ノリのいい音楽。見応えのあるストリートダンス。ダンサーに導かれて踊る本能的とも言える“楽しさ”。この“理屈抜きの楽しさ”の力に注目して、福祉の世界に新しい風を吹き込もうとしている集団がいます。
その名も「SOCIAL WORKEEERZ(ソーシャル・ワーカーズ)」。障がいがあるとかないとか、年齢や性別が違うとかという垣根を越えた、“心のバリアフリー”の場を提供するパフォーマンスチームです。
活動では、障がいの有無を越えて楽しめる「DANCE PARTY(ダンス・パーティー )チョイワルナイト -DANCEと福祉をつなぐ-」を毎年主催。全国70件ほどの福祉施設の訪問や福祉関連イベントの出演、インクルージョン社会の実現をテーマにした講演も行っています。
最近では、第3回「介護甲子園」決勝大会オープニング演目をオーディションで勝ち取ったばかりの実力派。日頃の施設訪問でも、まずこのダンスパフォーマンスを披露して参加者を魅了し、みんなで一緒に踊るワークショップなどを実施しています。
障がいのある子どもたちを中心とする参加者が、ダンスや音楽を楽しむ場をつくり出し、好評を得てきました。
衝撃! 楽しい! ダンスで福祉を盛り上げたい
代表の笹本智哉さんは、障がい者施設のケアワーカー。小さな頃から障がいを持つ人のサポートを仕事にしたいと考えていたとのこと。しかし、趣味のダンスを福祉の仕事と結びつけることまでは考えていませんでした。
それが、あるとき、福祉施設のお祭りでダンスを頼まれ、予想外の反応の良さに感動。チームをたちあげたそうです。
インタビューに答えてくださった副代表の桑原一郎さん(左)と代表の笹本智哉さん(右)写真提供:cococolor
今回お話を伺った副代表の桑原一郎さんは、学生時代のダンス仲間だった笹本さんに誘われたのが活動の始まり。それまでの桑原さんは、福祉の世界とは無縁だったと言います。
最初は、障がいのある子にどう接していいのかもわからなかったんですが、やってみて衝撃をうけました。支援の仕方を特別意識しなくても、子どもたちは、ショータイム中に前に出てきてしまうほどノリがいい。ダンスや音楽があれば、簡単にお互いのバックグラウンドの違いを越えて、自然に共鳴し合えるんだと感じました。そして、それが、とても楽しかったんです。
施設訪問では、体を動かすのが難しい車椅子の肢体不自由の子が、自ら手をあげハイタッチをしてくれるなど、嬉しい反応も。
ダンスや音楽、またアートが生み出す、“楽しい”感覚の可能性を感じ、人と人との“心の壁”を越えるために「ダンスイベントなどで湧き出てくる、論理を越えたパワー」を活用したいと考えるようになりました。
現在、チームメンバーは社会人11名で、介護士、養護教員、保育士…と職業も多彩。桑原さん自身もIT系のシステムエンジニアで、仕事の終わった時間や休日を、ダンスの練習や活動にあてています。「普段、福祉の世界の外にいる」からこそ、かつての自分と同じように、関わり方がわからないだけの人も多いことを感じているようです。
まったく興味がなさそうな友達でさえ「見守りスタッフやってくれない?」と頼んだら「いいよ」と即答してくれて、さらに終わると「また、呼んでよ」と言ってくれたりする。
僕の方が驚きますが(笑)、福祉などということを意識せず、どんな人でも気軽に参加して楽しめるイベントが、当たり前に行われる社会になったらいいと思います。
その「当たり前」と感じる状態が、“心のバリアフリー”なのでしょう。イベントを通じて、「福祉の世界の外にいる人たちには、ふれあいの大切さや、気遣うことの尊さを、中にいる人たちには、世の中への問題発信の機会や、自分の存在をすごいと思える自信、自由に楽しく生きる希望を与えたい」そうです。
「福祉と外の世界をごちゃまぜにかき混ぜる」ダンス・パーティー
主催する「チョイワルナイト」では、「老若男女すべての人が障がいの有無にも関係なく楽しめる場」を提供。神奈川県川崎市のNPOを中心とした約20の福祉団体による協力も得て、毎回500名を超える出演・来場者を動員するまでになりました。この10月には、規模の拡大に対応するためのクラウンドファウンディングも見事達成したところです。
「チョイワルナイト」の会場には、救護室や専用トイレ、見守りスタッフの配備などが施され、障がいがあっても安心して参加できる配慮がされているそうです。また、モデルばりの撮影ができるブースや来場者がお絵かきを体験できるライブペイントなど、音の苦手な人でも楽しめるような本格的なエンターテイメントまで複数用意。
障がいをもつ人々のためのイベントとしても、アートのイベントとしても、通用する質の高さが印象的です。垣根を越えるためのユニバーサルな環境と、楽しさを共有するための本格的なエンターテイメントへのこだわりが、イベントを成立させている大事な要素であることも、お話からうかがえました。
ダンサーと一緒に、プロカメラマンによる本格的な撮影!
右脳的な感性で共鳴。みんなで笑顔に!
桑原さんは、講演活動も担当。高校などでは、福祉活動のもとになる愛や人生についての話から、「外部の講師だからできる」という異性の話などにも触れ、「いわゆるグレた生徒が、めっちゃ興味をもって食いついてくれる(笑)」ことも少なくないそうです。少し年上のかっこいいダンサーが真剣に語ってくれる人生の話。複雑な思春期の心も開く力があるのだろうと想像しました。
今後、活動へのオファーが増えれば、時間の捻出、リソースの不足も課題になりますが、50人、100人、1000人になってもできるような活動を視野に入れています。
僕たちの真似をして、右脳に訴える感性によって人と人が共鳴しあう体験を提供することが広がってほしい。そして、これが、ひとつのムーブメントとなってくれたらと思うんです。
これは、企業のなかでも通じるものですし、ダンスでなくてもできます。人としての根源的な“楽しい”という気持ちによって、みんなが笑顔になってくれたらいいです。
みんなで笑顔に!
プロモーションビデオでは、障がい者や高齢者が少しずつ暮らしやすくなってきた社会の現状に触れて、「では、肝心な ぼくらの“意識”はどうだろう?」という問いかけが。そして、「まだ、そこには大きな壁が あるんじゃない?」と続きます。
「SOCIAL WORKEEERZ」のプロモーションビデオ
今後の展望として、福祉施設訪問を、誰でも参加できる自由でハッピーなイベントにしたいと考えています。ダンサーもそうじゃない人も、子どもからおじいちゃんまで、僕たちと施設に遊びに行きましょう。
参加したい人は連絡ください!
「バックグラウンドは問わない。人を好きであれば大丈夫。僕らといっしょに、福祉をもりあげていってほしいです」と桑原さんは呼びかけます。意識の壁をアートで越える体験。今後の展開と、ここから派生する社会の動きが楽しみです。
(Text: 仙波千恵子)