まだ眠い目をこすりながら、校庭に集合! 全6学年がクラスごとに整列する中、ベルマーク運動を担当する先生から「みなさん、今日は学校に新しいピアノが届きました」というお知らせを聞く。小学生のとき、ベルマークを集めて届いた遊具や道具を喜ぶ朝礼に出席したことがある人は多いはずです。
学習帳の表紙をハサミで切って、教室ごとにベルマークを集める光景は、多くの人の小学校時代の記憶として残っています。実は、2015年はそのベルマークが誕生して55周年を迎えた節目の年でした。
そんな長く親しまれてきたベルマークを運用する「ベルマーク教育助成財団」(以下「ベルマーク財団」という。)は、昨年からどんぐり事業事務局と連携した活動をスタートしています。そこで今回の「MORE DONGURI!MORE GREEN!」では、半世紀を超えて取り組まれてきたベルマーク運動についてその継続の秘訣を改めて聞きました。
ベルマーク運動のしくみを、総務部長の今村修さんとベルマーク新聞編集長の米内隆さんから教えてもらいます。
インタビューに答えてくれた、公益財団法人ベルマーク教育助成財団総務部長の今村修さんと、ベルマーク新聞編集長の米内隆さん。
参加者に強い動機を生む、わかりやすいシステム
ベルマーク運動がはじまったのは1960年。「すべてのこどもに等しく、豊かな環境のなかで教育を受けさせたい」という要望に応えるべく、朝日新聞社を中心にベルマーク財団が設立されました。
ベルマーク運動の協賛会社の商品に貼られたマークを集めると、教育環境を整えるためのさまざまな設備を購入することができます。「小学校や中学校のときに集めた!」という人も多いかもしれません。
意外と知られていないのが、集めたベルマークで希望商品を買うと購入金額の10%がベルマーク財団に寄付されること。その寄付金は、国内のへき地や海外で教育を受けにくい子どもたち、また国内外の被災地などの支援を行う活動資金に充てられるという、「一粒で二度おいしい」仕組みなのです。
そんなベルマーク運動が55年間も継続できた理由を聞いてみると、総務部長の今村さんは「わかりやすさ」と答えてくれました。
今村さん ベルマークは商品に付いています。切って集めます、送ります、お金に換算されてお買い物ができます。お買い物をしたら、誰かの支援を代わりに行います。こうやって、1回で説明できるくらいわかりやすいんです。
また、ベルマークを集めた人たち自身の環境が変わるという点も大きいですね。直接的な成果が、強い動機につながっていると思います。
ちなみに、最近人気があるのは体育館で使えるボルダリングの道具なのだそう。
今村さん オリンピックの種目にクライミングが決まったので、交換する方が増えていますね。消耗品も多くて、未だにCDカセットプレイヤーも人気があります。
教育分野では、まだまだほしいものがたくさんあるようです。PTAのニーズを聞いて、どんどん充実させていきたいですね。
一方的に与えるのではなく、教育現場の人たちの声を反映することで、つねにいま必要な教育設備を得られるベルマーク運動が維持されているのです。
今村さん ベルマークの点数は、マーク以外にも付与されています。例えば、キヤノンさんやエプソンさんのトナーカートリッジを集めると、1つ50点になるんです。中には「お父さん、会社からトナーもらってきて!」と集めているところもありますよ。
米内さん テトラパックさんも参加してくれているので、テトラパック製の牛乳パックもポイントになります。参加企業が増えた今、ベルマーク財団が行っている事業は、資源回収や環境保護など多岐に広がっているんです。
「わかりやすさ」と「強い動機」をもとに、すっかり身近な存在となったベルマークですが、意外にも今なお普及活動に力を入れているのだそう。そのひとつが、年1回、全国95カ所で実施されている「ベルマーク運動説明会」です。
1年ごとに入れ替わるPTAの父母にとっては、ベルマークに取り組む姿勢もさまざま。
そこでPTAの方向けにベルマーク運動の思いを紹介したり、「専業主婦が少なくなって集合しにくい」という切実な相談から、「仕分けしやすい容器は?」といった具体的なノウハウまで、さまざまな共有が行われてきました。
