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貧困家庭の子どもに、塾や習い事で使えるクーポン券を提供。「チャンス・フォー・チルドレン」今井悠介さんに聞く、子どもの未来に僕らができること

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、現在、子どもの約6人に1人は貧困状態にあるといいます。貧困状態におかれた子どもたちは、塾や習い事などの学校外教育に十分なお金をかけることができません。それが学力の格差を招く一因となり、将来の就労も難しくなって、なかなか貧困状態から抜け出せないという悪循環に陥ります。親世代の貧困が子どもの将来にまで影響を及ぼすのです。

このような“貧困の世代間連鎖”を断ち切るために活動を行っているのが、関西にルーツを持つ公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」です。

個人や企業等からの寄付金を原資とし、経済的に苦しい家庭の小中高校生に、塾や習い事などの教育サービスに利用できるバウチャー(クーポン券)を提供しています。また、大学生ボランティアが学習相談や進路相談に応じ、サポートします。

代表理事の今井悠介さんは次のように語ります。

今、私が子どもたちを支援するにあたって問題だと感じているのは “生活支援”と“教育支援”との間が分断されているということです。

貧困の世代間連鎖を断ち切るために、どんなことが必要なのか。今井さんにお話をうかがいました。
 
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今井悠介(いまい・ゆうすけ)
1986年、兵庫県生まれ。小学2年生の時に阪神・淡路大震災を経験。関西学院大学在学中、NPO法人ブレーンヒューマニティーで不登校生徒支援に関わる。KUMONで教室コンサルタントとして勤務。その後、一般社団法人チャンス・フォー・チルドレンを設立し、代表理事に就任。2014年よりチャンス・フォー・チルドレンは公益社団法人となる。

子どもたちにとって本当に必要な教育サービスを、確実に提供するために

個人や企業等からの寄付金を原資に、教育サービスに使えるバウチャーを提供している「チャンス・フォー・チルドレン」。まずは、その取り組みの特徴を3つ紹介しましょう。

ひとつめは、確実に教育の機会を提供できるということ。

奨学金や各種手当などの現金給付の場合は、教育以外の費用に充てられることもありますが、バウチャーは教育サービスだけに使えるものだからです。バウチャーという仕組みによって、個人や企業等の支援者からの寄付は、確実に子どもたちの教育機会を増やすことにつながります。

ふたつめは、子どもたちが自分の受けたい教育サービスを選ぶことができるということです。

教科学習はもちろんのこと、スポーツや習い事、文化活動や体験活動など、選択肢は多岐にわたっています。子どもたちからのリクエストに応じてバウチャーを使える教室は増えており、現在、日本全国で3000を超える教室で利用することができるようになっています。
 
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(撮影 Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE)

三つめは、大学生がボランティアで進路や学習の相談に応じ、子どもたちをサポートする「ブラザー・シスター制度」があるということ。

生活困窮家庭に育った子どものなかには、身の回りに大卒の人がいないために、大学に入るまでの道筋や大学生活、そして卒業後のイメージが描けないということも少なくありません。現在、100名近いボランティアの学生たちが、バウチャーがより有効に使われるように、利用者を継続的に支援しています。
 
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面談の様子(撮影 Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE)

突然貧困に陥った子どもたちに教育の機会を

そんな「チャンス・フォー・チルドレン」のルーツは関西にあります。母体となったNPO法人「ブレーンヒューマニティー」は、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災がきっかけとなって、被災した子どもたちの学習支援のために家庭教師を無償で派遣しようと立ち上がった学生サークルでした。

「ブレーンヒューマニティー」は被災した子どもたちに無償で家庭教師を派遣する活動からスタート。やがて、キャンプを企画したり、不登校の子どもを支援するようになったりと活動の幅を広げていきます。次第に、参加費を払ってもらってサービスを提供する事業型のNPOに進化していきました。
 
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「ブレーンヒューマニティー」の活動のひとつであるキャンプの様子

そんな「ブレーンヒューマニティー」から「チャンス・フォー・チルドレン」の事業が生まれた背景には、2009年のリーマンショック後の社会状況がありました。当時、日本国内でも貧困の問題が取り上げられるようになっていたのです。

