(左)山崎亮さん(右)横尾俊成さん 写真提供:産学社
「政治は、変えられないのだろうか」と思ったことはありませんか? 永田町のドタバタ劇や分裂騒動を見ると、思いを持って一票を投じても、結局何も変わっていないのではという気持ちになることもありますよね。
とはいっても、私たちがほしい未来を手にするためには、政治を無視することはできません。では、どうすれば私たちは政治を”変えられる”のでしょうか。
greenz.jpではこれまで、連載を通じて「政治のつかいかた」について考えてきましたが、今回はstudio-L代表のコミュニティデザイナー山崎亮さんをゲストとしてお迎えしました。
横尾俊成さんの近刊『「社会を変える」のはじめかた』(産学社)で「コミュニティデザインは、直接民主主義的な“プチ政治”」とも語る山崎さんに、国内外50以上のチームの街のゴミ拾い活動を通じてまちづくりをサポートする、NPO法人グリーンバードの代表で港区議会議員の横尾俊成さんが、「政治をつかう」のヒントを伺いました。
私たちはもともと、多数決で決める文化だったのか?
横尾 今日はよろしくお願いします!
山崎 こちらこそ、よろしくおねがいします。
横尾 さっそく本題なのですが、昨年末に話題になった”特定秘密保護法”からお話ができたらと思うんです。というのも多くの人がモヤモヤ感を持ったように感じていて。
僕が思うのは、そこにある課題はプロセスなのではないかなと。いろいろなことが自分には手の届かないところで決まっているように見える。それって別に今回のことに限らないですよね。国に限らず”まち”という単位でも、様々な計画もいつの間にか決まっています。
山崎 そうですね。そのモヤモヤ感はありますが、特定秘密保護法をそれぞれの町会ごとに話すのは現実的には難しい。だから自分たちが選んだ代表の人に話し合って決めてもらう、つまり託すべき部分だとは思うんです。
とはいっても「もっと熟議してほしかった」という思いはあるし、「どうしてそんなに急がなくちゃいけなかったの?」という疑問もある。もちろん国際情勢や外交といった背景がいろいろとあるでしょうが、それでもね。
横尾 確かに熟議は足りていませんでしたね。
山崎 ひとつ、宮本常一さんという民俗学者の本に、集落の人たちの古文書を見せてもらうというくだりがあって、それが面白いんですよ。
ある時、宮本さんが町内会長に「古文書を見せてくれ」とお願いするんですが、お金の貸し借りなども書かれているので、なかなか見せてもらえない。集落の人を集めて議論するので後日来てくれと言われて行ってみると、全員集まって話し合いをしていても、3日くらい結論が出ないんです。
途中で家に帰ったり、いなくなったりする人たちがいても、ずっと議論している。人が減って一度解散しても、翌日また議論する。そんなことを続けていたら、住民たちも「もうそろそろいいんじゃない?」という気持ちになってきて、結局古文書を見せてもらえることになったと。
何を言いたいかというと、日本では昔から必要な時は議論をしてきたんです。ところが機が熟してないけど多数決で決めるという民主主義が導入されて、違和感を持ちながらも賛成多数で決まってしまうようになった。つまりモヤモヤの原因は、機が熟していないことにあるのではないかなって。
横尾 なるほど。議論を重ねていくと、問題が解決するというよりも、いつの間にか問題自体がなくなるということもあるんですね。
山崎 民主主義を導入してから100年くらい経ちましたが、実はまだ馴染んでいないのかもしれません。今回の議論は、「その決め方って、自分たちの感覚にフィットするものだったの?」という問いが、浮き彫りになってきたんだと思いますね。
コミュニティデザインと政治って、どう違うの?
横尾 山崎さんは、コミュニティデザインと政治の違いについて、どう感じていますか?
山崎 例えば防衛や外交といったことは、国がするべき仕事だと思います。そういう大きなテーマは、必然的に”まち”のことと決め方は違ってくるはずです。特定秘密保護法をみんなでワークショップで決めようなんて無理。だからといって「じゃあ多数決ね」という二項対決でもない気がする。
横尾 政治家や行政の人も、意思決定の方法を変えようとしていますよね。声なき声や若い人の意見をあまり意識しなくてもよかった時代から、インターネット選挙の解禁などもあって、聞かなくてはいけないものになってきた。それでパブリックコメントを募集したり、タウンミーティングを開いてみたり、試みはされてはいるんですが、なかなか人が来てくれない…その原因はどこにあるのでしょう?
山崎 うーん。「自分には関係ない」と思っちゃうからでしょうね。
実は僕ら(studio-L)が仕事をはじめるときもそうなんですよ。いきなり地域に入っていって、「あなたの地域を私がよくします!」とか言っても、「こいつにこのまちの何が分かるんだ」って思われてしまいますからね。最初は基本的にウェルカムではないんです。
だから「まずはみなさんと仲良くなりたいと思っています」ということを、ひとりひとり、ご自宅に伺って伝えるようにしています。会議室を用意して、「いきなりワークショップやりますから来てください」っていっても誰も来ないですから。
横尾 港区でいうと20万人の有権者がいるんですが、タウンミーティングの参加者は100人くらいなんです。無作為に有権者を選んで、「来てください」と手紙を送るようにしたんですが、それでも少ないんですよね。
山崎 興味のない人に来てもらうのは大変なので、「どうしたら、そのテーマに興味を持ってもらえるのか」その方法を考えないといけないですね。だからちょっとずつ広げていくしかないと思います。
例えば、まず区役所の各課を回って、子どもでもエネルギーでも、あるテーマで面白いことをしている人を紹介してもらう。区役所の方からまず打診をしてもらいます。それで朝、昼、夕方、晩、遅晩で一日5人ずつ会う。ご自宅を訪ねて、最後に「あなたがこのまちで面白いなと思う人を3人紹介してください」と聞いてみる。そうしていくと、10人が30人、30人が90人…ってなります。それを繰り返すだけで100人、200人くらいの人たちと知り合うことができるんです。
地域で面白い活動している人たちってオピニオンリーダーで、知り合いもたくさんいる。そういう人にちゃんと理解しれもらえたら、その周りの友人に勝手に広まっていくんです。
横尾 なるほど。そのやり方は、東京都23区のような大都市でもできるのでしょうか?