多いときには一度に400〜500人の父母が集まることも。こうして年間延べ15,000人がコミュニティとしてつながり、それが創立年から現在まで継続できた大きな要因だったのです。
米内さん 私たちはもちろん、協賛会社、協力会社の方々にとっても、PTAの皆さんの意見は大事なんです。会場に足を運べる協賛企業、協力企業の方々には、小さなブースを設置してもらっています。
企業にとって、エンドユーザーの声に直接耳を傾ける機会にもなっているんですよ。そうした機会をつくるのも、ベルマーク財団の仕事です。
お話から、ベルマーク運動があることで、PTAと企業が自然につながっている様子が伺えます。また、そのコミュニティから自発的にベルマークを盛り上げる取り組みも生まれているそうです。
今村さん 各企業にはそれぞれベルマークの担当者がいるんですが、説明会で知り合った担当者同士で、新たな取り組みが始まる場合もあるんです。
例えば、クレハとキリンビバレッジが協力して、スーパーマーケットで販促キャンペーンが実施されたこともありました。私たちが関わらなくても企画されていく今の状況はありがたいですね。
わかりやすく、熱しやすく、どんどんみんながのめり込んで、力を増していく。それにしても、こんなシンプルでパワフルなベルマークの仕組みを考えた人って誰なんでしょう?
米内さん それがはっきりしていないんです。ミズノさんという方が考案した、なんて言われているんですが、一体、誰なのか。社員なのか? 外部関係者なのか? 資料もなく、ある意味、伝説的なエピソードになっています。
現地の声に耳を傾ける継続的な支援づくり
55周年を迎えた2015年。ベルマーク財団はどんぐり事業事務局と協力して、新たな取り組みをスタートすることになりました。きっかけは、協賛会社のひとつであるキヤノンの呼びかけでした。
今村さん 今回の件についても、私たちが考えたアイデアではなく、キヤノンさんがどんぐり事業事務局と連携する枠組を考えて、連絡をくれたんです。
どんぐりポイントも付いたベルマークを集めると、どんぐりポイントに応じた寄付金がベルマーク財団に支払われ、被災地校支援等に活用されるというものでした。
ポイント制度として半世紀近く先に生まれたベルマーク運動が、どんぐりマークと協力する意義ってなんでしょう。最後に、どんぐりマークに期待することを聞いてみました。
今村さん どんぐりマークは「環境」がテーマなので、「教育」とは異なる関心を持つ企業に、ベルマーク運動にも参加してもらえる機会になるのではと考えています。
まずは、すでに現地で活動なさっているNPOや大学などの教育関係者に意見を聞いて、本当に必要とされることを準備していきたいですね。
米内さん 連携を継続できるよう、予算の見通しがきちんと立つ枠組みをつくるなど、どんぐりマークの将来性を含めて、わたしたちの関わり方を考えていきたいと思っています。
ベルマーク運動が長く続いてきた秘訣は、わかりやすさと直接的な成果、毎年地道に続けてきた説明会。その説明会で、協賛会社と生活者、協賛会社同士が交流する機会を提供することで新たな取り組みが生まれ、それがさらなるベルマーク運動の広がりにつながっているのですね。
そのベルマーク運動と連携することで、まずは子どもたちが「どんぐりポイントを集めて○○しようよ」と声をかけ合えるくらいわかりやすい情報発信、そして子どもたち自身が興味関心をもって取り組みたくなるようなポイントの使い方を提供することができれば、学校、そしてその先の社会へとどんぐりマークを広めていく第一歩になるのではないでしょうか。
「教育」と「環境」というそれぞれの特徴を組み合わせた、ベルマーク財団とどんぐり事業事務局との連携は始まったばかり。
従来より、小学生たちがベルマークを集めて教育関連の道具を購入しているように、どんぐりポイントをためて環境関連の取り組みに加わることが楽しくなる。この連携が、そんな新しい半世紀を生む1年目なのかもしれませんね。
(写真:服部希代野)