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子どもたちが平等に夢見られる社会を。「SmartNews ATLAS Program」望月優大さんと、ウェブサービスが社会に果たせる役割を考えた

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

みなさんは、普段どんなウェブサービスを使っていますか?

Google、Facebook、Twitter、LINE。私たちが日常的に使っているウェブサービスやアプリは、たくさんありますよね。「明日、終了してしまったらとても困るサービスがある!」という方も多いのではないでしょうか。

数百万〜数千万人が利用するサービスに成長してくると、それだけ社会への影響力が大きくなっていきます。最近では、その影響力を非営利分野や公共分野に活かす企業が増えています。

例えば、GoogleはNPO向けにITツールを無償で提供したり、月1万ドルの広告費用を提供しています。顧客管理ツールを提供するSalesforceも、NPO向けに自社ツールを無償で提供し、団体の活動のサポートをしています。

月間550万人以上が利用するニュースアプリの「SmartNews」もNPO支援プログラムを提供しているサービスのひとつ。現在はアプリそのものが機能的に提供する価値だけでなく、公共性という視点から社会に貢献する方法を広げようと模索しています。

今回は、NPOや非営利団体に「SmartNews」の広告枠を提供する「SmartNews ATLAS Program」を手がけている望月優大さんに、彼らが目指している社会や、新しく始まるプログラムについて伺ってきました。お相手は、greenz.jpスタッフの植原正太郎です。
 

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望月優大(もちづき・ひろき)
スマートニュース株式会社 マネージャ グロース/パブリック担当
東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。経済産業省、Googleなどを経て、現職ではグロース及び公共領域の業務を担当。個人としても非営利団体の支援やブログ等を通じた情報発信を行っている。

世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける

植原 僕は望月さんと、日頃からカレーを一緒に食べにいく仲なので、あらためてお話を聞くというのはなんだか照れくさいですが、今日はよろしくお願いします(笑)

望月さん よろしくお願いします!

植原 もともと僕は「SmartNews」は数あるニュースアプリのアプリのひとつとしか思ってなかったのですが、望月さんと仲良くなってお話を聞くと、サービスの思想やつくりたい社会のカタチがとてもはっきりしていると気づきました。まずは、いま一度「SmartNews」がどういうサービスなのか、聞かせてもらえますか?

望月さん ニュースアプリ「SmartNews」は「スマートニュース株式会社(以下、スマートニュース)」が2012年12月から運営しています。現在では、国内で550万人以上の方に使っていただくサービスに成長しました。

さまざまなメディアが日々精魂込めてつくってくださっているニュース記事やコンテンツの中から、毎日最適なものをユーザーのもとへ届け、読んでもらうためのアプリです。

会社のミッションは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ということ。

インターネットの登場によって可能になったことはたくさんあると思います。たとえば、誰でもブログや動画といったコンテンツをつくることができるようになりました。そのおかげでメディア自体が多様になり、僕たちはそれを楽しむ機会が増えました。

一方で質の低いコンテンツや、中にはデマが含まれているものもたくさんあります。「SmartNews」としては、できるだけ良いものを限られた時間の中で読める体験を価値として提供したいと思っています。

インターネットというのは、あくまでツールだと思います。それ自体は、良くも悪くもない。だからこそ、社会として”どう使うのか”を考えなくてはいけない。「SmartNews」を通じて、できるだけインターネットが持つポジティブな部分を最大化したいと思っています。
 
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植原 玉石混交のコンテンツがインターネット上に増えていくほど「SmartNews」の必要性が高まっているんですね。そんなスマートニュースの中での望月さんの役割について、教えてもらえますか?

