盛り上がる、たまプラーザ!
みなさんは、住んでいるまちのイベントに参加したことはありますか? “まちづくり”や“地域コミュニティ”と聞いても、自分には関係ないと思う方もいるかもしれません。
親の代から住んでいるわけでも、子どもが学校に通っているわけでもないとすると、まちとの接点は限られてしまうものです。
しかし、渋谷から電車で30分弱にある「たまプラーザ」駅周辺では、まちと人、人と人がどんどんつながりはじめているようです。そこではいったい、何が起こっているのでしょうか?
今回は、たまプラーザのまちを盛り上げる「たまプラー座だよ! 全員集合!」まちなかパフォーマンスプロジェクト代表・林月子さんに、その秘密を伺いました。
「たまプラー座だよ!全員集合!」まちなかパフォーマンスプロジェクト代表。横浜市青葉区のコミュニティラジオ(FMサルース)でパーソナリティも務める、1女2男の母。岐阜県出身、乙女座。
たまプラーザの駅前で、150人のパフォーマンス!
2013年11月。たまプラーザ駅前で、林さんが企画したフラッシュモブ「たまプラー座だよ! 全員集合!」が行われました。フラッシュモブとは、事前に参加者を募って、公共の場でゲリラ的にパフォーマンスを行うこと。
その様子はぜひ映像を見ていただきたいのですが、2本の縄を使って跳ぶダブルダッチをしながら、1歳の赤ちゃんから70歳を超えたお年寄りまで、およそ150人が街を盛り上げます。参加者の中には、学生やパフォーマーなど若い男性の姿も。
普段は通勤や通学のために、ただ通っているだけの駅前で、まちの人たちが一緒に踊ったら純粋に楽しい。参加した人にとって「駅前で踊った」という思い出が、財産になると思うんです。
もちろん、参加した人だけでなく見た人にとっても、「あそこでこんなことがあったよね」と、その場所を愛おしく思えるようになったらいいですね。
コミュニティに関わる活動は「かっこいいし、楽しいこと!」。いつのまにか、たまプラーザの街にそんな空気をつくりあげたこのイベントの誕生は、2012年にさかのぼります。
その年、横浜市と東急電鉄が進める「次世代郊外まちづくり」の第一号モデル地区に「たまプラーザ駅」北側地区が選ばれ、自分たちが暮らす地域の課題や将来について話し合うワークショップがはじまったのです。
ワークショップの様子
本人曰く”ただの主婦”として、その場に参加していた林さん。ワークショップに参加しながら、「まちへの想いが引き出されていった」と当時を振り返ります。
たまプラーザは、オシャレで便利なまちという印象がありますが、それだけではなく「やさしい人になれるまち」、「人が育つまち」になったらいいなって何となく思っていました。
郊外に新たに開発された街は、神社仏閣もないし、先祖代々住んでいる人はほどんどいません。むしろ、つくられたときのイメージが先行して、住民もそれに合わせて振る舞ってしまうところがあります。
でも、住んでる人は人だから。実際は、人情味溢れる下町っぽい人がいたり、私なんか典型的な田舎出身だし。みんな覆いを取り払って、住んでる人の本来の魅力が引き出されて、もともとのイメージとミックスされたら、もっと面白くなるんじゃないかなって。
たまプラーザを「人が育つまち」にしたいという想いは、3人のお子さんをこのまちで育ててきた林さんの経験から生まれています。
「このまちの人たちに子どもたちを育ててもらった」という実感があったからこそ、ご恩返しにと引き受けたPTA会長。
その仕事を通じて、学校内だけでなく、自治会や防災活動にも関わるようになり、普段の暮らしでは知ることのない部分で、まちを守っている人たちの存在に気がついたのだそう。
それまでは、「我が子が安心・安全でくらせるようにならないかな」「誰かがこのまちをいいまちにしてくれないかな」って、人任せに思っていたんですね。
でも、自分がPTAや自治会のことをやらせていただいて初めて、まちづくりは誰かにお願いすることではなく、自分たちでつくっていかなくちゃいけないんだって気がついたんです。
“育ちあい”というキーワードから生まれたフラッシュモブ
そのワークショップで引き出されたキーワードが、”育ちあい”でした。林さんはその言葉に、得意としていたダブルダッチを組みわせることを思いつきます。
林さんとダブルダッチの出会いは、十数年前にお子さんと行った夏祭り。まちで新聞配達をしていた大学生中心に結成された「カプリオール」のパフォーマンスに感動し、自ら「美しが丘ダブルダッチクラブ」を設立してしまったのです。
まずは子どもに教えることからスタートし、やがてママさんチームもでき、いまや50代の大人まで幅広 い年代が参加するコミュニティになっていました。ダブルダッチの練習風景が、まちの多世代交流の現場になっていたのです。
シルク・ドゥ・ソレイユのアーティストなど、世界で活躍中の『カプリオール』
美しが丘ダブルダッチクラブの練習風景
ワークショップでフラッシュモブという言葉を知り、いろいろ調べてみたんですが、 ほとんどがダンス中心なんですよね。ダブルダッチではたぶん世界初! だから、注目が集まるんじゃないかなって。
