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ほしい暮らしは、“小屋”にある!?一條美賀さん、一條太郎さんに聞く「自分好みの暮らしのつくりかた」

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どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。「暮らしのものさし」は、株式会社SuMiKaと共同で、自分らしい住まいや好きな暮らし方を見つけるためのヒントを提供するインタビュー企画です。

ツリーハウスがあるとして、時間の余裕もあるとして。
「ツリーハウスで何をしたい?」と聞かれたら、みなさんどう答えますか?

読みかけの本とコーヒーを持って行ってこもったり、枕やクッションを持ち込んでお昼寝したり、大切な人と普段は話せないような話をしたり、夜には星空を眺めてみたり。

そこにあるのは、まさに自分好みの、自由な時間。

ツリーハウスという、暮らしに必要ないろんな機能やモノを削ぎ落した、シンプルで小さな空間が、自分のほしい時間もシンプルにしてくれるのかもしれません。

今回は、自分好みの暮らしのつくりかたについて、2014年3月に期間限定でオープンしたSuMiKaツリーハウス工務店」にて“木を取り込み、木に寄り添うツリーハウス”を提案した、建築家の一條美賀さん、一條太郎さんにお話を聞きました。

住まいの機能を削ぎ落すと、ほしい暮らしが見えてくる

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写真左が一條美賀さん、右が一條太郎さん。東京都渋谷区富ヶ谷にて「一級建築士事務所 まんぼう」を主宰。個人住宅を中心に設計をしています

一條美賀さん、一條太郎さんがSuMiKa「ツリーハウス工務店」で提案したのは、「木に住む」ツリーハウスと、「木と住む」ツリーハウスの2種類。

キッチンやお風呂といった水廻りや収納は、木のすぐ近くに建てられる“設備棟”に集約して、リビングやダイニング、個室や寝室を従来のツリーハウスのようにつくってみる。もしくは、既にある母屋を増築して、小さなプラスの空間を木の上につくりましょうというものです。

ツリーハウスに現実的に暮らすことを考えると、水廻りやできればキッチン、大きな収納は切り離して置くのがいいと考えました。木のすぐ近くの母屋と、木の中にある小屋は、ブリッジでつないでもいいし、アクセスははしごでもいい。いずれにしても、くつろぎの場所を独立させて緑の中に取り込み、特別な時間を過ごすための空間を、“小屋”として用意するという提案です。

住宅は、水廻りにしても、収納にしても、実はとても制約の多いもの。そうした制約を切り離して、楽しむ要素だけを“小さく”つくることで、そこで何をしようかという発想になると、暮らし全体が全然違ったものになると一條さんはいいます。

小屋というのは、とても面白い空間だと思います。いろんな制約があってひとつの住宅が成り立っているわけだけど、逆にいろんな制約を取り払ってみると、そこでどんな時間を過ごしたいかという欲求が見えてくる。住まいの機能を削ぎ落したところに、ほしい暮らしがあると思うんです。

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SuMiKa「ツリーハウス工務店」に展示された一條さんの「木と住む」イメージ

木のすぐ近くにある母屋も合わせて、ひとつのツリーハウスと考える。その考え方は、必然的に“外部”を“内部”として扱うということでもあります。

ツリーハウスでなくても、例えばひとつの敷地のなかにひとつの住宅とせずに、小屋のような箱が点在していて、全部はつながっていない、でもまとめてひとつの住宅という考え方も成り立ちます。この場合のメリットは、小さくすればするほど、試しながらつくることができるということだと思うんです。後から増やしていくのも簡単ですしね。

キッチンとダイニングのある母屋を中心としたメイン棟と、個室棟、トイレ棟、お風呂棟…。住宅一棟を考えると難しそうですが、住宅の一部であれば、自分自身も手を動かして住まいをつくることができそうです。

暮らしを楽しむために、DIYで暮らしをつくる

最近の施工事例を一條さんにお聞きしてみると、「多くの施主さんは、ベースとしての家をつくり、住みながら自分たちで付け足したり、つくったりすることを楽しんでいる」といいます。

例えば、南足柄の平地に建つ、夫婦+犬1匹のための住宅では、大胆な吹き抜けを採用して、ご主人こだわりの100インチ超のホームシアターや、奥様こだわりのブランコがあるなど、細部にこだわり要素があるものの、“すべてをつくり込んではいない”のだそう。
 
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南足柄H[2008]。大胆な吹き抜けの、大きな1LDK。キッチンの奥は、冷蔵庫や食品庫が来客時には隠せるような収納になっています。家中の至るところにご主人が大好きなNBA選手の身長寸法を盛り込んだ、遊び心のある空間

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南足柄H[2008]。砂利も芝生も自分たちで敷いたもの。芝生部分は、隣地の親族宅とつながるドッグランとして使われています

禅問答のようですが、つくり込んでいるんだけど、つくり込まない住宅が多いですね。外構は土のまま引き渡しをして、施主さんがご自身で砂利を買いに行ったり、芝生を敷いたり、デッキのテーブルをDIYでつくってみたり。ベースの部分さえあれば、あとは自分たちで楽しみながら足していきますよという、暮らしかたをつくることも楽しみたい人が増えてきているように思います。

