みなさんには、行きつけのカフェはありますか?
気持ちの良い空間で、コーヒーが美味しくて、様々なイベントも開催されている…気分転換とともにちょっとした新しい体験や感動がある、そんなカフェが近所にあると、毎日の暮らしが豊かになりそうです。
福岡の中心部から電車で20分ほどのところにある、筑紫野市のJR原田駅前。ここに、そんな理想的なカフェ「R’s café」はあります。
9年前に、当時のオーナーから引き継いで経営するマスターの澤田良二さんと、企画サポートからバリスタ、写真家としても活動するヒラツカクニアキさんに、カフェへの思いや美味しいコーヒー、こだわりのライブイベントについてお話しを伺いました。
ライブとコーヒーが魅力!駅前のR’s café
9年前にオープンした「R’s café」は、イベントの看板にも、さりげなくアートを感じるカフェです(「R’s café」提供)
JR原田駅は、原を「ハル」という九州の昔の呼び方で「JRハルダ駅」と呼びます。駅舎は新しく建て替えられましたが、少し離れた住宅地は新興住宅が立ち並んでいます。
筑紫野市の人口は現在10万人ほどで、福岡へのアクセスがよいため人口が増えつつありますが、原田駅周辺は昔から農業を営んでいた方が住んでいて高齢化。そんな地方都市にありがちな傾向がみられるところです。
カフェの店内は、ゆったりとした空間。子連れで親子も訪れる
その駅前にあるR’s caféは、音の響きがよい高い天井と55席の広いスペースが特徴。多肉植物やセンスのよい写真が飾られた素敵な雰囲気です。
週末に開催されるイベントはライブ音楽から朗読劇まで幅広く、11月末には店内を暗くしての「牡丹灯籠」の朗読会や、江戸音曲・三味線弾唄いの柳家小春師匠とジャズのジョイントライブなども行われました。
特に人が集まるようなエリアではないものの、様々な場所から、いろいろな年代の人々が集まってくる文化発信基地として賑わっています。
澤田さん 近くのバーでもライブをやっていて、楽しそうだから、ここでもライブが聴けたらいいなと。本当にそれだけなんです。
音楽をライブで聴く機会が少なかった人が「また来ます」と言ってくれたりすると、とてもうれしいですね。
ヒラツカさん 出演していただくアーティストは、紹介が多いですね。お声掛けをいただいたら必ずお会いして、「これはぜひお客さまにも聴かせたい」と思ったらお願いするようにしています。ちなみに打ち上げでは、必ずコーヒーを持っていきます。そうすると、リラックスできて話が弾むんですよ。
たくさんの人が集まるイベント。「R’s café」は、音が良いカフェとして知られている(「R’s café」提供)
コーヒーを味わうことも、ひとつの社会貢献
R’s caféのもう一つの魅力は、ヒラツカさんが淹れる美味しいコーヒーです。コーヒーを淹れるのはヒラツカさんの仕事。
「”こだわり”という言葉が好きではない」と言いますが、コーヒー豆の個性を引き出す淹れ方や、豆自体の知識を大事にしています。
コーヒーを淹れるヒラツカさん
ヒラツカさん コーヒーのフレーバーや甘みの特徴をとらえるため、感覚をフルに使って液体を観察していると、いつのまにか自分自身を観察していることに気づきます。コーヒーを淹れている最中は、禅の世界みたいですね。
そう語るヒラツカさんには、「スペシャルティコーヒーを、味わって飲むことは誰かを救うことになる」という信念があります。
ヒラツカさん スペシャルティコーヒーの品質を保つために、完熟した良い豆を選別するピッカーと呼ばれる人などに、仕事の対価がきちんと支払われています。そうしたつながりを意識することも大切です。
そして何より”味わう”ことは、味覚、嗅覚など五感をしっかり使うもの。自分の感覚に従って生きていくことこそ、社会を変えるきっかけになるはず。
コーヒーを味わって飲み、幸せな気持ちになる。そうして自分自身の感覚を研ぎ澄ますことこそ、社会貢献の大切なベースになるんですね。
ヒラツカさんが考案するコーヒーに合わせた季節のスイーツは美味しいと評判。新作ケーキのリンゴのタルト(「R’s café」提供)
“喫茶店世代”がつくる、肩書き抜きで人が集まるカフェ
「人と人が集まるのがカフェ」と澤田さん。子どもの頃から、喫茶店に行くとマスターを中心に話が進んでいくのを楽しそうに見ていた世代でした。
澤田さん 肩書きや世代、性別など関係なく、いろんな人が集まって、会話を楽しんで、気持ちを切り替えて帰っていく。それってジャズのセッションみたいだなって。
さまざまな価値観に触れることは、自分も刺激になって楽しいんです。
カフェを開くきっかけになったのは、「人生は一度きり」という言葉でした。もともと営業職をしていて、社長さんと話をする機会が多かったという澤田さん。
「どうして起業したのですか?」と聞いてみると、みな口を揃えたようにそう言ったそう。
澤田さん 会社が嫌だったわけではないのですが、その頃からいつか趣味のバイクを売る仕事がやりたいし、その隣にお客さまがくつろげるカフェがあるのも良いな、と漠然と思うようになりました。
そして、当時「ミルウォーキー」という名前だったカフェのオーナーから、「お店を継がないか」と声がかかったとき、「一度きりの人生」と決心を固めます。
ヒラツカさんは当時のお客さんのひとりで、18歳から飲食業を経験していました。そこで飲食業では素人の澤田さんを、ヒラツカさんがサポートするという二人三脚で、カフェ経営がはじまったのです。
オーナーの澤田さんはバイクの販売も手掛けています
今や遠方からもたくさんのお客さんが訪れるR’s caféですが、近くのガーデンショップや美容室でコーヒーを淹れるサービスを提供するなど、ご近所づきあいも大切にしています。
ときには「自分の足に合った靴で正しく歩く喜びを感じてもらいたい」というオーダーメイドの靴屋さんまる歩靴工房と、「コーヒーを五感を使って味わい、本当の味わう喜びを感じてもらいたい」というヒラツカさんが意気投合し、R’s caféで靴の展示・販売会も行ったことも。
オーダーメイド靴の展示・販売のディスプレイ会(R’s café提供)
このカフェに集まってくれる人たちと一緒に育てていきたい
来年はいよいよ10周年。そんなR’s caféのこれからについて、澤田さんは最後にこう言います。
澤田さん ともすると人生が動いてしまうこともある”言葉”を届けるために、ライブだけでなく朗読などを増やしていけるといいですね。これからもこのカフェに集まってくれる人たちと、一緒に育てていきたいです。
ハロウィンの日、仮装をした子どもたちがお菓子をもらいにカフェに来てくれました(R’s café提供)
地方の日常に、新しいカルチャーが根付くのは、時間がかかること。その中で、さまざまなイベントを通じて人と人が出会い、人生で一度の感動を共有するというカフェの役割は今後さらに大きくなりそうですね。
福岡市や新興住宅地から車で訪れる人と、駅周辺の昔から住んでいる人たちとの交流は課題も残りますが、一度足を運べばまた行きたくなるR’s caféの魅力には、何か大切なヒントがあると思います。
それはもしかしたら、一度きりの人生を楽しんでいる澤田さんの姿に惹き付けられているのかもしれません。ぜひみなさんも福岡に寄った時には、立ち寄ってみませんか?
(Text: 奥田景子)