(左)江口晋太朗さん(右)横尾俊成さん
みなさんは、「どうやったら政治がもっと身近になるんだろう?」と思ったことはありませんか?そんな政治との距離をコミュニティデザインの切り口で埋めていこうというのが、今回ご紹介する「マチノコト」です。
今年9月1日の防災の日、”防災”をテーマにしたウェブマガジン「Standby(スタンバイ)」が、「つなぐ、つくる、つたえる」をテーマにコミュニティデザインマガジンとしてリニューアル。
発行人は、国内外50以上のチームの街のゴミ拾い活動を通じてまちづくりをサポートする、NPO法人グリーンバードの代表で港区議員の横尾俊成さん。そして、マガジン運営に携わる編集者のひとりが、greenz.jpでもライターを務める江口晋太朗さんです。
今回は、このお二人にマチノコトが目指すこと、政治とコミュニティデザインの関係について伺いました。
グッドアイデアを全国で展開できるように
マチノコト
グリーンズ 今日はよろしくおねがいします!まずは「Standby」の立ち上げのきっかけについて教えて下さい。
横尾 「Standby」を立ち上げたのは、2012年9月でした。グリーンバードで東日本大震災の支援をしていたのですが、東北に足を運ぶとそこには濃密なコミュニティが残っていて、とても温かいと感じていたんですね。
一方で、東京に戻ってくると、近所づきあいを含めてあまりコミュニティの存在を感じることがなくて。いまの状態で震災が起きてしまったら、「本当にお互い助け合うことができるのだろうか?」と考えてしまったんです。震災に備えてコミュニティをどうやってつくっていけばいいんだろうか、と。
みんな「つながりはほしい」とはいうものの、「つながり方がよく分からない」という課題もあり、そのネットワークづくりのヒントになるような情報を出していこう。それを読んだ人が震災にスタンバイできるようにしていこう。そんな思いで「Standby」を創刊したのです。
グリーンズ 今回「マチノコト」にリニューアルしたのはどうしてだったんですか?
横尾 当初は防災に関する情報が求められていたこともあり、自助や共助、そして公助のためになるような情報を発信していました。ただ、震災直後に比べれると防災への関心が薄れてきているように感じたんです。
そこで、コミュニティづくりやまちづくりを前面に押し出しつつ、結果的に防災に備えられる状況をつくれればと考え、「マチノコト」にリニューアルすることにしたのです。
「空き店舗をリノベしてシェアハウス兼交流の場に!東京のNPOがしかける商店街再生プロジェクト」という記事
江口 今ではいろいろなメディアで、面白いアイデアや事例が紹介されていますが、細かな取り組みを網羅しているものはなく、実際に地域で真似するための材料が揃っているとはいえません。
だからこそ、マチノコトでは地域活性やまちづくり、防災、官民連携といったトピックについて、ローカルな活動を取り上げながら、それらの事例をもとに全国の人たちの参考になればと思ったんです。
グリーンズ なるほど。
江口 たとえば、京都の面白い取り組みが京都の新聞に載ったとしても、トピックがローカルすぎてなかなか全国紙には載ることはないですよね。
でも本当に大事なのは、小さな取り組みを定期的に追いかけたり、その取り組みがどのように意味があるのか、また別の事例と組み合わせることで新しい取り組みが実践できる、といった可能性までを提示することだと思うんです。
マチノコトではこうした情報を紹介し、地域を超えて応用できるようなフレームワークとして共有してもらえればと考えています。
グリーンズ それは実践的ですね。
「被災状況を市民の力で集約−−伊豆大島の情報をマッピングする「台風26号被災状況マップ」が、有志の集いからスタート」という記事
江口 地域コミュニティを作り上げるためには、行政とのつながりも必要です。興味深いのは全国の自治体はほぼ同じシステムで動いていることなんですね。本来、横展開しやすいはずなんです。そこで、個人や民間企業だけでなく、行政の動きまでしっかり追いかけることで、他の町でも取り入れやすくなると考えています。
行政が民間の力をうまくバックアップできれば、グッドアイデアが全国で横展開していく。現状は、アイデアの種を知らないばかりに、何もできていないところが多いので、僕たちが情報発信していくことで動きを作っていければと考えています。
横尾 たとえば、「studio-L」の山崎亮さんはたくさんのコミュニティデザインの事例を持っていて、ほかのところに横展開したりしています。だからこそ、こうした事例をもっと広げていくためにも、まちづくりや地域活性のヒントはもっともっとシェアしてもいいはずなのです。
コミュニティデザインの一つの課題は、雑誌やウェブマガジンで丁寧に紹介されていても、結構玄人好みになっているというところなんです。そこでブレイクスルーが起きていないな、と。マチノコトでは、全国紙に載らない情報を拾って、場合によっては行政担当者などからコメントをもらったりもしています。
江口 また、デザイン設計の面では、タグを県と市までタグをつけるようにしています。これによって、よりローカルなところまでフォーカスしていけると思います。
目の前のことから動くことで、世の中はシフトする
グリーンズ 江口さんは、どんなことを実現するために「マチノコト」に関わっているんですか?
