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描く人も、つくる人も、買う人も。みんながしあわせになれる循環をつくり出すものづくり「たいせつプロダクト」

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自分で見つけたお気に入りのものや大切な人から贈られたかけがえのないもの。自分にとって大切な「もの」をどのくらい持っていますか?

また、洋服やアクセサリー、雑貨など、「もの」に込められたストーリーや背景を知っていますか?

福岡市中央区大手門にある「たいせつストア」には、障がいを持つ人によって描かれた色鮮やかなアートがテキスタイルになり、アートがいちばん活かされる形につくられた、「たいせつプロダクト」と名付けられた日用品や雑貨、衣服などが並んでいます。

「たいせつプロダクト」は、暮らしの中に福祉や心理といった人にやさしい眼差しを取り入れプロデュースされたもの。スカートやストール、エプロン、ブローチなど、すべてがオリジナルで個性的なラインナップです。

「たいせつプロダクト」のテキスタイルが持つパワーの秘密と「たいせつ」なことについて、スタッフのみなさんにお話を伺ってきました。

障がいを持つ人の感性を活かすプロダクト

福岡を拠点にした「たいせつプロダクト」のスタッフは、デザイナーの田中万理さん、広報、販促などが担当の木村明子さん、そしてオーガナイザー&アートディレクター鬼塚淳子さんの3人です。

「たいせつプロダクト」を事業展開する有限会社ジェイズファクトリーは、27年前にグラフィックデザイン事務所として立ち上げた会社。その過程で、自分たちがクライアントになって、自分たちの好きなものをつくりたい、という思いから自然派生したのがプロダクト事業部。

そして5年前に障がい者施設との出会いがあり、彼らの才能の素晴らしさをもっと多くの人に知って楽しんでもらうため、アートテキスタイル商品を開発するプロジェクトを始めました。

同じ福岡市の「障がい福祉サービス事業所愛」で行われている芸術表現活動「あいあいエクスプリモ」から生み出されるアート作品には、みな素直に思いのままに描かれた明るさやリズム、そして他にはない圧倒的な存在感が溢れています。

魅力的なモチーフをデザインしたテキスタイルとプロダクトからは、人を惹きつけ、心を楽しくほっとなごませてくれる力を感じます。

「たいせつプロダクト」のテキスタイルやアクセサリーなどをデザインされているデザイナーの田中万理さんは、もともとはグラフィックデザイナーです。田中さんに、「たいせつプロダクト」のものづくりについて伺ってみました。

田中さん 服のデザインは、それまでしたことがありませんでした。テキスタイルのデザインも初めてでしたが、感覚としてはグラフィックデザインの延長で紙のデザインから布へと素材がかわったという感じ。

そして完成したテキスタイルが平面から立体の服へと変化していきました。障がいを持った方によって自由な発想で描かれた、存在感のあるイラストが、テキスタイルに向いていると思ったんです。きっとすごくかわいいくなるんじゃないかな、と。

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鍋しきと鍋つかみの2WAYのアイデア

イラストを活かすものづくりが楽しいと話す田中さん。逆に、ものづくりにおける難しさは何でしょうか。

田中さん 確かに、どのイラストでもそのまま活かせるという訳ではありません。かわいいと思っても、スカートのデザインに入れてみるとイラストが映えなかったりします。

そんな時はデザインやイラストを使うアイテムを変えてみたり、イラストのモチーフから練り直すこともあります。

でも、できるだけイラストの世界感は変えず、色の発色をよくしてイラストがもっと映えるようにしたり、イラストの一部分だけを使ってみたり、服になったときに普段のコーディネートに取り入れやすい色使いやデザインにするなど工夫しています。

個性を活かす作業は、その個性と向き合うことから。試行錯誤しながら、バランスをとっています。

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色あざやかな原画

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原画のトマトの上の部分を裾にあしらった、たわわの実スカート

田中さんの「たいせつプロダクト」での次の挑戦は、ストッキング素材のソックス。「たいせつプロダクト」のアイテムはますます増えていきそうですが、お気に入りを長く着てもらえるように、年齢や流行を追わない「たいせつプロダクト」らしいものづくりをしていきたいと思っているそう。
 
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春・夏にあたらしく仲間入りしたニーハイソックスたち

言葉や素材からイメージが広がって、期待を裏切ってくれる絵の楽しさ

先述のとおり、3人のスタッフで共同運営している「たいせつプロダクト」は、全員ファッションの専門家ではなかったため、一つ一つの課題をいつも3人で話し合い、乗り越えていきました。
 
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広報から販売までこなす木村さん。イメージがデザインに生かされていく

