2014年1月14日、環境・経済分野で活躍されている環境ジャーナリストであり、「幸せ経済社会研究所」所長の枝廣淳子さんを迎えて「幸せ経済社会研究会」ワークショップが開催されました。今回は、初回のワークショップレポートをお届けします。
主催の「パタゴニア東京・丸の内」を会場に、3回連続して特別開催される今回の講座。講師の枝廣さんからは、毎回課題図書が出されます。第1回目の課題図書は『成長なき繁栄-地球生態系内での持続的繁栄のために』ティム・ジャクソン著 (一灯舎)でした。
パタゴニアでは、繁栄とは成長と消費の拡大に基づいた経済のことであるという前提に疑問を投げかける新しい環境キャンペーン「レスポンシブル・エコノミー(責任ある経済)」がスタートしています。
パタゴニアが問いかける「責任ある経済」とはどんなものでしょうか。環境問題へのアクションを起こしながら、これからの2年間こうした疑問についても掘り下げていくと言います。
私たちは、地域のギフトでありたい
ワークショップの開始前には、パタゴニア丸の内店ストアマネージャーの神田さんから、お話がありました。2013年9月4日、日本では初となる期間限定の直営店を丸の内にオープンしたパタゴニア。
東京のビジネスの中心地に7ヶ月しかないお店をオープンする中で、パタゴニアのような企業があることを知ってもらいたかったと神田さんは話します。
環境に配慮し、環境活動にもしっかりと取り組んでいるパタゴニアだからこそできる「この地域でできること」を考えて出店したことを振り返りました。
私たちが出店する際に、毎回考えていることがあります。「地域社会と関わる中で、私たちの存在は地域にとってのギフト(贈り物)でありたい」という思いから、 環境活動に取り組んでいる方のサポートや、アウトドアアクティビティを楽しんでいる方の集いの場としての貸し出しも行っています。
そして、地域で環境活動に取り組んでいる方々と一緒に様々な課題に向き合い、解決に向けてどんなアクションをとっていくかを皆さんと深く考えたいと思っています。
そこには「参加者の方々と共に責任ある経済に向けて、どんな形があるのか今回のイベントも含めてともに考えながら、会をつくりあげていきたい」という趣旨がありました。
パタゴニアの新しい環境キャンペーンでは、繁栄とは成長と消費の拡大に基づいた経済のことである。という前提に疑問を投げかけています。これからの2年間、パタゴニアでは「レスポンシブル・エコノミー」というキャンペーンに取り組んでいくのだそう。
パタゴニア創設者イヴォン・シュイナードさんが提唱している「責任ある経済とは、健全な社会を育み、有意義な雇用を生み、地球が再生可能な自然資源だけを利用する経済である」という考えを元に、責任ある経済のためのストーリー、解決策、前例、新しいリーダーたちを探っていく取り組みにもなっているようです。
今必要なことは、正しい問いを立てること
ワークショップでは、 翻訳家、環境ジャーナリスト、マラソンランナーという、たくさんの顔を持たれている枝廣淳子さんを迎えて「経済成長を前提としない幸せのあり方」について考えました。会場では参加者同士による思考の共有、対話や議論を重ね、深く問題を考えながら解決策を探す機会になりました。
枝廣さんは、「今必要なことは、正しい問いを立てていかなくてはいけないんじゃないか」そう問いかけます。この3回を通じて皆で何を考えていかなくてはいけないかを深めていきたいと話しました。
10数年前からずっと環境問題に関わるお仕事をしてきて、ここ5、6年つくづく思うのが新しい環境問題が次々と起きてきてしまうことです。それに対して法律をつくろうとか、条約をつくろうとか、一つづつの症状に対して対処療法的にやろうとしています。しかし、根本的に変えていかなくては結局また次々と環境問題が起きてしまうだけじゃないかと思うようになりました。
その頃から、次々と環境問題を生み出している根本的な構造って何だろうということを一番考えたいと思って勉強をしながら活動してきました。その結果、今のところの私の結論は「幸せと経済と社会の関係性」だと思っています。
例えば今は経済成長が絶対に必要だと、どの政党や政権でも、ほとんどの国でも言われています。経済成長をしなければということで、どんどん進めようとしている。
その結果としての環境問題は絶対にあるし、そもそも環境問題が生まれてからの対処療法ではなくて、ほんとうに経済成長が必要なの?、 どこまでの成長が必要なの? ということも考えなくてはならない。どれだけあれば私たちは幸せなの? といいうことにも重なってくると思います。
今の経済や社会は経済成長が必要な構造となっていることに気づいた枝廣さん。「そのままだったら、環境問題、持続可能性の問題、幸せの問題は、なかなか解決できないなと思いました」と語ります。そこで「幸せ経済社会研究所」を立ち上げ勉強会を立ち上げたのだそうです。
経済成長を前提としない幸せのあり方
枝廣さんが活動をする中で見えてきたという、幸せと経済と社会の関係性。環境問題が生まれてからの対処療法ではなく、解決策を探していくこと。経済成長についてと聞くと、大きな社会のことだと感じられるかもしれませんが、私たちにとっての暮らしに繋がっていること、身近なところで考えていくことから始められるのかもしれません。
毎回課題図書を準備して、その本をきっかけに色々な角度から、幸せと社会と経済の関係性や有るべき姿、在り方について対話や気づきを重ねていく勉強会。パタゴニアでの第1回目の課題図書は『成長なき繁栄-地球生態系内での持続的繁栄のために』でした。
課題図書については、枝廣さんの解説を元に学ぶこともでき、事前に読めた方にとって、初めて環境問題に深く触れる方にも入りやすい入り口が用意されていました。
