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行政もひそかに注目する妄想の力とは? 福岡の「アナバ不動産」が提案する、パブリックスペースの楽しい使い途

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アナバ不動産の妄想による、アクロス福岡のゲストハウス&天然露天風

特集「マイプロSHOWCASE福岡編」は、「“20年後の天神“を一緒につくろう!」をテーマに、福岡を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、西鉄天神委員会との共同企画です。

学校や勤め先から家の入り口まで直通電車が走っていたら…
海の上にバーや温泉があったら…

そんな妄想をしたことはありませんか? そして、「そんなこといっても恥ずかしいなあ」と、他の人に言うのをためらった経験など。

「本当に実現できるかどうか」ももちろん大切ですが、実はその妄想にこそエネルギーがあるはず。いまある問題点をあらゆる角度から洗い出し、それを楽しく解決しようと、さまざまな妄想を発表しつづけているのが「アナバ不動産」です。

今回は発起人の橋口敏一さん都甲美智子さんに、妄想の魅力についてお話を伺いました。
 
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左からメンバーの喜多さん、都甲さん、石井さん、橋口さん

橋口敏一(はしぐち・としかず)
1985年2月10日鹿児島生まれ。学生時代にフランスの最も美しい村々66村を一年間放浪したことと、山口県萩市の古い町並みや観光まちづくりにふれたことがきっかけでダイスプロジェクトへ入社。普段は店舗デザイン、住宅のリノベーションからまちづくりの企画に至るまで総合的な視点から楽しい「場」づくりに携わる。将来の夢は、愛する福岡や九州の魅力向上に貢献すること。そのために、まず企画する人間が柔らかい頭を持つことが大切だと考え2013年より社内の部活的な活動としてアナバ不動産を始める。アナバ不動産を通じて、福岡が魅力的な街になるきっかけのきっかけを作っていきたいと考え、日々まちで妄想している。
都甲美智子(とごう・みちこ)
公園や公共施設の屋外空間の設計に携わった後、(株)ダイスプロジェクトへ。都市計画、まちづくり、不動産の利活用の企画等に関わるほか、同社が運営している九州のワクワクを掘りおこす活動型ウェブマガジン「アナバナ」の編集部員として、さまざまな視点で九州の魅力を発信している。
自分たちが暮らしているまちの魅力を再発見したり、もっと素敵にしていくためのきっかけになればいいなぁ、とアナバ不動産で妄想を続けている。

「アナバ不動産」って?

アクロス福岡の斜面展望台を利用したゲストハウス&天然露天風。大濠公園の湖の水路を利用した、子供だけでなく、大人も楽しめる足水ビアガーデン…これらはすべて、アナバ不動産のメンバーが妄想したものです。

その細かな部分まで行き届いたコンセプトとそのイラストは、目を見張るものがあります。
 
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大濠公園の湖の水路を利用した足水ビアガーデン

2013年秋に誕生した「アナバ不動産」の主な活動は、2週間に一度、定期的に集まる妄想ミーティング。そこで思いついたアイデアを、イラストレーターの石井英理子さんが絵に起こし、年に2〜3度、展示会というかたちで発表しています。

アナバ不動産の現在のメンバーは約20人。建築家や都市計画の専門家、不動産業、マンションの大家さんなど、まちづくりに関わる多様な人が参加しています。

今までに生まれた妄想は、実に30以上! 橋口さん、都甲さんが勤める「ダイスプロジェクト」のオフィスや、カフェ・ガレリアなどで開催された展示会では、「頭の体操になる」「実現したら是非行きたい」という感想が届いているようです。
 
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イラストレーターの石井英理子さん

ひとつのコラムからはじまったプロジェクト

そもそもこの企画は、数年前に発行されたダイスプロジェクトの自社出版物から生まれたものでした。当時のスタッフがコラムの一つとして掲載していたそう。

そしてそのコラムをベースに、プロジェクトとして本格始動したのが2013年の秋。福岡で年に一度開催されている「アートをたずねる月」というアートイベントへの出展がきっかけでした。
 
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数年前に掲載されたコラム

橋口さん アイデアのベースは、一度だけ掲載されたコラムでした。アートをたずねる月の出展にあたって、「この企画を復刻させたら面白いんじゃないか!」ということで始めたんです。

そもそもは社内だけの企画だったのですが、会社の枠を超えた情報共有の場として機能させたらいいんじゃないかと、同じリノベーション業界やまちづくり関係者の方にも声を掛けました。

単発的な活動ではなく、楽しいまちづくりを提案できるプラットフォームとしてやっていけば、いつか身を結ぶんじゃないか。そういう想いがあったので継続することにしたんです。

初期の展示では、テーマを設けずに街を散歩して、福岡市の街のいたるところを自由に妄想していた橋口さんたち。しかし、妄想を上手に伝えるには明確なコンセプトが必要と考え、3回目となった前回の展示から「ビアガーデン」など、テーマを決めて妄想するようになりました。

「当初は今のような形になるとは思っていなかった」と都甲さんが振り返るとおり、活動を続けながら、日々進化してきているようです。

ただの妄想で終わらせず、共感を得るために

「アナバ不動産」はあくまで架空の不動産ですが、「これをきっかけに、福岡のまちづくりともっと面白くしたい」と橋口さんは強調します。

橋口さん 本当に福岡の人は福岡が大好きなんです。東京や海外の都市ではなく、世界で一番福岡が好きっていう人が福岡にはたくさんいます。なにより私自身も福岡が一番面白い街だと思っている。