江口 そうですね。インターネット選挙運動解禁に取り組んだ「One Voice Campaign」を通じて、大きなムーブメントを作れたという実感はあるのですが、本当の意味で政治参加をするためには、選挙という一瞬ではなく、日常の中でどう政治参加できる機会を作るかだと考えるようになったんです。
グリーンズ というと?
江口 「政治をもっと身近に」というときに、国や世界といった大きなものごとを考えてしまいがちですが、それだと概念的ではなかなかイメージが沸きません。そこで大事になるのが、目の前のことに目を向けることだと思うんです。
道端にゴミが落ちていたり、標識が壊れていたり地元の子育て問題を考えたりといったところから、社会や政治との関わり方が見えてきます。また、そうした課題があることを認識するだけではなく、課題を課題だと広く共有することも一つの政治参加です。例えば、ひとつのツイートで、オピニオンが広がっていくこともありえます。
小さくてもいいから、具体的なアクションを積み重ねていくことでしか、社会は良くならない。そのためには、自身の住んでいる地域や暮らしを見つめなおすことが大切です。
横尾 そこで大事なのが、「社会をつくる」と「社会を変える」の違いです。「つくる」の場合は、ちょっとずつ積み重ねていくこと。「変える」の場合は、制度や社会の仕組み自体をがらっと変えていくこと。結局のところ、両方のアプローチが重要なんですよね。
江口 小さなアクションを積み重ねていくと、どこかでルールを変えなければならないタイミングがきます。そのときこそ、いよいよ政治の出番です。One Voice Campaignも法律を変える一つのきっかけとなりましたが、自分たちがまちをよくしたいときに「どう政治をつかっていくのか」という視点が、非常に大切になってきます。
横尾 ネット選挙解禁運動で面白かったのは、内容は実質的には大きく変わってはいないけれども、アドボカシー的にすごく意味があったということ。
若者が動くことで政治や法律が変わるんだという実感が持てるようになり、自分たちの力で政治を動かすことができるんだという雰囲気になったのが大きかったと思います。社会全体としても、大きな成功体験を得た一つだったと。
江口 ネット選挙解禁運動は、選挙の時だけネットが使えませんという古いルールを変えただけではなく、普段から有権者と双方向のコミュニケーションを図り、政治をストック型としてとらえていく発想に変えていきましょうという運動でもありました。
上の世代の政治家たちも積極的にソーシャルメディアを活用するようになり、一方的な発信から双方向の対話へと移行している手応えを感じています。同じように、ルールを変えることでマインドも変わり、そこから地域に対する意識も変わってくるはずです。
横尾 地方の自治体では、これまで仕組みをつくってきた人たちが、「さあ、今から変えよう」と考えるのは、なかなか難しいように感じます。なぜかというと、彼らには変える動機が働きづらく、またそうしたアクションを容易に起こす仕組みにもなっていないのです。
本当は若い人たちで変えていければいいのですが、普段なかなか政治に興味を持ちづらい環境なので、よくないなと思ってはいても何もできずにストレスがたまるばかり。だからこそ、そうしたマインドをシフトさせ、「政治を使いこなすこと」を考えることが必要なのです。
グリーンズ 確かに「政治をつかう」というのはあまり意識したことがありませんでした。
