今回訪ねたのは、日本で最も美しい村連合に加盟する岐阜県下呂市の馬瀬地域。下呂温泉で知られるエリアの西に位置する、自然にかこまれたこの小さな村の中央には、青く美しい「馬瀬川」が28kmにわたって流れ、鮎が泳いでいます。
「全国水の郷百選」や「平成の名水百選」に選ばれ、鮎釣りの名所としても知られています。川沿いに点在する集落には、養蚕を行っていた名残のある昔ながらの家屋や釣り人を迎える宿がちらほらと残っています。
「なんにもない!」が一番の魅力!
しかし、いざこの村をめぐろうと、出会う村の人に「ここに来たらどこ行けばいいですか?」とたずねてみると、たいてい返ってくるのは、こんな返事。 「この村には、なーんにもないよ!」 人口約1,300人の小さな村。小学校のひとクラスは約10人。
商店街はもちろん、スーパーもコンビニも、なんと信号もない。村のマップには、川と滝、ダム、オートキャンプ場、神社、協同組合と振興事務所。そのまわりには、鹿と猪と猿と狸の絵が散りばめられています。
「確かになんにもなさそうだけど……、何しよう?」と、戸惑っていると、「なんにもないのがいいんだよ! ゆっくりして行ったらいいじゃない!」と村の人たちに笑い飛ばされました。
あまりに村の人たちがガハハと笑って「なんにもないのがいい!」と言うので、なんにもない魅力とは一体何なのか、村を巡りながら、のんびりと考えてみることにしました。
ゆったりとした時間に笑いが溢れる村
名所などを聞かれると、特別なものはなんにもないんですよ。けれど、山と美しい川と温泉がある。でも、それだって、日本の温泉地に行けばみんなあるかもしれませんね。“一番”ではないかもしれない。それでも、とても気持ちが良いから、いつでも来られたらいいですよ。
高台にあるホテルの支配人にこの村の魅力を聞いて返ってきたのがこんな答え。
支配人が、「日本が失いつつある景色がありますよ」と言うとおり、村の景色は、まさに「まんが日本昔ばなし」の世界。
そして、「どこかにご案内しようと思って考えれば考えるほど、特別なものは何もない村なんです」と笑うのは、隣村から馬瀬に嫁いできて、去年から馬瀬振興事務所で働く熊崎さん。
それでも、この村では山から流れる水をだれでも汲むことができて、その水でお米炊くとすごく美味しい。お茶をいれても美味しい。この村のそういうところが大好きなんです。
と熊崎さんは言います。年中枯れることのない豊かな湧き水、そして大きな自然をみんなの財産として大切にしているのもこの村の魅力です。

隣町で和菓子屋さんを開いている店主も、「かき氷を作るには、馬瀬の水が一番良い」と言って、夏にはわざわざこの湧き水を汲みに来るのだそう。
しかし、やっぱり、“ないもの”もたくさん。熊崎さんは、 「バスも一時間に1本もない。病院もない。でも、信号もない。でも、信号がないから待たないし、保育園も待機ゼロだからすぐ入れるわよ!」と笑います。そんななんにもないなかでの熊崎さんがオススメの場所として案内してくださったのは、道の駅。
訪れてみるとこの道の駅が、なんとも……、小さい。その小ささに驚きながら扉を開けると、 「あら、 今、小さいな〜って思ったでしょ!! 日本ーよ! 日本ー小さい道の駅よ!」 と、これまた明るい笑い声とともに現れたのは、この道の駅で働く小林さん。
「一番のおすすめ商品はなんですか?」とたずねると、 「おすすめ? そうね、なんにもないから野菜かしらね! でも、冬は、野菜もないの。ほんと!なんにもないわね! あはは!」
そう、ないものに対しても、決して否定的ではなく笑いに変えてしまうおおらかさも、この村の大きな魅力なのです。
道の駅「さんまぜ工房」にて。熊崎さんと小林さん。
ところで、この村には、「公園」もない。大きな自然公園はあるけれど、いわゆる町なかの公園(簡単な遊具があるタイプの公園)は見かけない。それでは、子どもたちはどのように遊び、育つのでしょう?
そうね、そのへんを……、勝手に走り回って育つわね。物がないから、自分なりに工夫しながら遊ぶのよ。いい子に育つわよ。
結局、馬瀬の魅力と言えば、美しい水と空気とごはんを味わって、明るい村の人たちとたくさん笑うということだった。会話のなかにしばしば登場するのは、村で続く祭のこと。農業祭、蚕祭、温か祭、甘酒祭など、小さな祭がたくさん続いていて、村の人はその度に、神社などに集まって一緒にすごし、たくさん会話をする。
「なんにもない」なかには、たくさんのものがある。この笑いの村の人たちが、「ないよ」と笑うものは、別になくても良いから笑われているのかもしれません。日々新しいものからの学びを得る都会の生活とは対照的に、この村では、「本当に必要なものはなにか」を自分自身に問直せる気がします。

