テクノロジーが進歩するとともに、障がいのある人たちの生活の助けになるような製品が少しずつ増えています。しかし中には、置き去りにされている分野も。それは、「遊び」です。
子どもだけでなく、大人にとっても遊びは生活の質を向上させるために欠かせません。なぜなら遊びには、人と人をつなぎ、ストレスや鬱を柔らげる効果があるからです。
身体に麻痺を抱える人が、障がいがない人といっしょに遊ぶことは不可能ではありませんが、そこには大きなハードルがあります。この問題は、身近に子どもがいる人にとっては深刻です。子どもたちと遊びの時間が持てないことで、彼らは疎外感を感じてしまうのです。
そこで、麻痺を患う人びとの生活の質を向上させる活動をする非営利団体「Christopher & Dana Reeve財団」が開発したのが、身体に麻痺を抱える人でも楽しく遊べる玩具「ADAPTOYS」です。
プロトタイプとして開発されたのは、ふたつのおもちゃ。ひとつはラジコンカーです。ストローのついたヘッドセットがコントローラーになっていて、息を吸い込むと前進し、吸い込むとバック、頭の動きで左右に曲がることができます。
もうひとつは、声でコントロールできるピッチングマシン。ユーザーの声に応じて高くトスをしたり、ボールやストライクといった球種を分けて投げることができます。
試合中のケガが原因で首から下が麻痺するようになった元サッカー選手のエリック・ルグランさん。彼は、甥っ子とラジコンで遊んだ体験をこう語ります。
このおもちゃで、アドレナリンがほとばしる感覚を思い出したよ。素晴らしいね。この遊びは、また私に新しい自立をもたらしてくれたんだ。
「ADAPTOYS」のおかげで、これまで甥っ子が遊んでいるのを眺めているだけだったエリックさんは、いっしょに遊び、思い出をつくることができるようになったんですね。
また、四肢に麻痺を抱えるドナ・ローハイチさんは、お孫さんと遊ぶことができる喜びをこう語ります。
いままで考えられなかったようなさまざまな遊びで、孫と触れ合うことができるんです。
活発に動き回るお孫さんは、遊ぶときにドナさんのところを離れなくてはいけませんでした。でも「ADAPTOYS」のおかげで、ドナさんはお孫さんと遊ぶという夢を叶えることができたのです。
「ADAPTOYS」は、まだクラウドファンディングによって開発され、製造されている段階です。しかし、発表されてたった3日で世界中の450を超えるメディアで紹介されるほどの話題になり、これまでにない視点でテクノロジーを障がいのある人の生活に生かすための対話を引き出すきっかけをつくりました。
暮らしの質は、便利さや効率だけではなく、心の豊かさや楽しさによっても大きく左右されます。障がい者のためのテクノロジーは、これまで”できないことをできるようにする”ことが中心でした。これからは、この「ADAPTOYS」のように、より幅広く障がいのある人の生活に役立つテクノロジーが出てくるかもしれませんね。
(翻訳アシスタント: 村上萌)