望月さん 僕の仕事のひとつは「SmartNews」のユーザー数を日本中、世界中で拡大していくこと。そして、もうひとつは、様々なアクションを通して「SmartNews」の理念を世の中に伝えていくこと。色々とひっくるめて「SmartNews Public」と呼んでいます。

「SmartNews Public」のコンセプトは、社会と私たち一人ひとりの生活を結びつけることが、ニュースが果たすことのできる公共的な役割の一つであるという考えに基づいています。

自分の生活と関係がないように見えて、深いところでつながっている問題が世の中にはたくさん存在します。それらの問題を知ること、支援や解決に関わること、スマートニュースが企業としてそういった部分に貢献するために行っているアクションの総称が「SmartNews Public」というわけです。
 
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望月さん 具体的には、例えば、国内外問わず地震などの災害が発生した際には、日本赤十字社やその他の支援団体と連携して、アプリのトップページや広告枠から募金ページへの誘導を行っています。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病の認知拡大に貢献するため、昨年6月21日の「世界ALSデー」に合わせてアプリ内で動画を配信するキャンペーンを展開したこともありました。

また、アプリの活用だけでなく、難民支援や生活困窮者支援など、様々な領域のNPOに対してイベントやその他の活動のサポートも行っています。

植原 かなりのスピード感で、さまざまなことに取り組まれていますよね。その流れの中から「SmartNews ATLAS Program」は生まれたんですね。
 
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社会を変える力をアップデートしたい

望月さん 「SmartNews ATLAS Program」は単純に言うと、NPOに「SmartNews」の広告枠を使っていただくという仕組みです。



これまでも企業が非営利団体にツールを提供する仕組みはありましたが、ツールの提供だけにとどまっていることが多いと感じていました。しかし、NPOでも企業でもITツールをただ渡されただけでいきなり使いこなせるところはほとんどありません。

ツールを提供する側としては「やった感」が出るけれど、ツールを提供された側での変化にはなかなかつながらない、こうしたことが起きているのではないかと個人的に思っていたんですね。

植原 たしかにそうですよね。僕も前職の頃、NPOのIT支援に個人的に取り組んでいた時期がありましたが、スタッフの方は基本的に現場での取り組みが最優先ですので、IT活用やウェブマーケティングが後手に回りやすい。特に少人数の団体だと、そういうケースが多いと思います。しかし、全体の効率化や団体の想いを伝えて、共感者を増やしていくためにはIT活用って必須なんですよね。

望月さん そうなんです。非営利団体を支援する側として「本当に社会を変えたいと思っている人たちが、社会を変える」というところに結びつくための支援ってどういうことなんだろう? そこまで踏み込んだ支援がしたいと思ったんです。



だから、ただ広告枠を提供するだけではなく、“今の時代に自分のやっていることを世の中に伝えるために何が必要なのか“ということを主体的に学んでもらえる場をつくれたらと思い、「社会を変える力をアップデートしよう」をコンセプトに第1期のプログラムをつくりました。あくまでハンズオン型の支援の形を模索したいなと。
 
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SmartNews ATLAS Program第1期の参加団体、パートナーとともに

望月さん 僕らが本気で応援して、ワンショットでうまくいけば良いのではなく、参加してくれたNPOの担当者の中にそういう力がちゃんと残るようにしたい。だから、半年間みっちりスカイプしたり、一緒にプランニングしたり、そういう時間を僕らも割くし、NPO側にも割いてほしい。



去年実施した第1期ではそういった前提で応募を募り、NPO10団体にそれぞれ100万円分の広告枠を提供しました。また、プログラムの趣旨に共感いただけたgreenz.jpをはじめ、Readyfor、gooddo、nanapi、Peatixにパートナーとして参加していただき、できる限り分厚い伴走ができるよう心がけました。


植原 第1期を終えて、見えてきた可能性や課題はありますか?

