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地域に呼び込め “ヘンタイ人材”! 福岡県上毛町 西塔大海さん、福島県西会津町 矢部佳宏さんと考える、人と地域をつなげるシカケ「LOCAL SUNDAY#1」

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写真撮影: 服部希代野

地域づくりに貢献できるような仕事がしたい。地方の町や村に移住したい。だけど、何から始めたら良いか、きっかけがつかめず、毎日の仕事に追われてしまう…そんな悩みを持つ方も少なくないのではないでしょうか。

新しい挑戦の後押しとなるのは、やはり人の縁。実際に暮らし、働いている人の話を聞いてみれば、まだ行ったことがない地域でも、ぐっと身近に感じられるかもしれません。

地域で活動する人とつながれば、離れていても貢献できる仕事を見つけたり、移住を検討する前にお試し滞在をしてみたりと、さまざまなきっかけも生まれるはず。

今回ご紹介する「LOCAL SUNDAY」は、そんな、地域と人、地域と地域のつながりを育んでいくことを目指したイベントです。

グリーンズと、Googleの「イノベーション東北」が合同で開催するこのイベントは、週末、休日の午前からランチタイムにかけて、地域で活躍するプレーヤーをお招きしてお話を伺い、地域の食材でつくられた料理を食べながら、みんなでゆっくりと語らう企画です。

この記事では、2015年8月30日に開催された、第1回のイベントレポートをお届けします。

ゲストは、福岡県の上毛町(こうげまち)で、「みらいのシカケ」と銘打ったさまざまな移住政策をしかける西塔大海(さいとう・もとみ)さんと、福島県の西会津町で「西会津国際芸術村」を運営する矢部佳宏(やべ・よしひろ)さんです。

東北の復興はハードからソフトへ
地域と地域で学び合う、イノベーション東北「みんなで地域プロジェクト」

「LOCAL SUNDAY」の会場は、東京都中央区、水天宮前駅にあるシェアオフィス、「small design center」です。日曜日の午前にもかかわらず、当日は満員御礼。約50名の方が会場に集いました。
 
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「LOCAL SUNDAY」の企画趣旨を説明する、グリーンズ理事の小野裕之(前方右)と、共同ホストであるGoogle「イノベーション東北」の松岡朝美さん(前方中央)。 写真撮影: 服部希代野

「LOCAL SUNDAY」の共同ホストとなるGoogleの「イノベーション東北」は、震災を機に東北で新たな地域プロジェクトに取り組む人と、そのプロジェクトを応援したい人とをつなぐ、マッチングプラットフォームです。

東北で活動する人たちを応援したくとも、継続的に通ったり、移住や転職をするのはなかなか難しいという人が数多くいるなか、インターネットの力を使って、距離を越えてたくさんの人が東北を応援することができるようにする仕組みです。

2013年にはじまったこのプラットフォームは、2015年9月末現在で、350名以上の東北で活躍する事業者や地域の仕掛け人や、1,700名以上の東北を支援したいユーザーが登録、400を超える“チャレンジ”(地域プロジェクト)が登録され、1,000件以上のマッチングが成立するまでの広がりを見せています。

自分の専門技能や知識を活かした継続的な「プロボノサポート」と、新たな募集や提案に対してアイデアを出したり投票を行う「ワンタイムサポート」の2種類の関わり方を選ぶことができます。

そんなイノベーション東北が新たに始めたプロジェクトが、東北の地域と、東北外の地域をつなげて協働する、「みんなで地域プロジェクト」です。まだまだ地域によって差はあるものの、震災から4年半が経過して、ハード面での復旧はずいぶんと進んできました。今後の東北の復興においては、新たな産業の創出、コミュニティの醸成、地域独自の魅力の発信など、より一層ソフト面での発展が重要になってきます。

東北外の地域の先進事例を吸収すること、逆に震災後の4年間で東北地方が生み出した知見や事例を発信すること。東北内外の地域を結び、それぞれの地域が持つ課題やその解決策をシェアすることで、日本の地方が新たなステージへと進む後押しができるのではないかと考え、「みんなで地域プロジェクト」は始まりました。

今まで岩手県の陸前高田市と岡山県の西粟倉村、宮城県の女川町と島根県の海士町など、複数の地域のマッチングが成立していますが、今回のゲストである西塔さんの住む福岡県の上毛町と、矢部さんの住む福島県の西会津町もそのひとつ。

