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目的は“あの人に会う”こと。「月刊ソトコト」×北九州市のゲストハウス「Tanga Table」対談から見えた、ローカルに人が向かう理由

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

みなさんは、人と出会うための旅をしたことがありますか?

見る・食べる・遊ぶではなく、“人に会う”こと自体を目的として「会いたいあの人に会いに行く」「おもしろい人に出会えそうなあの場所に行く」新たな旅が今、注目されています。

greenz.jpで以前紹介した北九州市のゲストハウス「Tanga Table」も、“人に会う”観光の拠点を目指しています。そこでローカルを盛り上げるおもしろい人たちを紹介する「月刊ソトコト」をゲストに、“人が人を呼ぶ仕掛け”を対談で探ることに。

2016年3月12日、「Tanga Table」は「月刊ソトコト」とのトークイベント「Tanga Tableは北九州の都市観光を変えられるか!?」を開催。スピーカーは「月刊ソトコト」編集長の指出一正さん、そして「Tanga Table」代表の嶋田洋平さん(Tanga Table代表)と取締役の吉里裕也さん(株式会社SPEAC)です。

3人が語ったこれからの新しい旅のかたち、その拠点として「Tanga Table」が目指す姿についてレポートします。
 
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右から指出さん、嶋田さん、吉里さん

各地で自然発生中。地域の新たな盛り上げ役

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ソトコトの表紙にもなった「Tanga Table」

今回のトークイベントは、「月刊ソトコト」創刊200号突破を記念して編集長の指出さんを1日”無料レンタル”するという、出張トークイベント行脚の一企画です。

たくさんの人や地域を取材をしてきた指出さんですが、今回は「この1年で取材した中で衝撃的だった」人たちとして2つのユニットを紹介しました。移住をして地域を盛り上げている、「パーリー建築」と「ペンターン女子」です。

「パーリー建築」は新潟県十日町にあるシェアハウス「ギルドハウス十日町」を起点に、パーティーをしながらリノベーションをする集団で、宮原翔太郎さん、河合勇太朗さん、山際一輝さんの3人が中心となって活動しています。

「パーリー建築」が十日町の中山間地域に登場したことで、地域の人たちが「ギルドハウス十日町」に集まるように。みんなでご飯を食べたりするうちに、仲良くなったおばあちゃんから古民家を譲り受けることもあるのだとか。
 
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指出さんが紹介した男性ユニット「パーリー建築」のスライド

指出さん 十日町は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」以外でも実はすごく盛り上がっていて、その盛り上がりの中心にいるのが「パーリー建築」のような若い人たちです。

注目したのは、誰かがつくった先行例に影響を受けたとかじゃなくて、自然な考えから出てきたところです。なになに系とかじゃない、新しい感じがおもしろいんですね。

そして2例目のユニットは宮城県気仙沼市の唐桑半島で、根岸えまさんをリーダーに活動する「ペンターン女子」。バラバラに移住してきた5人の女性たちが出会って、それぞれの仕事をしながら、まちづくりをしたり、半島の魅力を独自に発信しています。

例えば昔ながらの漁師の歌や踊りを覚えたりして、コミュニティに入り、地域の伝統を受け取りながらも、つくってもらったモンペに若いファッションを合わせたり、おしゃれで楽しい生活を提案してくれているのです。
 
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「ペンターン女子」は女性5人のユニット

指出さん 若い人たちが移住することで、都会にはないこういう新しいコミュニティが生まれています。彼女たちが地方で生み出したり再発見するのを見て、「都会にないものが地方にはあるんじゃないか」と最近よく思うんです。

そして仲間が集まってプロジェクトをつくる、こうした小さなユニットが各地で現れていると指出さんはいいます。そこで吉里さんが気になった「移住先にその土地を選んだのはなぜなのか?」という問いから、若い人たちの価値観へと話が進みます。
 
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「“ここである必然性”って何なのか、そこがいつも気になる」と話を深めていく吉里さん

ローカルのほうが、断然おもしろい!

「パーリー建築」が十日町を選んだのは、たまたま「ギルドハウス十日町」というシェアハウスと縁ができ、そこの住人のみなさんがまたおもしろそうだったから。

そして東京や大きな街に「ファンタジーがなくなっている」と感じていた彼らは、「ギルドハウス十日町」で地域と関わる中で、いきなりおばあちゃんが古民家を貸してくれるという「人生ゲームよりすごい体験」をするのです。

そうした体験から「完全に解読しきられた都会よりも、実はローカルのほうが予想しえない未来やファンタジーがあっておもしろいんじゃないか」と気づいて活動を続けているのではないかと指出さんは考えます。

一方で「ペンターン女子」リーダーの根岸さんの移住理由は、「震災後に漁師のおじさんたちが、どん底から頑張って本気で前を向いている姿を見て、仕事をするのであればそういう真剣に前を見ている人たちの場所で働きたい」と思ったことがきっかけでした。

