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やり方しだいで、「介護」はポジティブになる! 「介護ライブラリ」山本由美子さんに聞く、“介護超初心者”世代が今すぐにできること

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おばあちゃんの介護をしていた頃の山本さんとおばあちゃん。

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

みなさんは、「介護」に対しどのようなイメージがありますか? 「やさしかったお母さんや、尊敬していたお父さんが認知症で豹変してしまう」「24時間つきっきりでお世話をしなくてはいけない」などと聞いては、「大変そう」「しんどそう」とネガティブな印象を持っている人がほとんどではないでしょうか。

今回お話をうかがったのは、介護に対する不安や悩みを少しでもやわらげようと、「介護ライブラリ」を運営する山本由美子さん。ウェブサイト「介護ライブラリ」でのあらゆる情報提供をはじめ、関西圏を中心に講演活動なども行っています。

実は、山本さんは昨年子どもを産んだばかりの新米ママ。30代女性による介護の情報発信というのは、とても珍しい存在です。「介護ライブラリ」が生まれた背景には、山本さんが20代のころに経験した壮絶な介護生活がありました。「介護ライブラリ」には、そんな山本さんだからこそのメッセージや工夫がたくさんちりばめられています。

山本さんは、自身が経験した介護生活を通して、今の介護にどんな情報が必要だと感じ、自分なりの発信を続けているのでしょうか。
 
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山本由美子(やまもと・ゆみこ)
兵庫県芦屋市に生まれ育つ。フリーター生活を送っていた20代のある日、同居中の祖母が倒れ、未経験の身で母親と共に祖母の介護をすることに。それを機にホームヘルパー2級の資格を取得し、デイサービスの職員となり、介護漬けの日々を送る。祖母の亡き後、「介護の情報が足りていない」と感じ、2012年に介護専門の情報サイト「介護ライブラリ」を立ち上げ。阪神地区のデイサービスのデータベースから、初心者向けのお役立ち情報を掲載。大阪・神戸など関西各地でセミナー講師の活動も行う。

突然始まった介護生活。「介護漬け」の20代後半

山本さんと「介護」との出会いは、20代半ばの頃でした。同居していた祖母が認知症になり、在宅での24時間介護が必要に。家族で役割を分担し、当時フリーターだった山本さんが、夜間の見守りをすることになりました。

右も左もわからない介護をしながらの昼夜逆転生活は、想像を超える辛さでした。「なんでこんなことしてるんやろ」と、数ヶ月で精神的にまいってしまった山本さん。

母親に「介護の資格でも取ってみたら?」と勧められ、スクールに通いホームヘルパー2級の資格を取得。そのときの実習先だったデイサービスで声をかけられ、介護士として働くことに。

こうして山本さんの生活は、昼間はデイサービスで働き、夜はおばあさんのお世話をする、という「介護漬け」の日々になっていきました。

介護経験を通して、「デイサービスの情報が足りない」と感じた

在宅介護は、おばあさんが亡くなるまで3年ほど続きました。その後も、しばらくは介護士として働いていた山本さんですが、結婚という人生の節目を迎えたこともあり、退職。それと同時に一念発起し、2012年に立ち上げたのがデイサービスの情報サイト「介護ライブラリ」です。

山本さん自身がおばあさんの介護をする中で、「デイサービスに関する情報が少なすぎる」と感じたのが、介護施設の中でもとりわけデイサービスに特化した理由でした。

おばあちゃんがあるときから大声を出すようになり、それまで通っていたデイサービスから断られてしまったんです。

その後、他のデイサービスを探すのが難しくて。自分も隣の市のデイサービスで働いているのに、おばあちゃんの住んでいる地域のデイサービスについて何も知らなかったんです。「いったいみんなどうやって探しているんだろう?」と思っていました。

最終的には、ケアマネージャーさんに紹介されたところに通うことになり、そこへの不満はないのですが、「自分で選べた」という感覚がなくて。本来なら、本人や家族が「ここに行きたい!」と思うところを選ぶべきなのに、祖母にいちばん合ったデイサービスだったのかどうかは、いまだに疑問です。

当時、市役所で配布されるデイサービスの一覧にあるのは、名前と住所、電話番号など最低限の情報のみ。老人ホームなど他の介護施設とは違い、自社のホームページを持つデイサービスは少なく、希望者それぞれに割り当てられるケアマネージャーの提言に頼るしかありませんでした。

