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ワインに寄り添う暮らしと仕事。世界でも数少ない都市型ワイナリー「島之内フジマル醸造所」が大阪市内に誕生!

樽生ワインを片手に微笑む藤丸さんと、後方でなぜか笑いをこらえるスタッフ。(C)NaraYuko
樽生ワインを片手に微笑む藤丸さんと、後方でなぜか笑いをこらえるスタッフ。(C)NaraYuko

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

みなさん、ワインは好きですか?日本でもずいぶんと浸透し、最近ではコンビニで気軽に買えるポピュラーなお酒になりました。国産ワインやワイナリーの数も増えています。有名なのは山梨県や長野県ですが、大阪にも100年、80年と長い歴史を持つワイナリーが存在します。

そして昨年2013年3月21日、大阪に、しかも市内に、世界でも数少ない都市型ワイナリー&ワイン食堂「島之内フジマル醸造所」が誕生しました。

手掛けたのは株式会社パピーユ代表取締役の藤丸智史さん。2006年3月、たった一人で300万円の資金を元手にワインの販売業を始めました。さらに2010年、ブドウづくりをスタート。ついに念願だったワイナリーをオープンさせたのです。

ワインを通して人とつながり、ワインを通して事業を切り開き、そしてまたワインを通して自然を知る。それがまた生き方に返ってくる。そんなストーリーを伺いました。

都市型ワイナリー「島之内フジマル醸造所」の誕生

大阪市中央区島之内(地下鉄松屋町駅から徒歩1分)の便利な立地にある「島之内フジマル醸造所」。地下〜1階には搾取器やタンクが設置されてワインを造る工場と保冷庫になっており、2階部分がワイン食堂になっています。

島之内フジマル醸造所

元は倉庫だったビルを改装しました。
元は倉庫だったビルを改装しました。

ちなみにメニューは、前菜が500円〜、パスタやメインが800円〜とリーズナブル。また、ワインは国産を中心に多数取り揃えており、グラスワインは赤・白それぞれ8種類以上が楽しめるほか、ロゼやシャンパンまで勢揃い。ワインの卸売がメイン事業とあって、ボトルもその時々に美味しいものが充実しています。

そして、1階の醸造所で作られた自家製の樽生ワインは、2階のサーバーに直結しており、注がれ、そのお値段一杯380円とかなりお得。

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初めて見る、樽生白ワインのサーバと、注がれたワイン。
初めて見る、樽生白ワインのサーバと、注がれたワイン。

日本では、何でビールが人気だと思いますか?

「美味しいから」はもちろん、「安いから」というのが大きなポイントだという藤丸さん。

日本で、ワインをもっと人々の身近な存在にしたい。具体的には消費量を2倍にしたいという夢があり、そのために、少なくとも生ビールと同等か、それ以下の価格でワインを提供できるように、ワイナリー全体でコストを調整したんです。

ワインの価格はボトルやコルクといった個装にかかる費用を含めると原価の2倍に跳ね上がるため、必然的にボトリングをあきらめることに。また、1年で飲み切るサイクルを作ることで、添加物や酸化防止剤も少量に抑えました。

美味しくて、安心安全なワインを安く、気軽に、日常的に。“安く”の部分を、品質の低下や量産で対応するのではなく、“店づくり”のトータルな視点で考えます。

ワイナリーは、畑の横にあるのが一般的。ブドウづくりは2010年に大阪府柏原市でスタートし、ワイナリーをつくる際にも、最初は“柏原で”と考えていたんです。でも、柏原はベッドタウンとしての宅地化が進み、土地代も決して安くない。そもそもブドウの収穫は1年で1度だし、広大な土地が広がる海外では、畑から2時間以上かかるワイナリーなんていうのも珍しくありません。そこで、柏原から1時間以内の場所を地図上でぐるっと囲むと、市内が丸々候補地に。

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柏原にある自社管理のブドウ畑と、果実
柏原にある自社管理のブドウ畑と、果実

大阪ワインの先駆け、柏原の地で100年もの歴史を持つカタシモワイナリー、そして卸業でお世話になっているレストランが密集する繁華街のナンバや心斎橋から程よく離れていることも、決め手になりました。立地、値段の面からもお仕事帰りに気軽に立ち寄れる都市型ワイナリーが誕生したのです。

人をつなぐワイナリーと、たくさんの接点をつくる卸業

ワイナリーは、学生の頃からの夢でした。島之内フジマル醸造所は人と人を繋ぐ大切な場になっていますが、うちはあくまで販売業がメイン事業です。

一般客もワインを買うことができるショップが日本橋、安土町、心斎橋と、大阪市内に3軒あり、会員制ネットショップも運営中です。

日本橋にある「セレクトワインショップ WINESHOP FUJIMARU」に眠るワインたち
日本橋にある「セレクトワインショップ WINESHOP FUJIMARU」に眠るワインたち

業務卸の顧客は日本中1100社にも及び、年間約30万本ものワインを、大阪や東京の市場へ届けています。たった一人で一から始めた一軒の酒屋が、丸8年の間に、順調に拡大中です。

