少子高齢化による人口減少、空き家の増加、コミュニティの崩壊……多くの地域が抱える課題をまとめて解決する「リノベーションまちづくり」が今、各地で実践されています。その最先端と言われている小倉で、2016年のこの夏、第11回リノベーションスクール@北九州が8月18日~21日に開催されました。
このスクールは、実際の遊休物件を対象に地域の資源を活かしてビジネスをつくり、まちを再構築する方法を学ぶ場。全国でリノベーションまちづくりを実践する多彩な講師たちと、そのノウハウを学び、まちを変えようと行動する参加者たちが本気でぶつかりながらつくり上げる熱い4日間です。
リノベーションスクールの最大の特徴は、提案が実際に実現されること。参加者た ちはユニットというチームごとに物件の活用案を考え、不動産オーナーに直接プレゼン。具体的に実現できるよう努めます。
これまでにも、2012年に事業開発されたスモールオフィス・コワーキングスペース 「MIKAGE1881」、 2014年に提案されたゲストハウス「Tanga Table(タンガテーブル)」など、スクールを通じてクリエイティブな場所がいくつも生まれました。
2011年に小倉から始まったこのムーブメントは小倉のまちを変えるだけにとどまらず、人から人へ伝播し全国へと広がっています。スクールの卒業生は1500人以上、新規雇用・創業は445人、今年度リノベーションスクールは各地で40回も開催される予定だそうで、“リノベ熱”はますます高まっていくばかり。
リノベーション都市・北九州で、第11回目となる今回は、どんなことが起こるんだろう。ワクワクしながらのスタートとなりました。
最終日の公開プレゼンの様子。期間中に考え抜いた事業案を不動産オーナーに提案します。
DIY技術を学ぶ!セルフリノベーションコース
「リノベーションスクール」では事業計画型のコースや、公務員向けのもの、DIY 技術 を学ぶ実践型など、全3種類のコースを開講していますが、今回は実践型のセルフリノベーションコース(以下、セルフリノベ)に注目していきたいと思います。
このコースは、講師であるユニットマスターたちとともに、使われなくなった空き家&空きスペースを「ほしい暮らしは手づくりで」を合言葉にDIYでリノベーションしていくという実践的なもの。
参加者の年齢層は20代から50代までと幅広く、職業も地域おこし協力隊のメンバーや不動産のオーナー、「子どもに色々なものをつくってあげたいから」というパパまで、様々なバックグラウンドを持つメンバーが集まりました。
ユニットマスターは、 過去に何度もセルフリノベのユニットマスターを務めた「合同会社つみき設計施工社」代表の河野直さん、 人と地球に優しい農業を実践しながら、空き店舗をリノベーションし農園レストランをオープンさせた「NPO法人にこにこのうえん」理事長の吉川誠人さん、 空き家を改築しながら全国を旅する「パーリー建築」の宮原翔太郎さんと、個性的なメンバーたち。
そして、新米猟師であり食べ物・仕事・エネルギーを自給する「いとしまシェアハウス」を運営する私も、講師として参加させていただきました。
4日間の共同作業で苦楽を共にし、団結したセルフリノベのメンバー。
ボロボロの一軒家をコミュニティスペースに!……できるか?
さて、今回のセルフリノベーションの対象物件は、小倉駅から車で10分。長屋が連なる小道を抜けた住宅街の一角にありました。
まちの中に突如現れたこの空き地。モノレールの駅も近く、道を挟んだ反対側には小学校もあります。大きなマンションと古い家が混在し、古くから住む人たちと新しく入ってきた人たちが共に暮らすエリアのようです。
奥の家が対象物件。人が住まなくなってだいぶ経っているようです。
家があったであろう空き地には、瓦の破片がたくさんありました。
到着して、あまりの広さと建物の古さに驚くメンバーたち。 対象物件は床が抜け、 天井が落ち、土壁も触るとポロポロと土が崩れてきてしまいます。果たして、期間中にこの場所をどれだけ変えていけるでしょうか。
まずは、やってみなければ分かりません!
私たちがここで提案したのは、まちのカルチャーが生まれる小さな都市農園、その名も「パーリー農園」。
「こうなったら良いね!」というみんなの意見を、メンバーの一人がイラストでまとめてくれました。
この場所で目指すのは、食のプロセスを体験しつつ、地域の人たちがつながる場!土に触れる機会の少ないまちの人たちに農を通じた学びの場を提供しつつ、収穫のパーティーをしながら人々の交流が始まるような都市農園を手づくりします。
空き地は耕して畑に、 隣接する一軒家は、畑作業の合間の休憩や、収穫した野菜でご飯がつくれるようなコミュニケーションの場に。
さあ、実現に向けて、頑張るぞー!!