こちらは、犬と暮らす自然エネルギーを活かした土間コテージのある家。全てつながる大きなワンルーム空間でありながらも、キッチンや水廻りの収納家具を配置することで、いろんな時間を過ごすための“場所”がゾーニングされています。
 
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鎌倉N[2011]。1Fには蓄熱式の床暖房と薪ストーブを配置して、暖められた空気を循環。屋根に載せた太陽光パネルと薪ストーブからの自然エネルギーを料理に使うなど、エネルギーを無理なく取り込んでいます

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鎌倉N[2011]。2Fは吹き抜けに面して子ども達が自由に使えるギャラリーと、家族の気配を感じながらも個々の時間を楽しむファミリーリビングが設けられています

こちらの施主さんも自分たちでつくることを楽しんでいて、大きな庭には薪小屋を建てたり、椅子をつくったりしています。少し余白があって、住む人がその余白を自分好みに手を加えていく。その余白をつくるところが、建築としての仕掛けだったりするのかもしれません。

何部屋欲しいということではなく、あくまでどんな暮らしがしたいのか。一條さんは、「後から竣工された家に伺ってみると、余っているスペースがないんです。それはスペース足りないのではなく、楽しんで使うことに成功しているのだと思う」といいます。

カタログから選ぶ暮らしから、自分でつくる暮らしへ

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それでは、自分好みの暮らしは、どのように見つけられるのでしょうか。

冒頭で紹介したツリーハウスのように、住まいの機能を削ぎ落していくと、ほしい時間が見えてくる。けれども、削ぎ落して考えるような機会がなく、「この家にします、とカタログから選んで注文すれば、建ってしまう時代でもある」と一條さん。

日本人は真面目だし、器用なところがあると思うんです。どんな空間を与えられても住みこなせてしまうというか。でもそうじゃなくて、暮らしかたや空間について、もっと素直になって考えたらいいんじゃないかなって思います。もうちょっとこうだったらいいなと気づいたら、自分で少し手を加えてみるとか。

これまで“お任せ”にしてきた住まいづくりを、もう一度自分たちの手に取り戻して、自分たちで考えて、自分好みな空間にできたなら。自分にとって本当にフィットする住まいは、自分にしかつくれないものなのかもしれません。
 
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この道の先に、小さな小屋を計画中なのだそう

家を建てるとなると、20年、30年先まで考えたりしますよね。でも、それって本当に必要なんだろうかと思います。

例えば子ども部屋をどうするか。10年後にやっと使うことになった時には“倉庫”になっていたり、そこから仮に使ったとしも大学生で一人暮らしを始めるなら、実際に使われるのは8年間かもしれない。その後は、夫婦ふたりの暮らしに戻るんです。

一番大きいスペックではなくて、一番小さなスペックをベースに考えたほうがいいのでは、とよく話していますね。

この“一番小さなスペック”を考えるときに、ツリーハウスをイメージしてみると良さそうです。ツリーハウスで、家具がない6帖の空間を想像してみると、結構広い。時間を楽しむために必要なものってそんなにないはず…。

本とコーヒーとクッションと…。時間を楽しむだけなら、3帖ほどの空間があれば、十分ですよね(笑)。もちろん、人が暮らしていくための“機能”を住宅に備える必要はありますが、ツリーハウスは、自分の住まい方を問い直すいいツールだと思います。

何が必要で、何が必要じゃないのか。今の暮らしを心から楽しめているのか。建築家としては、建てた家に暮らしを持ち込んでもらうのではなくて、自分の暮らしにはこの家だ、というものをつくっていけたらと考えています。

一條さんは現在、葉山の住宅地に“住むのではなく、ちょっと寄る”ための小屋を施主さんと共につくっているのだそう。
 
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SuMiKaウェブサイトの一條美賀さん、一條太郎さんのページ。実際に相談したり、依頼したりすることができます

サーフィンを楽しんだ帰りに、ちょっと寄るための小屋は、本当に必要最低限。トイレは欲しいけど、お風呂はシャワーくらいでいい。別荘ではないから、キッチンも、収納も、家具もいらない…。小さい規模で考えると、身軽さがありますよね。住宅としての確認申請がいらないくらい。

楽しむ部分だけを、小さくつくる。完成品としての家ではなく、自分の手を加えて、暮らしを楽しむための家にする。そうすると、きっと暮らしは大きく変わると思うんです。

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最後に一條さんは、都内にもツリーハウスのカフェがいくつかありますよ、と教えてくれました。

例えば、原宿の「HIDEAWAY」や、広尾の「Cafe Les Grads Arbes(レ・グラン・ザルブル)」、それから横浜の「なんじゃもんじゃカフェ」など。

そうした小さな空間で、本当にほしい時間について、本当に必要なサイズについて、本当に必要なモノについて、思い巡らしてみるのも楽しそうです。