また他には「ボランティアで2回目に訪れた時に、地元のおばあちゃんが自分の名前を覚えていてくれて感動した」ため移住したというメンバーも。

今ある縁を大切にし、ソーシャルな価値観を普通に持っているこうした世代について、指出さんは「ソーシャルネイティブな感じがする」といいます。

指出さんたちの世代が、本当にやってくるのか誰も実はわからないような、ずっと未来のことまで心配して勤務先や暮らし方を選んでいたのに対し、今は人との関わり方が大事になっているそう。

自分の仕事が役に立って未来をつくっている手応えがあるか、自分ごととして楽しいか、ということを大切にしてローカルに移った「ソーシャルネイティブ」な人たち。そしてそんな彼らに「会いたい!」と十日町や唐桑半島を訪れる、新たな人の流れが生まれています。
 
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「あたらしい地方」を発信するには3つのソーシャルな視点があるという、指出さんのスライド

目的は“あの人に会う”こと。新しい観光のはじまり

「ギルドハウス十日町」があるのは、中山間地域で“年間の乗降客数が1桁くらいしかいないような”駅がもっとも近い場所。

そこに「パーリー建築」や「ギルドハウス十日町」のメンバーに会いたいという人がこれまでにのべ2,800人も訪れたのだそう。この人の流れは、おもてなしする側とされる側というこれまでの観光とは違ってきていると指出さんはいいます。

指出さん これまではサービスとして観光があったけれども、もうサービスじゃなくて、たぶんコラボレーションとか、チーム的な観光の時代に入っていると思うんです。だから来る人も呼ぶ人も、実際イコールの立ち位置なんじゃないかと。

会いたい人がいることが、土地に人を向かわせるコンテンツになっている。「Tanga Table」さんも、たぶん関係性がつむがれるからこそ話題になって、さらにまたどんどん人がやってくる場所なんじゃないかなと思うんです。

ゲストハウスをハシゴする「ゲストハウス巡り」という旅ができているのも、ゲストハウスに行くと「おもしろい大人に会える」と若い人たちが魅力を感じているためだと指出さんは感じているといいます。

人と人との関係性にある、ざらっとした手触りが求められている

途中、会場にトークの感想を聞く場面もありました。ちょうど北九州市で開催中だったリノベーションスクールに参加していた、川邊真代さん(STAYCATION)と馬場正尊さん(Open A)が会場から登壇して次のように話しました。

川邊さん 人が大事だなってあらためて思いました。やっぱり地域に人を連れてくるって、キーパーソンがいないとほんとにドライブがかからないっていうか。どんなに資源を編集したとしても、人に与えられたインパクトほど印象に残るものはないですね。

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別荘のシェアリング・プラットフォーム、「STAYCATION」を創業した川邊真代さん

馬場さん 誰のために仕事をしているのかっていうのが、どんどん抽象化されている気がしてるんですよね。ざらっとした手触りみたいなのを、あらゆるところで求めているんだろうなって思います。手応えもたぶん手触りみたいなものだし、人との関係もそうだし、空間もそうだし。

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「東京R不動産」ディレクターの馬場さんもトークに参加

「Tanga Table」は中継地点のメディアになる

“人に会いに行く”という新しい観光のかたちについて、指出さんから話を引き出していた嶋田さんは、最後にこれからの「Tanga Table」について話しました。
 
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最終目的地はまわりにたくさんある。その中継地点として「Tanga Table」をうまく使ってもらいたい、と話す嶋田さん

嶋田さん 僕はこの場所自体がメディアになったらいいなと思っています。人を介して、地元のコンテンツといきなり深く関われるということをつくっていきたい。例えば地元の常連さんとお店に行けば、最初から店主と楽しく話せたりして満足度がすごく高くないですか?

そして新しい観光の拠点としてどうなるかというと、目指すのは最終目的地ではなくて中継地点。最終目的地の途中にあるベースキャンプであり、いろいろな人たちが情報交換したりネットワークをつないだりする、大きなジャンクションのようなポジションです。

場所自体をメディアにしようという、嶋田さんの発言に、指出さんが「もうメディアになっているんじゃないですかね」と返して、対談は終了となりました。

指出さん 僕は紙媒体って変わらずメディアだと思うんですけど、こうしてたくさんの人がきて時間を共有できる場所は、見えない読者に何かを発信するメディアに比べると、明らかに解像度が高いと思います。同じ“気分”を持ち合わせた人たちと、時間だけではない、たくさんの物事を共有できる場所ですから。

本来メディアってそういうものじゃないですかね。何かを変えていくために、メディアってあるんですよね。

「Tanga Table」さんだったり、リノベーションスクールをはじめとした北九州市の動きっていうのは、のろしがあがっている感じがするんですよね。ここから、たぶんいろいろ起きてくるんだろうな。

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Tanga Tableダイニングの料理とお酒を楽しみながら、トークを振り返って盛り上がる会場

どんな資源よりも人を突き動かすのは人。今回の対談で、気になるあの人に会いに行ってみようと思った人もいるのではないでしょうか。

みなさんも、いつもの人間関係を飛び出して、会ってみたいと思った人に出会う旅をはじめてみませんか?