ガタンッゴトーン、ガタンッゴトーンと独特のリズムに揺られながら、電車の中で本を読んだり考えごとをしてみたり。ただ目的地に行くためだけでなく、ちょっと集中して作業をするのにも、意外と電車の中はピッタリだったりしますよね。
そこで今回紹介するのは、全米鉄道旅客公社Amtrakが始めるライター・イン・レジデンス「Amtrak Residency」。以前「ライターさんには無料で空き家をプレゼント!?デトロイトに誕生した「Write A House」」でも紹介したライター・イン・レジデンスとは、一定期間ライターに滞在場所を提供し、その創作活動を支援する制度のことを言います。
多くの場合、ライターは地域の空き家や宿泊施設に滞在しますが、「Amtrak Residency」でライターが滞在する場所はなんと寝台列車!ライターにはAmtrakから往復チケットが無償で提供され、机やベッド付きの個室も利用することができます。ただしライターが寝台列車に乗るのはあくまで創作のため。終着駅に着いたライターは次の列車で始発駅にとんぼ帰りすることになっています。
Jessica Gross(ジェシカさん)
バタバタした日常生活ではなかなか深く考える時間を持てないのですが、あまり気を張らずに車窓から外を眺めていると、いつの間にか思考がひとり歩きすることがあって。意外と電車の中は、考えを巡らすのに向いているのかも。
こう振り返るのは、1月のニューヨーク-シカゴ間を44時間かけて往復したジェシカさん。他にも、電車独特の心地よい揺れ、乗り合わせた乗客との出会い、始まりと終わりがはっきりした鉄道旅行ではメリハリがつけやすい点など、たくさんの魅力を発見したそうです。
「Amtrak Residency」を終えてジェシカさんが書いたエッセイは、文芸誌「the Paris Review」に掲載されました。
ジェシカさんが車窓から見ていた雪景色
予想以上に大きな反響を受けた「Amtrak Residency」は、1年間の正式なプロジェクトとして採用されることに。プログラムも進化して、2日間から5日間のルートを15本用意し、合計24名のライターを招待する予定です。募集するライターのタイプはあえて限定せず、小説家や詩人、ジャーナリストまで、熱意があればプロ、アマ問わず誰でも応募できます。
また、「Amtrak Residency」が終わってから作品の発表をするかどうかについても、ライターの自由にゆだねられるのだとか。およそ1ヶ月前に応募受付が始まりましたが、応募総数はなんと7,000人を超え、多くのライターに期待されている様子がうかがえます。(ただし、今回はアメリカ国籍を持った人に限られているようです)
広大なアメリカでは、実は鉄道よりも飛行機の方が、安くて早い場合がほとんど。そのためアメリカで生活している人たちの中でもAmtrakの知名度は必ずしも高くなく、一度も利用したことがない人もたくさんいるそう。だからこそ、Amtrakがライターの創作活動をサポートし、ライターが鉄道旅行の魅力を言葉に乗せて発信することは、格好のPRにもつながるわけですね。
「Amtrak Residency」は鉄道旅行が数日にも及ぶ、アメリカならではのアイデアかもしれませんが、日本ではどんな面白いライター・イン・レジデンスが考えることができるでしょうか?みなさんのアイデアを、ぜひ教えてください!
(Text: 伊藤友宏)
[Via: Fast Company]