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福島のこと好きな気持ち、取り戻したい。地域の伝統工芸に女子の感性をプラスしてものづくりを行う「Fukushima Piece Project」

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「ものづくりからはじまる復興の物語」は、東日本大震災後、東北で0からはじまったものづくりを紹介する連載企画です。「もの」の背景にある人々の営みや想いを掘り下げ、伝えていきたいと思います。

東日本大震災以降、福島は「放射能」という言葉とセットで語られることが多くなりました。

こどもの頃から慣れ親しんできた豊かな山や川、美味しい野菜や果物が、見知らぬ人から「汚染されている」と言われてしまう。もしそれが自分の故郷だったら、どんな気持ちになるでしょうか。

福島のいいところを見つめ直して、自分たちの手で誇りに思えるものをつくっていこう。

傷つき悩んでいた福島の女子たちは、福島の伝統工芸に女子のセンスを加えて新たな製品を開発する「Fukushima Piece プロジェクト」を立ち上げました。

そこから生まれた製品は抜群の可愛さで、全国の女子から注目の視線が集まっています。

福島の「愛しいカケラ」を製品に

「Fukushima Pieceプロジェクト」を主催するのは、福島県郡山市出身の日塔マキさん。震災後、放射能に対する不安から一時期、県外へ避難していましたが、避難先で大きな違和感を覚えたそうです。
 
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震災前はイベント制作会社に勤めていた日塔さん

日塔さん 福島のことが話題にあがっても、語られるのは「原発が危険かどうか」「放射能が危険か安全か」ばかり。福島で暮らしている人や離れていった人の気持ちを考えてくれる人は多くありませんでした。

たくさんの人が苦しい想いをしていて、福島以外の人にとっても無関係ではない問題なのに…。もっと福島のこと、福島で生まれ育った人の気持ちを知ってほしいと思いました。

日塔さんは福島に戻り、福島をさまざまな方向から発信していく団体として「女子の暮らしの研究所」を設立。

十数人の女子が所属し、それぞれの興味に合わせて、ラジオやイベント、ツアー等を行うようになりました。その活動内容のひとつとして始まったのが「Fukushima Piece プロジェクト」です。
 
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日塔さん 原発事故の後、福島の女子たちは、いっぱい否定されてきたんです。避難をしてもしなくても、誰かから責められて。

いままで大事にしてきた暮らしを全部否定された気持ちになっちゃった子、自分の判断にも自分が育った土地にも自信を持てなくなっちゃった子がいました。

でも、福島には魅力がたくさんある。いままで気づいていなかった福島の伝統技術や素材を一つひとつ掘り起こして、「これ、いいでしょ!」と自慢できる可愛いものをつくれば、それが福島の女子たちの新しいアイデンティティになるかもしれない。日塔さんはそう考えたといいます。

会津木綿を樹脂で包んだ「ふくいろピアス」

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8つの色と3つの形で、24種類。イヤリングもあります

最初に完成したのが、会津木綿を樹脂で包んだ「ふくいろピアス」です。温かみある布の質感と透明な樹脂のクリアさが合わさり、なんとも繊細で可愛らしい仕上がりになりました。

会津木綿は質の良さから400年以上愛されてきましたが、昭和以降需要が急速に落ち込み、現在残っている生産工場は2社だけ。展開している製品も、中高年向けのものがほとんどです。でも、工場を見学した日塔さんたちは素朴な柄の可愛さを見て、「これは可愛くできる!」と確信したといいます。

形は丸・三角・四角の3種類があり、「いろんな意見があるけど、お互いを否定せず認めていこう」というメッセージが込められています。

色は「たいようのいろ」「そらのいろ」「うみのいろ」「たべもののいろ」「やまのいろ」「はなのいろ」「ひとのいろ」「どうぶつのいろ」と、身近な暮らしに関する色を選びました。その一つひとつに対して、女子たちが自分の想いを綴っています。
 
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「海はとてもきれいで、明るくて大好きだったけど、津波の恐ろしさがまだぬぐえない」

「庭でとれた野菜を食べるか食べないかで母と毎日けんかをしてしまって。どちらも悪くないのにけんかしてしまうことがただただ悲しかった」

「空を見ると、たくさんの人からかけてもらったあったかい言葉を思い出して、つながってるから大丈夫だって思えるようになった」

ネガティブなこともポジティブなことも包み隠さず率直に綴られた女子たちの言葉は、胸に迫るものがあります。

会津漆で塗った木の実のようなアクセサリー「omoi no mi」

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「Fukushima piece プロジェクト」の第2弾製品は、会津漆を使ったヘアゴムやブローチ。

