すタイミングを迷って、結局、昨年(2016年)のハロウィンの直前に急いで出版したんです。

綾女さんが、direction Qのデザイナー大西隆介さん、そして宇佐巴史、山本佳代子、阪本勇、北岡稔章、後藤洋平の5人の写真家とチームを組んでつくった写真集『Tokyo Halloween』。

『Tokyo Halloween』は、こちらで販売中!
https://recrec.stores.jp/

菜央 いいですね。ただ写真を撮ってまとめただけと思いきや、どこに面白味があって、何をやれば成立するかを計算しているような気がします。実は練られた企画なんじゃないですか?

綾女さん あまり言語化していないんですけど、渋谷のハロウィンはもはや日本独自の奇祭と化していて、性を含めた若者文化の最前線でもあり、アニメのコスプレという伝統芸にも通じている。なのに誰もこんなふうにフラットには撮っていなかった。外国の方たちにこそ受けるようにと狙って、日本文化そのもののルックブックのようなイメージでつくりました。

そこには「むしろこっちこそがクールジャパン」という思いもあるんですけど、ジャーナリスティック(報道的)な意味も込めて継続的に追っていきたいなと思っています。基本的に制作資金はすべて僕が出していて、できた本は直取引、普段からお世話になっている全国の独立系書店を中心に卸させてもらいました。せっせと自分で包装して発送してます。

やっぱり自分の懐を痛めないとわからないものがありますね。1000部つくって、印刷製本代は45万くらいかかりましたけど(※)、ずっと会社の一サラリーマンとしてやっていると感覚が麻痺してしまいますから。本をつくって届ける大変さがあらためて沁みました。

(※文字ものであればコストはもっと抑えられる)

『Tokyo Halloween』には、ハロウィンの渋谷で撮影されたさまざまな仮装姿の人々が登場します。「警察官が本当の警察官かどうかわからなくなったり、工事作業員の人がコスプレをしているように見えたりして、本物の境界がよくわからなくなってくる。一番目立つのは何も仮装しない人」と綾女さん。

既存のシステムを超える実験が多様性を生む

菜央 綾女さんの本づくりは自由で良いなと思いますが、こういうスタイルは会社で認められるんですか?

綾女さん 普通はこんなことをやってたらクビかもしれませんね。会社の許容量に感謝してます。

今は出版社自ら「売れる本を」という締め付けを強めていて、初版部数も落ちています。そこでどれだけ実験的な企画を許容できるのか、がポイントになってくると思っています。結果として売り上げがちゃんと出るかどうかって、誰もそんなにノウハウを持っていなかったりするので、出してみるしかわからないこともありますから。

菜央 なるほど。やってみたい企画を形にしながら、実績も出していく。

綾女さん 日本で1年間に出版される新刊はおよそ8万点。1日に200~300冊くらい出ている計算です。その中で紹介されて売れる本はほんの一握りですよね。

菜央 そういえば、日本は刊行点数が相当多い方だと聞いたことがあります。

綾女さん ちなみに人口が日本の約半分の韓国では年間約4万5千点です(2015年)。形としての本なら編集次第で、出版社から出そうが自費で出そうが、クオリティの変わらないものがつくれるようになりました。要はそこから先の問題で、結局は流通なんですよね。既存のシステムは取次の力を借りて大量にばらまくモデルなので、そこをなんとかしない限りは、紙の本の未来はなかなか見えてこないのかなと思います。

今は、書籍全体の返品率が平均して30~40%台くらいです。あくまでも平均なので、全然売れない本の場合は返品率が5割を超えることもあります。大きな出版社は、月に何冊も出す大量生産・大量頒布モデルじゃないと経営がもたないから、こういう状況になっているんでしょう。

菜央 大きい出版社が新刊をたくさん出したがるのは、どうしてですか?

綾女さん 一旦本を取次を介して納品すれば、とりあえずその分の代金が出版社に入るから、という点はよく指摘されていますよね。数多くの社員を養わなくてはいけないし。だから、刊行点数を増やしたい、と。現状はたしかにつくりすぎとも言えるけれど、ある程度数をつくらないと本の多様性も担保されないので、難しいところです。「とりあえずいろいろ出してみる」から「いろいろ」が抜けてくると問題になるのかも。

菜央 それで、新しい流通の仕方を個人的に実験しているんですね。

綾女さん いやいや、僕は地道に納品・発送しているだけなので全然です。書店員さんの中に、そうした小規模流通の新しいシステムをつくれないかという動きがあって、とても注目しています。

菜央 小規模流通の新しいシステム、いいですね! それはどんなイメージなんでしょうか?