不景気の影響で失業やリストラに遭う親のもとで、貧困状態に陥ってしまった子どもたちのために、何かできることはないだろうか。そう考えた「ブレーンヒューマニティー」の大学生ボランティアは、街頭に立って募金活動を始めます。そして、集めた140万円を原資に、2名の高校3年生にバウチャーを提供するというプロジェクトをスタートしました。このときのバウチャーは予備校の学費として使用されました。

塾や習い事等の学校外教育に使えるバウチャーを民間の組織が提供するというのは、新しいアイデアでした。

2010年4月からバウチャーの提供を開始。ちょうど1年が経ったころに、東日本大震災が起こります。

震災によってそれまでに住んでいた家や家族を失い、突然貧困状態に陥ってしまった子どもたちを支援すべく、2011年6月に「チャンス・フォー・チルドレン」は「ブレーンヒューマニティー」から独立。東北にも事務所を構えています。今井さんは、学生時代の友人でもあった奥野さんとともに共同代表としてこの法人化に関わりました。2016年3月現在で、バウチャーの延べ利用者数は1042名にのぼります。
 
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バウチャーの贈呈式

想いが風化しない環境に身を置く

今井さんもまた、学生時代に「ブレーンヒューマニティー」の一員として、関西で不登校の生徒を支援する活動をしていたひとりでした。大学卒業後は株式会社日本公文教育研究会に入社し、上京。社会人としての生活にも慣れた入社2年目の3月に、東日本大震災が起きました。

生まれ育った神戸で阪神・淡路大震災に遭ったときには、僕はまだ小学校2年生で、社会全体の状況はよくわかっていませんでした。

しかし、東日本大震災のときにはもう社会人。東京にいて、混乱の中でも一気に東北を支援をする流れがつくられるのを体感し、かつて神戸もこうやって支えられていたのだと気づかされたんです。

そんな中で、「チャンス・フォー・チルドレン」の法人化に関わらないかという話が持ち上がります。2011年の4月から準備を始め、6月に法人化。そして7月、今井さんは会社を退職しました。

会社を辞めるまでは悩みました。でも答えは決まっていたのだと思います。時間が経つと想いは風化してしまう。それなら、今の気持ちが風化してしまわないような環境に身を置こうと思いました。

1期生が大阪大学に合格! チャンスをモノにする子どもたち

今年で「チャンス・フォー・チルドレン」も法人化から5年。バウチャーを利用した子どもたちが着々と成果を出しています。

2015年春には、大阪大学へ合格した生徒が出ました。

その生徒は、幼いころに父親の家庭内暴力から逃れ、母親と共にシェルターに逃げ込んだそうです。しかし、母親が病気がちだったこともあり、経済的に苦しい生活が続きました。そんな折に、チャンス・フォー・チルドレンのクーポン利用者を募集する記事を偶然見つけたことで、彼の人生に希望の光が射します。

高校では野球部に所属しながら勉強と部活を両立。受験期には、平日には放課後から夜遅くまで、休日は丸一日勉強に打ち込み、見事合格を果たしたのです。

バウチャーの利用者は、みんな着実に頑張っています。チャンスさえつかめば、前に進めるんです。

着々とバウチャーの成果が出る一方で、現在は利用希望者に対して寄付金が追いついていない状態なのだそう。220名の定員に対して、申込者は1479名! その倍率は約7倍と、なかなかの競争率です。

より多くの子どもたちを支援できる仕組みはあるのに、資金がないことに足を取られてしまう。これからは国や自治体へのはたらきかけもしていって、もっと多くの子どもたちに教育のチャンスを届けたいと考えています。

今井さんが国や自治体へのはたらきかけの重要性に気がついたのは、大阪市が学校外教育のためのバウチャーを発行する取り組みである「大阪市塾代助成事業」に関わったからでした。行政と共に動くことで、地域の教育環境が大きく変化することを実感したのです。
 
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街頭での募金活動も。インターネット経由で、クレジットカードか口座からの引き落としで、月々1000円から支援ができる

行政を巻き込むことで地域の教育環境が変化する

大阪市塾代助成事業とは、塾や習い事などの学校外教育にかかる費用について、1人あたり月額1万円まで利用できる「大阪市塾代助成カード」を大阪市が発行する取り組みです。

2014年は生活保護受給世帯・就学援助受給世帯の中学生約2万人を対象に実施されました。「チャンス・フォー・チルドレン」は、企業と共同でこの事業の運営業務に携わっています。

