全国的に、年々増え続ける空き家物件。
首都圏のベッドタウンに位置する私のふるさと、埼玉県でもじわじわと空き家が増えています。特に最近は一等地であるはずの駅前に空き物件が目立つようになり、帰省するたびにその数が増えているような気がします。
あなたの身近でも、こんな場所はありませんか?
地域が抱える空き家、空きビルなどの遊休不動産を活用した地域再生を学び実践する「リノベーションスクール」というムーブメントが今、北九州から広がっています。
私自身も築80年の古民家をリノベーション中なのですが、このスクールの噂はあちこちから聞いており「とにかくすごいから、絶対に参加した方が良い!」と猛プッシュされていたこのイベントについに参加することになりました。
今回はそのアツい現場と、「自分の街を変えたい」という情熱を持った参加者たちの声をレポートしたいと思います!
リノベーションスクールっていったい何がすごいの?
リノベーションスクールとは街の魅力を探り、実際の空家物件を改修し、そこで新しいビジネスをつくることで地域を再生していく3泊4日の実践の場。全国から集まった参加者たちは4つのコースに分かれ、生のリノベーション現場を体感していきます。
すごいポイントその1:講師陣がすごい!
講師であるユニットマスターは、全国のリノベーションの第一線で活躍するプロたち。
らいおん建築の嶋田洋平さん、ブルースタジオの大島芳彦さん、東京R不動産の吉里裕也さん、メゾン青樹の青木純さんをはじめ、日本仕事百科のナカムラケンタさん、H.O.Wの柿原優紀さんなど、greenzで紹介した方々も講師として登場します。そしてgreenzからも小野裕之さん、鈴木菜央さんが参加。
建築だけでなく、ソーシャル、まちづくり、多岐にわたる分野のトップランナーたちが集まることで地域の問題を掘り下げ、解決のための道筋をつくっていきます。
そして、これら豪華なメンバーをゲストに「DIY」「リノベ事業」「場づくり」などのテーマでトークするライブアクトも毎日開催。同時多発的に開催されるイベントを全部見ようとすると体がいくつあっても足りません!(ライブアクトの動画はこちらからどうぞ)
すごいポイントその2:リノベ熱がアツい!
スクールといっても、誰かが答えを教えてくれるわけではありません。講師も参加者も関係なく、チームのメンバーが一体となって「本気で実践する」という短期集中型のリノベ合宿。実際に街を歩き、プランを練り、手を動かし、まちづくりを肌で感じながら学んでいきます。
そして期間中は時間ぎりぎりまでディスカッション、それが終わると毎晩のように行われる飲み会!(と言う名のワークショップかもしれません)。スクールの合い言葉は「まちにダイブ!」。すべてのヒントは現場、つまり街のなかにあるのです。
まちにダイブ!を実行する参加者たち
夜の街に繰り出しては酒を酌み交わし、まちづくりについてアツくアツーーーーーく語り合います。一次会、二次会、三次会…朝まで続く宴会はこのスクールに欠かせない課外授業(?)です。体力が続く限り、参加するべし。
すごいポイントその3:ほんとにつくっちゃう!
このスクールは、ただアイディア出しをして終わりではありません。企画された計画は実際に街のなかにつくられ、事業化されていくのです。2011年に始まって今回が8回目ですが、驚くべきはこの取り組みが生み出した実績!
過去に16件もの物件がリノベーションされ、新たに320人の雇用を生み出し、通行量は約4割増に!これは街にとって大きなインパクトであることは間違いありません。まさに「リアル版まちづくり」。
このスピード感こそ、リノベスクールの醍醐味。求められるレベルが高いだけにハードではありますが、ここでしか得られない学びも数えきれないほどあるのです。
リノベーションスクールの中身って?
