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東ティモールに環境教育を! 日本人で初めてダライ・ラマに表彰された夫婦が取り組む”支援を支援する”活動「アースカンパニー」

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サモアでの救援活動当時の濱川明日香さん

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昨年、ダライ・ラマが“UNSUNG HERO(縁の下の力持ち)”を讃える賞に、2人の日本人が選ばれたことをご存じでしょうか。

正式には「Unsung Heroes of Compassion(謳われることなき英雄)」といい、献身的に人道支援を行う活動家たちがダライ・ラマから直接表彰される栄誉ある賞です。

4年に一度、世界で50人だけが与えられるこの賞に、2014年日本人として初めて選ばれたのが濱川知宏・明日香夫妻です。
 
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「Unsung Heroes of Compassion」授賞式でダライ・ラマに表彰される濱川夫妻

「縁の下」での活躍に徹してきた2人

妻である明日香さんは東京都出身の32歳。米・ボストン大学を卒業し、ハワイ大学大学院で太平洋諸国の気候変動の影響について学ぶ。

その後、海面上昇で水没の危機に晒される島国・ツバルの支援活動を行うNPO・ツバルオーバービューで副代表として活躍。2009年のサモア地震では津波被害の救援活動に従事し、2011年の東日本大震災後は石巻で7か月間にわたり復興支援活動を行っていました。

夫の知宏さんは神奈川県出身の34歳。米・ハーバード大学を卒業し、ケネディスクールで修士号を取得。ユニセフや国際開発NGO、東京大学での助教を経て、現在はバリに拠点を構えるNGOコペルニクに勤務。

戦略ディレクターとして途上国の生活向上に役立つローテクでローコストな商品を世界中に届けるというユニークな活動をしています。

誰もがうらやむ学歴を歩みながら、同窓に多い政府や金融業界には就職せず、世界を舞台に「縁の下」での活躍に徹してきた2人。

今回はこれまでと未来の活動に期待されての受賞でしたが、それでも「受賞の話が来たときは、私たちは到底この賞に値しないと選考委員の方に伝えたんです」と明日香さん。日本人らしい謙虚さが“UNSUNG HERO”らしい。
 
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シンプルな浄水器を途上国へ届けるコペルニクの活動

東ティモール“独立運動のシンボル”ベラとの出会い

そんな2人が最近立ち上げたのが「アースカンパニー」という団体。

アジアで最も貧しい国とされている東ティモールで、環境教育を受けられる学校の設立を目指す現地活動団体「サンタナ」を支援しています。

東ティモールは、国民の8割が農業を営みながら資本主義経済に参加する方法や知識を持っていないため、若い世代が農業と環境教育を学ぶことは非常に重要なことなのです。

「サンタナ」の代表ベラ・ガルヨスさんは、明日香さんとハワイ大学時代の同級生。明日香さんは「ベラとの出会いは、自分の国のために何ができるかということを真剣に考えるきっかけになりました」という。

1972年、東ティモールに生まれたベラさんは、幼少期にインドネシアからの壮絶な侵略戦争を経験。

やがて自身も祖国解放運動に身を投じるようになり、カナダへ難民として渡ったことを機に、各地で祖国の惨状を訴える“独立闘争のシンボル”として活躍。1999年、国民投票で独立が決まり国連機関の職員として念願の帰国を果たし、その後ハワイ大学へ留学、明日香さんと出会います。

明日香さん ベラは当時から国を背負うという意識が非常に強い人でした。東ティモール国内では、紛争の名残りからいまだに暴力が日常化しており、女性や子供たちの心のケアは必要不可欠でした。そのためにベラは心理学や女性学を学んでいたのです。

そして、2人は幾度となくお互いの祖国や世界の未来について語り合い、ときに激しく共鳴し合います。

明日香さん 東ティモールや世界の途上国が今後本来の意味での豊かな社会や国家を築くためには、先進国がこれまで歩んできた道を真似るのではなく、環境破壊をしない経済で発展し、新しい社会を創っていくべきだと。

そのために環境教育が必要なのです。ベラとは、お互い活動するときが来たら必ず協力すると誓い合いました。

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ハワイ大学留学中、学内イベントでの濱川明日香さんとベラさん

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東ティモールで子供たちに環境教育を実践する「サンタナ」の活動

「アースカンパニー」が取り組む「支援を支援」する新しい活動

帰国したベラさんは大統領補佐官として働きながら、傷ついた女性や子供たちの支援を始め、環境教育を実践すべく「サンタナ」を立ち上げます。

一方で明日香さんも決まっていた国連での仕事を断り、石巻で震災の救援活動に参加します。2人は自分の国のためにできることを、次々と実践していったのです。

やがて2人の活動がリンクし始めます。米・サンフランシスコで行われた「Unsung Heroes of Compassion」の受賞式にベラさんを招待した明日香さんと知宏さんは、そこで「サンタナ」の活動を知ることに。

当時「サンタナ」は、政府からの補助金が下りる直前に「女性が代表を務める団体への補助金は前例が無い」という理由で十分な支援が受けられないことが決まったばかりでした。

私財を投げ打っても事業が進まず苦しむ同志に、明日香さんが救いの手を差し伸べるのに時間はかかりませんでした。

明日香さんと知宏さんは、すぐに数人の仲間たちと「アースカンパニー」を立ち上げ、日本から「サンタナ」への金銭面での支援や広報活動に取り組み始めます。

クラウドファンディング「READYFOR」で寄付金を募り、東ティモール支援に積極的な企業へ「サンタナ」の活動を広めます。

つまり「支援を支援」する活動。日本では聴き慣れないが、欧米ではポピュラーなスタイルで、現地での活動で手一杯な支援団体のために資金繰りや広報活動をサポートします。

まさに「縁の下の力持ち」の2人だからこそたどり着いた新しい支援のスタイルなのです。

東ティモールが環境破壊をせずに国を発展させていくことができたら……。

そして、その発展に日本の経験が生かせるとしたら、どんなに素晴らしいことでしょう。

明日香さんとベラさんの友情から始まった「アースカンパニー」の支援は、日本と東ティモールに理想的な未来を描き出す、大きな可能性を秘めています。
 
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濱川夫妻は昨年よりバリに移住。1歳になる響(ゆら)ちゃん、12月に誕生したばかりの禅(ぜん)くんと

(Text: 上田洋平)