「地元がもっと面白くなったらいいのになあ!」そう思ったことはありませんか?
近年、日本各地で“まちづくり”が盛んになり、「自分たちの暮らす土地をみんなで楽しく盛り上げたい」という思いを持つ人々が増えています。でも、「どうやって?」という手段についてはまだまだ模索状態という人も少なくないようです。
ひとりで考えていてもなかなか答えは見つかりにくいもの。そこで、ぜひご紹介したいのが、長野県各地で開催されている「まちの教室」。分野を問わず“人とまちを結ぶ”という観点で意欲的に活動を展開している人たちを先生役として、具体的なプロセスを教えてもらい地域の皆で学んで活かそうという取り組みです。
これまで数々の企画を開催してきた「まちの教室」ディレクター瀧内貫さんへのインタビューを通して、地域をもっと面白くする思考のヒントをお裾分けしてもらいましょう。
1978年大阪生まれ、長野育ち。デザイン事務所である株式会社コト社代表取締役、一般社団法人ヤルダ兄弟舎理事/ディレクター、まちの教室(2015年NPO法人化予定)ディレクター。グラフィックデザインだけでなく、プロジェクトマネジメントやコミュニティデザインの領域へ活動の幅を広げている。http://ta9chi.jp
長野で展開される「まちの教室」とは?
「まちの教室」とは、長野で展開されている学びをテーマにした新しい地域のコミュニティです。学ぶことを通じて人が集まり、ひとりひとりが持つ価値観をゆるやかに交換して、その中から働き方や暮らし方のヒントを見つけていく、そういった“きっかけの場”になることを目指しています。
大人も子どもも関係なく、学びたいと思う人は誰でも第四土曜に開催される授業に参加することができます。その名の通り、まちのあちこちを教室にして授業が行われます。
学びのテーマは、食や教育・働き方など“暮らしそのもの”のこと、自然や文化・地域など“暮らしのまわり”のことなど、その土地の暮らしにとって大切なモノやコトについて。同日に複数名の先生を迎え、1限目・2限目・3限目と順を追って開催されます。
授業の種類は大きく分けて3つあります。土地の垣根を越えて先生を迎える「日本全国で活躍する方を呼ぶ授業」と、開催地に根付いた活動を展開している先生の「地域のことを学び直す授業」、そして親子で気軽に参加できる「子どもと一緒に学ぶ授業」です。
2014年10月25日に開催された「ダンボールでつくる 小諸未来まち」という授業。地域教育を通じて、生まれたまちを愛せる環境を築いていきたいという想いから、子どもと一緒に学ぶ授業を設けています。
どの授業も単に先生の話を聞くだけではなく「能動的な体験」を重視。参加者全員で行うワークショップなどが織り交ぜられているのがポイントです。
集まってくるのは、授業のテーマに興味や問題意識を持つ人たち。学びながらそれぞれの意見を交わすうちに、偶然同じ考えを持った人に出逢ったり、ひとりでは見つからなかった新しい視点を得たりしながら、ゆるやかにつながり、コミュニティが生まれていきます。
授業のワークショップ時間の様子。いくつかの小さなチームに分かれ、みんなが意見を持ち寄って交換することで、新たなアイデアを皆で見つけていきます。
写真:kengo nakamura
「まちの教室」のはじまり
はじまりは、長野市篠ノ井にある元銀行の空きビルの活用問題でした。
2012年、土地の持ち主である地元企業さんが、空きビルの今後の活用方法について悩んでいました。ほぼ同時期に、老朽化で地元小学校の体育館が取り壊されることが決まり、せっかくならその床材を受け継いで何かできればという話が持ちあがっていました。
そこで「学ぶことをテーマにした企画をしませんか?」と提案したのが瀧内さん。体育館の床材を受け継ぐということは、その小学校で学び育ったまちの人たちの記憶を受け継ぐということ。そんな大切なバトンをもらうなら、今度は子どもも大人も関係なく、まちの誰もが学べる機会が生めたらと、企画を提案したのです。
「まちの教室」誕生の原点。かつて銀行だったことが感じられる大きな二重のガラス張りの玄関。よく見るとバスケットボールのコートが描かれた元体育館床。
写真:kengo nakamura
“学びを受け継ぐ”という企画はやがて、まち全体を教室に誰もが学べる「まちの教室」というアイデアに発展。社会人や大学生など賛同者が集まり「しののい まちの教室」というプロジェクトとして動きはじめました。
元銀行ビルは、かつてその敷地内に銭湯があったこと・吹奏楽で出逢った夫婦が経営することから「Orche(オケ)」と名付けられ、「まちの教室」だけでなく、様々なイベントを定期的に開催しながら、暮らしの雑貨や古家具を扱う店として、まちの人々が集い行き交う場所となっていきました。
その後、「まちの教室」の“教室”になったのはりんご園やお寺や神社など、「こんなところも教室になるの?」と驚いてワクワするような場所ばかり。2013年から半年に渡って全12授業が実施されました。
2014年からは、さらに開催地を篠ノ井から長野県内に広げ、塩尻、小諸、諏訪の他、小布施、松本、伊那と各地で展開するまでになりました。
2015年8月4日に開催された授業「本のある場所は、知るわくわくがある」。湖のほとりにある森の中、様々なジャンルの本を外へ持ち出して、図書館長と一緒に本について考えました。
写真:shiho furumaya
2015年8月22日に開催された「下諏訪町の“可能性”を考える」。地元の古民家を改装した、若き女性オーナーが運営するマスヤゲストハウスが教室となりました。
写真:shiho furumaya
年齢も職業も超えてフラットに学び合える環境を
ひとつの場所に対する提案をきっかけに、場所という箱の概念をあえて取っ払って「みんなで学ぶ場をつくる」という箱の中身を見つめはじめた瀧内さんは、その後も「まちの教室」の企画運営を中心になって続けています。
