『井戸をめぐる物語』(ドイツ/2014/16分/監督:Julia FINKERNAGEL)
世界はいま、急速な情報化とグローバリゼーションによって、すごいスピードで変化しているように思えます。それにともなってかどうかはわからないものの、世界から毎日、テロや内戦、民主化デモのニュースも入ってきます。
しかし、私たちの足元に目を向けると、日々の生活の中では変わらないものも多く、伝統を大事にしようと言う機運も高まってきているのではないでしょうか。
著しく変化しているようで、変化していないようでもある世界の様々な人々の暮らし。そんな世界各地域の多様な暮らしを描いた映像作品を集めた映像祭「第3回グリーンイメージ国際環境映像祭」が3月23日から25日まで開催されます。
今年で3回めを迎える「グリーンイメージ国際環境映像祭」、これまでの2回は文字通り、地球温暖化などの地球の自然環境をめぐる作品を多く選定し上映してきました。今回も、39の国と地域から応募された175作品の中から12作品を選定、最終日には大賞の発表と表彰も行われます。
社会制度の変化と人々の暮らし
『BALAZHER-現実の修正』(スイス・ウクライナ/2013年/30分/監督:Lesia KORDONETS)
今年上映される作品のリストを見てみましょう。
リストを見てみると、「自然」環境にかぎらず、人間が暮らす「社会」という環境にも目を向け、とくに「社会制度」について問う作品が多く見られるように思えます。
その中の1つ『BALAZHER-現実の修正』は、EU(おそらくハンガリー)との国境に近いバス停を舞台にした物語。
そのバス停にやってくるバスは旧ソ連時代から使われているおんぼろのバスで、故障やら何やらの理由で、何時来るかわからない。そんなバスを待つ住人たちやバスの運転手の話から、ソ連時代と今のウクライナが見えてくる作品です。
ウクライナがソ連邦から独立したのは1991年、今から約25年前のこと。それ以前から同じ路線を、同じ車両で同じ運転手が運行しているバスとそれを待つ乗客。そのバスは本当にボロボロで、ドアは乗客自身が閉めなければならないほど。
というのは、故障してもお金がないので新しいパーツを買えず、ごまかしながら使うしか無いのです。しかし、それをなんとか工夫して動くようにするのが職人の技術とばかりにあの手この手でバスを直します。
バスを待つ時間を持て余す乗客にインタビューすると、「表現の自由などの部分では変わったけれど、あまり変わらないことも多い」という人もいます。国家体制を見ると非常に大きく変わったように見えるけれど、実際にその生活を見つめてみると変わらないことのほうが多い。人の営みと国家の制度との関係というのは一体どのようなものなのか、考えさせられるのです。
世界の変化と文化の違いを乗り越える
『100万回のステップ』(ドイツ・トルコ/2015年/22分/監督:Eva STOTZ)
もう1つ、トルコの作品『100万回のステップ』は、タップダンサーがイスタンブールの街で行われているデモの現場でタップダンスを披露するという作品。
舞台となるのは2013年のトルコ反政府運動、アラブの春の影響を受けて起きた「トルコの春」とも言われた大規模デモです。変わらない日常から一歩踏み出し体制を変えるために動き出す人々を、ダンスというアートを通してみた時にどう見えるのか、それを描いているように思えました。
アートを”文化や価値観の違いを乗り越えて人と人との対話を生み出しうるツール”と考えると、アートのひとつとも言える映像作品も。人々と社会の関係に影響を及ぼしうるのではないか。そして、映像を通じて対話を行うことで価値観の違いを埋めることができるのではないかとも思うのです。
さらにもう1つ、16分という短い作品ですが、ドイツの『井戸をめぐる物語』は、ドイツからアフガニスタンに井戸をつくるためにやってきた女性カルラが、たびたび謎の妨害を受けるという物語。
生活を豊かにするはずの井戸ができるのをなぜ妨害するのか。その謎が明らかになると、援助を行う先進国の価値観からだけではわからない、それぞれの国の事情というものが見えてきます。
文化が異なれば価値観が異なり、「当たり前」が通らなくなる。そんな当たり前のことを再認識したうえで、先進国と言われる国で暮らす私たちが、途上国などで貧しい暮らしをしている人たちと何ができるのか、そんなことをあらためて考えずにはいられません。
日本の「これから」を支える変わらないもの
『波伝谷に生きる人々』(日本/2014年/135分/監督:我妻 和樹)
これらの作品のほか、初日23日には、宮城県南三陸町の小さな漁村「波伝谷」の2008年から震災の日、2011年3月11日までを描いた作品『波伝谷に生きる人々』と、震災で被災した福島県新地町の漁師たちの暮らしを2011年6月から2014年11月まで記録した作品『新地町の漁師たち』などを上映。
東日本大震災という出来事の以前と以後の日常を、場所は違えど同じ被災地を舞台に描いた2つの作品からは、色々なものが見えてくるに違いありません。
日本の作品はほかに、岐阜県の長良川河口堰の運用から20年間でその周辺がどう変化していったのかを追った『魚道-長良川河口堰運用から20年』。
『グレートジャーニー』シリーズの探検家関野吉晴さんの「船をつくる鉄器づくりから始めてインドネシアから日本までエンジンを使わずに航海する」という挑戦を追った『縄文号とパクール号の航海』。
そして特別上映として、山から馬できを搬出する「馬搬」の職人を追った『里山の森から-森を生かす古くて新しい技術・馬搬』を上映。
東日本大震災のような日本にとって大きな区切り以外にも、さまざまな社会変化のきっかけがある中で、変わりゆくものと変わらないものを見つめ、そこから「これから」を考える、そんな作品が並んでいます。
どの作品も内容はシリアスですが、映像を通して見ることで問題を理解しやすくなりますので、映像を見て自分自身と社会や地球との関係性について改めて考えてみてはいかがでしょうか。
– INFORMATION –
第3回グリーンイメージ国際環境映像祭
【日程】
2016年3月23日(水)15:30 – 21:40
2016年3月24日(木)12:30 – 21:30
2016年3月25日(金)11:15 – 19:00
【会場】
日比谷図書文化館コンベンションホール
(東京都千代田区日比谷公園1-4 地下1階)
http://hibiyal.jp/hibiya/access.html
【参加】
協力費1日1500円 中学生以下無料・事前予約不要
【問い合わせ】
グリーンイメージ国際環境映像祭実行委員会 Tel: 03-6451-2411
【主催】
グリーンイメージ国際環境映像祭実行委員会
http://green-image.jp/