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海外アーティストがMAD Cityへ!まちの人と交流しながら作品を制作するレジデンスプログラム「PARADISE AIR」 [MAD “Life” Gallery]

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韓国のサウンドアーティスト、イ・デイル氏が行った水中コンサートのようす

千葉県松戸市の松戸駅前の半径約500mをメインエリアとしてまちづくりを展開する「MAD City」プロジェクト。DIY・改装OKの賃貸物件を扱う不動産事業や、町会やアーティストとまちの公共空間を生かしたイベントを行うなどユニークな事業を展開しています。(詳しくはこちら

今回は、海外からアーティストを松戸に招待して一定期間滞在してもらい、まちと交流しながら作品制作をしてもらうというアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」の取り組みについてご紹介します。

アーティスト・イン・レジデンスって?

アーティスト・イン・レジデンスの「レジデンス」とは「住宅」や「居住」という意味。国内外からアーティストを招待して滞在場所を提供し、期間中に制作活動を行ってもらう取り組みです。似たような取り組みは、なんと17世紀頃のフランスから始まっていたのだとか。日本では1990年代前半から地方自治体やアート活動を支援するNPOなどが事業を展開しています。

MAD Cityでは松戸市からの委託を請け、2011年に松戸駅周辺の公園や空き店舗などを会場にした地域アートプロジェクトを行っていました。様々なアーティストに作品の制作や展示を行ってもらう「松戸アートラインプロジェクト」です。ただ、一方で課題も。

松戸アートラインプロジェクトは年度毎のイベントとして開催していましたが、期間が終了するとそれでおしまいでした。もっと、日常的にアーティストがまちにいられるような、継続的な仕組みをつくれたほうがいいんじゃないかと考えていたんです。(庄子渉さん)

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(左から)PARADISE AIRを展開する松戸まちづくり会議/まちづクリエイティブ・庄子渉さん、アーティスト・中島佑太さん、建築家・森純平さん

そこで、2012年からは松戸市とMAD Cityが事務局を務め、地域住民がプロジェクトを主導するための母体として、松戸駅前の町内会長などに呼びかけ「松戸まちづくり会議」が設立されました。継続的にアートやアーティスト・イン・レジデンスについての勉強会を開催しながら、徐々にPARADISE AIRの構想が練られていきました。

海外アーティストのニーズ×松戸宿に残る「一宿一芸」の文化

スタッフの庄子さん、森さんは以前から都内でイベントスペース/スタジオ「おっとり舎」を運営し、音楽イベントを開催していました。そのつながりで、海外のアーティストから来日した際の活動や滞在の拠点がないか問われることも多く、一定期間滞在できる場所のニーズがあると感じていたと言います。

さらに、歴史的に松戸宿として栄えていたころに、宿泊者が自分のつくった掛軸や書画を宿代代わりにすることもあったことから着想を得て、「一宿一芸」というコンセプトをつくりました。このような取り組みを受け入れやすい風土があったことも、レジデンスの企画を進める後押しになりました。

企画を具体化する第一歩になったのは、旧MAD City Gallery(まちづクリエイティブのオフィス)の向かいにあるパチンコ店「楽園」の上のフロアが使われていないのがわかったことでした。そこで、2012年6月ごろからビルのオーナー会社である浜友観光株式会社と話を進め、同年末から本格的なレジデンスプログラムを作っていきました。最終的には運営を松戸まちづくり会議が行い、それに浜友観光株式会社が協力する形で、プログラムが始まりました。
 
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パチンコ店「楽園」 撮影:加藤甫

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「PARADISE AIR」として活用されるパチンコ店の上のフロア。元々はホテルでした

第1弾は韓国からサウンドアーティストが来日

空きフロアでは、全8室のうち、2室を松戸まちづくり会議がアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」として使い、残り6部屋はMAD Cityの民間事業としてSOHOやスタジオとして入居者を募集(詳しくはこちら)。3年後には後者の家賃収入で、レジデンスプログラムの資金を賄おうという構想です。

プログラムは約1ヶ月半滞在するロングステイと、1週間まで滞在可のショートステイの2種類。前者は海外のアーティストを公募し活動資金も提供するもので、後者は一芸の提供と引き換えに無償でアーティストが滞在できる形です。(詳しくはこちら

ロングステイでは、アーティストがまちの人に自己紹介する場をもうけること、滞在中に一度はオープンスタジオをやって制作の様子をまちの人に見てもらうこと、最後に滞在報告の場をもうけることが義務となっています。「作品発表」など成果を求めるものではなく、あくまでも「まちと交流すること」に、より軸が置かれているというわけです。

