2013カンヌ受賞作の連載、今回はブラジルからの事例をご紹介します。
ブラジルは熱帯の国ですが、冬の間、サンパウロは肌寒くなります。季節が変わる前に行われるのは、衣料品のセール。貧しい人たちに着るものが必要になってくる時期は、セールがあるために寄付が少なくなる時期でもありました。
昼と夜の寒暖差が大きく、身体にこたえるサンパウロの冬。ホームレスや貧しい人たちに、あたたかい衣類を届けたい。そう考えたショッピングモールの「Villalobos」は、セールの時期、モール内にある店舗をつくりました。
「A Loja Vazia」というブランドを掲げたガラス張りのスタイリッシュな店舗に並べられたのは、マネキンや棚、ハンガーのみ。商品らしきものは何もありません。この空っぽの店は、消費の場ではありません。着なくなった服を寄付としてもってくると、それがまるで新しい服のようにディスプレイされるのです。
サンパウロ知事やサッカー選手などの有名人が服を寄付すると、空っぽの店にどんどん服が集まりました。しかも、自分の寄付する服がスタイリストたちによって素敵にディスプレイされるのですから、いい服を持っていこうという気持ちになります。そう、普通衣類の寄付というと、傷んだ服などがドッと持ち込まれることがありますが、オシャレに展示するという工夫で、状態のいい服が集まることになったのです。
セール期間に行われたこの取り組みで集まった服はなんと3.2トン。この取り組みに関心を寄せる他のショッピングモールもあらわれたことから、「A Loja Vazia」はオープンソースのプロジェクトになりました。ショップのキービジュアルやツールなどをフリーにして、誰でも使えるようにしたのです。
ただ消費するだけの場所ではなく、リサイクルや社会的な問題を考えさせる場所へとショッピングモールを変えたこの取り組みは、セールの時期以外の寄付の動向にも影響を与えたということです。
そもそも消費を煽るセールをやってることと矛盾するのではないかとも思いますが、売らないと成り立たないショッピングモールの貴重なスペースを使って「売らない」店をつくったことは大きな決断なのでははいでしょうか。流通、そしてファッションが変わる第一歩として、このような取り組みが広がっていくことを期待します。
カンヌライオンズ受賞作の連載は続きます!引き続きお楽しみに。
(翻訳協力:モリジュンヤ)