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今の時代を生きるヒントは”野良的感性”!男子野菜部・田中佑資さんに聞く「野良的生活のススメ」

写真左:男子野菜部・田中佑資さん。メディアサーフコミュニケーションズ株式会社に勤務。男子野菜部として、毎週末、青山でFarmer's Marketを運営。写真右:小野裕之。greenz.jp副編集長 (左)田中佑資さん。メディアサーフコミュニケーションズ株式会社に勤務。毎週末、青山でFarmer’s Marketを運営。(右)greenz.jp副編集長・小野裕之

特集「野良的生活のススメ」は、“野良”な生活、“野良”な働き方を探求する連載企画です。自由気ままに人間らしく、自然のリズムと共に生きる人々の知恵やアイデアを掘り下げ、野良的な感性をみなさんの元へ届けます。

産地、値段、見た目…みなさんは、野菜を買うとき、何を基準に選びますか?

農家さんも、十人十色。それぞれの大切にしたい思いがあります。その物語を届けようと「青山ファーマーズマーケット」を運営する、「男子野菜部」の田中佑資さんは、今の時代を生きるヒントとして、“野良”というキーワードに注目しています。

太陽の下で風を感じ、雨にも濡れながら、自由気ままに人間らしく、自然のリズムとともに生きる。そんなテーマで掘り下げていく特集「野良的生活のススメ」第一弾は、田中佑資さんとフクヘン小野裕之の対談からはじまります。

“思い通りにならないこと”を受け入れる

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田中 実は最近、『NORAH』という雑誌とWebのメディアを立ち上げたんです。

小野 あれ、表紙がそれぞれ異なりますね。

田中 印刷会社でどうしても出てしまう余り紙とか、紙のメーカーで売れ残ってしまっている紙を主に使っているので、バラバラなんです。表紙が6種類、中身が2種類あって、組み合わせは12パターンあります。同じ写真でも印象が違うんですよね。

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小野 面白いですね。どうしてNORAHを始めたんですが?

田中 野良って、「野に良いこと」ですよね。なんとなくですが、今こそ”野良”にヒントがあるんじゃないかって。

小野 野良猫とか、野良しごととか。

田中 例えば今って、暑くても室内はクーラーが効いていて、快適じゃないですか。そうした仕組みが当たり前のように、社会のベースになっている。

でも野良的な環境って、暑けりゃ暑いし、寒けりゃ寒い。当然ながら、自然に左右されるんです。その自然と向き合って仕事をしている人たちに今、社会の目が向いているし、そこに癒しや救いを見ようとしているんじゃないかなと。

小野 なるほど。

田中 それは、自然との向き合い方だけじゃないと思うんです。しかも食や農業だけでなく、都市でのライフスタイルでも言えるような気がします。

小野 ひとことでいうとどういうことなんでしょうね。

田中 うーん。「思い通りにならないこと」かな。

道具のひとつひとつにまで手入れが行き届いた蔵 道具の一つひとつにまで手入れが行き届いた蔵

小野 NORAHにはどんな記事があるんですか?

田中 例えば、富山の宮本みそ店さんの話はすごく面白いんです。お爺ちゃんが始めて、息子さんは継がなかったけど、お孫さんが継いで。味噌蔵という存在も今は数が減っていっているのですが、自前の麹から味噌をつくっていて、さらに麹の原料になる自分の手でお米育てている。

ファーマーズマーケットを運営していても、他に聞いたことがないくらいですよ。大豆も地元の農家のものを使っていて、素材の透明度が抜群に高い。仕込みのための道具も田んぼの稲わらを利用してつくっていたり、まさに職人ですね。工房を訪ねたら、道具の手入れがきちんとしていて、とても気持ちよかった。

小野 どんなところにその味噌を卸しているんですか?

