太陽がまぶしい季節、日差しをさけて木かげでほっと一息… 都会で暮らしていると、緑のある場所は心がなごむ数少ない場所だったりしますよね。まちを緑化させることには、癒しの場になったり景観を良くしたりするだけでなく、犯罪率を低下させるという調査結果があります。
実際、以前にgreenz.jpでは、ニューヨークの環境・治安が荒廃したエリアを緑化させることで復活させたプロジェクト「The Heaven Project」をご紹介しましたが、最近ではアーバンファーミングやコミュニティガーデンがトレンドになり、単にまちを緑化させるだけにとどまらない、新しい動きも出てきています。
そんななか今回ご紹介するのは、コミュニティガーデンの先進地ともいえる、ニューヨークで展開されているプロジェクト「Swale」。そのコンセプトは、これまでに聞いたことがないもの。
というのは、“食べ物たっぷりの森”をのせ、水路を“旅する”ボートをつくるというのです。
誰でも無料で自由に参加でき、収穫をシェアする「コミュニティガーデン」と、様々な団体や活動を「コラボレーションさせる舞台」を融合させた新しい形を提唱する「Swale」。一体どんなプロジェクトなのでしょう?
森の大きさは、130フィート×40フィート(約40m×約12m)。最大で一日に300人程度の「乗客」を招くことができる広さ。
これまでの緑化プロジェクトやコミュニティガーデンは、まちのなか、つまり「土地の上」が舞台。参加したい人が、その場所に出向かなければなりませんでした。
一方「Swale」では、ガーデンそのものがボートに載って移動します。つまり、より多くの地域で、より多くの人々と関わることができるのです。
ボートはハドソン川を“旅して”、短くとも1ヶ月ずつ、6つの場所に停泊する計画だそう。そして停泊先にあるコミュニティとともに、イベントやワークショップを開催して、ボートの上のガーデンを「コラボレーションの舞台」に変えてしまうのです!
すでに計画段階から様々なコミュニティとのワークショップが行われています。
トマトなどの「塩水に強い」植物の力をかりた、浄水システムも学生たちの手によって試作済み。森に植える植物も、子どもたちが主体となり、パーマカルチャー農法で次々と育てられています。
コラボレーション先には、たくさんのファームやガーデンはもちろん、学校やアート、環境団体が続々と名乗りを上げています。
ボートに載せる予定の、浄水システムに関するワークショップ。専門学生や大学生が参加しました。
ガーデンに植えられる植物は、何十種類もの果物、野菜、ナッツ、ハーブなど、「多年生」の植物たち。つまり放っておくだけで毎年、収穫できる植物たちなのです。種類を厳選することで、森が“旅している”間、メンテナンスの手間を減らすこと可能となります。
しかも「停泊」したボートには誰でも自由に「乗船」でき、無料で収穫までできるのだそう。
自由に森を「探検」するのも、楽しみのひとつ。
この斬新な「Swale」、社会派アーティストのMary Mattingly(以下、メアリーさん)が中心となって立ち上げました。
「Swale」の前身は、2009年にメアリーさんをふくむ5人のグループが始めた「Waterpod」というプロジェクト。ニューヨークの水路に、完全循環型のシステムをのせたボートを浮かべ、その上で6ヶ月間を過ごすというものでした。
この「Waterpod」で、メアリーさんたちは食べ物を育てる作業に1日のほとんどの時間を費やさなければなりませんでした。そのとき、停泊先のコミュニティから「手間のかからない多年生植物を育ててはどうか」というアドバイスをもらいました。その経験が、今回の「Swale」につながったのだそう。
「Swale」の前身、「Waterpod」の様子。ソーラーパネルと卵をとるための鶏、植物を積んでいました。
メアリーさんは語ります。
ニューヨークでは、いまだに「公共の場所で食べ物を育ててはいけない」という、100年以上も前の法律がそのまま残っているんです。それなら土の上ではなく、「水の上」でやってみよう、と考えました。
食糧不足は世界的にも大きな課題です。誰もが自由に、無料で健康的な食べ物を手に入れることが、当たり前の世の中になってほしいんです。
そして「Swale」の名前が広く知られるようになることで、法律が見直されるきっかけにもなってほしいと思っています。
「Waterpod」に乗るメアリーさん。社会問題を鋭く指摘する作風のアーティスト。
現在、「Swale」は個人の寄付や非営利団体からの補助金で、目標金額の半分にあたる32,000ドルを集めています。残り半分も、Kickstarterでのクラウドファンディングを通じて集めている最中で、実現に向けての準備が着々と進んでいます。
社会で起きている問題と、私たちの生活のつながりについて考えるきっかけは、実は身近なところにあるもの。最初からコミュニティガーデンに参加するのはハードルが高くても、この夏に家庭菜園をはじめたり、地元の野菜を買ってみたり、身のまわりに緑を増やすところから、はじめてみませんか?
[Via Swale, Waterpod, CITYLAB, CityMetric, CIVIL EATS, サンケイビジネス]
(Text: 吉原海)