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内面をさらけ出し拍手をもらうことが、自信や自己肯定を生み出す。ホームレス経験者で構成されるダンスチーム「ソケリッサ」がつくろうとしている未来って?

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この記事はグリーンズで発信したい思いがある方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、こちらをご覧ください。

みなさんは、ダンス、と聞いて何を思い浮かべますか?流行りの曲にあわせた軽快なステップや、計算し尽くされたスピンでしょうか。あるいは、一糸乱れぬチームの動きや、アクロバティックな大技かもしれません。

しかし、今回紹介するダンスチーム「新人Hソケリッサ!」(以下、ソケリッサ)がつくりだす踊りの中には、そういった「ダンスらしい」動きが存在しません。踊るのは、背が低かったり高かったり、痩せていたりお腹が出ていたりする40歳オーバーの「おじさん」達。

しわの深く刻まれた手の平は自分勝手に動きまわり、たたずんで目だけをきょろきょろさせたかと思うと、次の瞬間には走り出す。地団駄を踏むどたどたという足音と、苦しんでいるようにも感極まっているようにもみえる表情。それこそが、ソケリッサのつくりだすダンスなのです。

そして、ソケリッサのもう一つの特徴は、メンバーが現在ホームレス状態、もしくはホームレス状態を経験したことのある人だということ。

路上生活の経験を持つ人が、それを公言して人前でダンスを踊る。そんな彼らの珍しい取り組みは、今年6月に開かれた、社会をより良いものにするデザイン・アートのコンペティションである「コニカミノルタソーシャルデザインアワード2016」にてグランプリを受賞するなど、社会問題解決のための一手法としても注目を集め始めています。

日本ではまだ新しい取り組みかもしれませんが、海外に目を向けるとホームレス問題をアートを通じて解決しようとする動きが社会的に認知されつつあり、行政と共同で支援プログラムを実施している団体も存在しています。

ホームレス問題とダンス。一見すると結びつかないその2つがどう混じり合うのか。ソケリッサを主催する一般社団法人アオキカクの代表、アオキ裕キさんに話をききました。
 
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アオキ裕キ
 
ダンサー・振付家。87年より平田あけみ氏からジャズダンスを教わる。タレントのバックダンサー業などを経て 02年オフィスルゥに所属、メディアの振り付け業と共にコンテンポラリーダンスを始める。舞踏を笠井叡氏より学び、更なる踊りの可能性を追求。 05年、任意団体アオキカクを設立(2014年5月に一般社団法人となる)。生きることに向き合う身体から生まれる踊りを探求し、05年ビッグイシューの協力とともに路上生活経験者を集め、ダンスグループ「新人Hソケリッサ!」を開始。

ソケリッサとは

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2011年、OPEN YOKOHAMA2011参加事業CHIPS2011にて

ソケリッサが活動を始めたのは2005年。約10年間で20名ほどのメンバーの出入りを経て、現在は主に3、4人のメンバーが中心となって活動しています。練習は毎週2回、みっちり3時間。

練習に参加する動機は、公演出演のためという意識の高い人から、練習後に出るおにぎり目当てという人まで実に多種多様。ちなみに、「ソケリッサ!」という言葉はアオキさんの造語で「それ行け!」というイメージを表現しているそうです。

そんなソケリッサが踊るのは、コンテンポラリーダンス。直訳すると「現代舞踏」と訳されるコンテンポラリーダンスは、バレエやジャズダンスといった既成のジャンルに属さない踊りを指します。

昨年2015年にはシンガー・寺尾紗穂さんの全国ツアーに帯同し全国14カ所で公演を行ったり、鳥取で開催された「鳥の演劇祭8」に出演したりと、精力的に活動を続けています。

人だかりの中で、お尻をだして寝ていたホームレスのおじさん

もともとストリートダンスを専門とし、有名タレントのバックダンサーや振付家として活躍していたアオキさん。もっとダンスを学ぶべく渡ったニューヨークで、2001年、アメリカ同時多発テロに遭遇します。

人々の恐怖と絶望による大混乱に巻き込まれる中、次第に自分の生き方やダンスのスタンスに疑問を抱くように。それまでの自分本位なダンスではなく、踊りによってもっと色んな人とつながったり、誰かの力になったりできるのではないか、そうするべきなのではないか・・・。

悶々とした想いを抱えつつ帰国し、モラトリアム的な毎日を送っていたある日。新宿の駅前で、とある光景を目にします。

新宿駅前で歌っているストリートミュージシャンの前を通りかかったんです。そしたらその横でお尻をだして寝ているホームレスのおじさんがいて。

ミュージシャンの前に集まる人だかりの横で平然と尻をだして寝ているおじさんと、そのおじさんに見向きもしない人だかりを見て「なんだこの景色は!」ってすごい衝撃を受けました。

このおじさんも人だかりも一体どんな感覚なんだろうとか、このおじさんが踊ったらどうなるんだろうとか、色んなことを想像しちゃって。

その後、単独でスカウト活動を始めたアオキさん。路上で出会うホームレスの人にソケリッサの活動のことを伝えてまわるも、ダンスなんて踊れない、ましてホームレスであることを公言して人前になんか立てるわけがない、とほぼ全員が「お断り」。半年ほどスカウトを続けるものの、メンバーは集まりませんでした。