「たいせつプロダクト」の目的は「ひとりひとりにとって価値のあるたいせつなものづくり」。クオリティや希少性、他にはない自分だけのデザイン、世界にひとつのオリジナルギフトの提案をめざしています。

そのため、クオリティをあげる国内生産や、希少性を追求する少ロット生産にこだわると、原価コストがあがり販売価格が高くなってしまい、商品は売れにくくなってしまいます。

木村さん 半年シーズン先を見据えたデザイン企画・販売等アパレルのスピード感にとまどいました。

「私たちらしいものづくりの方法は?」といつも考えながら、一般流通にのせて販売網を増やす努力、収益をあげる仕組みを構築中です。

あいあいエクスプリモの活動は、節分の鬼、春の桜など季節をイメージして描いたり、新商品にむけてテーマを決め図鑑や写真など準備し、メンバーが選んだ画材やカラーで思い思いに自由な発想で描いてもらうそう。

その中で、はっとするような斬新な色使い、思わず笑いがでてしまうモチーフが生まれ、毎回今日はどんな絵ができるのかと期待を裏切ってくれる楽しさがあると、木村さんは言います。

木村さん 例えば「お花畑」とテーマを伝えたうえで、フワフワしたもの、きれいなお花、などイメージを伝えて描いていただいています。イメージが膨らむように伝えることを大切にしています。イラストができ上がってくるのが楽しみで、お互いに楽しい相互作用があるんです。

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すべての商品に付けられているタグには原画が。しおりに使う方もいらっしゃるとか

テキスタイルを始めた当初は、“たいせつなものづくり”の意図に賛同してくれる小売店などの協力でポーチや小物などの制作を始め、販売数が少しずつ増えていくと手ごたえを感じるようになり、その後「アートのある暮らし&アートを身にまとうファッション」をテーマに、テキスタイル、インテリア、ファッションへとカテゴリーが増えていきました。

「たいせつプロダクト」の売上の一部は、作品の版権使用料として施設に還元。創作活動にかかる画材や素材、移動交通費などへ充当し、循環させているそう。

木村さん アートのよさを最大限に活かすデザインをし、他にはないオリジナリティと個性あるものづくりをすることで、一般マーケットに流通する商品と同等の販売価格を実現しています。アートの認知と商品価値を高めながら収益が上がる仕組みづくりを目指しています。

この「たいせつプロダクト」は、九州アートディレクターズクラブK-ADC AWARD プロジェクト部門に2013年と2014年の2年続けて入賞、2014年に福祉や企業、NPO、自治体、研究機関などの専門家がともに新しい仕事を生み出す「Good Job! 展」に選ばれました。
 
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楽しいイラストがそのまま刺繍された布ブローチたち

ひとりひとりみな違う。障がいは個性。

プロジェクトのきっかけは、福岡のデザイン産業の振興活動を目指す、「NPO法人FUKUOKA デザインリーグ」。

ここでは「デザインを活用した地域の経済振興」を目的とした、さまざまな活動が行われています。未来駅愛から自農園のブランディングデザインを依頼された際に、施設長から「障がい者施設の絵画教室が長続きしない」という相談を受けたことが創作活動のきっかけになったとか。

鬼塚さん たぶん、こちら側がこんなものを描いてほしいと思ってしまうと、その通りにできないことで不全感が生じます。

障がいの程度はそれぞれ違うので、その人がどんな画材だったら描きやすいのか、どんなインストラクションが受け入れやすいか、その人の持つ感性、障がいの個性に合った描き方を考えました。

そして、一緒に寄り添って描くことを促し、とにかく褒めました。すごいね、これ面白いね、大胆だね!って。

障がいと言っても、それぞれに違う個性や多様性があるのは当然のこと。そして、褒められてうれしいのは、みんな同じです。このファシリテーションが創作を引き出すきっかけといえます。
 
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キラキラパーツがついた、コーディネートのポイントになるデコブローチ

たいせつは、しあわせにつながる道筋

これらのものづくりを「たいせつプロダクト」と名付けた裏にはどんな思いがあるのでしょうか。その由来について、木村さんに聞いてみました。

木村さん 最初は絵本から始まりました。10年ほど前、社員のご両親の金婚式祝いにこれまでのふたりの人生を物語にした絵本をつくって贈ったら大変喜ばれ、それが膨らんで『あなたとあなたの大切な人の思い出が物語になるオリジナル絵本』として販売することになったんです。

