秋田県が推進する事業創出プログラム「ドチャベン・アクセラレーター」、通称ドチャベン。ドチャベンとは土着ベンチャーの略で、要するに地域に根ざした起業ということです。
イメージとしては、「秋田県のさまざまな自治体でベンチャーを起こして県全体を盛り上げていこうよ」ということのようで、1年目の昨年は、県央の五城目町と県南の横手市を会場としてビジネスプランコンテストなどが行われました。受賞した4チームはすでに事業を開始、その他にも複数の新規事業が立ち上がってきています。
2年目の今年は、県北では鹿角市、県南は湯沢市を会場に、昨年同様、起業家育成のためのプログラムが行われる予定です。
このドチャベンの仕掛け人の1人が、greenz.jpでも以前取り上げたハバタクの丑田俊輔さん。2013年に廃校となった小学校を利用した五城目町運営のシェアオフィス「BABAME BASE」に事業所を設立、2014年には丑田さん自身が五城目町に移住し、「BABAME BASE」を拠点に田舎発の様々な事業創出を行ってきました。この五城目町が出発点となって現在のドチャベンへとつながったのです。
千代田区のまちづくり会社、日本IBMのグローバル戦略チームを経て、2010年にハバタク株式会社を設立。高校大学向けの教育事業を展開。2014年に五城目町に移住、事業所を設立。
オープン当初は3社だった入居企業も、現在では10社以上に増え、県外からの移住者だけでなく、五城目町内からの起業も複数生まれるなど、さまざまなバックグラウンドを持つ人が共存する環境ができつつあります。このことについて丑田さんはこう言います。
丑田さん 外来種の“変人”が地域に迷い込むのがきっかけとして大事なんじゃないかと思っています。
外から何らかの想いを持った人が入ってきて地域の人も戸惑いながらも一緒に事業をつくる、というのが最初のフェーズにおいてはインパクトが出ると考えていて、その火種から飛び火して内からも多種多様なチャレンジが生まれてくるんじゃないかと考えているんです。
そこから次第に内と外が融合していきながら、新しい生態系が形成されていく。これからがそのフェーズになると思います。
そしてその舞台に五城目町を選んだ、“理由にならない理由”も説明してくれました。
丑田さん 少し田舎な町って実は魅力が大きいんです。貨幣の経済を適度に享受しながらも、その外側の経済圏がすごく豊かにあって、その両面を仕事だけでなく、子育てなど暮らしでも享受できるからです。
もちろんそれは五城目ではなく千葉の田舎でもいいんですけど、僕は、ひょんなことからこの町の“変なおっちゃん”たちに出会ってしまって、ここで暮らしたくなってしまったから、ここで挑戦することにしました。
移住して何かやっている人の話を聞くと「たまたま」とか「なんかピンときた」という話をよく聞きます。考えるというよりも感覚や本能で場所を選び、それからそこで自分に何ができるかを考えるほうが、自分に合う場所を見つけやすいのかもしれません。ドチャベンがやろうとしているのは、その「たまたま」のきっかけづくりなのでしょう。
今回は、2度目となるドチャベン・アクセラレーター開始を前に、五城目に迷い込んだ2組の“変人”、ではなく第1期の受賞チームですでに事業を開始している2つの会社、「G-experience」と「kiki」の4人にお話を聞いてきました。
G-experience:松浦智子さん、松浦真さん
東京のIT企業で働いたのち、NPO法人cobon設立。事務局長として企画運営にかかわり、2016年4月から秋田県五城目町に移住。合同会社G-experience代表となる。
松浦真(まつうら・まこと)
2007年NPO法人cobon設立。小学生の子どもたちを中心としたまちづくり、教育プログラムを企業、2013年以降、大阪市天王寺区、大阪グランフロントなどと協働で子どもたちによる新しいまちづくりを企画運営。2016年4月より秋田県五城目町に移住し新規事業を行う。キッズデザイン賞、edge2008優秀賞など
松浦真さんは、greenz.jpでも何度か取り上げているNPO法人cobon代表理事で、家族で今年4月に五城目町に移住してきました。
五城目町では新規事業として合同会社G-experienceを立ち上げ、これまでも一緒に事業をやってきた妻の智子さんが、今度は代表を担うことになりました。 cobonでは子どもたちと仕事について考えたり、まちづくりに取り組んだりと、これまでの学校教育とは異なる「学び」を提供する取り組みを行ってきました。
そのcobonの活動は継続しつつ、五城目でも子どもたちに向けた活動を、別の視点から行う予定だそうです。智子さんは、五城目に来ることになった経緯をこう説明します。