ロングステイの第一弾として9月中旬から11月にかけ、韓国のサウンドアーティスト、イ・デイルさん(以下、デイリーさん)が松戸へやってきました。まちの人と交流しながらまちの音を収集して作品を制作し、ユニークな水中コンサートや、以前ご紹介した旧・原田米店での古民家コンサートを開催しました。
 
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イ・デイルさん(中央)

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まちのクリーニング屋さん「ききょうや」の音を録音中

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滞在している「PARADISE AIR」の部屋でスタッフと打合せ中

滞在中には、まちにあるスポーツジムのプールで、水の中でのみ音を聞くことができるという「水中コンサート」も行いました。普段コンサートが行われるようなホールなどではなく、生活のなかにすでにある空間を用いて、あまり意識されていない音に気付きを与えることを意図しています。

ふつうに泳いでいるお客さんもいる中、プールの片隅ではコンサートを聴きにお客さんが水中に耳を傾けています。水中では、クジラの鳴き声やクラシカルな音楽素材で構成された音響作品が、シンクロナイズドスイミング用の特殊なスピーカーを用いて再生されています。

泳いでいるお客さんも、ひとしきり運動し終わったらゆったり水中の音に浸るといった具合です。少し不思議な空間ですが、この水中コンサートは「羊水のなか」というコンセプトで、母親の体内に抱かれているような状況を表現したものだったそうです。
 
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そして、滞在の終盤に報告会も兼ねた、古民家スタジオ「旧・原田米店」での古民家コンサートを開催。前述の「楽園」の店内の音や、クリーニング屋さんの音を使った音楽をコンサートという形式で演奏することによって、まちの中にある、普段はあまり意識したことがない音を聴かせたりしました。

他にも、プロの演奏家ではないまちの人がプレイヤーとなって、お客さんの前で古民家を叩いたりこすったりする音を重ねて、新しい音楽を奏でるという演奏もありました。特別なイベントとしてのコンサートではなく、「まち」や「くらし」の中に潜んでいる音の魅力、可能性を様々な方法で聴かせてくれました。
 
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まちの人が演奏者となって古民家のいろんな場所で音を出して演奏。 撮影:加藤甫

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糸を自分やお客さんに巻きつけての演奏。観客自身も演奏者となりました。 撮影:加藤甫

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活動報告会のようす 撮影:加藤甫

デイリーさん自身も松戸で充実の滞在期間を過ごしたよう。地域住民はもちろん、MAD Cityの多くの人々も一度はデイリーさんと飲んだのだとか。古民家コンサートにはそんな松戸の飲み仲間もやってきました。前述の「まちと交流する」という点においても、今回の滞在は一定の成果があったのではないでしょうか。

松戸にはMAD Cityのメンバーなど面白い人たちが多くて、いい環境でした。みんながんばって活動している。「PARADISE AIR」での滞在は普段の制作でストレスとなる防音の問題など感じることが少なく、集中して制作ができました。(デイリーさん)

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松戸にある居酒屋で、みんなで乾杯!

現在、第2弾のロングステイは、特別に「CROSS Stay Program」と称して、東日本大震災からの復興をテーマに据えた滞在アーティストを公募しました。その結果、世界各国から62組もの応募が集まり、厳正な審査の結果、ポーランド出身/イギリス在住のアーティスト、パヴェル・ヅィエミアンさんが来日することが決定。1月24日から3月12日の約1ヶ月半、滞在します。次回の滞在時には、より一層アーティストとまちの人が交流するしかけを多く作っていく予定だそうです。(詳しくはこちら

アーティストが、アーティストとして仕事を持てる場所は今の日本ではまだ少ないです。作品を作るというゴールじゃなくて、アーティストがアーティストとしてまちにいられる為に、アーティストはもちろん「まち」としてどうあるべきか、という問いが一番重要なんじゃないかと思います。(森純平さん)

今後、来日するアーティストとまちの人との交流でどんな化学変化が起きるのか、今から楽しみです!

また、現在「PARADISE AIR」では、日常的なアーティストの活動や、制作のサポートをお手伝いいただけるボランティアスタッフも募集中です。ぜひ、関心ある方は参加してみてくださいね!

※「PARADISE AIR」のボランティアスタッフについては下記よりお問い合わせください。
MAIL:info(a)matsudo-artline.com
(a)を@に変えてお送りください。