田中 基本的には、地元のお店、直売のみ。ほぼひとりでつくっているので、つくれる量もそんなに多くはないけど、今後一緒に商品開発もしようと考えています。田んぼもやって、味噌もつくる。こんな人が、まだいるんですよね。

働き方は、もっと変わっていく

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小野 greenz.jpの読者は都市部在住の人が多いけど、この5年くらいで働き方はもっと変わっていくと思うんです。

自分で事業を始めるのも、いわゆる起業家みたいな人ばかりではなく、家業を継いだり、友だちと2〜3人で何か始めてみたりとか。半分東京、半分富山みたいな暮らし方も増えていくんじゃないかと。

田中 確かにそうですね。

小野 今、僕たちは過渡期にいると思うんです。普通に農家の友だちがいたり、友だちがレストランを経営しているから当たり前のように食材として提供したり。だんだん、そうしたつながりが生まれていますよね。

田中 僕はきっとその“つなぎ手”になりたいんだと思います。ネットだけでは難しくて、やっぱり会わないと始まらない。このところ農家さんの問い合わせが増えてきて、農家さん側のマインドも変わってきている感じはします。

小野 つなぐには目利きが必要ですよね。それがファーマーズマーケットのような場所かもしれないし、農家の支援をしている団体かもしれない。ある程度、格付けのようなことをしてあげると見つけやすくなるのかなと。

海外で始まっている”野良”的な取り組み

田中 先日アメリカのファーマーズマーケットを巡ったのですが、そもそもアメリカのコミュニティスペースって、食が中心なんですよね。美味しくていいものに人の関心が向かってきています。

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ポートランドの「Salt&Straw」は、ローカルな牛乳とオーガニックな果物を使ったすべて手づくりのアイス屋さんなんですが、このゴミ箱がすごいんです。ゴミ箱に入ったものをすべて土に還している。つまり容器もスプーンも、土に還せるものしか使っていないんですね。この循環が素晴らしいなと思って。

小野 かっこいいですね。

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田中 僕らが運営している表参道にある「青山246COMMON」でも、“みみずコンポスト”を置いているんです。そこで土づくりのワークショップをやったり、その土でトマトやハーブを植えたり。

飲食店として、ただゴミを捨てるのではなくて、みみずにあげて、土に還してそれをまた使うというあり方を、もっと広めていきたいんです。アメリカだと、ハチミツを採るためにミツバチを飼っているのも普通でしたよ。

青山246COMMONの生ごみはこの“みみずコンポスト”に 青山246COMMONの生ごみはこの“みみずコンポスト”に

これは、ブルックリンの屋上菜園です。日本の農家でこんな大きな土地を持っている人は少ないくらい。その大きさが屋上にあるのかって驚きました。ブルックリンには、こうして都市のなかに普通にあるんですよね。

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小野 こういう動きは日本でも増えていくと思いますか?今はまだ実験的だったり、展示物だったりしますよね。

田中 本当は、まとまった場所がないからできない、ということではないと思います。ニューヨークでは街中で、コミュニティガーデンと呼ばれる狭いスペースで小さな菜園をやっている例もあります。それならそのまま日本でもできますね。

小野 都市の中で身の丈にあったスモールビジネスがたくさんあるというのが、海外の事例から伝わりますね。

田中 そうなんです。スモールビジネスを営む人たちの”野良”的な価値観や思想が、都市にマッチしていく。そういう動きをつくっていきたいなと。

“つながり”で食も流通も変わる

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田中 食における流通って便利なシステムだけど、いつでもどこでも誰にでも好きなものを、というのが基本命題なので、均一性が重要になる。そうなると、野菜もサイズを揃えて、どんな野菜かという情報は、第三者が「これは有機です」といったように、認証するかたちになっていく。でも、その過程では伝わらない部分もたくさんあるんです。

