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こんにちは、「シブヤ大学」のインターンをしている一藤英恵です。
シブヤ大学とは、渋谷のまちをキャンパスとして、誰でも参加できる授業をおこなっているNPO法人です。入試や卒業、授業料などはなく、誰もが学生に、そして先生にもなれます。みなさんの中にも、参加したことがある方がいるかもしれません。
今日はこのシブヤ大学で、どのように授業をつくっているのかをご紹介したいと思います。
授業コーディネーターとは?
http://www.shibuya-univ.net/
シブヤ大学には“授業コーディネーター”という役割があります。
「こんな授業をつくりたい!」という企画を立て、先生をお願いしたい方にアポイントをとり、打ち合わせをして一緒に授業を設計していく。参加者を募集するための授業情報も書くし、授業当日は裏方として場づくりを行う。授業を生み出し実現するところまで、全て授業コーディネーターの役割です。
シブヤ大学の授業コーディネーターは、現在30人ほど。毎月授業をつくる人もいれば、2年に1度しか授業をつくらない人もいます。ほとんどの授業コーディネーターは専属スタッフではなく、フリーランスや会社勤めの人、過去には大学生がやっていたこともあります。
授業づくりのルールは「ひとりめの学生として、自分が受けたい授業をつくる」だけ。そこには「”教えたい(答え)”よりも”学びたい(問い)”が起点になっているか」「自分ごととして直接、見て・聞いて・会って・体験した一次情報から組み立てているか」「参加者に”面白さのおすそ分け”ができるよう考えられているか」といったことを大事にしたいという意図がこめられています。
授業の様子
授業コーディネーターになるには、ボランティアスタッフからの立候補や、それぞれのメンバーからのスカウト、ウェブサイトを通じての応募などがありますが、昨年、日本仕事百貨で募集した際は倍率10倍!と決して広き門ではありません。
次回の授業コーディネートを担当している堀田顕人さんは、シブヤ大学のウェブサイトで初めて募集をした際に応募しました。堀田さんは、渋谷区内のウェブサイトや映像の制作会社に会社員として勤めながら、授業コーディネーターを続けています。これまで仕事や働き方をテーマにした授業や、偶然に出会った人とのご縁でできあがった授業などを担当してきました。
そんな堀田さんに、9月の授業への想いや大切にしていることを聞いてみました。
堀田顕人さん
自分が一人目の生徒になる
一藤 「授業コーディネーター」とは、どんなことをするのですか?
堀田 授業の先生は普段から人に教えること、人前で話すことに慣れている人ばかりではありません。また、その人が持っている魅力をなかなか自分自身ではわからないこともあります。なので、コーディネーターが先生の話を生徒さんに届くように聞いて、伝え方を一緒に考えながら、授業の流れや告知のテキストなども含めて先生と一緒につくっていく手助けをする、そんな役割になります。
一藤 コーディネーターになったきっかけというのは?
堀田 5、6年ぐらい前にシブヤ大学のウェブサイトで授業コーディネーターを募集していた記事を見て、漠然と何か面白そうな、ワクワクするような気がしたんですよね。それで授業企画をいくつか考えて送り、参加することになりました。
一藤 どんなところに惹かれたのでしょう?
堀田 今振り返ってみて思うのは、自分の想いや好奇心を隠さずに素直に出していい、というところに魅力を感じました。シブヤ大学では授業をつくるとき、授業コーディネーターの「なぜ、この授業をやりたいのか?」という想いをすごく大切にしています。自分が一人目の生徒のようになって、この人に話を聞いてみたい、こんなテーマで他の人とも話してみたいとか。
一藤 仕事をしながら、続けられてきたんですよね。
堀田 はい、コーディネーターを始めた当時からはずっと同じ会社で勤めています。普通の会社員として働きながら、無理をせず、自分のできる範囲で続けています。シブヤ大学から「これぐらい関わってほしい」とか、「一年にどれぐらい授業つくってほしい」とかは言われないんです。
アクセサリー「OCICA」の授業にて
自分にとって、しっくりくる住まいや暮らしを考えたい
こうして、「普通の」会社員として働き続けながら、自分の想いを授業という場を通じてカタチにしてきた堀田さん。9月に準備している授業についても聞いてみました。
一藤 次回は「自分の暮らしと住まいを考える~東京R不動産・toolboxとともに~」という授業を企画していますね。
堀田 この授業は、ごくごく普通の、一人の生活者としての視点から考えました。「普通」と言いましたが、本当に特別な人の特別な事例ではなく、もしかしたらこの記事を読んでいる人にも起こりうるかもしれない一人の想いが起点になっています。というのも、今年の初めぐらいから、自分が今住んでいる家のことがすごく気になるようになってきて。
一藤 家のこと、というと?