表面は赤や黒の漆の代表的な色ではなくパステルカラーをメインに、「蜂蜜色」「珊瑚朱色」「花緑青」「紺瑠璃」の4色を使い、側面には金属粉をあしらっています。木の実のようなころんとした形から、「omoi no mi」と名付けました。

会津漆器は400年以上の歴史を持つ伝統工芸品で、蒔絵や沈金といったさまざまな意匠が施されている点が特徴。雅やかな美しさを持つ一方、若い世代にはとっつきにくい側面もありました。

若き蒔絵師職人の大竹由布子さんは、ふくいろピアスを見て「伝統工芸品でこんなにかわいいものがつくれるんだ」と感激し、「漆でもやってみたい」と思っていたそう。日塔さんに誘われ、一緒に商品開発に乗り出しました。
 
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蒔絵師のお父さまの仕事を見て育った大竹さん。震災後は移住も考えましたが、悩んだ末に「ここで蒔絵師として生きていく」と決めたそう。

ウェブサイトには、大竹さんをはじめ、女子たちの想いが詰まった「omoi no tegami」が掲載されています。それを読むと、女子たちが福島を離れる選択、福島に残る選択をした理由と、どんな希望を抱いているのかがわかります。

日塔さん 放射能に対する考え方はみんなバラバラだし、何が正解かなんていまだにわからない。意見が違う人を責めるんじゃなくて、それぞれの選択や想いをちゃんと認めて尊重できたらいいな、と思います。

見直さなくちゃいけないのは、原発のことだけじゃない

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「初めて福島の人の声に触れました」

「今まで自分には関係ないと思っていたけど、同世代の女の子たちの想いを知って、他人事じゃないと思いました」

「女子の暮らしの研究所」のもとには、製品を手にとってくれた方からのそうした声が届いているといいます。製品が、福島について考えるきっかけ、福島と全国の女子たちをつなぐツールになっているのですね。
 
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日塔さんは、「脈々と受け継がれてきた伝統的なものに支えられている。なくならないように、次の世代につなげたい」と考えているといいます。

日塔さん 震災後、「なんでみんな、“見ないふり”ができちゃうんだろう」って、その感覚を怖く感じました。でも、振り返ってみると、私もいろんなことを見ないふりをしてきたんですよ。知ろうとしていなかったことが、たくさんありました。

日塔さんは先日、熊本県水俣市へ視察に行ったといいます。そこで知ったのは、いまも水俣病で苦しんでいる人、症状が出ているのに差別されるのが怖くて言えない人がいるという重い現実でした。

日塔さん 戦後に国策としてどんどんモノがつくられて、効率化のために廃液が海に流されて。それでビニールのように便利なものができて、私たちはその恩恵を受けて暮らしている。でも、裏ではいまも苦しんでいる人たちがいて…。

大量生産大量消費は、原発と同じ構造だと思いました。便利で効率的かもしれないけど、その陰で辛い想いをする誰かがいる。

一人ひとりがちゃんとそうした背景を知って、考えた上で選んでいたら、もしかしたら水俣病も原発事故も起きなかったかもしれない。無関心でいた自分のせいでもあるって思って、ショックでした。

問題は全部つながっているから、見直さなくちゃいけないのは、原発のことだけじゃなくて、自分の暮らしに関すること全部。ほんとうに大事なものを見極めて、ちゃんと選んで、大事にできるようになれたらって思います。

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日塔さん、蒔絵師の大竹さん、塗り師の小松さんで新商品の相談中!

ほわんとした柔らかい雰囲気を持つ日塔さんですが、話をしていくうちに、とても芯が強く、自分の意見をしっかり持った方なんだな、と感じました。

でも、普段はそうした考えを声高に示すようなことはせず、研究員の女子たちと「次は何つくろっか〜」と楽しそうに笑い合っています。

日塔さん 「原発反対!」って叫ぶのも大事なことかもしれませんが、その雰囲気に引いてしまう人もいます。だって、私も怖いなぁって思うもん。…って正直に言うと、いろんな人から怒られちゃうんですが(笑)

でも、アプローチの仕方はたくさんあっていいと思うんです。

女子のチームをつくったのは、女子の共感力に期待したから。可愛いものや楽しいことに「わ〜!」って盛り上がって、みんなに広めてくれる女子の力。だからこれからも、福島の素敵な素材を使って、女子たちに気に入ってもらえるものをつくっていきたいなって思います。

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想いは真剣に、でもその表現方法はあくまで柔らかく、楽しく、可愛らしく。こうした「女子らしい」アプローチが、世の中を少しずつ変えていくのかもしれませんね。

あの震災から、もうすぐ4年。福島の女子たちがつくった製品を手にしながら、もう一度自分の暮らしを見直してみませんか。