熱気溢れる開会式の様子
スクールでは、学びたい技術や知識に特化した4つのコースが用意されています。
(1)リノベーション事業計画コース
最後は各ユニットでつくった事業計画を発表します
小倉の繁華街をメインとした8件の空き物件を対象に、ユニット別に分かれ、ユニットマスターと一緒に空家とエリアを再生する事業プランを組み立てます。完成したプランはオーナーに提案され、実際の事業化を目指します。
ユニットはメンバーが持つ技術を活かせるように編成されており、図面が描ける建築家、地域のニーズを拾い上げる地域おこし協力隊、ロゴがつくれるデザイナー、収支計画を考える銀行員…など、多種多様な経歴のメンバーがバランスよく配置されます。
対象物件は元キャバレーの従業員寮という個性的な物件から、老朽化した民家、北九州国際会議場とかなり大きな物件までさまざま。
街を歩くことでその場所の魅力を発掘していきます
各ユニットに分かれてからは、実際に街を歩いてのリサーチが始まります。どこから人が来るのか? 栄えている場所とそうでない場所の違いは何か? 対象エリアの家賃、ランチの値段、駐車場の値段。行き交う人やお店の人からの聞き込みも欠かせません。
そして集まったデータをもとに、ひたすら具体的な事業計画制作を進めていきます。合間に刺激的なライブアクトを挟み、自分たちのプランと照らし合わせながらさらにブラッシュアップ。
事業化を目的としているだけに、収支計画は特にシビア。ショートプレゼンでは「怒濤のダメ出しにくじけそうになる」との声も。
ですが、頭で思い描いていた企画をしっかりと形に落とし込んでいくのに欠かせない要素。何度も話し合いを重ね、プレゼンを最終形に仕上げていきます。
この段階になると、プログラムが終わった後も深夜までディスカッション、公開プレゼンの日が近づくと会場に残って朝までユニットワーク、そしてその合間に街にダイブ!(スクール前は体調を万全に整えておくことをオススメします)
「いつ寝てるの?」と首を傾げたくなる攻めのスケジュール。
後半戦になると、机には大量のエナジードリンクが並び、会場の隅っこではしゃがみ込んで眠っている人の姿も見かけるようになります。それでも、参加者たちのテンションは最終日に近づくほどどんどん高くなっていくのです。
そして、そんな苦難を乗り越えて生み出されたプラン。特に私がぐっと来たのは、震災対策保険型バックアップオフィス事業「結び家」でした。
プレゼンはこちら【RS#8】公開プレゼンテーション 事業計画コース 第2部「結び家」のプレゼンは55分あたりから
空家物件の多いエリアに建つ一軒の家。地震の少ないこの場所を「震災のバックアップオフィス」にし、緊急事以外はシングルマザー支援のための場所にしていくという提案でした。さらにはこれが企業の保険とCSR活動にもなるという、一石三鳥のプランです。
私自身、横浜で震災を体験したとこからも、このプロジェクトの発表に引き込まれてしまいました。プレゼン後の質疑応答も聞き応えあり。ぜひプレゼンもご覧下さい。
その他プランのプレゼンはこちら。【RS #8】公開プレゼンテーション 事業計画コース 第1部
ここで提案されたプランのうち、多くが事業化に向けて前向きに進んでいるそう。
実際に街の中につくられていく事業になるからこそ、主催者も講師も参加者も誰もが必死、本気、真剣。あの「熱気」のなかに、リノベスクールのすべてが詰まっているといっても過言ではありません。
(2)セルフリノベーションコース
小倉駅から徒歩10分ほどのエリアにある2階建ての一軒家(長屋)を、現場のプロと一緒にまるっと一軒セルフリノベーション。実際に手を動かしてリアルなリノベーションを体験し、技術を学んでいくコースです。
対象物件は古い家で玄関も狭く、冬は寒い。そんな場所を、「高機密高断熱、オフグリッド、DIY」をテーマに、4日間でリノベーションしていきます。
まずはBeforeの写真はこちら。
こちらはもともと押し入れだった場所
床は普通のフローリングでした
そして以下が完成したAfter。1Fは、本が大好きな家主である倉内由美子さんのために、押し入れをタイルの本棚にDIY! 机もつくって壁を塗り、床板も全部貼り直して墨汁で色を付けました。
差し色の黄色が、ぱっと明るい雰囲気に
こちらのテーブルの手づくりです
次は、狭かった玄関。隣の部屋の床板を取り払い、玄関とつなげて気軽に友達が立ち寄れるような土間につくりかえました。
こちらがBeforeです。
床板を剥がしてみると意外と深く、苦労していました
そしてAfter!! 土間になり、外の光がいっぱい入るステキな空間になっています。
2Fは「夏は涼しく、冬はぬくぬく。オフグリッドな部屋」を目指して断熱の部屋に。
壁の内側に、断熱材を入れる新たな壁をつくるという作業
天井も壁も床もぜんぶ剥がし、そこに製糸工場から出た毛糸くずや使わなくなったダウンジャケット、セーターを断熱材として入れていきます。もはやDIYの領域を越えるような高度な作業の連続。チームのメンバーの団結力も高まります。
こちらが断熱材として使った毛糸くず。
残念ながら壁の仕上げまで完成できませんでしたが、こんな廃材の断熱材でも、作業を進めていくうちにどんどん部屋が暖かくなっていくのにびっくりです。
次は、電気のオフグリッド。太陽光パネルと蓄電池を使ったオフグリッドシステムを組み立て、屋根に設置します。
100Wのソーラーパネルを屋根に設置
倉内電力のロゴはユニットメンバーのデザイナー作!