望月さん greenz.jpと組んで行ったいくつかの取り組みは一定の成果があったと思っています。例えば、ホームレスや生活困窮者の方の支援に取り組む「NPO法人もやい」を取材した記事は、100万円分の広告枠をきっかけに数万規模のユーザーに届けることができました。



SmartNewsのユーザーの姿を想像し、自団体のどんなポイントをどんな形で伝えたいか、もやいの方がgreenz.jpと一緒になって主体的に考えて記事をつくりました。広告クリエイティブも試行錯誤を重ねたので、「SmartNews」のユーザーにとっても貧困の現実について興味をもったり、学ぶきっかけをつくれたのではないかと思っています。
 
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greenz.jpで掲載した「もやい」の記事より。

望月さん 課題の一つとして、100万円という広告枠が多そうに見えて、十分なPDCAを回すには少し足りないということがありました。広告出稿をしながらPDCAを回して改善していくということをしっかりできればよかったのですが、満足いくほどはできなかったケースがあったのも事実です。



また、各団体が取り組んでいる社会課題だったり、NPOが普段直面している組織の問題、マーケティングや広報の問題について、僕たちも当初はそこまで解像度高く理解できていない部分がありました。

とはいえ、その解像度が高まれば、スマートニュースとしても各団体への提案はより精度の高いものになっていきます。その点については、1期の10団体の支援を通じて、僕たちも多くのことを学ばさせてもらい、大きな収穫でしたね。



何事にも言えることかもしれませんが、支援する側が、支援される側のことをよく理解していないということが、まずい失敗をしてしまう一つの要因だと思うので、第1期で学んだことは今後にしっかり生きてくると思います。
 
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植原 なるほど。僕は、団体の担当者がSmartNewsの広告枠を通じて、自分たちの活動を伝えるために画像やテキストといったクリエイティブを知恵をしぼって考えたり、その結果がクリック率などの数字としてすぐに跳ね返ってくるというのは、とても大事な経験のように思いました。

「自分たちのやってることは正しいから、そのまま伝えれば伝わるじゃん」って思っている団体は多いと思います。それはグリーンズも然り。

スマートニュースの広告枠という一種の「社会の窓」に自分たちの言葉を投げ込んでみることで、数百万人の反応を感じ取ることができる。「あれ、反応が悪いぞ?」とか「おお、この言葉が刺さった!」とか。そういう体験は、どの団体も今後の活動にも活かせるものだったと思います。

子どもたちが平等に夢を見られる社会を目指して

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植原 「SmartNews ATLAS Program」第1期を終えて、次に仕掛ける第2期はどんな内容ですか? 


望月さん 第2期は「子どもが平等に夢見れる社会を残そう」というコンセプトで展開することに決めました。子どもの貧困やひとり親の支援、奨学金や就労支援などに取り組む団体をサポートできればと考えています。



今回は、NPO法人に限らず非営利で活動している団体であれば応募可能としました。提供する広告枠は1000万円。一方で、サポートするのは1団体のみになります。半年間を通じて、じっくりと取り組めればと思っています。

植原 10団体に100万円ずつだった広告枠を、1団体に1000万円。かなり思い切った方針転換ですが、第1期の学びをしっかりと活かされているんですね。そして、今回は子どもの貧困問題や教育機会というテーマに絞って支援をすることになっていますが、そこにはどのような想いが込められているのですが?

望月さん 最初の方でインターネットの可能性についての話をしましたが、インターネットには、良い意味でフラットだし、差別のないカルチャーがあると思っています。

ブログ記事ひとつとっても、大学の教授が書いたからとか、学生が書いたからとかに関わらず、良いものは良い、面白いもの面白い、そういう文化だと思うんですよね。フラットな実力主義というか。そのベースにある価値観が素晴らしいなと思っていて。



一方で、現実の世界だと、生まれた家庭や生まれた地域、性別やセクシャリティによって、その人の人生は大きな影響を受けます。自分が選んだわけではないものによって社会との関係が多少なりとも決められてしまう部分がある。特に現在の日本では子どもの貧困率がどんどん高まっているという現状が良く知られています。

スマートニュースという企業としての社会貢献の形を模索していく上で、今取り組むべきテーマなのではないかと考えました。
 
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植原 なるほど。インターネットが生み出す、フラットで誰にでも機会が与えられるという価値観を現実の社会でも広げたいという想いが土台にあるのですね。特に今回「子ども」をテーマに据えているのは、なぜですか?

