綿密に描かれた“浮世絵”の中をよーく見ると、町人がスケボーに乗っていたり、iMacで作業していたり、スニーカーショップがあったり。現代の「カッコいい」ものがいっぱいの、なんだか違う江戸の町!
この、見れば見るほど発見があって楽しい、遊び心たっぷりの浮き世的な絵画が展示された、浮世絵×ストリートの珍百景『すとり〜と百景』NAGA展が、いま東京国際フォーラムで行われています。
絵の作者は、スケーターでイラストレーターのNAGA(ナガ)さん。アート展は、NPO法人Street Culture Rights(ストリート・カルチャー・ライツ)が展開する「RAW SKOOL(ロウ・スクール) プロジェクト」の一貫です。
ストリートカルチャーを通した“つながり”を提供
NPO法人Street Culture Rights代表の阿部将顕さんは、自身もダンサー。
RAW SKOOLとは、「粋な学校」「粋な時代」という意味。代表の阿部将顕さんは、「ストリートを通じた、国内外の色んな“つながり”を活性化させるプロジェクト」と説明します。ブレイクダンスやスケートボードなどのストリートカルチャーを通して、国境や年齢を越えた交流活動を展開。年間のべ3000人が参加しているそうです。
また、WEBサイトでは、世界中のキーパーソンへのインタビュー記事などを配信する、独自のメディア活動も。設立1年で、2013年「日経ソーシャルイニシアチブ大賞」国内部門ファイナリスト(約400団体中12団体)にも選出されました。
年間を通じて様々な交流イベントを開催。
さらに、NAGAさんのような、ストリートカルチャーに携わる若いアーティストの才能を、世に出すこともしています。ストリートカルチャーでイラストといえば、一般的には、壁や電車の落書きから始まったグラフィティを思い浮かべますが、「ストリート百景」の浮世絵にはそれとはまた違う斬新さがあります。
「もし、江戸幕府が倒れなかったら…?」という世界を表現
NAGAさんは、「日本人があまり海外の影響を受けてない江戸時代をテーマに絵を描きたい」と思い、浮世絵を現代のカルチャーとミックスさせたそうです。
英語の意味もわからずに英語が書かれたTシャツを着てる自分に、ムカついたんです(笑)。アメリカ人は、普通に英語が書かれたTシャツを着る。でも、日本人は、日本語が書かれたTシャツを着ない。その現象にムカついて、「もっと日本人らしく生きたい」と思ったんです。それで、幕府が倒れず、あのままの江戸時代が現代まで続いていたら…っていうのを表現しよう、と。
NAGAさんのイラスト歴は幼稚園の頃から。「実家が自営業で、おじいちゃんが居間で事務作業してたんです。それを見て、絵を描いてるのだと思いこんで、自分も真似して横で絵を描いていた」そうです。
“江戸人”の机の上には、APPLE社のiMacが!
企業とコラボレーションすることでアーティストの収益も生みだす
しかし普段は仕事もあって、絵にもスケボーにも空いた時間を費やすことしかできません。
空いた時間でスケボーしたり、絵を描いているので、結構時間かかるんです。細かい作品は、1枚描くのに2〜3ヶ月。シンプルなのでも、1ヶ月ぐらいかかります。
これだけ時間をかけて端正に描かれた絵が、今回のアート展に集結しています。NAGAさんの才能を見出した阿部さんは、言います。
ストリートカルチャーに関わる人は、食べていくのでいっぱいの人も多い。成功しているのはほんの数パーセント、一握りです。みんなほかの仕事をしながら一生懸命、練習したり技術を磨いたりしているんです。
そんなアーティストの作品を企業とコラボレーションさせて商品化し、収益を生み出していくことが、RAW SKOOL プロジェクトの挑戦のひとつ。企業もアーティストも利益を得て、ストリートカルチャーの世界そのものに対する一般の人の理解や興味も広げていく、というしくみを考えています。
プロジェクトは、基本的に、企業などとのコラボレーションで展開しています。NAGAさんの浮世絵作品も、サポーター企業の「はなまるうどん」渋谷公園通り店(株式会社はなまる)内の、RAW SKOOL WALLに展示されてきました。
「はなまるうどん」渋谷公園通り店内のRAW SKOOL WALL。プロジェクトの活動報告が展示。
“江戸人”のイラストが入った、こだわりのオーガニックTシャツも販売
