突然ですが、みなさんはお父さん同士の井戸端会議を見たことがありますか? 見たことがないという方が大半ではないでしょうか。
2010年頃からイクメンという言葉に代表される、子育てを楽しむ男性が少しずつ増え始め、男性の育児休業取得を推奨する企業などを取り上げるメディアも増えてきたものの、それは実は一握りのケース。本当に育児参加している男性はまだまだ少ないというのが現状です。
育児を母親に任せっきりにした結果、大きな負担が母親に集中し、産後うつや児童虐待など痛ましい事件が起きることも耳にします。
そんな育児中のお母さんの負担を減らすには、“良いお父さん”ではなく、“笑っているお父さん”がたくさんいる社会が必要だと考え、イベントや講演、啓発活動を行っているのが、以前「greenz.jp」でも取り上げた「NPO法人ファザーリング・ジャパン関西(以下、FJK)」です。
法人化して3年、見えてきた課題
FJKは2010年に父親の育児、家事、夫婦関係、子育て、働き方を支援する「ファザーリング・ジャパン」の関西支部として誕生し、2013年にNPO法人化して独立しました。
「法人化した3年前と比べると、自分たちなりの子育て像をしっかりと持っているお父さんが増えた印象がある」とFJK代表の篠田厚志さんは言います。
NPO法人ファザーリング・ジャパン関西代表の篠田厚志さん。3児のパパ。
篠田さん 3年前に比べて、お子さんを保育園へ送り迎えするお父さんが増えています。迎えに行くお父さんはまだまだ少ないですが、送る人の半分ぐらいはお父さんです。イクメンが言葉だけでなく、一般に浸透してきた証かもしれません。
FJKは創業当初から「イクメンをどんどん増やしていこう」と、お父さん同士で子育てについて話をする座談会や、父と子で一緒に遊ぶ「父子プログラム」などを行ってきました。
活動を続けていく中で見えてきた次の課題が、「次世代育成」や「お父さん同士のネットワークづくり」だと篠田さんは語ります。
大阪教育大学で生徒に子育ての話をされている様子。
FJKの「次世代育成」とは、高校生や大学生など、これから結婚や出産を体験する人たちに向けて育児について語るというものです。育児についての知識がない、次の世代の人たちは、興味深く耳を傾けてくれるといいます。
一方で、「お父さん同士のネットワークづくり」はまだまだこれからのようです。
篠田さん 子育て、というキーワードに引っかからないお父さんのために、楽しいプログラムを入り口にして、その中で「お父さん同士のネットワーク」の重要性や意義を強く伝えていくことが必要だと考えています。
そして、楽しいプログラムを通じて、笑っているお父さんを増やすためにFJKが大事にしていることは大きく分けて2つあると篠田さんは言葉を続けます。
篠田さん 笑っているお父さんを増やすには「プログラムを提供している自分たちが、笑っていること」がすごく大事だと思っています。
自分たちが笑えることとは何かを意識して、どうすればそれを具体化して自分たちが体験できるのか。自分たちが何だったら笑顔になれるのかを意識しています。
具体的なプログラムのひとつに、お父さん世代が子どもの頃に熱中したテレビゲームの世界へ、お父さんと子どもが一緒に入り込んでに体験できる、「パパクエスト」という謎解きゲームがあります。
親子で遊びながら謎を解き、「宝物」をゲットするリアルRPG「パパクエスト」。
親子で協力しないと解けないミッションもあり、子どもはもちろん、大人が夢中になれる体験型イベントとして、人気を集めています。
ダンボールを使った迷路まで手づくりする力の入れようです。前職でダンボールケースを扱う会社で働いていた、事務局長の島津聖さんは「子どもよりもお父さんたちのほうがテンションがあがってしまうこともよくありますね」と笑います。
ダンボールを使って子どもと巨大なかまくらをつくったり、ドミノ倒しに挑戦するなど、いろいろな遊び方を親子で考えられるのも魅力です。
仕事に縛られないような、主体的な生き方を
新聞紙を使ったワイルドな遊び、「ワイルドふれあい遊び」。
笑っているお父さんを増やすためにFJKが取り組んでいることのもうひとつは、お父さん自身が、仕事に縛られないように心がけることだと言います。これはどういうことなのでしょうか?