馬瀬川の鮎は、引き締まった身からほのかにスイカに似た香りがするという一級グルメ。「利き鮎会スペシャル in TOKYO」でグランドチャンピオンに輝いたこともあります。
さらに、村を歩いていて出会うのは、自主的に草刈りや道の整備をする人たちの姿。景観を保てるのは、こういった郷土愛溢れる地元の人たちの協力があるからこそ。
実は、馬瀬には、住民自らが定める『馬瀬地方自然公園住民憲章』があります。これは、住民たちの自主的な地域づくりを進めるため、フランスの地方自然公園制度を手本に作られたもの。地域全体を「馬瀬地方自然公園」として、住民主体の地域づくり団体が景観づくりに取り組んでいます。
もうずーっとこの村に住んでいるけど、夏に川辺を歩いていて、風が吹くと、ああ、なんて気持ちいい村なんだろうって思うのよ。
と、熊崎さん。美しい夏がまた来るのを楽しみにしているのだそう。
一緒に馬瀬を盛り上げませんか?

冬はキャンパーも釣り人もおらず、とても静か。飲食店も少ないけれど、お酒を飲む時は、家や公民館に仲間が集まって盛り上がるのだそう。
そんな地域愛とたくさんの笑いが溢れる馬瀬地域ですが、近年では少子高齢化も著しく、外部からの若い力を必要としています。
今募集しているのは、「馬瀬地域の地域おこし協力隊」1名! 地域おこし協力隊としてこの村でどんな活動をするのかというと、たとえば、こんなこと。
・日本一美味しい鮎を中心とした特産品の開発
・地域住民が持つ課題や情報を共有し、みんなで解決できる仕組みづくりへの取り組み
いわば、馬瀬の魅力アップとより住み良い地域づくりに参加するのです。勤務は、月曜日から金曜日の週5日。9時から3時45分まで。(仕事帰りに馬瀬の名所であり、地元の人も大好きな温泉で、ゆっくり疲れを癒すこともできます!)働くためのサポートは、以下。
・車とパソコンも提供!
1年ごとの契約更新制で、最長3年間の任期となり、任期は早ければ2014年5月からのスタート。夏になると鮎釣り大会や馬瀬川花火大会が開催されたりと、イベントが盛り沢山なので、さっそく大忙しの活動が始まります。
「まずは馬瀬に来て、この場所を好きになって欲しい」という熊崎さんにどんな人に来てほしいかをたずねました。
人が好きで、フットワークが軽く、地域全体を巻き込んで活動できる方。馬瀬にあるさまざまな団体と横断的に繋がって、そこから新たな仕組みを作るなどして、馬瀬に活力を吹き込んでほしい。サポートの準備は整っていますので、まずは小さなことから一緒に馬瀬の魅力を発掘し、発信していきましょう。
みんなを包み込んでくれる美しい景色と笑いの溢れる村。この村を守っていくために村の暮らしに飛び込んでみたいという人は、ぜひ!