例えば、誰かが答えを知っていて、それを分かりやすく説得力ある形で伝えれば、みんながそれを行動して問題解決ができる。そういう問題もあります。しかし、わたしたちが考えなくてはいけない問題は、誰かが答えを知っていることではありません。
私たちがどんな社会にをつくりたいのか、どんな日本にしたいのか、どんな未来をつくりだしたいのか。それは誰かが答えを知っている訳ではなくて、私たちが考えて対話をしてつくっていくものではないだろうか。今日は私からの一方的な会話ではなくて、皆で対話をしながら考えていきたいと思います。
参加者によって考えるということ、その思考を共有し、議論や対話によって深めていくプロセスを経験することで新たな疑問や問いが立ち上がってきます。講師の枝廣さんが解説し、本質的な問いを参加者の方と見い出していきます。
経済成長とは何だろう? 経済成長をめぐる問い
広い意味での社会、そして経済。私たちにとって、自分自身にとっての「経済成長」とは何でしょうか。 今の自分なりの考えを言葉にするため、グループワークでは下記の質問が行われました。
・経済成長とは何ですか
・それは望ましいですか、それはなぜか
・それは必要なものですか、それはなぜか
・経済成長が必要な場合、いつまで、どこまで、必要でしょうか
・経済成長を続けることは可能ですか、それはなぜですか
・経済成長を続けることに伴う犠牲は生じますか、それは何ですか、なぜ生じるのですか
・経済成長についての「他の問い」を挙げてください
7つの問いに対して個々の思いをめぐらせ、それぞれ考えたことを共有する時間。ここでの対話の作法として、時間内に参加者同士が話せるように配慮し合うことが基本にありました。 ワークシートに記入することで、自分の考えを改めて知る機会になりました。言葉にしてみることで見えてきたことは何だったのでしょう。
参加者の女性は「考えれば考えるほど、経済について知らないことに気づいた」と話します。「GDPや経済成長について知っていると思っていたが、成長したその先を私たちが考えておかなければ」と話す男性の姿もありました。
経済成長のジレンマという現実
グループワークを終えた後、第1回目の課題図書である『成長なき繁栄-地球生態系内での持続的繁栄のために』でティム・ジャクソンが、どういった論理で話しているか枝廣さんによる解説が行われました。
この本は、前半と後半で分けることができます。前半が問題定義、後半は定義した問題に対して「こういった考え方の切り口があるのではないか」という提案をしています。今日は前半の問題定義について、お話しして皆さんに持ち帰っていただければと思います。
もともと『成長なき繁栄-地球生態系内での持続的繁栄のために』は、イギリス政府の中にある一つの委員会がつくったレポートだったのだそうです。2009年の3月に出したレポートは、これからも成長を続けていく中で今後も右肩上がりの経済成長を続けることはできない時代になる。その上でイギリスの繁栄と国民の幸せについて考えられたものでした。そうした考えがまとめられて本になり出版されました。
経済成長についての「他の問い」をみんなであげていく
最初は、経済成長を続けることは不可能ということから話していきたいと枝廣さんは話します。経済成長を続けることは必要。だけれど経済成長を続けることは不可能。必要だけど不可能ということにはジレンマがあることだと説明を続けます。
そもそも地球の大きさは決まっています。46億年前に地球ができてから、地球は大きくなっていないけれど人口は増え続けています。昔は地球の大きさに比べると人間が地球に影響を与えることは少なかった。しかし、昔と今を比べてみると地球に体する人間の影響が急激に大きくなってきています。
人口も少なく技術の進んでいなかった頃に木を斧で切っていた時代から、科学技術が普及した現代では電動のチェーンソーで短時間で木を切ることも可能になりました。今では人間の影響は地球よりも大きくなっていると言われています。
「エコロジカル・フットプリント」という指標では、今の人間活動を支えるのに地球が何個、必要かが説明されている。今の値では1.5と言われています。地球は1個であるのに、1.5個というのはあり得ない数字と言えます。これが刹那的に可能になっている理由には、私たちが過去の遺産を食いつぶし、次の世代から前借りをしているからです。
経済の規模が大きくなると、食料、水、エネルギー、木材など地球の資源を消費するものが増えてきます。「経済成長を続けるとどうなるのか?」という問いについて、地球の大きさは決まっているのに、その大きさを上回る経済成長を求めるのはむずかしい。という話もありました。
経済成長をしたほうが幸せになるという考え方と、経済成長をしなくても良い社会をつくるという考え方があります。経済を否定するのではなく、経済成長についての「他の問い」をみんなであげていくことで見えてくる未来があるのではないでしょうか。
幸せ×経済×社会のつながりの場をつくる
課題図書を用意して、それをきっかけにして進めていくワークショップでは、幸せ×経済×社会のつながりについて統合的に学ぶことのできる場を参加者の方と共につくられていました。
自分で考えていくことを目的としている「幸せ経済社会研究会」の活動に触れながら、対話を深めることで見えてくるヒントや新しい気づきが見えてきます。
自分で問いを立て答えを探すことで、今ある問題に真正面から向き合う機会。「知っているようで知らないこと」は、まだまだあるのかもしれません。
第2回目は、2月13日(木)に開催を予定されています。課題図書『スモール・イズ・ビューティフル』(F・アーンスト・シューマッハー著、講談社学術文庫)をもとに、どんなお話を参加者の方々と交わされるのでしょう。みなさんも参加してみてはいかがでしょうか?