今年1月29日、福岡市でトークイベント「障がいってなんだろう?を考える」が開催されました。
福岡には、3年ほど前から「福岡地域戦略推進協議会(略称:Fukuoka D.C.)」という、福岡を国際都市として魅力的な街にするためのプロジェクトがあります。高齢化社会やモビリティといった市民生活に共通の社会課題を、市民と一緒にみんなで考えながら解決する“市民発イノベーション”を起こそうというものです。
その中で最初に取り組んでいるパイロット・プロジェクトが「障がいを持つ子どものバウンダリー(境界)をリ・デザインする」です。
今回のトークイベントでは、コミュニティデザインなどを手がける「NPO法人ドネルモ」の山内泰さんがモデレーターとなり、福岡市内で障害者支援施設を運営する「NPO法人まる」の樋口龍二さん、クリエイティブラボ「anno labo」の藤岡定さん、障害のある子どもを持つお母さんの相談サービス「プリズム」の中村洋子さん、シンク&ドゥ・タンク「Re:public」の内田友紀さんがパネリストとなり、NHK大阪の日比野和雅さんをゲストに迎えました。
NHK大阪の日比野さんは、“日本初、障害者による障害者のためのバラエティ番組”「バリバラ」のチーフプロデューサーです。
バリバラの出演者たち
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バリバラという番組を見たことがある人がどれくらいいるでしょうか?バリバラはバリアフリー・バラエティの略であり、障害者が出演するバラエティ番組です。
初めて見た人の大半は衝撃を受けると思います。障害者が出演するチャリティ番組や、障害者を題材にしたドラマなどにありがちな、感動を誘うお涙ちょうだいの演出は一切無し。視聴者も出演者も楽しむための、いわゆるバラエティ番組として制作されています。
なぜ障害者バラエティを始めたのか?
日比野さんは、バリバラの前に王道のような福祉のドキュメンタリー番組「きらっといきる」を担当しており、イベントでは「きらっといきる」と「バリバラ」のVTRを見ながら、2つの番組の違いについて説明をしてくれました。
障害者には個性的で面白い人もたくさんいるのに、ドキュメンタリーでナレーションをつけて起承転結をつけた編集をすると、ほとんどの場合は面白くなくなり、ありのままじゃなくなる。視聴者には面白いところは笑ってほしいのに、ドキュメンタリーだと笑ってくれない。
障害者の番組を作ると「感動しました」「勇気をもらいました」という反応をもらうけれど、障害者ではなく健常者に勇気を与えるものになっているのが日比野さんたちのジレンマでした。
次第に「障害者のドキュメンタリーは本当にリアルなのか? ありのままって何だ?」と考えるようになり、「俺たち何をやってるんだろう? もっとリアルなものを出していかなきゃダメだ。一度ドキュメンタリーと福祉という枠を取り払おう」ということで始まったのがバリバラです。
障害のある子どもを持って
バリバラの紹介の後はパネリストトークに移りました。
会場には、障害者福祉関係の仕事をしている人、障害とは普段まったく関係の無い人、障害者の子どもを持つ親、障害者本人などが集まっています。パネリストもそれぞれの立場から、障害者の取りまく状況に関して思うところを発言したり、それに対して質問や意見を交換したり。
中村さんは、3万2千人に1人と言われている「カブキメイクアップ症候群」という障害を持つ子どものお母さんです。
子どもを産んだら、「軟口蓋裂で口からミルクが飲めないお子さんが生まれましたよ」と言われて、ガチョーンと思いました(笑)私が何か悪いことしたかな?って。それまでは常勤で働いていたけどやめざるを得なくなって、この子がいなかったら…と思ったり、それを考えていることすら知られちゃいけないと思ったり。このような「声にならない声」を出せるようにしたいと思いました。
プリズムでは、発達障害、多胎児、知的障害など様々なハンディキャップのお母さんが集まって、愚痴ではなく、自分を見直してステップアップできる機会とグループにしたいと奮闘しています。中村さんは、障害のある子を生んで、弱点だと思われているところが強みだと思えるようになってきたそう。「わが子は歌手になりたいと言ってるので、バリバラに出られるかも?」と冗談まじりに言っていました。
「バリバラはハードルが低く見やすい番組なので、多くの人がバリバラを見て障害者に慣れるといいと思う」と言う一方で、「自分では見られる回と見られない回がある」とも言っていました。わが子の病気等で大変な思いをし、心の着地点が見出せない回は、見られないこともあるのだそうです。
「バラエティ=多様性」のある社会
日比野さんは、障害者福祉番組の制作を通して、本当に個性的な“コミュニケーションが定型ではない人たち”と接するうちに、心から多様だと思ったと言います。(多様性は通常ダイバーシティだと前置きした上で)バリバラの「バラエティ」には「多様な」という意味も込められています。
アメリカなど様々な宗教や人種が共生する社会のように、バリバラの中でも障害者も健常者も色々なタイプの人を登場させて、多様性を実現していけたらと語っていました。
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普段から障害者と接している樋口さんは、「初めて障害者施設を見学する人を案内していると、最初はおっかなびっくりだったのが、どんどん面白がってくる」と言います。今回のプロジェクトで障害者施設を見学して回った藤岡さんや内田さんは「アイデアがわいてくる」「違う角度から世界を覗くようだった」と、多様性から生まれるクリエイティブな可能性を感じていました。
また藤岡さんは、「障害者という言葉を聞いただけで、自分とは関係がないと思う人もいるかもしれないけど、実際に障害者施設を回ってみて、自分と同じだと思った」とも言っています。当たり前のことですが、障害者も健常者も、違うところもあれば同じところもあります。どちらもあるのが多様性ということでしょう。
障害のある子どもは電車の運転手になれるか?
イベント後半に日比野さんから「全盲で知能にも少し障害のある子どもの、電車の運転手になりたいという夢を叶えるにはどうすればいいか?」というお題が出ました。参加者は4〜5人ずつのグループに分かれ、話し合いながら答えを考えました。
各グループで考えた答えを発表していくうちに、議論がどんどん白熱していきました。
「電車に人を乗せたら社会的な責任がある」「現代の技術があれば操作は問題ないのでは?」「目の見えない人は耳の感覚が鋭いというからいけるかも」「どうして電車が好きなのか、その理由をまず聞こう」などなど、最後はマイクを奪い合うように、次から次へと自分の考えを発表し始めました。
場がヒートアップしていった時にある障害者の人から「ここには当事者であるはずの障害者が少な過ぎる。みんなの意見を聞くにつれて、正直少し冷めてきてしまった」という意見も出ました。
このように本当に色々な、正に多様な意見が出た中で、特に印象に残った言葉があります。
どうしていいか分からない。だからもっと知りたい。(障害のない人)
ありのままで生きていたい。伝える側であり続けたい。(障害のある人)
最後にパネリストの人たちから、このイベントはひとつの方向性に向かっていこうというものでも、これは良い、これは悪いと批判するものでもないと言われました。今日一人一人が感じ考えたことが、少しずつ社会を変えていくことにつながるのではないかと。
日比野さんは、バリバラを制作する上で「終わりをきちんとしない」というのも心がけているそうです。起承転結ではなく起承転々。(たまに起承転落?)番組を見終わった後で、視聴者が自分で考える余韻を残しているのです。
このイベントも同じように、終わった後でモヤモヤと考えさせられるものでした。これで終わりではなく、ここから始まるこのプロジェクト、引き続きともに考え、レポートしていきたいと思います。