今回は、民間企業単位ではなく町の自治体単位でマッチングが行われました。西塔さんと矢部さんには、おふたりの活動と地域の魅力をお話いただきました。

美しい景観と、それを守る人々の多様な地域活動
上毛町と西会津町の共通点と、未来の展望を探る

一人目のゲストトークは西塔さん。人口8,000人弱の上毛町への移住のきっかけと、人のつながりを生み出す仕組みをご紹介いただきました。
 
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写真撮影: 服部希代野

西塔大海さん(田舎暮らし研究サロン 用務員 / 「みらいのシカケ」編集者)
1984年山形生まれ。東京大学大学院卒(科学修士)。不登校、ニート,フリーター、バックパッカーを経て大学進学。大学院卒業後の2013年に福岡県上毛町(こうげまち)へ移住し、地域おこし協力隊となる。移住政策「みらいのシカケ」を担当。古民家をDIYでリノベーションする教育プログラム「上毛デザインビルド」や、大学生フィールドワーク企画などに関わる。田舎暮らし研究サロン「ミラノシカ」の用務員。
「みらいのシカケ」 https://www.facebook.com/miranoshika

もともとは大学で素粒子物理学を専攻し、カリフォルニアに留学するなどバリバリの“理系”研究者だった西塔さん。地域の活動に飛び込むきっかけは、東日本大震災でした。カリフォルニア留学時代の友人が地元の気仙沼に帰省中に震災が発生。彼の家族やふるさとの人々を助けるために、西塔さんも一緒に震災発生10日後に気仙沼に飛び込みます。
 
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被災直後の気仙沼の様子

被災直後の緊急支援活動を行いながらも、ボランティアが支援するだけではなく、地元の人たちの雇用を通じた復興が重要であると考え、「気仙沼復興協会」を設立し、のべ350人以上の地元雇用を生み出しました。その後、「気仙沼復興協会」は役割を果たして事業規模を縮小しましたが、この活動がきっかけで、西塔さんは全国各地でローカルな活動をするたくさんの魅力的な人たちと出会います。

「素粒子物理学もいいけど、地域づくりも面白いじゃないか」。そう感じた西塔さんは、パートナーとの結婚をきっかけに、2012年頃から地方への移住を検討します。そこで訪ねた上毛町の美しい景観に一目惚れ。なんとその場で移住を決意!

町長に直接相談し、半年後の2013年には「地域おこし協力隊」の枠組みを使って上毛町に移住しました。
 
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西塔さん夫妻が一目惚れした上毛町の美しい里山。ここは福岡県上毛町の東上地区にある「田舎暮らし研究サロン ミラノシカ」の前からの風景 写真撮影:久岡健一

美しい里山風景に加え、上毛町のもうひとつの魅力は、地域活動が非常に盛んであること。地元の方たちを中心としたボランティア団体がなんと40以上あり、600人近くが参加しているとのことです。

また、そうしたさまざまな地域づくり活動を横につなげる“キーパーソン”や、町の制度を柔軟に活用してサポートしてくれる“スーパー公務員”の存在が、地域の活性化を後押ししているそうです。

そんな上毛町における西塔さんの役割は、上毛町に興味を持つ”ヘンタイ人材”を町の外から連れてきて移住を促進すること。

自分の仕事を持ち込んで、上毛町の空き家に短期間”お試し居住”させてもらえる「上毛町ワーキングステイ」という仕組みをつくったり、使われていない魅力的な不動産を紹介する「しばいぬ物件案内」を立ち上げたり、建築系の学生を招いて空き家をリノベーションし、「田舎ぐらし研究サロン ミラノシカ」という交流スペースを運営したり……上毛町での暮らしと仕事に触れる様々な枠組みを生み出しています。
 
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空き家に短期間“お試し移住”しながら働く「上毛町ワーキングステイ」。これがきっかけで移住者も。

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建築学科の大学生向けに、古民家リノベーションの教育プログラムを実施「上毛デザインビルド」

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リノベーションによって生まれた地域交流センター「ミラノシカ」。年間のべ1,200人以上の来訪者が。 写真撮影:コヤナギ ユウ

こうした様々な活動の募集情報や実施記録は、「みらいのシカケ」というウェブサイトで見ることができます。今後も引き続き、上毛町を盛り上げる新たな“ヘンタイ人材”を募集中とのことでした。