智子さん 1年くらい前に丑田さんに誘われてここに来てみて、BABAME BASEの窓から見える景色に一目惚れしました。また、五城目には、500年続く歴史がある朝市があり、そこに誰でも出店できる、その環境がとても面白いと感じました。
五城目だからこそできることに惹かれてやってきた松浦さんたちですが、まずは、不登校の子どもたちなどに、学校以外の学びの場所をつくることに取り組むといいます。
真さん 小中高で不登校は18万人いて、子どもの人数は減っていますが、不登校は高止まり、6.8%の子どもが学校での学びでしんどさを抱えています。
そういうデータはともかくとして、私は、学校に行かないといけないっていうのをそもそも論で考えなおしたほうがいいと思っています。
アメリカでは250万人がホームスクールで学んでいて、日本でも「学校で学ぶか、学校でないところで学ぶか」を個人が選べるような環境が実現できるように取り組んでいるところです。
夫婦で同じ仕事を初めて10年になる松浦さんたちですが、仕事をする際に、2人は喧嘩が絶えないそうで、その原因は2人の視点の違いにあります。
智子さん 一つの物事を見るのに、彼は高いところから全体を見るんですけど、私は低いところというか近くから見るので、アプローチが違ってくるんです。例えばホームスクールについても、私は「保育園や幼稚園でのびのび育っていた環境を小学生になっても与えたい」という声を出発点にします。お互いに余裕があるときは違いを把握して合わせて話せるんですけど、お互い余裕が無かったり他のことに気を取られていると視点が違うまま話すので、「それは違うよ」って喧嘩になります。
しかし、実はこの視点の違いこそが、事業を展開させていくためには必要なのではないかと思うのです。丑田さんもこんな横槍を入れていました。
丑田さん 社会について考えるときに、全体を見つめて何をすればいいのかを考える目的工学的なアプローチと、目の前の人を幸せにすることを繰り返すことでなにか起きるんじゃないかと期待するアプローチがあります。
前者は社会的なインパクトが大きいけれど、後者は特定多数の人は確実に変わる。この両方の視点を持っているから松浦さんたちのアプローチは面白い。
でも、どちらも本能的というか、「ここに住んでみたい」「こういうことやってみたい」という本能と、大きな学校システムというものへの危機感を本能的に感じて外側の領域へ踏み込むということを、それぞれがやって同じ所にたどり着いてるのが面白いんです。
視点の違う2人の本能は、五城目に来てみて何を感じ、どのような可能性を感じたのでしょうか。
智子さん 本当に良かったです。子どもが学校に行かずにいる場合でも、五城目町では、たとえば昼間に畑に行ったりとか、BABAME BASEで仕事をしている人と話をしたりとか、さまざまな大人と接することができるし、それが許容されるおおらかな文化があるように思えます。
それがなぜいいかというと、いろいろな人がいていろいろな仕事があることが子どもたちに見えやすいから。都会だと仕事はビルの中でやられていて外から見えにくいため、違いが子どもにはわかりにくいんです。
真さん こっちに来て思うのは、お米を育てるとか、お祭りの何かをつくるとか、作業と成果がダイレクトにつながっている感じがする。子どもが親になった時にどっちの仕事を伝えたいかって言ったら、ダイレクトな仕事のほうが伝えたいし意味があるんじゃないかと思うんです。それで、五城目で伝統的に続く朝市があるんですけど、そこに子どもが出店するという試みを始めています。
自分たちで地域ならではの未来の仕事をつくっていくというプログラムで、実際に現金を使って商売をすることで、お金をどう稼ぐか、それをどう使うかっていう学びがある。まずは地元の子どもたちですけど、休みの時とかに都会の子どもたちに来てもらって出店してもらうのもいいと思っています。
朝市での子どもたちの出店の様子
ふたりとも、「学校以外での学びの環境として五城目は素晴らしい」という意見は一致しているようです。そして、地域の子どもたちだけを対象とするのではなく、都会の子どもたちにも機会を提供し、将来的には学校になじめない子どもたちが移住してきて教育を受け入れるようにすることも考えているのだそうです。
真さん まじめに喋ると、ハイブリットスクーリングっていう、不登校の子どもとか積極的不登校を選ぶ子どもたちのオンラインスクールを立ち上げようとしています。
基本はオンラインなんですが、その中で、五城目にある朝市などの、今ここにあるリアルな環境も活かしながら、地域の持っている底力みたいなものと子どもが出会う場を創っていこうとしています。