横尾 そうなんですよね。だからこそ、自分たちのまちをどう良くしていくのかと考えた時に、ほかの県の事例も参考にしながら、行政も企業も住民も一緒になって考えようという機運をつくりたい。無関心なだけでも、批判するだけでもなく、一緒に考え、具体的に動く人が一人でも増えるといいですね。
地方分権の時代には、横展開できるノウハウが大事
Code For Japan
江口 私は今、マチノコト以外にも、「Code For Japan」という活動を通じて、地域に効果的なIT活用を模索しています。
デザインやエンジニアリング、プログラミングがますます重要になる中、それらを地域を活かしていくことが重要です。ハッカーもメディアの人も、市民もまちのことについて考え、同じ方向を向いて取り組めるようなコミュニティづくりが必要なのです。
テクノロジーを使うことで行政も業務改善できるはずだし、地域の人と一緒にハッカソンでアプリをつくってみてもいい。最近だと、金沢ではゴミ収集日がシンプルに分かるアプリが開発されている事例もあります。
横尾 ちなみに、この金沢の取り組みを参考に港区議会で提案してみたのですが、提出する原稿を準備しているときにマチノコトの記事が役に立ったんです。
行政は横並びなので、ある自治体でうまくいっている取り組みがあったら、「港区でもどうですか?」と提言しやすい。こうして記事として紹介されることで、議会としても提案しやすくなっていきますし、提案のネタの宝庫としても重宝できます。
江口 良い事例や取り組みの情報が、行政や政治家にまで情報が流通できるのが理想ですね。それによってコストカットができ、余った予算を活用して新しい行政サービスを作ることに充てることも可能になっていきます。
横尾 地方分権の時代になった時には、より横展開できるノウハウが大事になってきます。ぼくが「Code For Japan」でいいなと思うのは、行政と提携していくことで、テクノロジー分野の人材が政治や行政の世界に入って、面白いシステムが生まれていくことなんです。
行政側に新しいインプットを入れていくことで、必然的に新しいアウトプットが生まれていく。現状、行政の下請けに回っているITエンジニアやハッカーたちが、行政と対等にコラボレーションしていくことで、新しい自治体の姿が生まれていくのではないかと思います。
江口 行政も面白い取り組みをしているのに、なかなか情報が届いていなかった。それもあって、僕らが政治家たちを遠い存在と思い込んでしまったりと、僕ら側の問題も多くあったと思います。
だからこそ、一緒に考えて、つくり、行動すること。そうすることで、まちが盛り上がっていくし、最終的には日本全体が盛り上がることにつながるのだと思います。
「社会を変える」のはじめかた&パブリックシフト
横尾俊成さんと江口晋太朗さんの対談、いかがでしたでしょうか?今週木曜日にはお二人をゲストにお迎えしてgreen drinks Tokyo「政治のつかいかた」も開催するので、ぜひ遊びに来てください!
参考までに、横尾さんは、『「社会を変える」のはじめかた 僕らがほしい未来を手にする6つの方法』で”ソーシャル議員”としての活動をふまえての社会変革のノウハウを公開し、江口さんは『パブリックシフト ネット選挙から始まる「私たち」の政治』で、インターネット選挙解禁運動について、そして市民主体の未来の社会の形について書いています。
マチノコトを知って、マチノコトのために小さなことから動き出す。そして行政や企業、市民などが垣根を越えて、一緒に考え、つくり、行動することで、これからのコミュニティが育まれていく。
ぜひ気になった方は「マチノコト」にアクセスしてみてください。みなさんの暮らす街に役立つアイデアが見つかるはずです。