堀田 自分は結婚していて双子の子どもがいるのですが、子どもたちを中心に家族が今後成長し、少しずつ親と子や子どもたちどうしの関わりも変わって、家族の暮らしは日々変化が起きます。その変化に対して住まいはどうかというと、壁できれいに仕切られていて、まるで変化しない、変えることができないのが前提であるかのように。
親と子、また、子どもたちどうしの関係性によって仕切りやスペースのとり方を変えたり、また戻したり、そのときどきで試しながら暮らしていきたいけど、家の中の壁はなかなか簡単には動かせないですよね。変化しない住まいにあわせて、ときに我慢したり、窮屈な思いをしたりしながら暮らしていかなければいけないのかなと思ったのです。もっと、家が住む人の状況によって変えられたらいいなって。
一藤 家を全部変えるというのは難しいにしても、ちょっと家を変えることで暮らしも変わりそうですね。
堀田 そうですね。どうやったらできるのかと考えているときに、人に話を聞いたり、本を読んだりする中で出会ったのが、東京R不動産が出している書籍「toolbox」でした。
toolboxは、住まいの編集権をつくり手から住み手へ渡せるように。その自分で編集できる空間をつくるための道具やサービスを紹介・販売するウェブサイトで、2013年の春に書籍が発売されました。
授業をつくるということ
一藤 住まいや暮らしのことの授業なら、建築家の視点などいろいろな切り口から作れそうですが、なぜtoolboxを授業にしようと思ったのですか?
堀田 建築家や他の視点からの授業も考えていましたが、この本やサイトを見る中で、toolboxのコンセプトがいいなと思って、これを授業にしてみたいという気持ちが強くなっていました。
住む人がちゃんと自分の家と向き合い、どうやって暮らしていこうかと考える。そして考えながらも自分にとってしっくりくる、暮らしにあった住まいになるように、少しずつでも家に手を加えていけるように行動できる。
そのコンセプトに至るまでの取り組みやtoolboxのはじまりの経緯などをtoolboxの荒川さんから直接聞いて、住まいは住む人によって変えていけるのではないか、と思うようになったんです。
そして、これは自分だけではなく、他の人が自分の暮らしや住まいを考えるすごくいい機会になると思い、授業にして多くの人に届けようと企画しました。
一藤 誰かに届けたいと言われていましたが、それをシブヤ大学で授業にしようとしたのはなぜですか?
堀田 シブヤ大学を通じて届けたいなと思うのは…さまざまな人が参加してくれるからかなと思います。
一藤 さまざまな人?
堀田 はい。そもそも、シブヤ大学のことを知っているという時点で誰でもみんなというわけではありませんが、それでも、授業の参加者にあまり偏りがない印象があるんですよ。仕事の職種とか、趣味とか、考え方とか、比較的広くいるからこそ、先生の同じ話を聞いても感じ方や気になるところが違うし、感想も違う。そこがすごく面白いなと思って。
だから、今回の授業もいろんな考えの人がきて、参加者どうしでも少しでも先生の話を聞いた感想や質問などが共有できたら、また新しい気づきや発見が生まれて、面白い場になるなと思って。
一藤 その場を想像するだけでワクワクしますね。
堀田 ワクワクします。もう仕事しながら授業の準備とか、授業直前にちょっと眠る時間が少なくなって、もっと寝たいな…と思うこともありますが(苦笑)、とにかく先生との打ち合わせも、当日どんな人がきてどんな場になるのかとか、先生からこんな話が聞けるのかとか、想像するだけで楽しくなります。このワクワクが止められずに、5年経ったんですね、きっと。
一藤 最後に、どんな人とこの授業を通して暮らしのあり方を考えたいですか?
堀田 面白いと思ったら、どなたでも(笑)。いろんな人にきて欲しいです。自分と同世代でそんなに遠くない未来に、自分の暮らしや住まいの事を考える人も、10歳ぐらい年下で今はまだ緊急性は低いかもしれないけれども、早くに考えておくことで選択肢は多くなるだろうし。応募者多数の場合は、抽選になってしまいますが、ぜひぜひシブヤ大学のウェブサイトから応募してください。当日お会いできるのを楽しみにしています。
会社に勤めながら、自分の思いを授業という場を通してカタチにしてきた堀田さん。今度シブヤ大学に遊びに来るときは、ぜひ授業コーディネーターにも注目してみてください!
また、その他の9月開催の授業は、9月2日(月)にシブヤ大学ウェブサイトにて募集開始の予定です。
授業の申し込みには、無料の学生登録が必要になります。詳しくは、シブヤ大学サイト内の学生登録情報をご覧ください。
(Text:シブヤ大学インターン 一藤英恵)