望月さん 先ほどお話した通り、日本の現状で特に大きな問題になっているということが一番の理由ですが、個人的な体験に紐づく部分もあるかもしれません。僕は子どもの頃に両親が離婚し、母親のもとで育ちました。いわゆるひとり親の家庭ですね。

母親はバリバリ稼ぐような仕事をしていたわけではありませんが、進学のために少しずつ貯金をしてくれていたり、学資保険に入ってくれていたりと、教育の機会には恵まれていたと思います。そのことについては母親に本当に感謝しています。

そして、理由はよくわからないけれども、僕は勉強だけはできたんですよ。それはサッカーが得意とか、野球が得意とかと同じレベルの話で。高校は地元の埼玉県草加市を離れて、神奈川の私立の学校に進学しました。教育について理解のある親のもとに生まれ、たまたま勉強が得意だったから、自分の今の人生が切り開けたと思っています。

家庭の教育方針とか、金銭的にどれくらい余裕があるのかといったことに子どもの人生は大きく依存する。そういうことを身をもって経験しました。今振り返ってみると自分はラッキーだったと心から思います。ただ、そうではない子どももたくさんいると思うんですね。だからこそ、社会としてできるサポートをどんどん増やし、洗練させていく必要があります。

もちろん貧しい家庭に育った子どもや、教育の機会に恵まれない子どもに100%のサポートを提供することは現実問題としては難しいと思います。どこまでいっても悲しいケースは生まれてしまうかもしれない。でも、今ある社会を少しでも良い方向に変えていこうとすることは、追求するに値する理念だろうと信じています。
 
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植原 そういう社会を実現していくために、僕たちに何ができるでしょうか?

望月さん これまでの社会の中で個人が困ったときに頼ることができていた「家族」や「地域」といった人間同士のつながりは、どんどん弱くなっています。「企業」も雇用形態が変化していく中でそうしたつながりを提供しづらくなくなってきている。

何かが、誰かがその穴を埋めていかなければ、このままだと社会として危険だなという気持ちがすごいあって。そういう意味で、非営利団体はファーストチョイスに来ると思っているんです。

特定の社会問題にアプローチしている非営利団体を、スマートニュースのような会社がどのようにサポートできるか。非営利団体と力を合わせて、フラットな価値観を体現した社会をつくれるか。一つの企業として、そうした意味での実験を繰り返していくことが大切だと思っています。

今回のプログラムをきっかけに、子どもに関する問題について、社会のみんなで考えるきっかけにできればと思っています。

植原 スマートニュースの今後が、とても楽しみです! 最後に「SmartNews ATLAS Program 2」は、10月10日まで応募を受け付けていますが、望月さんはどんな団体・ヒトに応募してきてほしいと思っていますか?

望月さん 支援する、されるという関係性ではなく、互いに協力しながら、非営利団体と企業とでどのようにこのテーマを世の中に訴えていけるか、一緒に考えられるプログラムにできたらと願っています。実験的な性格も強いプログラムなので、能動的に、主体的に取り組んでくださる方に是非ご応募いただきたいです。

植原 ありがとうございました!

(対談ここまで)

 
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インターネットが生み出すよき価値観を、現実の社会でも体現しようと取り組むスマートニュース。サービスが本来提供している機能的な価値だけではなく、垣根を超えて社会とつながり、新しい価値を生み出しはじめています。

個人でも企業でもウェブサービスでも、一旦立ち止まって、社会とのつながりを考えることから、新しい可能性をつくることができるのかもしれませんね。

(取材・編集協力: 笹澤つかさ、撮影協力: SmartNews 松岡 宗嗣さん)

– INFORMATION –

 
子どもが平等に夢見れる社会を残そう!
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