女川町と海士町の「みんなで地域プロジェクト」
東日本大震災が発生して4年と6ヶ月。発生直後にはさまざまなボランティアをしたり、救援物資を送ったという人も多かったのではないでしょうか。
グーグルも震災直後から、災害対応や復興支援を始め、2013年5月には、中長期的に主に被災地の事業者を支援するプロジェクト「イノベーション東北」を立ち上げました。
そしてその「イノベーション東北」が、今さらに参加しやすく、また東北以外の地域とも連携するプログラムへと生まれ変わろうとしています。グーグルが提案する新しい地域貢献の形とはどのようなものなのでしょうか。
「イノベーション東北」とは
「イノベーション東北」は、被災地の事業者の新たな挑戦を、日本全国の色んな人の知恵やスキルとつなぐことで実現をサポートする「クラウドマッチングプラットフォーム」です。
被災地の事業者が達成したいことを「チャレンジ」としてウェブサイトに掲載し、その達成のために必要なスキルやアイディアを持つ人をサポーターとして募集する仕組みです。
「力を貸したい」人は「サポーター」としてサイトに登録、自分が持つスキルで貢献できる「チャレンジ」があればそれに応募し、被災地の事業者と一緒にプロジェクトを進めていきます。
例えば、福島市内の若手事業者たちが集まって始めた「LIFEKU(ライフク)」は、「協力共存しながら、福島のセンスとスタイルを伝たい」という目標を実現するために、当初、紙地図でつくっていた「フクシマナビ」を、アプリとして提供するアイディアを思いつきます。
さっそくアプリ開発を「チャレンジ」として「イノベーション東北」に掲載、Webディレクターの木村さん、Webデザイナーの林さん、エンジニアの布田さんとPiyonさんの4人がサポーターとしてこのチャレンジに参加し、今年8月にアプリ「CO-FUKU」が完成しました。現在AppStoreにアプリを申請中です。
この「CO-FUKU」は、「LIFEKU」のメンバーが、福島を訪れた人にお勧めしたいショップや場所をまとめた地図「フクシマナビ」に、アプリだからこそできる情報を随時更新し、かつ、シェアできる機能を追加しました。
「LIFEKU」メンバーは、随時お勧めスポットを追加でき、福島を訪れた人にアプリを通して「その人に合わせた観光コース」を紹介することもできます。訪れた人は観光後に、そのコースをSNSでシェアすることで、より多くの方に自分の体験や福島の良さを広めることができます。
地域と関わって得られたことって?
このプロジェクトにWebデザイナーとして参加した林洋介さんに、実際に作業がどのように進み、どんな成果が得られたのかお聞きしました。林さんは、このプロジェクトを知人から紹介され、「アプリの要件を聞いて、自分に合いそうだった」「地図を使ったアプリにも興味があった」という理由で参加したそうです。
サポートメンバーがみな関東在住だったこともあり、メンバー同士で何度か実際に会って、「LIFEKU」のメンバーとはハングアウトでビデオ会議をして内容を詰めていきました。そして実際にプロジェクトが始まってみると、思わぬ収穫があったといいます。
林さん みんなで話し合ううちに、内容が変わっていったのも面白かったし、その場所に行かないと情報が取得できないという、普通の仕事ではできないようなニッチなアプリの仕様になり、自分たちがいいと思うものを思いっきりつくり込めたのは良かったです。
「LIFEKU」の方々の仕事に対する姿勢や、地域との関わり方に接したことも刺激になりました。
「LIFEKU」とそのサポーター
ただ、プロボノということで、普段の仕事をしながらやらなければならない苦労もあったようで「忙しいと、仕事と比べて優先度が下がってしまうこともあって、開発が予定よりも遅れてしまった」そう。
それでも、
林さん 形になった今考えると、やってよかったと思う。開発メンバーとのいい出会いがあり、その後の仕事に広がりができました。思わぬところで共通の知り合いがいて、新たなつながりを発見できたりと、いろいろ良いこともありましたね。
やる前には、それがわからないから躊躇するかもしれないけれど、やってみたら何かが変わってくるはず。
と参加を勧めていただきました。
「ワンタイムサポート」と「みんなで地域プロジェクト」
被災地の事業者と一緒にひとつのものをつくり上げるという作業は、人との出会いという意味でも、自分の技量が試されるチャレンジと言う意味でも、サポーターにとっても非常に意味があるものです。