松浦さんたちは、五城目全体を地域資源と捉えてそれを教育に活かしていこうと取り組んでいます。そして、智子さんの視点は自らが体験したこの場所の良さを伝える役割を果たし、真さんの視点は社会全体の問題を地域に落とし込んで解決しようという役割を果たします。この2つの視点があれば、地方から都市の問題を解決することも可能なのではないかと感じました。
Kiki: 柳澤美弥さん、高橋理徳子さん
2015年ドチャベン・アクセラレーターを経て、2016年4月1日に会社を立ち上げ。木の製品や内装によって、木がどこから来たのか、どういう人が関わっているのかを伝え、消費者にもっと木に親しみを感じてもらうことを目指す。
左)柳澤美弥(やなぎさわ・みや)
代表取締役。石川県生まれ。2014年に五城目に移住。五城目では、酒蔵・広告代理店・写真館でお世話になりながら現在に至る。
右)高橋理徳子(たかはし・りえこ)
代表取締役。秋田県能代市生まれ。秋田市で高橋リエ子建築設計事務所を営む建築家。
秋田市内で設計事務所を開いている建築家の高橋リエコさんとデザイナーの柳澤美弥さんの出会いから始まったkiki。五城目町産の木材を使った家具や内装のデザインを行っていますが、そもそも高橋さんは、秋田や日本の木材が有効活用されていないという問題意識を抱いていました。
高橋さん 私は能代市出身で、能代は天然秋田杉の里・木都として栄えていたんですけど、どんどん衰退して友だちのうちの材木屋が潰れたりするのを目の当たりにしてきました。
でも、設計の仕事をするようになると、北欧などからすごくいい状態の木が安く入ってきていて、それを使わざるを得ないというのもわかって、それってなんなんだろうって思ったんです。
そんなもやもやを抱え、秋田の木を有効活用する方法を探るため、知り合いだった丑田さんの奥さんに相談したところ、いつの間にかハバタクが運営するシェアビレッジ「町村」の改装をすることになり、そこで柳澤さんと出会って、ドチャベンのコンペがあるから出てみないかと言われ、受賞してしまい今に至るというわけなのです。
では、現在はどのような問題意識を持ち、何を実現しようとしているのでしょうか。
柳澤さん 最近では、地元のスーパーの内装の一部を木質化しました。材料は地元の木を扱う材木屋さんから買って、職人さんも地元の方にお願いしました。今、テーブルもつくってるんですけど、それも地元の木工職人さんにお願いしてつくってもらっています。
五城目はもともと木工が盛んなところで、高齢ですけど現役の職人さんが今も頑張っています。後継者がいない中で、それをどうつなげていくか、みなさん新しい物に対して拒否反応とかもないので、私たちがうまくつなげていけないかその方法を探っているところです。
高橋さん 80代の職人さんや材木屋さんが今も頑張っているんですが、昔ながらの「てらてら」した光沢のある和箪笥や座卓を今もつくっているので、市場との乖離も感じるんですけど、同時にこれは本物だとも感じるんです。そういう人も含めて、地元に眠っている財産の掘り起こしみたいなことをやりながら。今まだ残っている五城目町の財産をどうやってつなげていくのか、それを考えているところです。
五城目の木材や木工の技術をどう生かしていくのか、kikiの2人はその具体的な方策としてまず「顔の見える関係」を上げます。
柳澤さん 私たちは「山に思いを馳せる」というのをテーマにしていて、農業のように林業も人の顔が見えるような製品をつくりたいんです。
今はテストケースとしておじいちゃんの山の木で孫がお猪口をつくるというようなこともやっていますが、おじいちゃんほどつながりが強くなくても、例えばテーブルを買った時にその木が行ったことのある山から切られたものだったりしたら、使うときに山のことを考えるようになるんじゃないかと思うんです。
「顔が見える関係」というと、スーパーに並ぶ野菜についているよく知らないおじさんの顔写真を思い浮かべてしまったりもしますが、そうではなくて、ものにまつわるストーリーを感じることができる製品ということ。
確かに、木製品は生産者が見えないというか、出自がよくわからないという印象はあります。そして、それには理由があるそう。
高橋さん 例えば製材所に行って「この木ください」って言ったとしても、そこでは買えなくて問屋を通さなきゃいけないということがあったりします。
それは、林業が補助金を入れないと成り立たない産業なので、木を買う場合には森林組合を通さないといけない場合があるからです。だから、個性や付加価値を出しにくいんです。
もちろん、組合によって守られるというメリットもあるんですが、私たちはそれと違う目線から考えていきたいと思っています。
これまでの林業のシステムとは別のところで新しい価値を生み出すためには、単に新しい木製品をつくるということにとどまらない活動が必要だと柳澤さんは言います。