都市農園のテーマは、パーマカルチャー×リノベーション!
今回は基礎となる考え方として、あるものを有効活用する、資源やエネルギーを循環させる「パーマカルチャー」を採用しました。これに従い、空き家の解体で出た廃材を活用する、畑では雨水利用や生ごみを堆肥として還元するなど、あるものを最大限に使って循環する場づくりを目指します。
こういう視点から見ると、「地域の資源を活かしてまちを再生する」リノベーションスクールの理念はパーマカルチャーと共通する部分があるような気がしますね。
畑に面している壁を取り除きます。力仕事では男性陣が大活躍!
まずは家の解体からスタート。ボロボロになっていた畳をはがし、壁を壊し、開放感のある大きな土間をつくっていきます。農作業をしていると長靴などの脱ぎ着が大変なので、靴を脱がなくていいというのは嬉しいメリットなのです。
廃材を活用する、といっても家を解体するまではどんな材料が出てくるか分からないのが難しいところ。使えるものは壊さないようにしなければいけないので、解体の際も集中力が必要です。
家の中に取り残された建具や古い畳、これらがゴミとなるか資源となるかはその場のアイデア次第。廃材を活用する際は古い釘を抜いたり磨いたりしなければならないので、「再活用」というのは予想以上に手間と時間がかかるものでした。
1日目で解体はスムーズに進み、床下も見えてきました。建具を全て取り出すと、光が入ってずいぶんと明るくなりますね!
釘が飛び出ているところもあるので、慎重に作業します。床板をはがし、使えそうな廃材はまとめて別の場所へ。
土壁の解体で出た土も、不純物を取り除いて畑に戻します。家を守る役目を終えた土が、畑に還って野菜を育てる土へと生まれ変わるんです。
捨てるはずの土壁も、新たな役割を与えることで大切な資源になります。
そして、新たに軒をつくって雨風をしのげる日陰をとし、みんなが休憩できるようなオープンスペースも完成! ただ場所をつくるだけでなく、そのあとどんな人に使ってもらいたいか、どんな場にしていきたいかということをイメージしながら手を動かしていきます。
ユニットマスターの吉川さんをリーダーに、軒の設置が始まりました。
「設計図通りに切ったはずなのに入らない!!」DIYでは、そんな場面はよくあること。頭で考えていたことが、実際にやってみるとうまくいかなかったりするのです。そんなときでも知恵とアイデアで乗り切っていくライブ感が、セルフリノベの大変なところでもあり、楽しいところでもあります。
この木材は、カットが数ミリずれただけで入らなくなってしまいました。ユニットマスターのフォローで無事解決!
空き地を活かして、まちなかでハーブを自給しよう!
家の解体と同時に進めていたのが、空き地を畑にする準備です。開墾した空き地には瓦や小石がいっぱい。みんなでそれを拾って集め、大きさ別に振り分けていきます。
石を運ぶ際に重宝した一輪車。こういう道具が一つあるだけで、作業効率がぐんと上がります。
集めた小石は敷き詰めて道をつくったり、畑をつくったりするときの土台にします。こう考えると解体も石拾いも、リノベーションの材料を集める宝物探し。まさにトレジャーハンティングです!
見た目は可愛らしいですが、石を積むのも土を運ぶのも重労働だったスパイラルガーデン。
集めた石でつくったのは、こちらのスパイラルガーデン。平らなところに畑をつくるのではなく、らせん状に高くすることで高低差を出し、一番下には空き家にあったお風呂の浴槽で池をつくりました。
陽当たりや湿度など多様な環境の変化をつくることで、 様々な種類の植物を限られたスペースで育てることができるのです。日当たりが良く乾燥するトップにはローズマリーを、水気の多い日陰側にはミントやパセリなど、それぞれに適した環境へハーブを植えていきます。
ちなみに、今回サポートとして一緒に畑をつくってくださったのは、前回のセルフリノベでつくられたカフェ「Botanical&Tea」のスタッフさんたち。今はお店で提供するハーブを購入されているそうなのですが、この農園で育てたハーブをお店で出せたらいいですよね!と言うお話をしていました。まちのなかで自給したハーブ、ぜひとも地域の人に楽しんでもらいたいです。
スタッフはみんなママ。無農薬の天然ハーブなど体に優しいメニューが揃うBotanical&Tea
循環する“仕組み”をつくる
パーマカルチャーの要となるのが、一つのものにたくさんの機能を持たせる多機能性と、動物の特性を活かした生物資源の活用です。
その代表的なものが、チキントラクターという小型の移動式鶏舎。これはニワトリに草を食べさせながら、地面をひっかく行為で土と鶏糞を混ぜ合わせ土を耕してくれるという仕組みで、(1)餌やり(2)除草(3)堆肥(4)さらに卵も取れるという、一石四鳥の機能的な鶏舎です。
チキントラクターづくりでは、ニワトリの行動を予測しながら日陰の場所や入り口などを決めていきます。
そして、定期的にトラクターを移動させることで、広範囲の土壌改良が可能になります。
生きものの習性を活用することで、草刈り機や自動生ごみ処理機などにかかるエネルギーを節約し、餌やりなど人の手間も削減できます。また、自然に近い形で飼育できるのでストレスのない美味しい卵を食べることもできるのです。
人にも自然にも、ニワトリにも優しいチキントラクターは、空き家の床板などを再利用して屋根や扉をつくりました。
そして、循環型の畑に欠かせないのが堆肥をつくる装置「コンポスト」です。料理などで残った野菜くずなども肥料にして畑に還していきます。
コンポストの中身は、空き家から出てきた古い畳。畳をカットして解体し、中から出てきた藁と畑にまいた堆肥を使って自家製コンポストをつくりました。
空き家から取り出した建具を再利用して、ちいさなDIY温室も作成。この中でなら、雨が多い季節でも安定して苗を育てることができます。
畑がつなぐ、人と人。地域のコミュニティの場へ!
