コミュニティ・オーガナイジング(以下、CO)という言葉を知っている人は、まだまだ少ないのではないでしょうか。私がCOを知ったのは、greenz.jpでの取材がきっかけでした。「コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン」の代表理事である鎌田華乃子さんとフェローの笠井成樹さんのお二人にインタビューしたのです。
人権問題に関心があり、社会課題に対して悲しみや憤りを感じがちな私にとって、自分たちの力でもって何かを変えていけることはとても魅力的に映りました。ただ、どうやってそれをするの? という点については、まるで想像できませんでした。だって、そうじゃありませんか? 私たち一人ひとりは小さな存在にすぎません。
お二人にインタビューをして、COの概略はわかりましたが、具体的な手法の理解や、社会を変えられる根拠について納得がいったとはまだ言えない状態でした。そこで私はCOに対する好奇心もあり、「グリーンズの学校」で行われるCO講座を受講することに決めたのです。
その好奇心が、私に初めての体験と、より広い世界と、さまざまな気づきと、忘れていた感情、そして大切な仲間を与えてくれました。
自分、私たち、そして今、を語ること
スクール開講日、受講生が揃った会場には、正直なところ、少しばかりぎこちない空気が漂っていました。初めて顔を合わせる者同士、そして誰にとっても未知のことを学ぶのです。けれども、それぞれの胸に熱い想いが秘められていたことが、徐々に明らかになっていくのでした。
クラスは、講義を聞きつつも、実際に自分の頭で考えるワークショップ中心に進みました。その中でも、ハイライトのひとつだったのは「パブリック・ナラティブ」でしょう。
ナラティブ、つまり物語を語ることは、COにおいての大切なポイントです。自分が取り組もうとしている問題への動機を語る「ストーリー・オブ・セルフ」、みんなが思っているかもしれないことを代弁し、つくりたいコミュニティについて語る「ストーリー・オブ・アス」、そして、アクションを起こすために、今すべきこと、したいことを伝える「ストーリー・オブ・ナウ」へと続くのです。それら3つを通して、パブリック・ナラティブと呼びます。
私はもともとLGBTなどのセクシュアルマイノリティの方々が暮らしにくい、現在の社会に問題を感じていたので、テーマはすぐに決まりました。これまでもLGBT関係のNPOなどは取材してきましたが、そのたびに尋ねられたのが、当事者でない私がなぜこの問題に関心を持つのか、ということでした。私はストーリー・オブ・セルフを語るために、そのことに真っ正面から向き合うことになりました。
受講生同士お互いに話してみると、当然のことながら、誰もがそれぞれの背景を持って参加していることがわかりました。引きこもりをしていた、就活でつまづいたといった経験を持った人が複数いたのは、極めて現代的なことだと感じますが、そこから学び、そして今取り組もうとしているプロジェクトは当然異なるものなのでした。
ストーリー・オブ・セルフで気づいた私の原点
スクール期間中、授業の後でお酒を飲み、ざっくばらんに語り合う機会がもうけられました。引きこもりなどの話が出たのもそのときです。リラックスした空気の中で、お互いが本音をもらしたとき、ストーリー・オブ・セルフがより一層深いものになった様子でした。
私も、それまでその場を繕うように話していた、「エイズで亡くなっていったゲイのアーティストが好きで、LGBTに関心を持ったといった」といった物語とはまるで別の、極めて近しい人にしか語らなかった話をしました。
同性愛者のカップルの方々は、法的にまだまだ認められた存在ではありません。そのため、たとえば入院や死別といったときに、病室に付き添えない、単なる友人としてしか葬儀に参列できないといった、悲しく辛い想いをされることが少なくないのです。その話を聞いたとき、私は20代の頃、自分が経験していた恋愛を重ね合わせたのでした。
小学生の頃から、人種差別などの差別問題には敏感でしたので、セクシュアルマイノリティの方への差別などもちろん許せるものではありませんでしたが、それ以上に、愛する人を失うという悲しみの中で、追い打ちをかけられるように痛みと向き合っている人がいるという事実に、どうにかしたいという強烈な想いが突き上げたのでした。
この私のストーリー・オブ・セルフは、ほかの受講者から共感を呼び、自分がなぜ、LGBTへの関心を広げてきたのか、これまで取材を重ねてきたのか、そんな原点を振り返ることができたように思います。(その後、Aセクシュアルというセクシュアリティの存在を知ることにもなるのですが、私の原点はそういった方の存在を否定するものではもちろんありません)
COはもちろん、社会課題を解決する手段として有効なので、解決したい課題を明確に持っている人が学べば、それを活かすことができるでしょう。けれども、たとえ問題が明確でなくても、自分の中にある社会に対するモヤモヤを、COを学ぶことによって言語化し、対象を明らかにすることで、行動に移していくこともできるはずです。
私のプロジェクトは、現時点ではまだ進んではいませんが、自分の中で、なぜこの社会課題に取り組みたいと思うのか、その原点に立ち返れたことは、スクールを受講した大きな収穫でした。
一方、それぞれの中で既にプロジェクトや取り組みたいことが明確な人は、スクールが進行するにつれて、その実現に向けた学びに真剣さを帯びてきました。毎週のように課題が出る中、気づけば次のクラスが来ていて、焦ることもしばしば。それは多くの受講者も同じだったようで、そこでもどんどんメンバー同士の親近感がわいていきました。
チーム「ディープグリーンズ」のチャント
