みなさんは「人」以外のものに一目惚れをしたことがありますか? 例えば、「商品」「ブランド」「職人さん」など、挙げてみるとたくさんありそうですが、今回紹介したいのは、「国」に一目惚れをしてしまった人。
福岡を拠点にする大久保綾さんと高崎真理子さんの二人は、グアテマラという国に恋して、2012年8月「ilo itoo」というブランドを立ち上げました。
ブランド名の由来は、スペイン語でilo の前に発音されないhをつけhiloとすると“糸”を意味することから。スペイン語の“糸”が日本語の“色(イロ)”というところが面白いですね。
偶然にも、大久保さんと高崎さんが魅せられたグアテマラのカラフルな織りものをそのまま象徴しているようで、ilo itoo=色と糸から「グアテマラと私たちをつなぐ色と糸が、たくさんの人の心にたくさんの色が溢れますように」というブランドのコンセプトになっています。
このilo itooの生産・販売のデザインや生産などものづくりを担当する大久保さんと、広報や営業、販促を担当している高崎さんにお話を伺いました。
現地先住民と紡ぐ手織りもの・アクセサリーブランド「ilo itoo」
アンティーク生地を使った「コルテ」シリーズのバッグ:小7,000円 大12,000円 (税別)
中央アメリカ北部にあるグアテマラのマヤ系先住民の女性たちは、マヤ時代から伝わる手織りを伝統としてきました。「ilo itoo」はその伝統技術を生かし、手織りの布を使ったストールやバッグ、アクセサリーを現地で生産し、日本で販売しています。
カラフルでエネルギー溢れるグアテマラの手織りものは、想像もできないような細かい作業を経て生まれます。大久保さんと高崎さんは、グアテマラの手仕事が守り続けられることを願って、現地の先住民の女性たちと一緒に商品づくりを始めました。
一緒に働いている縫製メンバーは現在7人。これから少しずつ増えて行く予定です。ほとんどが生まれた町で一生を過ごす彼女たちは、日本がどんなところなのか想像もつかないけれど、日本に自分たちがつくったものが届くなんて夢のようだと話しているそう。
ソーインググループ
真っ青な空と山々の深い緑、色濃い花々、カラフルな建物、そして大音量の音楽など、すべてが「ilo itoo」のプロダクトに溶け込んで、日本でバッグやストールを使う人たちを元気にしてくれます。
グアテマラとの出会い
マヤ系先住民は、基本的に男性は農業、女性は手織りものなどの手作業を生業にしています。どちらかと言えば保守的な男尊女卑社会で、今でも貧しい家庭の女の子は学校に行くより家の手伝いをしなければならない、という古い価値観が残っているのだとか。
「ilo itoo」を立ち上げた大久保綾さん
そんなグアテマラと大久保さんとの出会いは、服飾の勉強をしていた大学生の時に見た『五色の燦き』というマヤ民族の本でした。日本では見られない、明るい原色の組み合わせと色使いに衝撃を受け、「強く魅かれた」と言います。カラフルでエネルギーにあふれるilo itooのプロダクト誕生のきっかけです。
その後大久保さんは、グラフィックデザイナーとして就職したものの、大学生の時に出会ったグアテマラが忘れられず仕事を辞め、グアテマラに渡航。自分にできることをしたいと悩み、伝統の織りを生かしたデザインを提供しようと決心しました。
大久保さん ちょうど青年海外協力隊(以下、JOCV)の募集に、グアテマラでそのような仕事をする活動があったので、応募し派遣されることになりました。
同じく「ilo itoo」を立ち上げた高崎真理子さん
一方高崎さんは大学卒業後、環境に携わる仕事を探していたものの叶わず、以前より興味があったJOCVに応募し、同じグアテマラに派遣されることになりました。
高崎さんと大久保さんは、それまで面識があったわけではなく、2008年に高崎さんがグアテマラから帰国してから、JOCV関連の知人を通じて知り合ったそう。大久保さんと高崎さんの巡り合わせも、運命的なものが感じられます。
「マヤ系先住民は、シャイで、奥ゆかしく、家族を大切にする人たちで、どこか日本人に通じるところもあった」と高崎さんがいうように、治安は悪いものの、グアテマラの優しい人々、人柄、国柄に魅かれていった二人。
とはいえ違う文化の中で、小さなコミュニティ特有のマイナス面にぶつかったこともありました。
高崎さん 最初はちょっとしたことで怒っていました。「なぜ働いてくれないの?」「なぜちゃんとしないの?」と。当たり前ですが日本の普通とは違うので、グアテマラを嫌いになる人もいます。