「発案から想像以上に時間がかかってしまった」という今回の浮世絵展。しかし、一つひとつ着実に、形になっています。
今回のアート展には、チョンマゲ着物スタイルでスケボーに乗った“江戸人”がデザインされたTシャツも。これは、大手繊維商社の豊島株式会社が展開する「オーガビッツプロジェクト」とのコラボレーションです。産地の産業や環境にも配慮して作られるオーガニックコットンを使用した上に、ストリートダンサーならではのこだわりも加え、「かなりのクオリティです」と阿部さん。
オーガニックコットンとストリートダンサーのこだわりでできた限定Tシャツ。2730円で販売。
Tシャツは、ストリートのスケーターやダンサーに欠かせないアイテム。実際にアート展のレセプションに来場したストリートカルチャーに関わる方々に聞いてみると、Tシャツの動きやすさやシルエットなども、ダンスに大きく影響するという話で盛り上がりました。
しかし、これらのストリートカルチャーの世界は、まだまだ限られた人の「閉鎖的な世界」であるという話も口々に。「怖い人、悪い人じゃないかと思われてしまうこともある(笑)」「一緒に楽しんでほしい。知ってほしい」と言い、社会とストリートカルチャーをつなぐRAW SKOOLプロジェクトへの、賛同の想いや期待の大きさも感じさせられました。
ストリートカルチャーの刺激で子どもたちにも夢を!
阿部さん自身もBBOY(ビーボーイ)と呼ばれる、ブレイクダンスのダンサーです。大学時代にブレイクダンスを始め、大手広告代理店の博報堂で数年働いた後、2011年に退職してカナダに移住。現地のダンス大会で優勝を収める活躍をしながら、本場の音楽など現地の文化に触れて過ごしました。
そして、帰国後の2012年4月に、ダンス仲間と2人で活動をスタート。NPOを立ち上げたそうです。「海外も含めたカッコイイお兄さんたちの背中を見て、形にはまらない夢を見つけてほしい」と思い、杉並区の児童館を訪問するイベントなども定期的におこなってきました。
最近では、杉並区の地域活動座談会「すぎなみで、カッコいいことはじめてみよう!!」にも登壇。区内で活動をする若い世代のパネリストの一員として、活動の内容や、運営方法、ストリートカルチャーの現状や可能性などを紹介したところです。
杉並区の地域活動座談会にパネリストとして登壇(右端)。
「若い世代が人生のキッカケや励みを見出せるところも、ストリートの魅力だと思います。それから、どこまでも個性で世界と対峙出来るところ。その部分にフォーカスして、できる範囲内で次世代のために活動している感じですね」と阿部さんは言います。
ストリートカルチャーの良さをいかしたコミュニティーを作りたい
「日本では普通、ダンススクールに行って、お金を払ってダンスを習います。でも、アメリカやカナダのストリートシーンにおいてはちょっと違うんです」と、阿部さん。現地では、音楽やバックグラウンドも含めたひとつの文化として扱われ、ショービジネスとしてだけではなく、コミュニティセンターなどで無償で市民に提供され、人々に楽しみや希望を与えていたそうです。
日本のダンスって、“エンターテイメント”とか“芸能人”とかそんな領域で語られますけど、僕たちが見ているのは、そういう“文化”や“アート”、“交流”という土着的な視点なんです。
海外での経験からヒントを得た活動のスタートは、「やってみよう、というだけでした」。
今も、どちらかというと「これやったら、どうなるかな?」という、自分の中の好奇心やワクワクで活動しているかもしれないですね。やりたいことを世の中に出して、形にしてみて、その反応を楽しんでいるんだと思います。ダメなときはダメですけど(笑)。
昨年は、カナダ大使館の後援で、カナダと日本をつなぐブレイクダンスの交流イベントも!
エンタメ路線とはちょっと違う、ストリート本来の魅力に、色んな企業や行政に気づいてもらえれば嬉しいし、どんどんコラボレーションしていきたいですね。あと5年続けることができたら、今自分が想像している範囲を超えたことが起こるでしょう。それもまた楽しみです。
『すとり〜と百景』の浮世絵展は、2月23日までの開催です。江戸の町をいきいきとスケボーで走り抜ける、ストリートパフォーマーの世界を、まずは覗いてみませんか。
期間:2014年1月29日(水)~2月23日(日)
会場:場所:東京国際フォーラム フォーラム・アート・ショップ内ギャラリー
時間:10時~20時 ※最終日は17時まで