デイサービスは、介護保険受給者の中でもっとも利用されているにも関わらず、その情報はもっとも少ないという現実。山本さんは、「ケアマネさんの目線だけでなく、対等な目線で情報を収集できるツールが必要だ」と考えました。

そこで、「介護ライブラリ」は、十分な情報を持つ、デイサービスのデータベースになることを目指すことにしました。

「デイサービスのデータベース」から、「介護の情報発信」へ。

自宅のある西宮市と隣接する宝塚市、尼崎市にしぼり、各デイサービスを自転車で取材にまわった山本さん。はじめは断られることもありましたが、懸命に取材を重ね、最終的には150軒以上のデイサービス情報を掲載するデータベースが完成しました。

施設内の写真を見られて、雰囲気やコンセプトまできちんとわかるものをつくろうと思いました。「お風呂は機械なのか介護士の手なのか」「食事はどこで調理されたものなのか」など、細かいようですが、デイサービスを選ぶ際の大事なポイントも盛り込みました。

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デイサービスの紹介ページ。行政の情報にはないような、写真や行事の内容などもまとめられています。

リハビリ中心で運動ばかりするところ、海を見ながらコース料理を1皿ずついただくところ。曜日ごとに英語、フラワーアレンジメント、書道、パソコン教室があり習い事感覚で通えるところ…。

デイサービスにはそれぞれ特色があるのに、利用者さんにはまったく分からない状態だったんですよね。

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運動がメインのデイサービスのようす

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プロの音楽家の演奏を、近所の住民も招き入れて聴くコンサートを開くデイサービスも。

介護業界に新風を巻き起こすことになった「介護ライブラリ」は高く評価され、「ソーシャルビジネスプランコンペ近畿2012」でみごとグランプリを受賞。それをきっかけに、関西各地から声がかかり、セミナー講師の活動も頻繁に行うようになりました。
 
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「ソーシャルビジネスプランコンペ近畿2012」でグランプリを受賞

そんな中、自治体主催の「家族会」にも積極的に参加するなど、実際に介護をする人と直接話をすることも多い山本さんは、はじめての介護に直面し困っている人の声を聞いているうちに、「介護初心者のための情報が足りていない。役に立つ情報を積極的に発信していくべきだ」と考えました。

そして、2014年には「介護ライブラリ」をリニューアル。データベースの機能も持たせたまま、「介護の情報発信」をメインのコンテンツにし、介護に関するあらゆる情報を、初心者にもわかりやすく発信し続けています。
 
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サイト「介護ライブラリ」の介護に関する情報コンテンツは、初心者の人でもわかりやすいよう、イラストやわかりやすい言葉を入れて説明しています。これも、自身の介護経験で「介護の情報が少ない」「わかりづらい」と感じたからこそのアイデア。

“介護の超初心者”は30〜40代。同世代だからこそ伝えられること

「介護ライブラリ」の活動を見ていて興味深く思うのは、山本さんと同じ30〜40代で、将来的に親の介護を見据えている「介護超初心者」へ向けての情報発信に積極的であること。講師として呼ばれるセミナーも、30代向けのものが多いそうです。

最初は、「30代のイベントに私は必要ないでしょ」と思いました。ところが、意外とたくさん人が来て。

「自分は看護師だから知っているけど旦那さんが何も知らないから、考えるきっかけがほしい」という人や、「おばあちゃんの介護を見て大変そうだなと思い、自分が親を介護する前に少しは知っておきたい」という人が参加されます。

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セミナーでお話する山本さん

「介護の情報を発信する人」と聞き、実際に会うまで山本さんを年配の方だと想像する人が多いそうです。それほどに、介護業界においても、30〜40世代においても、彼女のよう人は貴重な存在。だからこそ山本さんは、自分にしかできない「若い人への発信」に注力しています。

一般的なセミナーは、「現在介護をしている人」へのものがほとんど。まだしていない人への発信をできるのは、私しかいないと思っています。

だから、難しい制度を説明するより、最低限の知識である「40歳になったら介護保険料を取られますよ」「実際こうなったら介護が始まりますよ」など、あまり難しくないお話をしています。

若い世代へ向けるからこそ、山本さんがいつも伝えるのが、「介護にならないためにはどうするか」ということ。「認知症になると徘徊をし、暴力をふるう」という誰もが持つイメージに対し、「必ずしもそうはならない」「そもそも認知症にならないためにはどういうことができるのか」ということを、自身の体験を反面教師にして話をします。