個人的に思い出深いのは、「リーダーシップチームの構築」をみんなで演習したときのことです。greenz peopleのために、CO実践発表会をしようという仮想設定を設け、仮想ミーティングをおこなったのです。そのために、それぞれがファシリテーターなどの役割を与えられました。
そこで、私が与えられたのが“チャント”を決める役割。“チャント”とは、バレーボールの応援などで使われる、「ニッポン・チャ・チャ・チャ!」などのような、その場やそこにいる人を鼓舞するようなかけ声のことです。渡されたガイドには、「チャントは恥ずかしがらず率先して体を動かしながら決めましょう」とありました。
子どもの頃から学級委員などをさんざんして、司会などには慣れているタイプですが、体を動かしたり、声を出したりするのは大の苦手な私。そこを見越して、講師のお二人が私にその役目を振ったのかは謎ですが…。
実際に、“チャント”を決めるとなると、チーム名「ディープグリーンズ」にちなんで、「深い感じだよね」「じゃあ、しゃがむ?」など、次々に意見が飛び出し、結果、「ディープグリーンズ!」とチーム名を叫びながら、しゃがみ込んでから立ち上がり、腕を高く突き上げる、という何とも素敵な“チャント”ができました。
大の大人が集まって、お遊戯のように「ディープグリーンズ!」と叫んで、動く姿には、みんなで大笑い。けれども、こうやって“場”づくりをしていくこと、仲間との共有体験でもって目標に向きやすくしていくことなど、今振り返れば、大きな学びのある一瞬だったとも感じます。
6回の受講を終えて得た大きな学び
最終講義は、それぞれが自分のパブリック・ナラティブを披露しました。現在の仕事に活かすために、明確なプロジェクトをめざしている人、最終講義でこれまでとはまるで違うナラティブを語った人、まだはっきりとは形にならないけれど、それでも自分にとって大切なものに対する想いはあふれるほどにある人など、それぞれのパブリック・ナラティブは個性と、希望と、強い意志を感じさせるものでした。そして6回の講義を通した学びの経過が見えました。
一緒に受講した仲間たちは、この6回のスクールを通して、どんな想いを感じているのでしょう。
ソーシャルビジネスの分野のベンチャー企業に勤めているアヤさんは言います。
今までは一般企業で会社員をしていたので、全く違う仕事の仕方に大きくとまどい、解決の糸口を求めてスクールを受講しました。会社員とは違う課題解決をしなければならない状況で、当初はとても苦しい思いをしていましたが、スクールを通して、必要なタイミングで他人を頼り、助けてもらってこそ大きな課題は解決できるのだということが実感できました
一方、自分なりのプロジェクトを進めるために、受講した人もいます。さまざまな人のための居場所をつくるために奮闘中のオトイさんもそのひとりです。
オトイさん 目標への「戦略」は単にそこに向かうためのものではなく、自分たちや、共にプロジェクトを進める同志が力をつけていくものになっている必要があり、そのために受講者同士がコーチングし合うことの意義は大きい。講座自体が練習の場になり、実践につなげていけるものだった
そしてその結果、「一緒に受講した人とその活動を「同士」として共にしたくなってしまい、その後も気になる「仲間」と思っちゃう」というのは、私も大いに実感していることです。
「グリーンズの学校」のCO講座は、COという技術を身につける場であると同時に、共にプロジェクトをおこなう「同士」を見つける場になる可能性をも秘めているのかもしれません。
マスコミ関係の大企業で働くダイスケさんは、自らの職業と照らし合わせてこう語ります。
ダイスケさん 講座を通じて、自分にとって一番の発見は、「問う」ことの力と可能性を知ったこと。職業人としてインタビューをする機会が多いが、特にコーチングを通して、改めて「問うこと」や「聞くこと」の意味を考える機会となった
コーチングは、リーダーとしてプロジェクトを進めていくにあたって、とても重要な技術のひとつ。ただ話を聞いたり、指示したりするのではなく、お互いに向き合うことが大切です。そのことをダイスケさんはこんな風に振り返っています。
ダイスケさん コーチングで問われるのは、“動機”だったり、“希望”だったり、“選択”だったりする。つまり問われるのは自分自身。
問われる側にとって自明のはずの自分自身について、それを「知らない」他者(=コーチ)がいることで、「問い」が生まれ、その結果、問う側にも問われる側にも新しい「気づき」が生まれる。なんて素敵なことだろう! コーチングによって、お互いの存在だけで、新しい何かを生み出すなんて!
え? 何を言っているか分からない? そうですか。私にとっては自明のことなんですが。それでは、ぜひ、次回の講座に参加してみて下さい。COには、他者(社会)と関わる輝きあふれていますから
COの魅力にすっかり目覚めたダイスケさんですが、受講生それぞれが、それぞれの形でこの6回の講座の経験を活かしていくことでしょう。次回のCO講座でも、ぜひ多くの方にそんな経験をしていただきたいと思います。
最後に、本クラスの講師をつとめたCOJの鎌田さんから、受講を考えている、悩んでいる、ためらっている、これを読んでいるあなたへ一言。
鎌田さん 私たち普通の人びとが、社会のことを全て誰かえらい人に任せておくことで、世の中は良くなるのでしょうか? 日本は国民主権の国。私たちが参加して社会を良くするものだと思います。一人では難しいですが、多くの人と動けば力が生まれ変化を起こせます。COはその助けとなるものなのです
まだまだCOって何? と思っている人、そんな人にこそ、ぜひ足を運んでもらいたいと強く思うのでした。
(これは2017.2.12に公開された記事です)
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さてさて、8月21日(水)より7回目を迎える次回COクラスもスタートです!詳しくはこちらのページをご覧ください◎