柳澤さん ドチャベンのコンペは「遊べるオフィスプロジェクト」というので出したんですけど、それは「オ働く人が自由に空間を変えることができるモジュール家具」というアイデアで、実際にオフィスを木質化するためのモジュール家具を試作しています。
ただ、ハードだけでは十分ではないので、人材研修やワークショップを行う会社と業務提携をして、ハードとソフトの両面からオフィスを良くできるようなプログラムをつくるのに今取り組んでいるところです。
空間をつくる建築家とものをつくるデザイナー、そして場をつくるコミュニティプランナーが手を組むことで、木を使ったオフィス空間を提供していこうというのがkikiのアイデアなわけです。
私たちはそもそもあまり林業のことを知らないし、自分たちが住んでいる家や使っている家具の木がどこから来たのかを気にすることもほとんどありません。そんな中で、日本や秋田の木の良さを伝えるというのは非常に難しいことのようにも思えます。
それを、顔の見える製品と、働く環境のデザインの2つを通して伝えていくというのは、どこか松浦夫妻の2つの視点と似たところがあるのかもしれないとも感じました。
都市と地方という対立軸を乗り越える
2組の話に共通するのは、2つの視点から問題に取り込むということと同時に、既存のシステムから外れたところで、何かを創っていこうという考え方のように感じました。
そしてそれを都市ではなく地方でやるというのは、都市つまり中央がつくり上げてきたシステムからこぼれおちるものを、地方が掬い上げること、システムの歪みを地方が直していくことなのかもしれません。
秋田県がドチャベンを推進する目的は“多様な人材の誘致を通じて秋田に産業や雇⽤を⽣み出すこと”にありますが、それは結果的に都市中心の産業構造とは異なる産業のあり方の可能性を探ることにつながっている、そんな気がしました。そんな都市と地方の関係をみなさんはどう考えているのでしょうか、そのヒントになる会話がありました。
丑田さん グローバリズムのうねりに対するカウンターカルチャーとして田舎が取り上げられることがありますが、都会か田舎かという対立軸をあえて持たせなくてもいいと思うんです。
グローバル化や資本主義を否定するというよりは、ローカルで顔の見える人たちと仕事を生み出して普通に稼ぐという、ある意味では健全に資本主義の中で、貨幣の役割が縮小しても幸せにやっていける道を模索しているんです。
地方活性化というと都会か田舎かという二元論で分断されてしまうけれど、田舎でビジネスする上で都会との関係は切り離しにくいし、僕を含めて田舎のよさも都会のよさも両方味わいたいというわがままな人が多いので、グラデーションで捉えながら、ハイブリッドな存在でいたい。
こうした多様性を認め合うことで、もし資本主義のような大きなシステムが壊れた時にもなんとか生きていけるしなやかな社会を作れると思うんです。
高橋さん 私は8年だけ東京にいたことがありますが、それ以外はずっと秋田で暮らしてきて、その中で東京に払い過ぎた気がしているんです。秋田にいても、東京から物を買いすぎている気がしていて、だから今度は都会に物を売りつけたいんです。
丑田さん たしかに都会と田舎の関係が一方的過ぎたというのはあると思います。それを健全なローカルとローカルの関係に戻していこうとしているのかもしれない。ビジネス形態によっては、ローカルの中で回るものもあれば、都会に見合った価値で売るものもあれば、世界に向けて売るものもある。その中で、自分が好きな場所で好きな人と好きなことをやることができればそれでいいんじゃないかと思います。
都市と地方という対立軸で考えるのではなく、グローバルからローカルというグラデーションの中でどのようにビジネスをし、どのように生きていくのか考える。そして、地方でビジネスを起こして東京や海外に売ることは、グローバル化の恩恵を地方で活用し、自分が本当にやりたいことを実現することにつながりうるのかもしれません。
東京という都市で暮らす私からすると、丑田さんたちがそう考えることができるのも田舎に移住したからこそなのかもしれないとも思います。
働く場と暮らす場が分断されている都会とは違い、それが連続している田舎だと、物事を俯瞰して分断して整理して捉えるのではなく、自分という視点から連続する物事として捉えやすくなるのではないか、そんなことを感じたのです。
それは松浦夫妻の視点の違いという話ともつながるわけですが、智子さんの視点は田舎に移住することでよりいっそう生きてくるし、そこから新しい物が生まれるようにも思います。その智子さんが印象的な話をしていました。
智子さん 大阪にいた頃、『おおかみこどもの雨と雪』という映画を観たんですが、その舞台になった田舎ではみんなが色んな物を分けあって暮らしていて、それをみて「こんな理想郷はないよ」って思っていたんです。でも、実際にここに来たら野菜とかいっぱいもらえるし、そこで描かれていたものが当たり前にあったんです。