例えば「誰がどんな思いでつくっているか」とか、農家さん側の「こういう風に食べてほしい」という思いとか。手に取る側だって、農家さんの考え方は好きになるはずだし、生産者と食べる側がつながれば、「美味しかったよ」とか「もっとこういうのが食べたい」とかフィードバックも増えて、どんどん洗練されていくと思うんですよね。

そういうつながりがある方が、より多様で面白い食文化が生まれる。食だけではなくて、いろいろなことが、何となくそういう流れになってきている気がします。

小野 そうですね。僕も料理をするんですが、できれば割高な食材を使いたいと思っていて(笑)産地や安全性は気になりますしね。

割高な食材って、情報開示度が高いんです。産地のシールがその食品に貼ってあるだけではなくて、この農家さんが作りましたっていうところまで知ることができる。高いものを買うと、美味しく食べたいって気持ちも働くじゃないですか。大切にするし、もったいないとも思う。

田中 そういうのってすごく大事なことですよね。

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小野 もっと言うと、そのくらいが適正価格なんじゃないかと思うんです。高級スーパーなんて言われているけど、外食するより全然安いって、料理を始めて初めて気がついたんです。原価があって流通があって、箱になんか入っていたりすると、利益はどのくらいだろうって。今の価格設定って、どこかに無理があるような気がして。

例えばハンバーガー一個100円って価値観ができてしまうと、あたかもそれが過去100年くらいそうだったように感じてしまうけど、本当は2〜3年前にがらっと変わった事実、なんてこと結構ありませんか?

田中 そうですね。

小野 働き方だって同じだと思うんです。ビジネスパーソンなんて文化はすごく短いわけで、家業のある歴史のほうが、圧倒的に長い。欧米だと、企業は家族でやるものという文化がありますが、日本だと家族経営っていい意味であんまり使われなくなってしまった。そういうことも、だんだん当たり前の姿に戻っていくのかなあと。

田中 そういうこれからのヒントが、”野良”という言葉のなかに見えてくるんですよね。当たり前のように自然とともに生きる。自然とともに働く。

小野 そうですね。その当たり前にほんのひと工夫を加えて、実践できる人が増えるといいですね。今できている人って、自分で考えて工夫している人だと思うんです。そういうことって教えられてこないので、なかなか気がつかない。

食べることは、クリエイティブな社会づくり

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田中 最近「お店を始めるラボ」という企画を始めたんです。まさに、ひと工夫の仕方を考えるラボです。お店を持たないでお店を始める方法、工場を持たないでメーカーとなる方法、お店プラス宿泊施設を持つような多角的な方法…。ひとくちにお店を始めるといっても、いろいろなやり方がありますからね。

小野 「リトルトーキョー」でも同じことをやりたいと思っているんです。いきなり、「あなた一人でどうぞ始めてください」って言われても難しいけど、ほんの少しでも手伝ってもられる機会があれば、実現しやすくなると思うんです。

田中 ひと工夫って見方を変えれば”選択”でもありますよね。食べるということも、選択の積み重ねでしかない。体は食べたものでつくられるし、自分の思考そのものにつながる。だから、食べることはクリエイティブなんです。

小野 そういう意味では、食べることが下手な人もいますね。食材の選び方だけではなくて、食べる順番の知恵や、取り分け方…。そう考えると食べることって、人が丸裸にされますね。

田中 「食」やその「選択」は、生きるための重要なリテラシーになってきているんでしょうね。

小野 誰でも食べなきゃ生きていけないわけで、食べるための選択で世の中がつくられているとしたら、選択次第で未来をつくることができるんですよね。この連載を通じて、そんなヒントが見えてくると面白そうです。今日はありがとうございました!

(対談ここまで)

と、ここまでお届けした田中さんと小野の対談、いかがでしたか?

“野良”というどこか懐かしい響きのする言葉に、ほしい未来をつくるヒントがある。男子野菜部との特集「野良的生活のススメ」では、そんな”野良的感性”を刺激するインタビューを続々と公開していきます!どうぞお楽しみに。