世界にひとつだけのかけがえのない贈りものをつくる。それが「たいせつプロダクト」の原型です。

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一人一人の思い出が詰まったたいせつな絵本

鬼塚さん 現在、デザインと心理の仕事を両立しています。一見全く違うように感じられるかもしれませんが、実は深くつながっています。

デザインはもっとパーソナルで、感性や心に直結しているもの。ほっとする、温かくなる、自分を見つめる優しさや大切さをデザインする視点。人との交流の中での自分の存在、かけがえのないもの、大切なものに気づくことで、幸せな気持ちになれる。

その、日々の大切な個々の積み重ねが、幸せという大きな意識に育っていくと考えています。“たいせつ”は、”しあわせ”につながる道筋じゃないかなと。

自分の幸せへとつながる大切なもの。ギフトには大切な人から大切にされている、という思いを感じることができます。
 
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一緒に成長していってほしいという願いが込められたベビーギフト商品

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一つ一つホクロの位置まで似せてつくられるウェディングマトリョーシカ

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ネームやアイコンの刺繍を入れることで、特別なものになるガーゼのタオル

それでは、どうやって大切なものを選べばいいのでしょう?

木村さん たいせつな人へギフトを贈る時は、相手の好み・シチュエーション・なによりも喜んでほしいと思いながらプレゼントを選ばれると思います。

日々の暮らしを丁寧に過ごしていると、自分自身がよいと感じるものの五感にふれ、自分がもらってうれしいものを相手に贈りたいと思うようになり、そういう気持ちをたいせつにすることを私自身は心がけています。

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おすすめの春を感じるコーディネート。自分らしく元気になれるアイテムの提案も

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新作のスカートにニーハイソックスをプラスした個性派コーディネート

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春・夏のNEWアイテム 切り替えワンピースとおそろいのストール

“たいせつなもの”を選ぶ感覚や感情は、頭で考えるものではないのです。

ワクワクしながら継続していくこと

ファッションへの展開から今年で3年目を迎えた「たいせつプロダクト」。これからどのように展開されていくのでしょうか。

木村さん この先どうなっていくのか、自分でもワクワクしています。もちろん大量生産はできませんが、皆さんと共に幸せになりたい。やはり続けていくことが使命だと感じます。

思わずほっこりする絵の魅力、ヘボかわいいと呼んでいますが、それには私たちも癒されるので、それ自体の魅力も伝えていきたいと思います。

鬼塚さん ファッションは2シーズン目になりますが、まずきちんと定着させること。今は、社会的な価値と経済的な価値を合わせていくことが課題です。

私たちが障がいをもつ人の社会参加を手伝っているのではなく、同等の立場で障がいを持つ表現者の感性を生かすことでビジネスをさせてもらっています。

芸術表現活動だけでなく、ものづくり、デザイン、広報、発信など、企業としてCSVの活動を一緒に進めて行きたいです。今年は、表現者にモデルになってもらうファッションショーも開催予定です。将来は、障がい者施設も直接運営に関わっていってほしいという思いもあります。

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同じモチーフでストール、ポーチ、オーナメントなどバリエーションも豊富

本当につくりたいものをつくっていこう、という想いから3人でスタートした「たいせつプロダクト」は、特に福祉サービス事業所発ということをアピールしなくても、絵そのもののすばらしさやプロダクトのデザインに共感してくれる大勢のファンに出会うことができたそう。

鬼塚さん 自分がたいせつにされていること、していることを再認識できるような、媒介になるものづくりを通して、社会と交流できる仕組みをつくること、若者や障がい者の就労に関心を持っています。

働くことは何よりの自己実現や自己表現。健常も障がいもなく、みんなが自分のできることを活かして、一緒に働ける場をつくりたいと思っています。

ものや人を“たいせつ”にするという生き方は、自分自身の心の内面から社会全体まで、すべてを“たいせつ”に思うということでもあり、「たいせつプロダクト」の信念でした。

最後に、鬼塚さんの個人的に大切にしていることは何ですか、とお尋ねしてみました。

それは、「人との交流」だそうです。

ひとりでは何もできない、人と生きることを共にする、一緒に何かをやっていくことを大切にしたいとか。3人の「たいせつプロダクト」ですが、関わっていく人たちみんなで幸せになろうという思いが共通しています。

「たいせつプロダクト」には、どんな人にもある個性や自分らしさ、それを受け入れ活かしていけるという、やさしい視点がありました。それが、プロダクトが発しているパワーの秘密の一つ。

幸せになるために、自分にとって社会にとって本当に大切にしなければならないものは何だろう、と考える機会を与えてもらえました。
 
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たいせつストアの明るい店内には楽しくなるアイテムがたくさん

みなさんも、大切な人へのプレゼントや自分のお気に入りを見つけに「たいせつプロダクト」のサイトをのぞいてみてはいかがでしょう?

(画像提供:たいせつプロダクト)