綾女さん たとえば、つくった本が日本全国にある地域の独立系書店に10部ずつ置かれる。50店あれば500部、仮に100店あれば1000部です。それがちゃんと売れていく土台をつくれたら、だいぶ変わってくると思います。だからこそ、そういう小さな本屋がもっと各所に増えていくのが大事ですね。

同時に、海外の市場も見すえて本をつくっていく。追いついてませんけど、『Tokyo Halloween』も今後もっと海外に売っていこうと考えています。そうやって、1000部や2000部くらいの出版規模を少人数でまわしていって、少部数でも本がきちんと読者に届くための流通に貢献していけないかと思っています。

あと、出版社で働く人たちが、こういう個人的なプロジェクトをどんどんやったらいいと思うんです。自分としてはやりたいけれど、社内の会議を通せない企画がたくさんあるはずですから。費用はせいぜい20〜30万円ほどです。部数や内容を絞れば、もっと安くできる。

実験的すぎる企画は、自分で出してみる。それで得た知見を仕事にフィードバックできれば会社にとっても良いんじゃないでしょうか。それを繰り返せばきっと、本の多様性もさらに広がっていきます。会社から出せなかったら自分で出せばいいんだ、って考えれば精神も落ち着きますし(笑)

自主的にやっている出版について、「出版界に入る前と同じで、本当にずっとインディーズでやってるようなところがある」と表現する綾女さん。以前は音楽のインディーズレーベルで働いていた。

もっとオーガニックな流通を

菜央 本にかかわらず、メディアというものは、いったんすごく大きな仕組みに進化して、ある時点では効率的だったけれど、難しさもたくさん出てきた。その中で、本をつくるテクノロジーや、デザインのスキルや、文章を書くツールがだいぶ民主化されてきて、小さな出版社が注目を集めていたり、新しい流通が模索されていたりするような雰囲気につながっていると思うんです。

一方で、流通の部分だけがまだ進化していない印象があります。大手の流通はもちろんあっていいんだけど、もっと多様でもいいんじゃないかな。家庭菜園のように、もっとみんな自由につくればいい。NPOとか個人で活動している人は、本というメディアをもっと活かせる。素人っぽくてもいいし。そういうオーガニックな流通のあり方をグリーンズで実験したいです。

綾女さん 今の話に関連するのが、『夢の本屋ガイド』に収録されている「夢の印刷 印刷物責任法」というコラム。『Tokyo Halloween』の印刷もお願いした、藤原印刷の藤原章次さんが書いています。著者だけでなく、製版者から調肉者(インキを調合する人)まで、本の制作にかかわった全員の名前を奥付(注:本の巻末にある、書誌情報をまとめたページのこと)に記さなければならないという法律が昨年できた、という話です。

そんな「顔の見える」出版の姿が、まさに生産物に生産者の名を示すオーガニックな農業にたとえられています。もちろんこれも架空の物語なんですが。

菜央 それを聞いて思い出すのが、シアトルで偶然みつけた素敵な印刷屋さん「PIKE ST. PRESS」です。人通りの多い街角にあるガラス張りのお店で、紙見本と印刷機が置かれていて、印刷コンシェルジェが、色やフォントから入稿の仕方までサポートしてくれるんです。まちの印刷屋さんなんだけどすごく素敵で、ワークショップもやっていて、店内には「今日は製版のことをやるよ」とか書いてあって。

そこには、印刷というメディアはみんなが使うんだと感じさせる、民主化された状況がありました。そういう印刷屋さんが入り口で、流通も助けるような中間支援的なNPOや企業があってもおもしろいと思います。

菜央さんが取材で訪れたばかりのアメリカ西海岸の状況を、綾女さんが最近よく足を運ぶという韓国の状況と交換しシェアし合うようなかたちで、対談は盛り上がりました。

勘違いから生まれる本があってもいい

綾女さん これからグリーンズがやっていきたい、出版の具体的なアイデアはありますか? 「People’s Books」は、greenz people向けですよね。

菜央 はい。年間2冊のペースで製作していて、ピープルの方には、毎号できるたびに2冊ずつお届けしています。

綾女さん 同じ本を?

