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日本の食文化を守るために、第一次産業をもっと面白く! 「NPO法人おもしろ農業」片桐新之介さんの変わらぬ思いと新たな挑戦とは

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。こちらの記事は、会員サイト「マイ大阪ガス」内の支援金チャレンジ企画「Social Design+」との連動記事です。

あなたは日々、自分が口に入れている食べ物を意識していますか?

徹底して自然由来の物しか口にしない人。どこでどんな方法でつくられているのか、何が入っているのかなどをチェックして「なるべく体にいい物」をという人。あまり深く考えないという人。

その関心度は、経済的な豊かさ・暮らす場所・家族構成・既婚未婚・育った環境など、さまざまな理由によって異なるものですが、共通しているのは、みんな毎日必ず食べ物を口にするということ。そしてそれが私たちの体をつくっているということ。

そんな、生きる上で最重要であるはずの“食べ物”への関心が薄れてきている状況が、日本の食文化の喪失に繋がるという危機感を覚え、“関心への入口”をつくろうと活動しているのが「NPO法人 おもしろ農業」です。

greenz.jpでも以前紹介したこのプロジェクト。掲載から2年が経過し、どんな変化が生まれているのか、代表理事を務める片桐新之介さんにお話を伺ってきました。
 
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片桐新之介(かたぎり・しんのすけ)
1977年東京都生まれ、2001年阪急百貨店入社。食品部7年間、経営企画室4年間。私事として、飲食店開業のお手伝いをする。2011年飲食店コンサルタントとして独立。農家のこせがれネットワーク関西幹事長就任。農商工連携プランナー取得(農産物を活用した商品開発など)。2012年4月NPO法人おもしろ農業理事長就任。7月奈良市中心市街地活性化協議会タウンマネージャー就任。商店街の活性化や街のビジョンづくりなどの支援、活性化イベントの企画運営。飲食店を中心として、市内の商店をまわり、利益改善・新商品開発に取り組む。12月兵庫県まちづくり政策審議員就任 ◇ なにわ名物開発研究会(大阪市)の幹事として、おみやげ商品開発業、飲食業を中心とした中小企業の異業種ネットワークの会に参加。2013年より総務局長。

2年間で得たもの、そして失ったもの

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田植えツアーの様子

2年前に取材をした頃、「NPO法人おもしろ農業」の事業は主に2つ、大阪難波に構えた“屋上貸し農園”と、稲刈りや田植え、さらには漁業などの“一次産業体験ツアー”でした。

どちらもが、後継者不足や耕作放棄地といった第一次産業が抱える課題の一歩手前、“食そのものを意識する場面”を、楽しみながら増やしていこうという趣旨の取り組みです。

当時、この2つの事業を拡大し、雇用に繋げていきたいと片桐さんは語ってくれていました。しかし、思い描いていたイメージ通りには物事が進まなかったのだそうです。

掲載してもらった後、屋上貸し農園があったビルの老朽化が進んでいることがわかり、移転を検討していました。

そのタイミングで、大阪市北区と連携して、区役所の敷地内でこの辺りの伝統野菜「天満菜」を復活させるプロジェクトを進めることになったので、思い切って貸し農園を閉じて、そこの土を使うことにしたのですが…。

プランターごと区役所の2階バルコニーに移設し、水道も引いて「天満菜」の栽培をスタート。

区民の方々向けに、伝統野菜があったことを知ってもらうためのセミナーや、研究家を招いてトークショーを開き、来場者に「天満菜」の種を配布するなどの取り組みを進めていました。
 
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北区区役所屋上に移設した畑。こちらに「天満菜」を植えつけました。

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伝統野菜の研究家、なんばりんごさんを招いたセミナーを「アサヒ ラボガーデン」で開催。

しかし、年度が変わると区長が交代。同時にプロジェクト中止の決定が下されてしまいます。

コストや時間、手間などを考えると新たに農園ができる場所を確保することは現実的に難しく、知人に引き取ってもらうことで、処分しなければならない状況はなんとか免れたそう。

もしも区長交代の時期がもう少し後で、区民の方の関わりが進んでいれば、中止にはならなかったかもしれない。とても残念でしたが、勉強になりました。

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外国人の方も参加した、京都府宮津での漁港巡りと酒蔵巡り。

一方で、もうひとつの事業である“一次産業体験ツアー”は、2年間で8回というペースで継続して開催。

以前は30代を中心とした子育て世代をターゲットに、子どもも大人も楽しめる体験ツアーを企画していましたが、継続するうちに20代の若者や、外国人にフックすることがわかってきました。

そこで、片桐さんは目下、旅行会社と協力した外国人向け体験ツアーの事業化を構想しています。

貸し農園がなくなってしまった今、「おもしろ農業」としての活動を続けていくためにも、自活のための事業が必要です。そこを改めて考え直すタイミングなのだと思っています。

その中で、外国人のニーズがあることがわかったので、彼らに向けた日本文化体験ツアーというカタチでチャレンジしていきたいと考えています。

若者へのアプローチ。大学生との連携と対話

新しい動きとして始まったのは若者へのアプローチ。現在、京都大学と龍谷大学の農業サークルと対話を進めています。

“農業サークル”とは言うものの、2つとも活動は本格的。

京都大学の「農鞠」は、株式会社キシュウとして起業した、れっきとしたベンチャー企業。京野菜の卸業者として生産者と飲食店のコミュニケーションを補い、橋渡しをしようと取り組んでいますが、片桐さんは流通・販路のところで時折相談に乗っているのだとか。

彼らの扱う野菜は大きな店舗から引き合いがきたりしています。でも、物流をどう構築したらいいのかがわからない。またその店舗ではなく「農鞠」にお客さんがつかなきゃいけない。