最初は思いつきの部分もあったものの、林さんはダブルダッチの活動を続ける中で、指導する学生や教えてもらう子どもたち、運営に携わる保護者たちが一緒に成長していることを実感していました。
ダブルダッチを使ったフラッシュモブこそ、育ちあいにつながるはず。ワークショップを通じてそう確信した林さんは、いよいよ”自分ごと”としてまちづくりをはじめます。
ただの主婦だからできること
とはいっても最初は手探りのスタートでした。そもそも多くの人にとって、”フラッシュモブ”さえ初めて聞く言葉。「それって何?」と説明するところから、始めなくてはいけません。
そんなとき前に進むきっかけとなったのが、フラッシュモブに関するアンケート調査でした。友達や地域でのサークル活動、学校のママさんバレーの団体など人づてで用紙を配り、なんと1300名分もの回答が集まったのです。
はじめは必ず「フラッシュモブって何?」ってなりますよね。そこで、みんなが「フラッシュモブっていうのはね・・・」と私に代わって説明してくれたんです。
1300人もの人がその言葉でつながった。それだけでこのまちが、既に一つになった気さえしました。
しかもアンケートの結果は、ほとんどの人が「やりたい」「興味がある」「参加したい」 というもの。世代を越えた前向きな思いを集められたことは、林さんにとって大きな原動力になりました。
さらに回答の中には「コーラスをやりたい」「赤ちゃんが多い街だからベビーカーの親子を登場させてみては」など、具体的なアイデアもいっぱい。こうした声が後押しとなり、みんなの心に火がついていったのです。
きっかけさえあれば、みんなやりたいことってあるんですよね。もうフラッシュモブは私だけの夢ではなくて、みんなの夢になっていたんです。私が言い出した以上、最後までやりとげないといけないなーって。
みんなの思いを知っているからこそ、林さんは1回目のフラッシュモブを絶対に成功させたいと思っていました。
たとえ「大変だよ」「素人にはできないよ」と言われても、「実現する」ことがまちに住む人たちの自信になると考えていたからです。
私は、企画書も書いたことがありません。そんなただの主婦が、みんなの力を借りて、実現することができたら、みんなにとって勇気になるかなって思うんです。
「主婦だからできない」じゃなく、「主婦でもできた」。そうやって「わたしにもできるかも」って思ってくれたら。
もちろん、場所の使用許可や資金など、ぶつかった壁はたくさんありました。でも、林さんの「あきらめる気配のなさ」が、関わる人たちの腹をくくらせていきます。
みんな「なんとかしなきゃまずいぞ」って思っていたと思います。経験も知識もなく、大変さが一切見えていなかったことが私の強みでしたね。わかっていたら、怖くてできなかったのかもしれない。
はじめてのパフォーマンスは大成功!
続く、まちなかパフォーマンスへの想い
こうして、大きな成功を収めたフラッシュモブですが、当日の楽しさだけでなく、実際に”育ちあい”というまちの目標も同時に実現していました。
まだ誰もやったことがなく、練習が必要だったことが、大きなポイントだったと思います。練習に参加しなくちゃ、みんなに遅れちゃうけど、がんばればできる。ほどよい困難と達成感があり、教えあったり、支えあったりする場面がたくさん生まれました。
練習を乗り越えたことによって生まれたのは、自信です。「みんなでがんばったね」 「このまちの人たちって、こういうことができるんだね」って。こういう気持ちは、暮らしの中のほかの場面でも絶対に役立つと思います。
ときには子どもの方が習得が早く、大人が教えてもらうこともあったそう。練習の時間が世代や価値観・立場をごちゃ混ぜにし、人と人とが向き合う育ちあいの場になったのです。
2014年7月、たまプラーザ夏祭りでのパフォーマンス
その後、2014年には、夏祭りで約90名が参加するパフォーマンスを実施したほか、舞台裏を追った短編ドキュメンタリー映画「育ちあい 2014 夏」の上映会も開催しました。
今年の秋には「踊ってみよう! いろんな国のフォークダンス」をテーマに、いろいろな国の民族舞踊と音楽を楽しむまちなかパフォーマンス「GUMBO」も実施されます。
林さんの巻き込み力は、知識や経験を積んだいまなお、さらに加速度を増して、まちの人たちを動かしているようです。
まちの中で、屋外で、普通にみんなが暮らしている場所でショーをすることが重要なんです。日常的に自分たちが暮らしている場所で、非日常的なことが起こるからその場所を大事に思い、特別な場所になる。
何年、何十年後かには、やってない場所がないみたいにしたい。すると、このまち全部が愛おしい場所になりますから。このまちの育ちあいが、たまプラーザから日本中に広がっていくといいですね。
まちとひとをつなぎ、地域に育ちあいを生み出す”まちなかパフォーマンス”。みなさんも自分の住んでいるまちで、始めてみませんか?
(Text: 藤田奈津子)