みなさんは「緑があふれる街」と聞くと、どんな暮らしをイメージしますか?
仕事や学校で忙しい合間に、木々の芽吹きや色づきを見たり、木漏れ日に映し出される葉の色づきや見て、心が癒されたり。そんな瞬間を想像する方も多いのではないでしょうか?
反対に「緑がない街」をイメージしてみると、自然と断絶された暮らしをイメージできず、息ぐるしく感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
一方、緑は生活の一部であるものの、行政が管理していることがほとんど。私たちが緑を眺めるだけでなく、もっと距離を縮めていくことができれば、まちの健康や住民の心の健康を保つ木へのありがたみや誇りを感じられるようになるのではないでしょうか。
そこで今回は、「緑と人々の距離を縮めたい!」という思いで生まれた、“メールで木とお話ができるおとぎ話のような仕組み”について紹介していきましょう!
”ガーデンシティ”とも呼ばれ、緑豊かな街として住民に、そして世界中の人から愛されているオーストラリアの都市、メルボルン。
それもそのはず、なんとメルボルン中心部の80%の面積は、緑地が占めているのだとか! さらに約7万の木々が生息していて、その資産価値は約6.5億ドルと想定されており、メルボルンにおける緑の重要性が伺えます。(参照元)
モノクルの住みやすい都市2015で第4位に選ばれ、暮らしやすさが世界的に評価されています
しかしその一方、メルボルンはかつて10年以上も、大規模な干ばつ被害に苦しんだ時期がありました。そこで、行政は「Urban Forest Strategy」と称し、街の緑の保全・拡大の活動をスタート。その活動の一環として、2013年から街にある木々を管理するために、7万もの全ての木にIDとEメールアドレスを付与し、枯れている木などの状態を住民が報告できる仕組みがつくられたのです。
メルボルン地図上に木々の情報をウェブサイトで公開し、ここからメールが送れます
行政がメールアドレスを付与すると、彼らが想定していなかった反応が市民から返ってきました。なんと木の状態の報告ではなく、なんと市民が木に宛てた手紙が送られるようになったのです!
これまでに届いたメールは、木への感謝や日常の悩みをつづられたものなど、実に3000通以上。そこで行政は、木の代わりに返信を書き始めました。英語だけではなく、ドイツ語、ハンガリー語、スペイン語、中国語、ゲイル語にも対応しているそうで、海外からのメールにもこたえています。
では、どんな手紙が送られたのか、ご紹介しましょう。
緑の葉のニレ宛(ID 1022165)
2015年5月29日緑の葉のニレ様
St. Maryでの生活が、気に入ってくれているとうれしいな、私もここでの生活が好きだから。今度テストがあって、本当は必死に勉強してなきゃいけないんだけど、あまりできてないの。あなたは木だから、テストなんてないよね。木だから共通点ないし、あまり話すこともないね。
でも、落ち込んだ時も楽しいときも一緒にいてくれる気がしてくれてうれしいよ。
Fより
2015年5月29日
こんにちは、Fさん
もちろん私はここでの暮らしが大好きです。
テストでいい成果が出せたといいな。ある研究によると自然は、人の学びにいい影響を与えるそうですよ。
私もFさんに何かいい影響を与えられていたらうれしいです。
緑の葉のニレ(ID 1022165)
このプロジェクトを指揮しているメルボルン市議会のArron Woodさん(以下、アロンさん)は予想外の反応に対して、このように話します。
思いがけないたくさんの好意的な反応をいただき大変驚いています。この反応はメルボルンの住民がどれだけ木々を愛しているかを象徴しているのではないでしょうか。
アロンさん
アロンさんは、2006年に「UN individual award」を受賞するなど、環境問題の活動家でメルボルンの美しい緑を築いている立役者の一人。
メルボルンは、2040年までに緑の占有率を2倍にする目標を掲げ、緑の保全とともに拡大をし、ヒートアイランド化を食い止めようとしているそう。今後もアロンさんを中心に、メルボルンがどのように緑豊かな街になっていくのか、期待して見守りたいですね。
普通であれば声を持たない木が、テクノロジーによって新たな命を吹き込まれ、話ができる。きっと試してみたくなった方も多いのではないでしょうか?
きっと、この反響は木々が住民に話してほしいことを求めるのではなく、「どんなことでも話していい」という気さくさや、何でも受け止めてくれる包容力が生んだのかもしれません。
自分で緑を育てるのは簡単ではないかもしれませんが、こんなきっかけを通じて「街の緑」ではなく「私たちの緑」として気にかけ、より街の緑や自然を意識するきっかけが日本でもできたらいいですね。
[via HELLO GIGGLES, The Atlantic]
(Text: 笹澤つかさ)
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