みなさんは、畑で大量の野菜が廃棄されているのをご存知ですか?
総務省が2013年に発表したこちらの資料によると、2011年産の指定野菜14品目の出荷されていない野菜の合計は180万6,500トンもあり、収穫量に対して17.3%も占めるとのこと。これらの野菜が出荷されない理由は、均一の大きさの方が大量に輸送しやすい等の理由で設定されている物流規格に、大きさがそぐわないからだと言われています。
今回は、これらの野菜を農家から直接買い取り、WEBサイト上やSNSのコミュニティで販売している通販コミュニティ「Kimama Club」の代表、中園由紀子さんにお話を伺いました。
中園由紀子さん
今年で3年目を迎える「Kimama Club」の拠点は、福岡県。子どもがいるお母さんを中心に、口コミで全国に広がっていき、現在約1,000人を越える人が会員となっています。
「my農家制度」とは、中園さんがつくられた造語で、一般家庭が直接農家と契約し、必要なものを年間に必要な量だけつくってもらう仕組みです。
「my農家制度」を取り入れることで、購入者は農家の詳細が開示された安心の買いものができるほか、より安く農産物を手に入れることができます。そして、農家たちも必要な量をあらかじめ把握できるなど、余剰在庫や廃棄の心配をしなくて良いというメリットがあるのだとか。
注文が入った商品は、福岡県南東部うきは市の農場から週3回発送。その業務は、パートや正社員を含め、6人体制で行っています。
中園さんが「Kimama Club」を立ち上げたきっかけは、あるとき子どもの給食で同じメニューが繰り返し出ていたり、冬にキュウリが出ていることを目の当たりにし、ショックを受けたことでした。
「子どもにもっと旬のものや、身体に良いものを食べさせたい」
そう思い立ち、保育園に改善の文書や資料を提出。しかし全く取り合ってもらえなかったそうです。
以前、長野のある小学校が給食を変えて、子どもたちの非行が減ったというニュースがありましたが、偏った食生活がうつ病リスクを高めるという研究結果も出ており、食べものが私たちに与える影響は計り知れません。 そんな影響の大きさを知っている中園さんは、アクションを起こす決意をします。
家で安心安全なものを食べさせれば良いと思ったのですけれど、自然食品店の野菜がとても高価で、目を丸くしてしまいました。スーパーの野菜の2倍以上の価格がするんですね。
お米も高いし、これじゃ子どもに食べさせたい食材がなかなか買えない・・・と思って、無農薬の農家を回ってみようと思ったんです。
そこで中園さんは、無農薬野菜を求め、九州中の農家を車で探し回りました。やがて話を聞く中で、農家たちは運送費や人件費がかかってしまうため、せっかく育てたにもかかわらず、コンテナいっぱい野菜を廃棄処分したり、畑に鋤きこんでしまうことを知った中園さんは、直接やりとりすることを条件に販売させてもらうことに。これがきっかけとなり生まれたのが、「Kimama Club」だったのです。
いろいろな形の野菜を受け入れるということ
みなさんは野菜を買うときに、どんな基準で選びますか?
ファーマーズマーケットのような直接農家と話せる場所だと、その野菜の産地、農法などのこだわりや、どれほどの手間をかけているのかを聞くことができますが、そうでない場所で買う場合、買う側の判断材料は値段と見た目になってしまいがち。
しかし、そういった見た目の基準で選ぶことに危機感を感じると中園さんは話します。
農家の人たちはみなさん、見栄えが悪いものは売れないよって言っていましたね。恥やね〜って。でも実際は、お客さまは無農薬だからってみんな喜んで買ってくれるんですよね。
わたしは、野菜が完璧に、きれいな見た目である必要はないと思うんです。スーパーでは、まっすぐできれいに整った野菜ばかり並んでいますが、畑に行くと実際はそうじゃない。今はブランドが良いとか、きれいなものが良いとかっていう先入観に捉われた若い人が多い気がします。
極端かもしれませんが、子どもが二人いて容姿が違うのは当たり前。見た目が良いことだけが良いのか・・・それは違う。
見た目だけを重要視してきた結果が、スーパーでわかるように全て同じ色形のお野菜たち。今見るととても不自然で怖いこと・・・みんなちがって、みんないいという考えがどんどん抜けてしまっている現状が、とても不自然であると思うようになりました。
そういう考え方のままだと、野菜だけではなく、社会に対してもちょっと違う色形のものに直面したときに、対応できなくなってしまうのではないかなって。それってとても寂しいこと。不揃いの野菜を受け入れる心を持つことで、社会に優しくなれるのではないかなと思うんです。
新しい時代は、色見た目・形よりも育った環境や思いだと思うのです。
持たないことこそ贅沢
そんな中園さんは、東日本大震災を機に電化製品のほとんどを手放し、持たない暮らしを実践しています。そして、その暮らしを広めるため、お母さんたちのコミュニティの中で味噌づくりワークショップや、持たない暮らし講座なども行っているのだそう。
原発反対ということも大切ですが、そういう人が電気を大量に使っている生活では意味がない。嫌だと言ってばかりでは、何事も解決しません。今自分にできることは何かって考えて、行動することが大切なのではないかと思って、こういった講座を始めました。
子どもに昔ながらの生活に触れさせたいとのことから、農家のお手伝いにも参加されています。
「Kimama Club」のお客さんの中には、外国に住んでいる人もいるそうです。東日本大震災から日本の発酵食品に注目が集まり、なんと一個の商品を空輸で送ってほしいという人や、味噌を樽で買いたいという人も。しかしそんな声に、不安を感じずにはいられないと話す中園さん。
今までは、同じ国の人たちに食料をつくっていたのに、お金を持っている他国の人たちのためにつくることになる。安ければ良いというデフレ消費時代の結果は、お金持ちにしか本物の日本食を食べてもらえないという結果も招いてしまう。
どうにかするためには、安かろう、早かろうが当たり前という考えをやめなければいけません。
子育て中のママ向けの雑誌も、ビジネス雑誌にも、時短や安いということが取り上げられている。それは最終的に、ものに人件費を乗せられない=雇用が減っていくということ。安価なものを買えてうれしいと言っていると、旦那さんが失業してしまう結果を招くことになるかもしれないのです。
買いもので社会を変える
安かろう・早かろうからのトランジションを生み出すには、一人ひとりが投資家になったつもりで、お金を使うお店や商品を選んでいく。それが、持続可能な未来をつくる上で大事なファーストステップだと、中園さんは話します。
買いものは選挙。日々買うものだけでなく、ただお茶をする場所もこだわりたいですね。
環境や食べてくれる人のことを思ってやっている農家たちや、本当に良いものを取り扱っているお店にお金が入る仕組みをつくらないと、経済は変わりません。子どもたちに自然や良いものを残すためにも、質素な暮らしこそ贅沢な暮らしだってことを伝えたいですね。
今後は、そんな「足るを知る」暮らしを広めるため、給食を変える活動をしている中園さん。これからの世代にどんな未来を残すのか。それは私たちの日々の選択の延長線上にあります。
飽・崩食の今、この大量の食品やきれいに整った野菜は本当に必要なのか、贅沢をすることが幸せなのか。ゆっくり立ち止まって考えてみませんか?