この「分け合う」という暮らし方は里山を中心とした地域共同体には古くからある伝統的なあり方ですが、これを「田舎ならでは」と言ってしまうとまた都会と田舎という対立軸が出てきてしまいます。
田舎のこの里山に根ざした助け合いの文化も都会との連続性の中で捉えるにはどうしたらいいのか、丑田さんはハバタクでこんな試みをしているそうです。
丑田さん 3.11の時に僕自身、本当に生きる力がないと痛感したし、ものがないっていうだけで不安にかられたので、こっちに来てからは少し田畑もやりつつ、東京の社員に福利厚生でお米を送るというようなこともはじめました。
都会に住んでいても田舎の豊かさを享受できればと思うし、何かあったらこっちに来ればいいというセーフティネットがあると、事業で失敗しても「最悪死なない」みたいな考えを持つことができて、失敗を恐れずにチャレンジする事ができるようにもなると思うんです。
都会の人にとってのセーフティーネットとして田舎がある、それはまさにどちらかがどちらかに依存するのではなく、お互いに助け合う関係ということではないでしょうか。そして同時にこの「失敗できる」というのが、実は田舎でビジネスを行うことのメリットの一つでもあるのです。
高橋さん 秋田の人ってすごい心配症で、失敗しちゃダメだって思っている人が多いんですよ。
でもBABAME BASEでは「なんでもやればいいじゃん」みたいなムードがあって、そういう意味で秋田の人もここに来ればどんどん面白いことにチャレンジできる気がするし、ここの人たちが秋田のあちこちに活動を広げていくことによって、そのような空気の種がまかれていって広がっていくようにも思えます。
このBABAME BASEという場所では、五城目の豊かな地域資源と都会からやってきた異なる視点を持つ人材が出会うことで、単なる地方活性化ではなく都市をも巻き込むような変化が起きる土台ができようとしているのかもしれません。そして、ドチャベンではこの五城目の成功例、というか成功しそうな例を秋田全体に広げていこうとしているのです。
今年のドチャベンは野人の里「鹿角」と美人の里「湯沢」が舞台
秋田全体に広げていく第一歩となる2年目のドチャベンについて、最後に丑田さんに話してもらいました。
丑田さん 今年のドチャベンは「野人(か)美人」がキーワードになっているんですが、共通するのは人間が資源ということです。
「秋田にこういう地域資源があるからこうしよう」というよりは、地域にあるさまざまなリソース、文化とか木材とか朝市といったものをフルに使って、一人一人のビジョンや価値観を元にビジネスを立ち上げていくことが重要だと思うんです。
これまでの地域活性化は地域という枠にとらわれすぎている気がするので、それは外してしまってもいいんじゃないかと考えています。
補助金もそうですけど、人起点ではない不自然な状態が続きすぎると、一人一人の想像力が欠如していってしまうので、その想像力をもう一度ローカルに取り戻すということがドチャベンの大きなテーマなんです。
その想像力から事業が生まれて、そこで働く人も誇りを持ち、それが連鎖して仕事や仕事以外の地域活動ができていったりする。そしてそんな大人の背中を見て子どもが育っていって、いろんな世代が町を楽しんでもらえるような流れになっていったらいいなという感じです。
ドチャベンはこうした生態系が生まれていくことを目指していて、そのための生け贄になってくれる挑戦者を求めています。大変さを楽しめるドMの方はぜひ飛び込んできてください。
地域とか、田舎とか、都会とか、日本とかそういう枠組みにとらわれず、システムの呪縛からも逃れて、想像力を存分に発揮する変人、ではなくて人材にどんどん来てもらいたい。
それは事業を起こすのでももちろんいいし、ただ面白そうだから遊びに行くのでもいい。
地域活性化というとどうしても「地方の社会問題を解決する」といったことを考えてしまいがちですが、「そんなのは後からついてくるんだ」という自由な発想こそがほんとうに必要なんだと改めて思いました。
田舎のゆるい空気に触れてみて、今抱えている問題を捉え直してみたら、意外とたいしたことないなと思えるかもしれません。みなさんもぜひ、五城目や横手や、これから2回目のドチャベンが開かれる鹿角や湯沢でそんな空気に触れてみてください。
(撮影: Shinichi Arakawa)
– INFORMATION –
ドチャベン・アクセラレーター2016 2泊3日の現地滞在ツアー受付中!(9/4まで)
〜秋田県の野人(か)美人に会いに行きませんか?〜
http://www.dochaben.jp