突然ですが「ポルノ動画サイト」と聞いて、どんなものをイメージしますか? 裸の男女、公の場では閲覧できないような映像、架空請求やマルウェア感染のリスク。好むと好まざるとにかかわらず、卑猥でちょっと後ろめたいものをイメージする人が多いかもしれません。
今回ご紹介する「Pornhub」もそんなひとつ。「エロ動画のYouTube」を自称する彼らのページにアクセスすると、イメージ通り、さまざまなポルノ動画が所狭しと並びます。
そんな「Pornhub」ですが、「アダルト産業が社会に果たせる役割は何か?」という問いのもと、さまざまな活動を展開していることでも知られています。
最近では、目の不自由な人のためのカテゴリーを新設し、史上初のインクルーシブなポルノサイトを実現。その他にも、子会社である「Pornhub Cares」が、独自の奨学金プログラムを通じて、世界中の学生に25000ドル(約300万円)を提供するなど、さまざまなチャリティ活動が世界で話題になっています。
そんな「Pornhub」が今年開始したのは、「DV(ドメスティック・バイオレンス)の撲滅」に関する新たな取り組み「Wear the shirt, raise awareness」。訳すと「1枚のシャツを着ることが、DVに対する意識向上につながる」というキャンペーンです。
シャツを販売する「Pornhub Apparel」のサイトには、グラマラスな女性の姿がプリントされた、10種類のシャツが並んでいます。1枚30~35ドルというこれら商品の売り上げは、全てDV撲滅を支援する慈善団体に寄付されます。
既に「完売」も出始めた同コレクションの一部
シャツにプリントされているのは、ポルノ女優のChristy Mack(以下、クリスティさん)。彼女は自身の取り組みについて、こう語っています。
DVを撲滅することは私の悲願です。だからこそ、今回の「Pornhub」とのコラボレーションを大変誇りに思っています。
辛い経験をした自分だからこそ、救うことができる
クリスティさんがDV撲滅に課題意識を感じ、今回立ち上がった背景には、彼女自身がDV被害を受けた過去がありました。
現役時代は「War Machine」の異名も取った格闘家、Jonathan Koppenhaverさんとの交際中に襲われ、顔やあばらなど18ヶ所を骨折しただけでなく、肝臓まで破裂するという生死も彷徨いかねない重傷を負ったというのです。
更に彼女を苦しめたのは、ポルノ女優という職業に対して向けられた、裁判での侮蔑的な発言。「体だけでなく心にまで、深い傷を負うことになった」とクリスティさん。そんな彼女にとって、DV撲滅がどれほどの「悲願」なのか、想像を絶するものがありますよね。
今回の売り上げを寄付するのが楽しみです。すぐに完売してほしい。
そう話すクリスティさんの短い言葉には、女性だから、ポルノ女優だから、そして辛い経験をした自分だから、同じ苦しみを抱える人を救うことができる、そんな喜びと希望が溢れているように見えます。
クリスティさん
ところでみなさんは今、日本でどれだけの人がDVに苦しんでいるか知っていますか?
内閣府による2014年の調査では、4人に1人の女性が、DV被害を経験したことがあるそうです。また、公的機関への相談は10万件を超え、年々増える傾向があるというのに、全員が全員、クリスティさんのように立ち直れるわけでも、立ち上がれるわけでもありません。(引用元)
被害を受けても「ドメスティック」に閉じてしまい、警察や公的機関による救済ができないまま、精神的疾患や自殺など、更なる悲劇に繋がるケースすらあるのです。
だからこそ、今一度、キャンペーンの目的を思い出してみましょう。
Wear the shirt, raise awareness.(1枚のシャツを着ることが、DVに対する意識向上につながる)
今、私たちにできるのは、「こうした現実がある」ということを知ること。原因や結果に目を向け、自分の頭で考えてみること。そして万が一、不幸にも当事者になったとき、どうしたらいいかを知っておくこと。これらをシャツに託したのが、今回のキャンペーンなのではないでしょうか。
[via Pornhub, Pornhub, cosmopolitan, gender.go.jp, espn, tabi-labo]
(Text: 松原裕香子)