立ち上げから3年目を迎え「みんなで場をつくることの面白さを改めて感じている」という瀧内さん。そこには、地域をもっと面白くする思考のヒントがありそうです。
自分ひとりでやりたいことを思ったようにかたちにするのは、回数を重ねれば案外簡単なこと。それは想定内のできごとなんです。でも、それだけではつまらない。
自分以外の誰かと一緒につくることで、予想できなかったことが起きはじめる。まちのあちこちを教室にすることで、なおさら想定できないことが生まれる可能性が高まる。それが面白い。
各授業内容に対して「学びたい!」という人たちが集まり、年齢も職業も違うのに誰もが学生になって、フラットに意見を交換していきます。さらに、同じ日に開催される授業は大枠のテーマは共通でも、それぞれ異なる先生が異なる場所で開催します。
また、毎回異なる「授業コーディネーター」という担当者を置いていることもポイント。授業コーディネーターに、大枠のテーマと目指すイメージを伝え、その人自身が興味のある人を先生として呼んでもらい、運営メンバーがサポートしながら当日の授業進行をゆだねるというスタイルをとっています。
授業コーディネーターという役割があることで、自分たちが面白いと感じている人にとっての面白い人に出逢える。興味の連鎖で世界観が広がる、この感覚が楽しくて「まちの教室」を続けています。
多種多様な掛け算が、想像を超えた広がりをもたらす可能性をどんどん上げる、それが瀧内さんの感じている「面白さ」なのです。
能動的な体験の場を設け、ひとりひとりを主人公に
フラットに学び合える環境づくりのために重要な鍵となっているのは、ワークショップなどの「能動的な体験」を織り交ぜていること。個々が考えて発信する機会があることで参加者の主体性が増し、ひとりひとりが主人公となっていくのです。
瀧内さんは、参加者に対してだけでなく、一緒に運営するメンバーに対しても、フラットな関係性を大事にしています。現在運営メンバーは主に20代前半の若者が多く、地域ごとのメンバーも合わせると全体で50名弱になるそう。授業ごと各自に役割を託し、主体性を重んじています。
なるべく本人のやりたいように楽しんでやりきってほしい。自分自身の貢献度を実感できる機会が多いほど、楽しんで取り組めるものだし、やる気になっていくものだと思うんです。みんなで運営することで思いも寄らない展開が巻き起こるのも、なおさら楽しいこと。
本当にピンチな時やアドバイスを求められたときはいつでもサポートできるように、アイデアを準備しています。信頼関係を築くために、相手より一歩先の打ち手を10倍の速さで閃く瞬発力が大事だと思っていて。そんな良い緊張感をみんなからもらっています。
「下諏訪町の“可能性”を考える」の授業終了後の集合写真。みんなが主人公となることで、参加者も運営者も活き活きとしていた、あっという間の2時間でした。
写真:shiho furumaya
組織運営について書かれたビジネス本などでもしばしば紹介される「ひとを育てるために裁量権を与えて仕事を任せる」という手法。しかし、これほどまでに楽しみながら実践している人は、なかなかいないのではないでしょうか。
自分の思考と向き合い、深く生きることの大切さ
「まちの教室」を介して、瀧内さんが贈りたいメッセージは“深く生きる”ということ。ひとりひとりが自分にとって本当にありたい暮らしを選択するために、自分の思考に向き合って深く考えるきっかけの場を届けたい、そんな想いが込められています。
暮らしのなかには、仕事や教育など様々な選択するシーンが訪れますよね。その時、誰もが自然に深く考えて選択するようになっていければと思うんです。
たくさんある選択肢のなかで、自分にとって何が本当に必要なのか。本質的な選択がある暮らし、そういう積み重ねがきっと世の中を少しずつ変えていく気がしています。そのきっかけを「まちの教室」で届けられたらなって。
なぜ、瀧内さんは、これほどまでに“深く生きる”ということを意識するようになったのでしょうか。そのきっかけのひとつとなったのが28歳の会社独立のとき。自分の思考にうまく向き合えず苦戦するという壁にぶつかったことがありました。壁を乗り越えた時の経験が今の想いに結びついているようです。
独立という新しい選択。その選択をするときに「自分は何がしたいのか」という想いを言葉にしようとしました。でもなかなかうまく表現できなくて。
多くの時間をかけてようやく言葉に紡ぎ出したとき、想像以上の嬉しい反応をいただいたんです。周囲の人たちが賛同して動いてくれて、なかにはその選択を一緒に喜んでくださる人もいました。
自分の本質的な想いを捉えるのは、きっとそんなに容易なことじゃない。でも、逃げずに向き合えば、ちゃんとそばにいてくれる人たちがいて、はじまるものがある。
もし、あなたが「地元がもっと面白くなったらいいのになあ!」と思うことがあれば、多くの情報を見て聞いて吸収するだけでなく、そのうえで「自分は何がしたいのだろう?」と本音に向き合って思考する時間をたっぷりとってみてはいかがでしょうか。
ひとりひとりのありたい暮らしの選択が、地元をもっと面白くしていくはずです。
ぜひ「まちの教室」で、思考の糸口を皆で学び、楽しい未来の宿題を持ち帰りましょう。それから、うんと考えて、自分のなかの答えに巡り合えたら、人差し指を高くあげて。
一緒に楽しみたい人、この指とまれ!
– INFORMATION –
10/24(土)・11/28(土)開催 「まちの教室」に行ってみよう!
10/24
『まちづくり体験型カードゲーム、
ザ・クリエイティブセンターをやってみよう!』
10/24
『禅を知れば、対話はもっと深くなる
「はじめてのゼンローグ」』