菜央 1冊は本人用で、2冊目は友だちや家族にプレゼントするギフトとして。新しく入会いただいた方にも順次お送りしていますし、グリーンズのイベントに参加された方にも、バックナンバーを1冊持って帰ってもらっています。

これまでは読む人が限定されていて、知りたいことを綴っていく感じでしたが、ライターさんの知恵や読者のみなさんの視点も本に入れていこうという実験を始めています。第5号からは、僕以外のグリーンズメンバーが編集のメインに立っていて、『ソーシャルデザイン白書』はその3冊目です。 greenz.jpとは違ったメディアとして読者の方に使ってもらえたらうれしいな。

今後は、編集部内に、できれば5人くらい本がつくれる人が育っていくといいなと思っています。連載と紐付いた企画を立ち上げて、加筆したり、インタビューを加えたりして、やがて本にまとめていくイメージです。

ほかには、「グリーンズの学校」でたまったノウハウをまとめて、学校があるたびに生徒が買ってメモしながら使う本をつくることも考えています。最初はモノクロでオンデマンドでつくって、だんだん改訂を重ねて、充実してきたら市販を目指すという形もありかもしれません。

綾女さん なるほど、テーマごとに深くつっこんだテキストみたいなものですね。greenz.jpという場に集まってくるものを素材として、場面や用途ごとの文脈で串刺しにして本をつくっていくイメージなんでしょうか。

『ソーシャルデザイン』と『日本をソーシャルデザインする』もある意味、greenz.jpの記事を材料に味付けを濃く(ブラッシュアップ&長く)して、章ごとに文脈を与えなおしたアンソロジー的なものです。会員や知人向けのものであっても、文脈次第では市販できる本になりそうですよね。

たとえば、グリーンズのメンバーが取材した対象を、別の外の書き手に新たに書いてもらう。そうすれば、greenz.jpの記事が違ったかたちで世に出るだけじゃなく、自分たちの活動を批判的に見るきっかけにもなりうる。両者の記事の違いが格好の「編集のテキスト」にだってなるかもしれません。

あと、人や活動を1回取材しておわり、じゃなく、それを継続的に見続けるからこそわかる事実を本にまとめることもできませんか? 

また韓国の話でしつこいですけど(笑)、『Magazine B』という、1冊で1ブランドを取材してつくる雑誌があります。そこが『B:ALANCE』という冊子を定期的に出していて、かつて取材したFREITAGやsnow peakといったブランドを再取材しているんです。幅を持ったプロセスの中でこそ浮かびあがってくる価値を見届けようとしているわけですね。

※『B:ALANCE』のウェブサイトは、こちら!
http://magazine-b.com/en/balance-no-2/

菜央 なるほど、たしかに最近ではプロセスジャーナリズムという言葉も生まれているし、面白いアイデアだなと思いました。流通の仕組みも含めて、全部がグリーンズで変わるわけはありませんが、紙媒体を気軽につくって出してみるということに、ライターさんがどんどん挑戦していくという状況はつくっていきたいですね。

綾女さん 「気軽に」というのがいいですね。僕がこれまで編集してきた本は、「誰も気づいていないかもしれないから本にしてみよう」、という考えから生まれました。ずっと気づいてもらえないと“勘違い”のままになるし、そもそも原理的に“勘違い”なのかもしれない(笑)。でも、この勘違いから何かを生みだせて何かを学べるという点で、本をつくる仕事はとても面白いです。

そういう視差で周りを見れば、まだ言葉が与えられていない現象は山ほどあって、そう考えると出版の仕事もまだまだ山ほどありそうですね。

菜央 「勘違い」かぁ! 綾女さんらしいですね。なにかグリーンズとしても、一緒にできたらうれしいなぁ。

ありがとうございました!

(撮影: 植原正太郎)
(編集協力: 竹内謙二)

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対談の中でも話題に上がった「People’s Books」は、greenz.jpのメディア運営を寄付でサポートしてくださるgreenz peopleのためだけに制作しています。

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