山崎 できるんじゃないですかね。ただし大都市の場合は、話し合うテーマを具体的にしたほうがいいですね。
いま、墨田区では食育計画をつくるプロジェクトを進めています。そこでは食、教育、環境、廃棄物といった関連した領域で既に活動している人たち50人を集めてワークショップを開催しました。
そこでは”地産地消”など墨田区の食育で重要だと思うキーワードを片っ端から出してもらい、最後にそれらをまとめたカードゲームをつくりってプレゼントしたんです。そして50人がそれぞれ自治会や町内会に戻って、ゲームをしながら食育計画についての対話を続けてくれています。
例えば、参加者のひとりがカードを一枚ひくと”フードマイレージ”と書いてあるとします。カードの下には説明が書いてあって、初めての人でも理解できる。そしてもう一枚めくると”小学生”のカードが出てきた。そこで「”フードマイレージ×小学生”で何が出来そう?」というお題に対して、いろんなアイデアが出てくると。ひととおり話が終わったら、次は「”バーチャルウォーター”×”高齢者”」とか。これをずっと繰り返していくんです。
つまり墨田区25万人の食育計画をひとつ定めて、すべての区民に同じことを強いるのではなく、それぞれの町会ごとに考えてもらって完成させていく、そんな計画の作り方をしてみました。
横尾 なるほど。最初の50人はどう選ばれているんですか?
山崎 同じように区役所で食、教育、環境、廃棄物といった領域で活動している方をヒアリングし、直接お願いしていきました。厳密には、すべての町会から参加者がいたわけではないのですが、近所で行ける”小学校区”くらいの範囲はカバーしていると思います。今回のケースでは「墨田区の食育計画」というズッシリくる一冊の本が必要なのではなく、5ページくらいの自分のご近所版の計画書ができることが大切なのです。
自分たちのまちは、自分たちで解決していく
横尾 山崎さんはよく”小学校区”というキーワードを使いますよね。国や県の単位で考えるのは大変で、市民はそこまで関心を持てないけれど、自分に身近な地域のことならそれなりに関心がある。その単位で総合計画ができていくと面白いことになりそうですね。
山崎 そう思います。実は近代の都市って小学校区を中心につくられているんです。100年ほど前のイギリスやアメリカの都市計画がモデルになっている。それが日本にぴったりなのかは分かりませんが、事実として日本のまちのほとんどがそうなっています。ひとつの小学校区に公民館がひとつ。だから、その単位を利用しない手はないんです。
横尾 なるほど。
山崎 いま、町会をいくつか束ねたコミュニティ協議会を小学校区単位でつくろうとする動きがあります。連合町会や連合自治会のようなケースもありますが、それは制度的なものではない任意団体です。一方のコミュニティ協議会は年間予算があり、ゴミの清掃など、この地域の重要なことを自分たちで決めて実行していく、そのための組織なんですね。
町内会って、豊臣秀吉あたりの時代から脈々と続いている仕組みで、高齢者福祉から教育、防災まで担ってきました。ところが戦後は福祉なら社会福祉協議会、教育はPTAと別組織になったり、さらに冠婚葬祭も産業化したので町内会の機能がなくなってきているのが現状です。そこで本当の自治を目指して、コミュニティ協議会が増えているのだと思います。
横尾 それって既存の町会のようなまちの組織を新しく編み直していくことだと思うんですが、一方で山崎さんのようなコミュニティデザイナーが活躍したり、オープンガバメントでいろいろな情報が公開されていくと、「既存の組織はもっと弱体化してしまうんじゃないか」、もっと言えば、「その先には地方議会がいらないんじゃないか」っていう議論も出てきますよね。
つまり、”政治家がいらない世の中”がくるかもしれない。
山崎 それは確かに変わってくるでしょうね。テーマによっては、ほぼ直接民主制に近いかたちになる可能性もあります。だからこそ逆に政治家の方々には、自分の地域のシンクタンクみたいな役割になってほしいと思います。
自分たちのまちと同じような課題を解決した世界の事例を日々学んで、町民に適切なアドバイスができるような政治家。イベントに挨拶しに来て「次の公務がありますので」と先に帰るみたいな、たくさんの人に顔を売ることに時間を使うのではなく(笑)
その地域の課題を解決する、その地域ならではの方法を考える。そんなアイデアをみんなといっしょに生み出すことに長けた政治家が出てきたら歓迎したいと思います。
お二人の対談、いかがでしたか?
冒頭で「どうすれば私たちは政治を”変えられる”のでしょうか」と書きました。でももしかしたら、”変える”のではなくいいところは使いながら”つくる”ことのほうが、最終的に変えられるのかもしれない。私はそんなことを思いました。
どこかで勝手に制度が決まるのではなく、自分たちで制度をつくっていける時代だからこそ、たくさんのヒントがコミュニティデザインの手法の中にありそうです。みなさんも身近なテーマから、あるいは今暮らしている地域のことから、政治について考えてみませんか?