続いてのゲストトークは、会津地方の奥地、人口7,000人弱の福島県西会津町に暮らす矢部さんから。「西会津国際芸術村」という文化交流施設を紹介しながら、西会津の景観と暮らしの未来を描いていただきました。
 
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写真撮影: 服部希代野

矢部佳宏さん(西会津国際芸術村)
1978年西会津町生まれ。
西会津国際芸術村コーディネーター(株式会社西会津町振興公社所属)。
長岡造形大学で持続可能な集落風景デザインについて研究した後、上山良子ランドスケープデザイン研究所で公園や緑地の計画・設計などを担当。その後、カナダ・上海などで庭のデザインや都市計画に携わっていたが、震災を機に生涯の研究テーマであった西会津の先祖伝来の地に移住を決意。約360年続く山奥の小さな農家の19代目として土地と古民家を継承しながら、ランドスケープ・デザインのプロセス思考を地域に役立てるべく、西会津国際芸術村を拠点に様々な活動を展開している。

矢部さんは西塔さんと異なり、もともと西会津町の生まれです。ランドスケープ・デザイン(景観設計)を専門とし、デザイン事務所で公園や緑地の計画・設計の仕事に携わり、カナダや上海などの海外での留学や仕事も経験しました。

しかしその一方、地元で19代続く農家の子どもとして生まれた矢部さんの頭の中には、ふるさと西会津の持続可能な集落風景デザインはどうあるべきかというテーマが常にありました。
 
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矢部さんの自宅前からの眺め、西会津町の美しい棚田の風景 写真撮影 矢部佳宏

そんな矢部さんが西会津で手がけることとなったのが、「西会津国際芸術村」です。「西会津国際芸術村」は、廃校となった中学校の木造校舎を活用した文化交流施設で、アーティストが滞在して創作活動や作品展示・発表を行えるアーティスト・イン・レジデンスの受け入れや、演劇やコンサート、子ども向けのワークショップなどを企画運営し、アートと地域をつなげる拠点となっています。
 
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アートと地域をつなげる文化交流施設、「西会津国際芸術村」 写真撮影 小堀晴野

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子どもたちが文化芸術にふれるワークショップもさかん 写真撮影 小堀晴野

こうした活動の中で矢部さんが大切にしているのは、過去から現在への歴史の流れを意識しながら、未来に向かって、人と自然が調和する新たな環境文化を積み重ねていくこと。

自然そのものに精霊を見出す“アニミズム”が根付いていた古来の日本では、自然と人間が共生し、また人間も自分の精神の内側に自然のリズムを持っていましたが、産業革命以後、人間社会と自然は分断されていきました。現在、求められているのは、自然と人間の距離を再び近づける環境文化をつくっていくことではないかと、矢部さんは語ります。

上毛町と西会津町、地域は違えど、美しい景観があり、それを大切に守り育んでいこうとする人々の、地域に根ざした活動が盛んであるという点は、共通しているように思えます。

矢部さん 農業などのそれぞれの家業ではなく、集落全体を維持するために行う共同作業(人足作業)を、僕は「出会い仕事」と勝手に呼んでいるのですが、田舎の村では、そうして自宅の外に出て行かなければならない作業があることで、住民同士に自然と接点が生まれ、コミュニティが運命共同体として維持されていたんですね。

西塔さん 僕たちより少し上の世代では、そうした村社会の関係を“しがらみ”と呼んで嫌い、若い人たちの多くが都会に流出していきました。今はその逆で、こうして僕のように移住してきた人にとっては、こうした共同作業こそが、もともと住んでいた人たちとのつながりをつくるチャンスなんですよ。

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田舎の村では、外での共同作業こそが移住者にとってつながりをつくるチャンスだと語る西塔さん 写真撮影: 服部希代野

西塔さん 昔の村落における共同作業は茅葺屋根の葺き替え作業だったりしたのが、今は古民家のリノベーションだったり、鹿や猪避けの防護網の設置だったりと形を変えていますが、これも現代流の「出会い仕事」だと思うんです。