住宅地に囲まれた立地を活かし、地域の人が交流する開かれた場所にしていきたい。そのきっかけの一つとして、たくさんの人が一緒に食卓を囲める大きなテーブルをつくりました。
電動ドライバーを初めて使う、というメンバーもいたテーブル作成チーム。みんなで助け合って無事完成しました!
これは、「収穫した野菜を調理したりみんなで食べたりする場所ができたらいいよね」という発想から生まれたものです。
椅子は、解体した家の床下から出てきた木材をアクセントに使用しました。小さい二つの椅子は、大きい椅子の中にすっぽり収納できるデザインになっています。
これは受講生のアイデア。初日につくって「難しいね」と言っていたことが二日目にはスイスイできるようになっていく、このスピード感がセルフリノベの醍醐味です! どんどんできることが増えて行く受講生の姿は、ユニットマスターにとっても大きな刺激になりました。
床を抜いた土間は、空間を明るくするために壁を白く塗り、大きな黒板を設置しました。いつ誰が来てもこの場所の使い方が分かるような、コミュニケーションツールとして使う予定です。
土間スペースには、畑作業で使った道具をさっと洗って乾かせるように道具置き場もつくりました。
パーリーリノベーション!
リノベスクールの数日間は30度を超える炎天下で、Tシャツが絞れるほど汗をかきながらの作業でした。熱中症対策のため畑仕事は午前中のみ。限られた時間のなか、体力的にも厳しい現場を盛り上げてくれたのは、パーリー建築の翔太郎くん。作業用のプレイリストまでつくってくれた彼の音楽の力で、ハードな作業もこなすことができました。
そんな彼が引き寄せたのか、期間中に賞味期限切れのビールを90本ゲットするという奇跡が起き、急遽パーティーが行われることに。リノベの合間にフラッグを準備し、設置完了!
瓶ビールを思い切り振って、びしょびしょになりながらビールかけ!! あんなに贅沢にビールを使えること、もう一生ないような気がします。
動画はこちらからどうぞ。
現場での作業の合間に、地域の人との交流もありました。「ここに何ができるの?」と話しかけられたり、「戸締りができていないよ」と注意されてしまうこともあったり。中には、「農園ができたら絶対に通います!」と作業を手伝ってくれる人もいました。
まちの人の顔が見えること。それも、現場で手を動かすことの魅力だと思います。
ほしい暮らしは自分たちでつくる!
勝負の最終日、汗とビールにまみれながら全力でつくり上げた都市農園ができ上がりました!
パーリー農園はこれで完成ではなく、“これから育てていく農園”です。地域の人たちが畑をしたり、ワークショップをしたり、収穫祭をしたり。まちに開かれた都市農園として、この地域の人たちと一緒に育っていくような場をつくりました。
地域の人たちが主体的に関わることでここが少しずつ「自分たちの場所」になり、そういう場所が増えればもっとまちが好きになっていくはず。まちを愛する人が増える、きっかけの場所になりますように。
セルフリノベの楽しさを伝える公開プレゼンテーションも必見です!
セルフリノベーションコースのメリットは実際に手を動かすこと、仲間ができること。ゼロから何かをつくっていく楽しさを共有することや、同じ志を持つ仲間たちと高め合うことは、情熱を持ったメンバーが集うここでしか得られない貴重な体験です。
修了生たちが各地域へ戻り、多種多様な面白い取り組みが地域からどんどん増えていくことが今から楽しみです!この熱量を体感したい人は、ぜひ次回のリノベーションスクールに参加してみてください。現場でお待ちしています!
(Text: 畠山千春)