そしてそれは、対価としてお金を得ないけれど、もっと重要なものを得られるというプロボノの本質をまさに実現しているもののようにも思えます。
しかし、長期間にわたって多くの時間を割くことは、必ずしもサステナブルな支援方法ではないかもしれません。もっと、気軽に被災地関わるための仕組みを「イノベーション東北」は、より簡単に誰でもサポートをすることができる「ワンタイムサポート」という形で導入しました。
その第一弾として実施されたのが「小窓プロジェクト」です。
これは「福島の子どもたちの世界が広がる、100冊を選ぼう」というチャレンジで、サポーターに求められたのは、福島県双葉郡の中高生が自分の夢をみつけるための『小さな窓』となるような「おススメ本」を紹介することでした。
このチャレンジには、海外からも含め114人のサポーターが参加し、最終的に100冊を超える様々なジャンルの本が、福島の子どもたちのために推薦されました。
さらに、東北とそれ以外のエリアで先進的な取り組みをしている地域をマッチングし、共通のテーマで連携してそれぞれの課題を解決する「みんなで地域プロジェクト」もスタートしました。その最初の試みが、宮城県の女川町と島根県の海士町で行われています。
この2つの町は、ともに「都市にいながら地域の未来づくりに携わる」ことができる新しい社会モデルの構築を目指しています。
ワンタイムサポートでは、いずれも町づくりや、町の情報発信に携わることをテーマに、女川町は、女川町にやってほしいアイディアを募集する「アイデアの『たすき』プロジェクト」を、海士町は、海士の町を発信するために「みんなで海士フォトアルバムをつくりたい」というチャレンジを展開しています。
「人から人へつなぐアイデアの”たすき”。あなたのアイデアを女川の未来にたくしてみませんか?」
女川町のチャレンジ、「たすき」プロジェクトでは、街づくりや観光に関するアイデアなど、女川町にあったら良いな、と思うものをとにかくなんでも募集しています。
チャレンジオーナーの「NPO法人アスヘノキボウ」の小松洋介さんも「完成度の高いものではなく、ちょっとしたもので全然構いません。面白いアイデアは今後、町の中で取り組まれるかも?!」と説明するように、とにかくじゃんじゃん提案してくださいというスタンスです。
海士町のチャレンジは、島の広報活動のために海士町の写真を提供してくださいというもの。海士町に行ったことある人が撮影した自然や町並み、町の人たちの写真をウェブ上のフォトアルバムに集め、フリー素材として様々な用途に利用できるようにしたいというものです。
それによって「島の魅力を伝える際の、広げやすさが変わってくる」と、チャレンジオーナーの「株式会社巡の環」の信岡良亮さんは言います。
「士フォトプロジェクト:みんなで海士のフォトアルバムをつくりたい」
アイデアを出すだけだったり、持っている写真を提供するだけだったりと、ほんとうに簡単に参加でき、「ほんとうにそんなので役に立つのか?」とも思ってしまいそうですが、そんな小さな貢献がじつは重要な事だったりするのです。
6月19日には、小松さんと信岡さんを招いて、このような「アイデア募集」をリアルな場所でやってみようというイベント(アイデアソン)が行われました。その様子を紹介します。
女川町と海士町を盛り上げるアイデアソン
イベントは、六本木ヒルズのグーグル本社で行われました。内容は、トークセッションとワークショップ(アイデアソン)の二部構成。参加者は事前応募した約70人、女川町の「第二“超”役場」か海士町の「島の大使館」のどちらかに所属し、各自の名刺も用意されました。
トークセッションでは、モデレーターの松岡朝美さん(グーグル株式会社 防災・復興プロジェクトプログラムマネージャー)と、坂口修一郎さん(BAGN.Inc代表)から、「イノベーション東北」について簡単な説明が。
そして、アスヘノキボウの小松と巡の環の信岡さんを紹介、そして2人がそれぞれの町のことや、これからやろうとしていることを説明しました。
女川町は、豊富な魚種を誇る水産業の町。しかし、東日本大震災で町の7割が被災してしまいました。そこから仙台出身の小松さんのような外部の人たちも地域に入り、今まさに復興のまっただ中。今年3月には女川駅が再開され、駅前にはフューチャーセンターができ、商業エリアも今後続々とオープン予定です。