そんな時、知人からホームレスの自立を支援しているビッグイシューの存在を聞き協力を求めます。その後、ビッグイシュー販売者の方を中心に声をかけ続け、ついにアオキさんの踊りを見た5人が初期メンバーとしてソケリッサに加わることになったのです。

その踊りは、身体の歴史

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ある日の練習風景。踊りは自分たちでつくります

実際に彼らと一緒に踊るようになって、その踊りの強烈さに衝撃を受けたというアオキさん。

最初は振りを教えてたんですよね。でもみんな忘れちゃう。それに、振りを教えてしまうと形に夢中になっちゃって目が死んじゃう。

僕は、おじさん達の身体からわき上がる何かを表現してもらいたかったんです。生きている、息をしているっていう、そこに人間があふれている踊りを見せたかった。

そこで、一方的に動きを教える振り付けをやめ言葉での振り付けを始めました。アオキさんがいくつかの言葉を渡し、そこから想像する動きをメンバーに自由に表現してもらうという方法です。

「すべる肉」、「悲しみを拾う」、「目の下に地平線」といったような言葉を、身体を使って表現する。そうすることでメンバーの中にある、その身体の歴史や想いというものがあふれでるのではないかと考えたのです。

言葉を受け取ったメンバーからは、アオキさんが予想もしなかった動きが飛び出します。

例えばある人に「青い空の下」という言葉を表現してもらった時のこと。気持ちの良い空の下をイメージした爽快な動きが出るかと思いきや、その人はその場でただ体育座りをしているだけ。それはブルーシートのテントの中にいるイメージだったのです。まさにそれこそが路上生活を経験した、他の誰でもない彼自身の身体の歴史のあらわれなのでした。

「練習に来てください」と言うことをやめた

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練習嫌いなメンバーもいれば、休まず通い続けるメンバーもいます

日々、生きることに精一杯なソケリッサのメンバー。練習ひとつとっても、普通のダンスチームのようにスムーズに進むわけではありません。約束の時間に来なかったり、公演本番にいなくなったりすることも一度や二度ではなかったといいます。そんなメンバーに対して、それでもいいとアオキさんは考えています。

彼らは路上生活という究極の生活をしているわけです。どんなに公演で拍手をもらえようとも、それが終われば路上に戻って行く。

路上に戻れば、明日どうやって生きていこうとかそんなことを考えないといけない。そんな究極の生活をしている人に「練習に来てください」と約束をすること自体が意味のないことだと思うようになって。

活動を続ける中で、自分がしなければならないことは「練習に来る」という約束を守らせることではなく、練習に行く場所、踊る場所を持ち続けることなのだと気づいたそうです。

ホームレス問題とダンス

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自分の内面をさらけだす踊り。公演は不思議な空気に包まれます

ソケリッサは今、社会問題を解決するソーシャルデザインの取り組みとしても注目を集めています。踊るということがホームレス問題の解決とどう関係しているのでしょう。

路上生活をしている方の中には、自信や自己肯定感がほぼない、または極端に低いという方が少なくありません。路上生活に陥ってしまう段階で、社会に対する信頼や自分に対する自信を失ってしまうことが多いためです。

その失くしてしまった自信をダンスを通じてもう一度取り戻すことができるのではないか、アオキさんはソケリッサの活動を続けるうちにそう考えるようになったといいます。

舞台に立って踊っているときにメンバーの顔がそばに見えるじゃないですか。その顔がね、もうキラッキラしてるんですよ。お客さんから拍手をもらってすごくいい顔をしているんです。

僕らの踊りは自分で考えた踊りです。その踊りはその人の歴史だし、内側そのものなんですよね。公演ではそれを人前でさらけ出して、それに対して拍手をもらう。今までの人生が生かされる瞬間なんですよね。

自分の力を外にだしてもいいんだと思える。それを繰り返すことで、自信や自己肯定感を持てるようになっていくんじゃないでしょうか。

ソケリッサはホームレス支援を目的として始まったわけではありません。しかし活動を通じて実際に変わっていくメンバーの姿を目にしたアオキさんは今、この取り組みによってホームレス問題を解決できるかもしれないと感じています。

将来的には、ダンスをきっかけに自信を持ち始めたメンバーの次のステップとして、彼らが進みたい方向に進めるような就労の支援や生活のサポートなど、ダンスに留まらない総合的な展開ができればと考えています。

救われる側と救う側にはっきり分かれているような支援を通してではなく、「踊りに夢中になっているうちに人生が少し変わり始めた」、そんな人が出てくる未来はそう遠くないのかもしれません。

今月6月26日(日)には、川崎駅近くにて新作公演&トークイベントも開催されます。ソケリッサのメンバーが惜しみなくさらけ出す彼らの身体の歴史、その一部をあなたものぞきに行ってみませんか。

(Text: 中原デュイ加晴)
  
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中原デュイ加晴
1987年鹿児島県出身。学生時代に雑誌『ビッグイシュー日本版』のことを知り、人生の敗者復活戦に挑む人々の姿に衝撃を受ける。伝えたいことは、だれもが再挑戦できる世の中をつくろうとする、そんな人たちの想い。