物流の問題が一番大きいのですが、また「農鞠」にファンができるためにはどうすればいいのか、ともに考えることができればと思っています。

龍谷大学のサークル「お野菜大学」は学生団体ですが、滋賀県の耕作放棄地を借りて野菜をつくり、販売したり、一部店舗に卸すなどしています。

彼らも、大学内のベンチャービジネスプランコンテストにも取り上げられるなど、注目されている団体です。

「農鞠」の子たちも「お野菜大学」の子たちも、日本の農業はもちろん食文化をなんとかしなきゃいけないという志があり、とても素晴らしいことをやっています。もっと注目を集めてほしいし、活動を続けてほしい。

だからこそ、学生だけではできない部分、例えば流通・販路はもちろん、情報発信や誘客のモデルなどのノウハウを提供することで、彼らの活動を僕が後押しすることができないだろうかと考えています。

そうすることで、僕自身も今までアプローチできなかった層の“食への関心”を高めることができるのではないかと思っていますし、その連携が可能かどうか、対話を続けています。

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神戸大学日本酒サークルの学生たちと、日本酒用のお米の稲刈りに。

また、片桐さんは関西各大学日本酒サークルが連携する「関西学生日本酒連合」のサポートを行っています。

この関西学生日本酒連合は、神戸大学・大阪大学・同志社大学・関西大学・立命館大学などの各日本酒サークルが連携し、百貨店で試飲販売会を開いたり、京阪電鉄、阪神電鉄の協賛のもと、伏見・京都・灘五郷酒造組合と酒蔵巡りのイベントを開催しています。

「おもしろ農業」から一次産業のコンサルへ

学生との連携と対話は、今までの「おもしろ農業」の活動にはなかった仕事。片桐さんの活動は、一次産業に関わるさまざまなコンサルティングへと広がりはじめています。

現在は、とある野菜工場に対して、どんなストーリーで、どれくらいの金額で、どんな流通販路に、どのようにPRしてどんな交渉をしてと、百貨店にいたときのノウハウを使って徹底的にアドバイス。

他にも、食や農をテーマに起業したい人、飲食店や小売業などはじめ、少し行き詰まりを感じている人からの相談が多いのだとか。

また、日本酒の楽しみ方を提供する「利酒師」としても活動し、最近では「淡路島はたらくカタチ研究島」プロジェクトの中で、平成26年度の付加価値商品開発の専門アドバイザーとして商品をプロデュース。淡路島の古代米を使った「縁起」という祝い酒を作りました。
 
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一年かけて地域の人たち向けにマーケティングの勉強会をしたり、地域の魅力を話し合ったりしながら商品を開発。初年度は約150本を生産する予定で、現在は国内はじめ台湾への販売交渉を進めながら、次年度以降の原材料の買い付け計画を構築中なのだそう。

もともと1,000本つくる計画だったのですが、原材料が足りず、初年度は150本になりそうです。これではまだ雇用を生むまでに至らないので、開発以降のどう販売していくかを、これからやっていきたいと思っています。

その他にも、情熱ある農業家を育成する週末農業ビジネススクール「アグリイノベーション大学」で、第一次産業に関わりたいと考える社会人向けの講義を担当。

梅田の大型商業施設「グランフロント」で開催されている、子ども向けの体験教室「うめきたがっこうソシオ」で、生き物に直に触れてみる“理科”の授業を行うなど、その活動の範囲はさらに拡大しています。
 
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たこを触る授業の様子。怖がる子もいましたが、触った子からは「おもしろい!すごい!」いう声があがり、そのうちみんなが触れるようになったそう。

考えることが食文化を守る一歩目

「2年前よりも、食に関心を持つ人が増えてきているのを感じている」と言う片桐さん。

しかし、相変わらず表面的な、あるいは他人が評価した付加価値優先”で食べ物が選ばれていることへの危機感は依然として高く、引き続き活動への強い意欲を語ります。

新発売だから、当店人気ナンバー1だから、機能性が高いから、という情報に選ばされるのではなく、もっと自分自身の“好き”や“感覚”を信じて選ぶ人が増えてほしいんです。

考えることを育てるというか、やっぱり食べ物に対して思考停止している人がまだまだたくさんいる。本来、食べるということはもっと自由で楽しいことのはず、そのことをもっと知ってもらいたい。

知って、考えてもらうことが、日本の食文化を支えている“本物”を守ることにつながると僕は信じている。だから、これからも“レジャー”を通じて、意識するきっかけづくりの活動を続けていきたいと思います。

そして今後、活動の継続、速度アップのためにも、法人格をNPO法人から株式会社へ変更することも検討しているそうです。

「おもしろ農業」としての経済はまだまだ回っていません。会員数も、一人で活動していることもあって、積極的に増やしていくためのアクションを起こせていないのが実状です。

そんな現状ときちんと向き合って、この活動を続けるための方法を考えた結果、体験ツアーをきちんと事業化して収益を出し、人を雇用して一緒に取り組んでいったほうが、社会に影響を与えられる存在になれるんじゃないか、今はそう思っています。

すべてのマイプロジェクトがスムーズに結果を出せるわけではありません。ふと立ち止まってしまったり、不意につまづいてしまったときに、やめるのかそれとも続けるのか。思い悩んだ経験を持つ人は少なからずいるのではないでしょうか。

そんなときに、それでも続けたい、なんとかしたいんだと思える当事者意識があるかどうか。いいことにも悪いことにも向き合って、次のアクションを考える片桐さんには、それがきっとあるのだろうと感じました。

「おもしろ農業」の食文化を守るチャレンジは、形や方法を変えながら、まだまだ続いていきそうです。