篠田さん 仕事に縛られ過ぎてしまうと、どうしてもお父さん自身に笑顔が生まれません。
会社や組織に属していると、どうしても仕事に縛られてしまう場面はあるかと思いますが、その中でも、自分の希望する生き方を常に確認し、働き方を主体的につくっていくことが大切だと思います。いつ何があるか、わからないのですから。
篠田さんご自身は、大阪府の職員だった頃に受診した健康診断で、食道に腫瘍が見つかったことが自分自身の働き方を強く意識する転機でした。
篠田さん 検査結果を知ったとき、昨日まで順風満帆だったのに、あと3ヶ月で死にますよと宣告された気分でした。自分が病気で死ぬのは仕方がないとしても、当時2歳半の息子と0歳の娘に物心がついたとき、玄関に自分の写真だけが飾られているような存在になるのは辛いなと思いましたね。
その後の検査は陽性で、結果としてなんともなかったものの、一度死を意識した篠田さんはいてもたってもいられなくなり、大阪府を退職。子どもに対しても自分自身に対しても、向き合い方や時間の使い方の意識が変わったといいます。
そして、大阪府を退職してすぐにFJKの初代事務局長が急逝されるという出来事があり、理事のひとりだったこともあって、篠田さんは事務局長に就任。その後、理事長になり、現在に至ります。
篠田さん 自分は誰のためにどういう働き方をしているのか、という視点を意識して働いています。
今では、胸を張って子どもたちに自分の仕事を説明できるし、例え自分が死んでも妻や身近な人たちが、篠田厚志はこんなふうに働いていた、と子どもたちに伝えられると思う。
そういう意味では大阪府を退職した際にぼんやり思い描いていた、自分がほしかった未来に近づいています。
「お父さん同士のネットワークづくり」はお母さん同士のようにはいかない。
続けて現事務局長の島津聖さんも自身の体験を話してくれました。
事務局長の島津聖さん。FJKのダンボール職人。
島津さんは、娘さんが生まれたことを機に、前職で関わりのあった「FJK」に入会。それまで子育ての現場を見る機会もなく、子育てへの関わり方がわからなかった島津さんは、どう楽しんでいけばいいんだろうと感じていたといいます。
島津さん 「FJK」のキャンプなどに参加すると、まず子ども同士がすぐに仲良くなるので、子どもの友だちと僕の間にも関係性が生まれます。
自然にその子のお父さんと話す機会も増え、他のお父さんと話せることで、どんなしつけ方をしているのかを知ることができました。厳しい人もいればゆるい人もいて、子育てを考える上での思考の幅が広がりましたね。
FJK的 父子ツアー2016 in奥猪名健康の郷。
また、メーリングリストも意見交換の場になっており、最近は子どもの眼鏡をどうするかが話題になっていたそうです。
島津さん 視力が弱いのでかけるべきか、かけたらどうなったか。そこから派生してゲームの話や携帯電話をいつ持たせるかという話になったりもしました。街頭で井戸端会議をする機会や時間は持てないけれど、井戸端会議に近いことはインターネット上で行われています。
島津さんの話を受けて、篠田さんはこう続けます。
篠田さん コミュニケーション能力が高い子に育ってほしいとか、主体性をもった子に育ってほしいと考える親が今とても多いのですが、コミュニケーション力を子どもに育くむためには、親の能力も育まれていなければ難しいと思うのです。
子どもだけに求めるのではなく、ちょっとずつ親もやっていく必要があるし、自らも理想とする生き方に近づく努力をする必要があると思います。そんな風に生きるお父さんが増えることで、結果として笑っているお父さんが増えていくはず。そう思って、「FJK」は取り組んでいます。
女性は妊娠中、出産を経て、徐々に時間をかけてお母さんになっていきます。それに対して男性は出産後突然お父さんになる感覚があるとよく耳にします。
すでにお母さんになりつつあるパートナーとの子育ての意識やスキルのギャップは大きく、分からないがゆえにケアをどうしても怠りがちになってしまいます。
でも、生涯を通じて、共にサポートしていく気持ちを持ち続けるには、お父さん側がこのギャップを意識して行動をすることが大事なんだと感じるインタビューとなりました。
これからお父さんになっていく予備軍のみなさん、一度FJKのホームページを覗いてみることで、楽しい子育てを考えてみるきっかけにしてみませんか?
– INFORMATION –
「NPO法人ファザーリング・ジャパン関西」の「Social Design+」でのチャレンジを応援しよう!
自然と子育てに参加したくなる!? 子育てのノウハウが詰まったパパ向けワークショップ開催の機会を増やしたい!!
https://services.osakagas.co.jp/portalc/contents-2/pc/social/social18.html