押入れの中に、バッテリーやコントローラー類をまとめて設置しました。家主の倉内さんにちなんで、「倉内電力」と名づけました。太陽光エネルギーを使ったライト点灯式では大きな歓声が上がります。
それから、次は暖房のオフグリッド。太陽の光で空気を暖めて室内に送り込む「ビール缶ヒーター」も作成。
黒く塗ったビール缶が太陽で温められ、その中を空気が通って部屋が温められる仕組み
完成したビール缶ヒーターを南側の壁に取り付けます。温まった空気が、部屋に入ってくるというわけ。ビールの缶で暖房ができるなんて、驚きですね。ビール缶をつくるために嬉しそうにビールを飲む参加者がちらほらいて楽しそうでした。
プレゼンテーションに入る最後の最後まで作業を続け、なんとかギリギリで作業終了。一緒に手を動かし、ご飯を食べ、家をつくる。ユニットマスターの加藤さんは、こうおっしゃっていました。『モノづくりをすることはひとつのチームになること』。
4日間の共同作業を経て、本物のチームとなったセルフリノベコース。プレゼンテーションもみんなで盛り上げます!
(3)公共空間活用コース
会場近くにある魚町サンロード商店街の活用方法を提案するコース。ミッションは「サンロード商店街を公園化せよ!」。
この場所は老朽化のためアーケードが撤去され、普通の道路になってしまう可能性があるのだとか。まずは地域の人の関心を高めるためのイベントを企画。100メートルの商店街を使った社会実験、詳しくはこちらをどうぞ!
【RS #8】公開プレゼンテーション 公共空間活用コース
(4)公務員リノベーションコース
こちらのコースのリノベ物件は、なんと「公務員」! 各地で活躍するスーパー公務員たちが全国から集まり、公務員の意識改革を進めていきます。
このコースは、参加したメンバーの決意発表の公開プレゼンテーションが衝撃的!
「常識なんか捨てちまえ!」「結果なんか気にすんじゃねえ!」「担当業務だけで仕事やった気になんなや!」お役所仕事、事なかれ主義のイメージのある公務員らしからぬ言葉が飛び出し、それに感化された公務員たちがアツい決意を叫びます。
コースに参加した公務員の方は、こう話します。
あっという間で有意義な4日間でしたね!このコースは活動的な人達が集まっていたと思うのですが、自分たちの殻を破って次に進むところが肝なのかな、と。リノベスクールで得た新たな価値観に刺激されて、それぞれ帰ってすぐに報告会を行う人も多いです。
こんな公務員が増えたら、地域がもっともっと面白くなりそうですよね!
リノベーションスクールが生み出すこと
オープニングトークで、リノベーションスクールの立ちあげメンバーである「らいおん建築」の嶋田さんがこんなことをおっしゃっていました。
嶋田さん リノベーションスクールの目的は人材育成であり、街を動かす仕組みづくりであり、地域をまたいで同じ目的をもつ仲間がつながる場をつくること。
その言葉の通り、スクールに参加したメンバーたちはここで得た経験を持ち帰り、すでに自分たちの街で様々な活動をスタートさせています。
参加者のfacebookページでは、開催から1か月以上たった今でも積極的な意見交換や活動報告がアップされており、「実践する!」というスクールの想いがしっかり形になっているなと強く感じました。
事業計画コースに参加した不動産賃貸をされている方は、このように感想を話していました。
リノベ業界の最先端を行く人たちに切磋琢磨される環境は本当に勉強になりましたし、刺激的でした。ただ、もう一度参加するかと問われればNOですね(笑)
もうお客さんの立場で関わっている場合じゃない、学んだことを実践しないと!と思っています。この場の空気を、ぜひパートナーにも体感してほしいです!
タイトなスケジュールで徹夜するグループも少なくないなか、ディスカッション後は街にダイブ!して深夜まで飲み倒す。ユニットマスターのひとり、柿原優紀さんいわく「徹夜で過酷っていうより、楽しすぎて寝るのもったいない!というのが正しい表現』なのだそう。
スクールをひとことで表すならば「熱気」。とことん向き合い、語り合い、ぶつかり合い、つくり上げる場がそこにはありました。あのときあの場所で受け取った刺激を燃料にして、私も自分のフィールドで実践し続けたいと思います!
とにもかくにも、百聞は一見に如かず。
このレポートを見てピン!と来た方は、ぜひ次回のリノベーションスクールに参加してみてください。次回は夏頃だそうですよ。
合い言葉は「まちにダイブ!」