一緒に住んでいたのに、おばあちゃんが同じことを何回も言い、耳が遠くなって話が合わなくなってきたときに、「おばあちゃんに言ってもわからへんわ」とあきらめて距離を置いてしまったんですよね。それが、認知症にするのを早めたのだと思っていて、とても反省しているんです。

山本さんがあきらめて距離をとるようになった後、おばあさんはあるときから「あ、あ」としか話せなくなったそうです。いわゆる“おばあちゃん子”というわけではなかったという山本さんですが、「もうおばあちゃんとしゃべれない」ことに大きなショックを受けます。

そのときから、山本さんはおばあさんに毎日話しかけるようになったそうです。

ある日、いつものように部屋に行って「おばあちゃん、今まで生きてて楽しかった?」と話しかけたんです。おばあちゃんは「あ、あ、」と言うてるんですけど、しつこく「なあなあ、人生楽しかった?90年生きてて楽しかった?」って。

すると、突然おばあちゃんが大きな声で、「『人生楽しかった?』って、もう、わたしの人生終わりみたいに言わんといて!」って言ったんですよ。びっくりしました。(笑)

それをきっかけに、おばあちゃんはまた話せるようになったんです。「話しかけることがこんなにプラスになるのなら、認知症になる前からもっと話しかけていれば、もっと元気な老後やったわ」と気づいて。講演では、私の体験を紹介して「自分の親にもずっと話しかけることが大事ですよ」ということを必ずお話します。

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介護当時の山本さんとおばあさん。おばあさんが言葉を失ってからは、毎日話しかけるようになりました。

ほかにも、山本さんは「耳が遠くなった人への話しかけ方」など、若い世代が今のうちからできる小さな工夫をたくさん紹介しています。ある日突然始まり、どんどん重くなっていくのが今の介護に多いパターン。「介護になる前の今だからできること=介護になることを予防すること」を実践すれば、後に悪化したとしても、納得して介護生活を始められるからです。

もっともっと介護のことを噛み砕き、少しでも明るいものに。

2015年に出産し、育児中心の生活になったことで、ワークライフバランスが大きく変わった山本さん。多忙を極める中でも、今後の活動については、「いろんなことを少しずつやっていきたい」と、発展を描いています。

私は、事業者さんともご家族さんともよくお話をするという、介護業界で異色の立場です。介護をしている人、これから介護をする人に対しては、入り口のところでできるだけ丁寧にやさしく不安を取り除くようにしたいし、事業者さんに対しては、事業者さん自らが情報をもっと広く出していくことをお手伝いできたら、と思っています。

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現在は、自宅で子育てをしながら「介護ライブラリ」の更新をしています。

最近では、山本さんのもとに、デイサービスなどの事業者から「ホームページをつくってほしい」という依頼が来るように。

「各事業者がホームページを持っていれば、『介護ライブラリ』のデータベースは必要なくなると思っています」と話す山本さん。今後は、ホームページや広告などPRのノウハウを持たない事業者に対し、お手伝いもしていく予定です。

さらに、「セミナーにももっと力を入れたい」とも。「介護ライブラリ」の精力的な活動すべてにつながるのは、「介護を少しでも明るいものにしたい」という山本さんの思いです。

もっともっと介護のことを噛み砕いていかなくては、と思っています。「介護はつらい、苦しい」というイメージがありますが、例えばデイサービスの現場には、「ここが大好きで、ここに来るのが楽しいねん」っていう人がいっぱいいて、その人たちはすごく明るいんです。そういう人がもっと増えれば、ちょっとは介護が明るくなると思うんですよね。

20〜30代の若さで、おばあさんの介護生活、介護士の職業という、二つの立場を経験した山本さん。この経験があるからこそ、それぞれの立場に寄り添いながら、「介護のイメージを変えることができる」という確信を持って活動ができるのかもしれません。

近い将来、確実にやってくる超高齢化社会。「いつかしなければならない憂鬱な介護」ではなく、「今からできる明るい介護の準備」と、前向きに捉えることもできるのです。「介護なんてまだまだ先のこと」と思っている人も、「介護ライブラリ」のサイトや山本さんのセミナーで、「今だからできること」を学んでみてはいかがでしょう。