“消費”は、社会との接点だと思うんです。

学生時代、ホテルでウエイターのアルバイトをしている時にソムリエに憧れ、それが藤丸さんのワインの入り口。卒業してからはソムリエとして、いくつかのレストランを渡り歩き、長年お客さんへ直接ワインを勧める仕事をしてきました。消費者が求めているものを察知して提案し、お客さんに喜んでもらうことがソムリエの役割です。

知識のない者がお目当ての一本を選び出すのは至難の業と言えそうです。
知識のない者がお目当ての一本を選び出すのは至難の業と言えそうです。

当然、店が異なれば客層も、求められるワインの種類も違います。長年の経験を活かし、こういったニーズを的確に掴み、ときに輸入会社の営業と一緒にワインを提案へ回ったり、もしくはレストランからのニーズや要望を輸入会社へ伝えたり“コーディネート”を丁寧に行なってきました。

若い頃は、“ワインを理解したい”、そのために“自分もワインを造りたい”と思っていましたが、ワインを理解するのは不可能に近い。今はワインのシェアを拡大して、“ワインと人々が寄り添う日常”をつくるのが夢です。

起業前、27歳の時に“ワインを理解するため”に海外へ出たことが、後の藤丸さんに大きな影響を与えたということです。

ワインを“理解する”から、“寄り添う”へ。

ヨーロッパやオセアニアのワイナリーを訪ね歩いたのですが、多くの生産者が「ワインを理解することなんて、神以外できない。理解できないからこそ面白いんだ」というんです。

そしてふとワインショップの人々を見ると、店員も、納品へやって来た造り手も、ソムリエも、そしてお客さんもみんなワインを手にして笑い、楽しそうに会話している。理解出来なくても、ワインに寄り添う暮らしは、なんて豊かなんだろうと感じました。

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海外では、ワインを片手に人々が集う様子があちこちで見られました。そんな光景を日本でもつくりたい!
海外では、ワインを片手に人々が集う様子があちこちで見られました。そんな光景を日本でもつくりたい!

藤丸さんが「VSワイン」から「withワイン」へ変わった出来事です。

ブドウが採れるのは、年に一度。どんなに頑張っても、ワインは一生のうちに20〜30回しか造ることができないんです。そんなもの、この世の中に滅多にないですよね。それならば、試すのではなく楽しもうと。

2014年、日本列島を大雪が襲いました。農家や一次産業の現場での被害は小さくはなく、藤丸さんのブドウ畑にも大きな被害が出ました。

それでも、

それに余る楽しさがある。

そう言います。

世の中へハッピーなワインを送り出す、社内環境づくり

藤丸さんの会社、株式会社パピーユは、現在従業員数20名で運営中です。

従業員と、その家族を数えると、総勢53名いるんです。事業や会社を考えるときには、この53名の顔を思い浮かべます。

飲食業界は、低賃金で重労働の厳しい職場がたくさんあり、従業員の定着率が悪い現場もたくさん見てきたということ。

社員が辞めてしまうと、それまでの経験や知識が“0”になってしまうから、とてももったいないと思うんです。社員が辞めなくていい環境をつくりたい。社員には、冠婚葬祭はもちろんのこと、子どもの運動会にも出てもらいたいんです。

社員が家族を養っていくためにも、給料がアップする仕組みを意識的につくります。

従業員全員の賃金アップをするには、売上を延ばすこと。そして新しいポストをつくり、先輩のポストを後輩へどんどん譲っていくことだと考えています。そのための新しい展開や事業をつくることが自分の役目だと思っています。

2010年に、ブドウの栽培を始めてからは、事業計画も5年以上の長い単位で考えるようになったという藤丸さん。自然の営みや従業員というビッグファミリーの存在は、大きな時間やお金の感覚をもたらしたようです。

そして藤丸さんは、事業の傍ら海外研修、ワイナリーの訪問へとせっせと出かける他、「水都大阪フェス」や各種イベント出店や、「満月PUB」といったイベントの主催も行ないます。

満月の夜、同じ空の下。ワインを飲み語らい、心を通わせるステキな会です。
満月の夜、同じ空の下。ワインを飲み語らい、心を通わせるステキな会です。

今は、事業をみんなでやっているので。忙しいですが、どの出逢いも、ワインが繋いでくれた大切な縁なんですよね。ワインがみんなにとって“話飲”と呼ばれるお酒になるように、活動していきます。

これまでに「やろう」と決めたことは大体実現してきたという藤丸さん。“ブドウ”というたったひとつの資源を使って、ワイン造り、場づくり、人づくり、そして事業づくりを繋げて、大きな“輪飲”をつくっている様子が印象的でした。

サービス業(3次産業)から販売業(2次産業)へ。そしてブドウづくりという1次産業を経て、全てが繋がるワイナリーの設立(6次産業)へ。

たまたま、そうなった。

とのことですが、みんなを温かくもてなす大きな“輪”の作り方が、これからの日本の産業づくりのお手本になる要素がたくさん含まれているように感じました。