そんな女川町の魅力は「働く、暮らす、女川の未来に関わる、という3つを楽しみながらできること」と小松さんは言います。そして、女川の良さを知ってもらい、女川の未来に必要な事業を創業してくれる人を集めるために「創業支援ツアー」を開催したいという思いがあります。
小松洋介さん
一方の海士町は、島根県の隠岐諸島の島前三島という3つの島のひとつ中ノ島にある町で、人口は約2300人。
平成の大合併でも単独町制を選択し、「隠岐牛」のブランド化や、最新の凍結技術を利用した海産物の販売、町役場の職員が自ら給与カットを申し出るなど「自分たちのことは自分たちで考えよう」と、さまざまな施策に町をあげて取り組んできました。
海士町では、町の人たちの声を取りまとめて発信したり、都市部からの声を町の人たちに伝える地域コーディネーターが活躍し、それを担う人材も育っています。
しかし信岡さんは、それだけでは「彼らが地域と都市の板挟みになって大変」という感想を持ち、都市部にも地域コーディネーターを置き、コミュニケーションを円滑にすることで、より強固なコミュニティをつくりたいと考えるようになりました。そしてその拠点として「島の大使館」を都市部につくろうとしています。
信岡良亮さん
アイデア+マラソンを意味するアイデアソンでは、参加者が3〜5人ずつ、女川町の「観光推進1課」「地域交流2課」、海士町の「ピーアール1課」「コミュニティ2課」などに分かれ、それぞれの視点でどうやって課題を解決できるか、アイデアを出し合いました。
少しだけ課題をご紹介すると、女川町の観光促進課には「女川ツアーにどんな何か要素を加えたら面白くなるか」、地域交流課には「ツアーが終わった後、女川とのつながりが強くなる東京でのイベント」など。
海士町からは「ご近所さんみたいなイメージで、日常的に人が集まる場所をつくるアイデア」、ファンディング課が「カフェ実現のための資金5000万から1億くらいを集めるアイデア」など。
そして、参加者からは、「女川に行ってきた人と、これから女川に行きたい人、をつなげるカフェをつくる」、海士町の「人が集まる場所づくり」の課題に対して「島の大使館から入国証を発行する」などたくさんのアイデアが出ました。
小松さんも信岡さんも、これらを実現しようと本気で考えているそうです。たくさんの人にアイデアを出してもらうことは、それだけで様々な発見につながり、本当に価値のあるものだと実感させられました。
「きっかけ」としてのワンタイムサポート
「みんなの地域プロジェクト」ではもうひとつ、岩手県陸前高田市と岡山県西粟倉村との連携で生まれた「WoodLuck」プロジェクトも始まっています。
「WoodLuck」とは「木質バイオマスと、おいしいご飯のつどい」を意味し、山林資源を活かした「木質バイオマス」のそれぞれの地域にあった形について、美味しいご飯でも食べながら知恵を出し合いましょうという集いのこと。
「WoodLuck」という「マイクロ・ギャザリング」を重ねていくことで、木質バイオバスの現場の渦をみんなでつくっていくことを目指すものです。
現在は、サポーターの皆さんから寄せられた「WoodLuck」のロゴ案に対して、みんなでWoodLuck#1 のロゴを投票で決めよう! というチャレンジを実施中です。
ロゴの投票は小さなことに聞こえるかもしれませんし、女川や海士町のチャレンジにしても、それほど時間はかかりません。ただ、その時間だけでも、真剣にその地域のことを考えてくれることに意味があるのです。
「LIFEKU」サポーターの林さんも
長く関わるのは大変だけど、一緒にやっていく人との関係性も強まるので、興味があればぜひプロボノとして参加してほしい。
まずはワンタイムサポートから、その先に長く関わり続けるプロボノサポートへ、というグラデーションがうまくつけられればもっといいんだと思います。
と話してくれました。
「被災地を含め、いろいろな地域と関わりたい!」という思いをお持ちの方は、まずはアイデアを出すことから始めて、その面白さを感じることができたら、プロボノへの一歩を踏み出してみませんか?
– INFORMATION –
9/27(日)に開催! LOCAL SUNDAY #2 みんなで地域プロジェクト supported by greenz.jp x イノベーション東北
日時:2015年9月27日(日)10:00〜13:00
会場:small design center(東京都中央区日本橋箱崎町27-11-2F)
ゲスト:長谷川順一さん、宇田川裕喜さん
ホスト:松岡朝美さん、小野裕之
詳しくは、こちらへ!