大久保さん 近所で自分たちに対する悪口や妬みなどの話を聞いたときは、ショックを受けました。でも人を信じるのって、自己満足でもあるんですよね。
高崎さん だまされたり、嘘をつかれたりしたときに、「どうしてだろう」と思ったこともありますが、それは、その人がそこで生きていくために必要な処世術だったりするんです。根気強く、悩むことなく、いつも笑顔を絶やさない。何だか憎めない人たちで。そんな人間関係に悩んだ時に、温かく励まし、助けてくれたのもグアテマラのおばちゃんたちでした。出会った人が、みないい人たちだったんですよね。そのときこちらの文化を押し付けてはいけないことも学びました。
日本家具と組み合わせても、意外と違和感がありません
異文化の人たちと仕事をするということは、大変なことが多いものです。特に縫製工房のメンバー集めには苦労がありました。
諦めずに探していたところ、大久保さんがJOCV時代につながりがあった町で、連絡係ができる人、そして縫製が上手で検品の概念を理解できる人という、ビジネスのキーとなる人が現れます。
大久保さん その二人がいてくれるので、良いものをつくって、それを売って、グアテマラのみんなの元へ返ってくるといういい循環ができています。
また、「裁縫道具が十分に整っていない」という課題もありました。日本では、目盛りがきちんとしていないモノサシ、切れないハサミ、平らでない机など考えられないことですが、グアテマラは、そんな当たり前のものがない国。
きちんとした品質のプロダクトをつくるために、二人は知り合いに「グアテマラへ送るために、裁縫道具を譲ってください」と呼びかけ、いい道具を集めていきました。
ギリギリまで何もやらなくても、いつの間にかどうにかなっている、帳尻合わせが上手いグアテマラの人たち。言えばキリがないというマイナス面は、二人とも深刻に受け止めてきませんでした。
起きる出来事にはとらわれず、相手を尊重し、裏切られても相手のせいにしなかった大久保さんと高崎さん。縫製工房が火事になるなど大変なことはたくさんありましたが、大久保さんの「20歳の時に出会ったグアテマラにご縁を返す」という、覚悟のような内面のつぶやきのような言葉が印象に残ります。
人気の手織りショール:各13,000円(税別)
手織物の6枚はぎハット7,800円(税別)
やりたいことが社会貢献に
今、「やりたいことをやれているのは、どうしてだと思いますか?」という質問に、高崎さんは「最初はもちろん躊躇した」と答えます。
高崎さん でも、同じ福岡で、同じグアテマラに行った人に出会い、かわいいと思った商品に出会った。それならやらないで後悔するより、やって後悔する方がいいと思っていて。
最近はグアテマラと関わりが薄くなっていくのが寂しくて、逆ホームシックになっているくらいです(笑)
一方、大久保さんは、人に話すことで自信をつけていったそう。
大久保さん 私たちは伝統の織りものをそのまま飾ったりするのではなく、デザインして使ってもらうという”布を変換する”というアイデアなんです。
そういう構想をみんなに話すと、それなりの反応があって自信になりましたね。二人だけで、全く計画性はありませんでしたが、一緒にやってくれる人と出会う中で、気持ちが定まっていきました。
ilo itooは、フェアトレードもエシカルも目標に掲げているブランドではありません。ただグアテマラが大好きで、伝統を大切に守ってきた女性たちをサポートしたい。そんな「自分たちのやりたいこと」に純粋に喜びを感じた結果、社会貢献になっているのです。
鮮やかな織りのポンチョ
トカゲのブレスレット(来年に入荷予定)
たくさんの人の心に、たくさんの色が溢れますように
手作業の味わいを残しながらも、百貨店で取り扱ってもらえるほど高いクオリティを持つilo itooのプロダクト。今後もさらに質を高めていくだけでなく、女性の地位や立場が低い国で女性が活躍できるよう、現地の工房で企画からデザイン、販売まで、すべてできるようになる状況を目指し、さらに活動を広げていく予定です。
今年は締切日を過ぎてしまいましたが、「風の旅行社」というツアー会社と手を組み、グアテマラの観光スポットとilo itooの生産現場であるサン・フアン・ラ・ラグーナを案内するツアーが来年も企画されています。
日本とグアテマラをゆるやかにつないでいるilo itoo。日本では強すぎると感じるグアテマラの色は、シンプルでベーシックな色のアイテムと合わせると両方が引き立ち、気分が明るくなるはずです。
カラフルでエネルギー溢れるグアテマラの手織りのプロダクトが気になったら、まずはオンラインストアをのぞいてみませんか?
(Text: 奥田景子)