12/19開催!「WEBメディアと編集、その先にある仕事。」

greenz people ロゴ

”県産本”を通して、沖縄の魅力を伝えたい。日本一狭い店舗で本と人、街をつなぐ「市場の古本屋ウララ」

urara1

沖縄の一大観光地、那覇国際通り。隣接する新鮮な食材が並ぶ活気あふれる牧志の市場。そこに「日本一狭い古本屋」を自称する古本屋「市場の古本屋ウララ」があります。

日本一狭いといわれる店舗は、どこから「市場の古本屋ウララ」でどこから隣のお店か分からないくらい、両隣のブティックと食品店にぴったりとくっついています。

urara2

店先の棚に並ぶのは、沖縄の冠婚葬祭、沖縄のお母さんたちの手作り料理紹介本、沖縄の子どもに関する漫画、沖縄の商店街の歴史、などなど沖縄に関する情報がいっぱい。全国区ではなかなか見たり聞いたりしたことのない本がずらりと並んでいます。かと思えば、全国的に人気のある小説やメジャーな新刊も並んでいたり、ある一角には離島情報専門のタブロイド紙「リトケイ(離島経済新聞)」をはじめ、島の空気が感じられるCDやガイドブックが置かれていたり。

どの棚にも世界観があるんだけれど、沖縄をいろんな角度で体感できるような世界が、お店のなかに広がっています。

urara3

urara5

沖縄は「本の地産地消」県!

店主の宇田智子さんは、神奈川県出身。昔から本を読むことが好きで、東京の大学を卒業後、ジュンク堂に就職。本店の池袋店で勤務していたあるとき、上司が企画した「沖縄本フェア」に関わり、これまで見たこともないような沖縄県の種類豊富な本の多さにびっくりしたのだそうです。

沖縄では沖縄県の出版社が発行する、いわゆる「県産本」の数は、他の県に比べて圧倒的に多いのだそうです。宇田さんが数えただけでも、沖縄県内の出版社は、100社以上。個人でやっているところも含めると、もう数えきれないくらいなのだとか。東京や大都市の大型書店でもお目にかかることのできない本が、沖縄のなかでたくさん流通しており、沖縄は「本の地産地消」県なのです。

沖縄にそれだけ「県産本」が生まれた背景としては、年中行事、料理、音楽とどれをとっても独自性の高い文化を持っているため、自分たちの手で本を作る。また戦時中や占領下、本土から本を仕入れることが困難であったため、沖縄県内で流通させていた。そういったことなどから、沖縄は日本一の「本の地産地消」県になっていったようです。

urara7

宇田さんは、「沖縄本フェア」での衝撃が忘れられず、ジュンク堂が沖縄に初出店するのを機に自ら異動に手をあげ、沖縄店の副店長として沖縄にやってきました。

実際に沖縄に来て、予想以上の多様な「県産本」や出版社に触れ、やりがいもあったそうですが、どうしても大型書店と沖縄の出版社の間にある取引の方式の違いや、習慣の違いで扱えない本もありました。宇田さんは、古本も含めて、もっと自由に「県産本」を扱い、その魅力を伝えることができないだろうかと思いはじめます。

そんなところに、牧志の市場中央通りで、もともとご夫婦で営業していた日本一狭い古本屋「とくふく堂」が閉店し、スペースが空くという情報がはいりました。牧志の市場中央通りは、外から来た観光客や地元のひとが行き交う絶好の場所。宇田さんはジュンク堂を辞める決意をし、新たに日本一狭い古本屋として引き継いで、2011年11月11日、「市場の古本屋ウララ」の営業を始めました。

沖縄の魅力を伝え、つながりを生む場

urara6

小さなお店だからこそできることがたくさんあります。自分が良いと思えばどんな本でも仕入れられるし、それを目玉商品として推すこともできます。

基本的に沖縄「県産本」を扱っていますし、その魅力を伝えたいと思っていますが、決して私の好みに偏ったチョイスはしていません。セレクトショップとは違って、通り過ぎるいろんな方がふらりと立ち止まって、本と関われる場、そういう人たちの出会いで作られていく場になればと思っています。

そう話す間にも、観光客の人が沖縄の手料理の本を手に取ったり、地元の人が冊子を買いに来たり。新刊や全国で売れている本なども織り交ぜているからこそ、地元のひとも立寄っていくのでしょう。沖縄独特の「県産本」を中心に、小さい店だからこそ並べられる本が集う「市場の古本屋ウララ」は、地域のひとや外から来たひとが本に触れ合うことで、新しい沖縄の魅力を知り、新たなつながりを生む場となっています。

最近では、ミュージシャンのイベントやギャラリーでさまざまな発信をしている宜野湾市のカフェ「UNIZON」と一緒にフェアを開催したり、那覇市内で開かれる一箱古本市や古本まつりなどのイベントに出たり。さらに沖縄を紹介する雑誌に登場したりと大忙しの様子。今年夏には、宇田さんが古本屋をはじめるまでの経緯をつづった『那覇の市場で古本屋』が沖縄の出版社ボーダーインクより刊行されました。

「のんびりやろうと思っていたのに、一人でやっているから責任も重くなったし、予想以上に忙しくなりました」と苦笑いしながら話す宇田さんからは、次々と予定されているイベントや、新しいつながりで生まれた企画など、面白そうなことがこれからもっと生まれてくる様子を感じます。

ここには、沖縄の文化に触れ、新しい沖縄を知る本と情報がいっぱい詰まっています。ぜひ沖縄を訪れた際は、日本一狭い古本屋「市場の古本屋ウララ」にふらりと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

(Text:田中摂)