それだったら、「今ある福岡がいいよね」って話だけではなくて、「こうなったらもっと面白いな」って妄想から始めてみることで、福岡のまちづくりに貢献できることがあるのではないか。誰もが楽しめるコンセプトでやっていますが、あらゆる視点から全力で妄想しています。

大切なのは妄想を閉じたものではなく、オープンにすること。だからこそ、「いかにして伝えるかが大切」と都甲さんは続けます。

都甲さん いつでもだれでも妄想はできますが、その妄想を自分一人で終わらせるのではなく、メンバーで共有して、さらにそれをイラストにして、展示会という場を設けてしっかりとアウトプットする。そうすると議論や対話がはじまります。

それこそが新たな可能性であり、まちづくりに関わる良いきっかけになると思っています。

イラストを担当する石井さんが描く、柔らかなタッチの絵。それに添えられたユーモア溢れる文章。アナバ不動産が醸し出す、いい意味で力の抜けた雰囲気が、「こんな街あったらいいなあ」という自然な共感を生み出しているのです。
 
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いままでに生まれたアイデアは30以上!

自主的な展示会として活動を続けていたアナバ不動産ですが、噂を聞きつけた他の地域の方からも声がかかり、昨年は長崎への「出張・アナバ不動産」が実現。今年5月には熊本県玉名市への出張も決まったそうです。

橋口さん 出張してみて改めて、いわゆる代表的な観光地以外にも、魅力的な場所がたくさんあることに気づきました。このプロジェクトが地域の魅力の再発掘や再発見のきっかけになればいいですね。

今後は、福岡だけにとどまらず、九州、日本、世界中でやっていければと思っています。パリやブルックリンもいいですし、月でお月見なんかどうでしょう?

インタビュー中もどんどん妄想がふくらむアナバ不動産の面々。この妄想力とそのアウトプットは、「本業にもいい影響を与えている」と橋口さんは続けます。

橋口さん たとえば仕事で古い物件のリノベーションに携わる機会が多いのですが、
物件の活用を検討している際にも「ここにコミュニティが生まれたらいいよね」といったざっくりとした案ではなく、その先の先の、より細かい情景までイメージできるようになりました。

また、クライアントにとって気持ち良いイメージを描けるように、難しい言葉を使って伝えるのではなく、より噛み砕いてイメージを共有できるようになりましたね。

妄想は行政からの注目も!

実現化できるかはさておき、楽しみながら活動を続けている橋口さんたち。意外だったのは、展示会などに訪れた行政関係者の反応がとてもいいということでした。

公園などのパブリックスペースをどう使っていけばいいのか、頭を抱えている行政の方も少なくないそう。そんななか、アナバ不動産の自由で柔軟な世界観がインスピレーションのもとになっているようです。

また、今年2月には、“博多まちづくり推進協議会”から、博多駅前大通りの活用を検討してほしいとの依頼もあったそうです。

橋口さん あくまでも妄想なので、絶対実現不可能なものもあります。でも、一つや二つは、具体的な活用案も盛り込むように意識しています。

アイデアをオープンにし継続的に活動を続ける事で、共感を呼び、実行力のある仲間もみつかっていく。そうやって少しずつ実現されていったら、誰もが驚く街になっていくかもしれません。

特に2014年に国家戦略特区に指定された福岡市では、「古民家等の歴史的建造物の活用のための建築基準法の適用除外」や、「航空法高さ制限のエリア単位での緩和承認」など、より柔軟なまちづくりが可能になっています。

そこに対しても何らかのアプローチができればと橋口さんは言います。

橋口さん 法律上の問題はありますが、国家戦略特区として規制緩和の流れがあります。

どんな街だったら面白いか、アナバ不動産だからできる自由なアイデアと、その青写真を共有すること。まちづくりの専門家集団であるアナバ不動産での活動を続けていれば、行政ともタッグを組んで行く事も可能だと思っています。

気になる次の展示会は、6月20日から”キラキラカフェとねりこ”にて(予定)。チームでいま絶賛妄想中のテーマは、福岡市の“大人の遊園地”その名も「アナバーサルスタジオ・フクオカ」や、福岡・天神にあるファッションビル・イズムにはジャングルジムを設置した「ジャングルジイズム」。

他にも、舞鶴城にはメリーゴーランドならぬ「武士ーゴーランド」、都市高速の裏面にジェットコースター、「ジェットシコースター」などなど、福岡に暮らしている人なら、「あそこね、確かに!」と思わず微笑んでしまうことでしょう。
 
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住んでいる街は、慣れてしまえば刺激も少なくなりがちです。妄想を膨らませることにより、日常に溶け込み、見えていなかった意外な発見があるかもしれません。

きっとそれは街のことにかぎらず、みなさん自身の人生にもいえるはず。みなさんもいろんな妄想を、隣の人にシェアしてみませんか?

(Text: 小村順平)

– INFORMATION –

 
「第4回妄想展示会:大人の遊園地」
展示期間:2015年6月19日(金)〜7月5日(日)
展示会場:キラキラカフェ とねりこ(住所:福岡市中央区赤坂3丁目6-37、URL:http://www.cafe-tonerico.com/