従来であれば、公的資金を投入するときは、行政が事業者を選び、補助金を出してサービスを提供するという流れが一般的でした。しかし、学校外教育バウチャーの制度では、子どもたちが必要に応じて教育サービスを選べるため、地域にある既存の教育リソースが十分に活用され、地域の教育環境を活性化させることにつながるのです。

また、大阪市塾代助成事業のように、年間に2万人が利用する規模での事業になると、地域の教育環境に新たな変化が起こり始めます。

その一例として、今井さんは大阪に生まれた「たぶんか進学塾」に注目しています。

「たぶんか進学塾」は、日本で暮らす外国人を支援するNPO法人多文化共生センター大阪の事業のひとつ。外国にルーツがあり、来日したばかりで日本語に不慣れだったり、漢字が苦手だったりといった子どもたちの高校進学をサポートしています。
 
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「たぶんか進学塾」の様子

これまでは、彼らを対象とした教育サービスは必要とされながらも生まれることはありませんでした。彼らの親も日本語が不自由で就労が難しく、貧困状態に置かれていることが多かったからです。しかし、大阪市塾代助成事業に公的資金が投入されたことによって、「たぶんか進学塾」のような塾が新たに創出されました。

今後、自治体との連携が進むことで、こういった変化が各地で起きるようになるかもしれません。

より支援を必要としている層に届けるために

「チャンス・フォー・チルドレン」は、これまでの活動で、貧困状態にあっても学ぶことに対して親子ともに意欲がある層へのサポートについては成果を上げてきました。一方で、貧困の連鎖の中で親も子どもも意欲を失っている層にはたらきかけることの難しさが浮き彫りになっています。
 
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マトリックス図

このような親子ともに意欲を失っている層にアプローチするには、生活支援と教育支援の間をつなぐ必要があると今井さんは言います。

生活支援団体と連携して、地域や学校をいかに巻き込んでいくかが大切だと思っています。最近、貧困家庭の子どもに食事を提供したり居場所を提供したりする取り組みが増えていますが、そういったサポートを受ける中で子どもの意欲が高まったタイミングで、教育支援につなげていくことが大切です。

今井さんは、そのモデルケースとして、前述の「たぶんか進学塾」がヒントになるといいます。

これまで、教育支援は子ども本人やその親が“教育を受けたい”という段階に達しないと手をさしのべることができませんでした。本来は、生活支援で衣食住が満たされたら、今度は教育支援への橋渡しが必要なんです。

この「たぶんか進学塾」には、生活支援から教育支援への導線があります。母体となるNPO法人多文化共生センター大阪が、もともと安心できる居場所を提供するという活動をしている団体だからです。この塾に通った生徒たちは、全員志望校への合格を果たしています。

「チャンス・フォー・チルドレン」の見つめる未来は、日本全国の自治体でバウチャー事業を実施し、教育格差が解消された社会です。

「チャンス・フォー・チルドレン」のつくりあげた学校教育バウチャーのモデルは、生活支援団体や自治体との連携をとることで、地域の教育環境にもよい変化をもたらしていくことでしょう。

バウチャーを利用して見事志望校に合格した生徒からの手紙の一節にはっとしました。

東日本大震災が発生した時、僕は小学5年生でした。家が壊れ、避難所で過ごした日々は不安と悲しさでいっぱいでした。

(中略)これからの未来や、自分達の将来も不安でいっぱいになりました。しかし、何年たっても、そんな僕達を忘れずに、こうして助けてくれる方々がいる、ずっと支えてくれる方々がいることを知り、心強い気持ちになり、不安だった心も、今では感謝でいっぱいになりました。

僕は将来、人の役に立つロボットをつくるのが夢です。震災の経験を活かし、夢に向かって頑張っていきたいと思います。

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突然の震災に見舞われ、不安でいっぱいだった子どもが、自分達のことを忘れずに支援してくれる人がいることに感謝の気持ちを抱き、夢を持ち、頑張っている。

東日本大震災後に感じた想いを風化させないようにと、会社を辞めて背水の陣で「チャンス・フォー・チルドレン」の活動に身を投じた今井さんの想いが、バウチャーを通じてしっかりと受け取られているように感じられました。

支援を必要としている子どもたちは日本全国にまだたくさんいます。支援を必要とするすべての子どもたちが、その手にチャンスをつかめる社会にするために、まずは自分にできる支援から始めてみませんか?