矢部さん 昔ながらの百姓仕事を生業として続けてこられたおじいさん・おばあさんたちも、5年、10年と経つにつれてだんだんといなくなっていくわけです。

里山の景観を今後も維持していくためには、こうした共同作業や地域のつながりを、現代に合わせてデザインし直して地域と関わってくれる人を呼び込んだり、移住してきた人たちが食べていけるだけの仕事を発掘・創造していく必要がありますね。

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美しい景観を維持するためには、それを支えるコミュニティと共同作業を、現代の文脈に合わせてデザインし直す必要があると語る西塔さん(右)と矢部さん(左) 写真撮影: 服部希代野

自分ごとで、今、私ができることを
上毛町と西会津町を盛り上げるアイデアセッション

おふたりのゲストトークの後は、参加者によるアイデアセッションです。自分ならどんなことができるか、どんなことがやりたいかをグループをつくって語り合い、ゲストのおふたりに提案します。

ここで西塔さん、矢部さんから挙げられた地域の課題は、仕事や活動の種に対して、慢性的な人材不足であるということ、地域の外の人たちでも関わり続けられる仕組みをどうやって増やしていくかということでした。

参加者のみなさんは、さっそくグループをつくって話し合い……と、その前に、「PEACE DELI」の新納平太さんによるケータリングランチのご提供です。地域とのつながりをぐっと近づける、上毛町と西会津町の食材をふんだんに使ったメニューです。
 
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西会津町からはしいたけや車麩、新鮮なきゅうりやトマト。上毛町からは柚子胡椒やカボスやあまおうなど、各地域の特産品や新鮮な野菜・くだものを取り入れたハンバーガーやお惣菜など、体とこころに優しいランチ。 写真撮影: 服部希代野

また、グループでの話し合いに入る際には、グリーンズ小野から「LOCAL SUNDAY」の3つの約束ごとをお伝えしました。1つ目は、自分を主語にして話すこと。2つ目は、それぞれの考えの違いを楽しむこと。3つ目は、今ここで感じたことを大切にすることです。

参加者のみなさんは、両手にランチを持ちながら、楽しく、そして熱くアイデアを交わしていました。
 
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違いを楽しみながら、自分ごとで、今この瞬間に感じたことを。美味しいランチも相まって、会話が弾みます。 写真撮影: 服部希代野

グループワークのあとは、ハーヴェスト(収穫)の時間。会場を半分に分けて、西塔さんと矢部さんにアイデアを直接ぶつけます。
 
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ひとりずつ順番にアイデアを提案。それぞれの持つ専門性やつながりを活かしたユニークな提案がたくさん。 写真撮影: 服部希代野

ゆく先々で上毛町と西会津町を宣伝する、 “勝手に地域伝道師”、都会での仕事に疲れたエンジニアを連れての“デジタルデトックス”の旅、自分が所属するビジネススクールにゲストを講師として招き、セミナーを通じてヘンタイ人材を捕まえるという作戦、上毛町の“毛”の字にちなんだ「毛に感謝する日」の制定とイベント企画などなど……出てきた提案は、それぞれの興味関心や持ち味を活かした多様なアイデアばかり。ゲストのおふたりも身を乗り出して聞き入ります。

西塔さん 東京でイベントに呼ばれていくと、どこか浮世離れしていたりとか実現可能性が低い企画を提案されることも正直少なくないのですが、「自分ごと」というのをキーワードにしたおかげで、一人ひとりのアイデアの熱量も密度も段違いで、とても参考になりました。

矢部さん 自分でメディアや場を運営されていて、そこで宣伝しますというのもとてもありがたいですし、「祭りの運営手伝います」など、こちらに飛び込んで来てくれる人もとても嬉しいですね。一人ひとりがご自分にできること、やりたいことをベースに提案してくださっているので、本当に協力お願いしてみたいなと思います。

西塔さんと矢部さんも、「実際にやってみたい」と思うような提案も生まれ、イベント終了後も会場では連絡先交換やディスカッションが続くなど、大盛況のうちに第1回の「LOCAL SUNDAY」は幕を閉じました。

次回の「LOCAL SUNDAY」は、10月25日に開催予定です。ゲストは、岩手県より、いわてアートプロジェクト2016の杉田靖子さん。茨城県取手より、取手アートプロジェクトの北澤潤さんにお越しいただき、現在の活動や今後チャレンジしたい課題を伺います。

人と人、地域と人が自分ごとでつながる「LOCAL SUNDAY」。日曜の朝に、新しいきっかけを探しにきませんか。

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