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こうして塩尻が”自分ごと”になりました。シブヤ大学・旅する学部「人に会いに行く旅をしよう。~塩尻編~」とその後

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塩尻・洗馬のぶどう畑にて (撮影:伊藤尚宏)

こんにちは、シブヤ大学事務局長/授業コーディネーターの榎本善晃です。

個人的な話ですが、旅の行き先を考えてみる時、「どこに行きたいか?」よりも、「誰に会いたいか?」を取っ掛かりにすることが増えてきた気がします。

素敵な景色、歴史ある場所、おいしい食べ物…。もちろん、そのものでも充分楽しめますが、それらに愛着のある誰かと一緒だと、それはもう相当に面白い。まして、パッと見では何てことない場所ですら、誰かの物語を共有することで、かけがえのない場所に変わったり。

ぼくたちの国、日本には、素敵なローカルがたくさんあります。そして、それぞれのローカルに暮らす誰かと出会い話し、それぞれがどんなことを大切に想い、どうしてそこに住むのかに思いを巡らすことは、きっと自分なりのローカルを考える機会にもなるんじゃないかなって思うんです。

「東京が中心」とか、「地方が新しい」とかってフレームをいったん取っ払って、そこに”誰か”を感じるたくさん多様なローカルを、もっともっと知りたい。
渋谷というまちでどう暮らすかを試行錯誤するだけでなく、いろんなまちを暮らすように旅してみたい。

そんな興味がフツフツと沸いている中、長野県の塩尻商工会議所から相談を受けました。「地域振興の助成金を活用した取り組みで、もっと東京の人に塩尻を知ってもらいたい」と。

そうして、いわゆる”観光資源”ではなく、”人”にフォーカスして企画したツーリズム「人に会いに行く旅をしよう。~ローカルで豊かな暮らし方・塩尻編~」。

昨年8/31(土)~9/1(日)に開催して、思った以上に参加者の皆さんの”その後の展開”が多様だったので、今回レポートしてみたいと思います。地域間交流の、ひとつの参考になればうれしいです。
 

塩尻の皆さんと一緒に、塩尻食材のBBQで乾杯!

人に会いに行く旅

東京の人と、塩尻の人との”縁”をつくるには?

この問いを共有しながら、塩尻の皆さんと一緒につくってきた今回の旅。
企画の切り口を「より自分らしく暮らすために塩尻に住むことを選んだ人に会いに行く」として、まずは塩尻商工会議所の皆さんに思いつく限りの人選をしてもらい、シブヤ大学メンバーで塩尻に通って詰めていきました。

そうして出来上がったツーリズムは、募集開始から程なく満席となり、当日は男性5名・女性19名の総勢24名が朝の渋谷に集合し、バスで塩尻へ。「人に会いに行く旅」のはじまりです。
 

寛政年間より200年以上続く奈良井宿唯一の旅籠「ゑちごや旅館」の9代目主人・永井裕さんを訪ねて。


建築家として東京に事務所を構えていたものの、50歳を過ぎて一念発起し、塩尻に移住してワイン造りを営む「VOTANO WINE」の坪田満博さんを囲んで、ワインを味わう。 (撮影:伊藤尚宏)


「塩尻食材だけでフルコースがつくれる。そんな土地はめったにない」と地元の食材に感動し、「トムズレストラン」を開いた友森隆司シェフの料理に舌鼓。


森の中の元々別荘だった建物をセルフリノベーションして、クラフトギャラリー「galle_f」を開いた藤牧敬三さんに木工を学ぶ。 (撮影:伊藤尚宏)


シャッター商店街の空き店舗をコミュニティスペース「nanoda」として、人と人、人と地域をつなぐ取り組みを仕掛ける公務員(!)、山田崇さんのお話。 (撮影:伊藤尚宏)


4グループに分かれて、それぞれ「nanoda」運営メンバーの案内で大門商店街のディープな街歩き。

旅の終わりには、塩尻の素敵なコミュニティスペース「えんぱーく」に集まって、参加された皆さんそれぞれがグッときたことについてシェアしつつ、写真日記にまとめていただきました。

その内容は塩尻市商工会議所が発行するフリーペーパー『Power Up!』の特別号として、塩尻のPRに活用される予定です。

また、この旅の模様が地元の主要な新聞3紙に取り上げられたり(しかも信州毎日新聞では一面トップでカラー!)、地元の方々から「普段は聞くことのない、仲間が塩尻に住んでいる理由や動機を聞けてよかった!」という声をいただいたりと、渋谷からの参加者だけでなく、地元の皆さん同士のコミュニケーションにも貢献できたのは、素敵な副産物でした。

旅、その後…

そして、その旅から半年。ツーリズムに参加された皆さんから、さまざまな塩尻との後日譚が寄せられました。

例えば、参加者のひとり、﨑田史浩さん。ツーリズムで知り合ったメンバーとFacebookなどで盛り上がり、さっそく4人で「ゑちごや旅館」の永井さんを訪ねて泊まりに行ったそう。

﨑田さん 元々は「ツーリズムの時に聴いた創業220年の歴史を感じられる宿に、実際に泊まってみたい」という動機が大きかったのですが、泊まりに行って一番の思い出になったのは、永井さんご家族の温かさ。

ご家族で宿を切り盛りしているのももちろんあるのですが、近い距離でその心遣いを感じことができきました。帰り際に永井さんの娘さんが似顔絵を描いてくれていて、親戚の家みたいだなって。

 

「ゑちごや旅館」にて

﨑田さんは最近も、通っているウクレレ教室の仲間を誘って塩尻を再訪したそうです。

﨑田さん まるで自分のまちのように、塩尻を案内できました。こういう”後日譚”が、これからも増えていきそうな予感がしています。

﨑田さん達と一緒にゑちごや旅館に泊まりに行った戸田そのこさんは、「トムズレストラン」の友森シェフのお料理を目隠しして楽しむクリスマスディナー企画を「nanoda」に持ち込み、実現させました。この企画はなんと読売新聞の地域面にも取り上げられたのだとか!
 

戸田さん ツーリズムを通じて、塩尻で頑張っている方々にお会いして、みんな塩尻を心から愛しているんだなあと思いました。ただ、みんなが愛している塩尻は、食材もワインも豊富でおいしいのに、今ひとつその良さが全国規模で知られていないのはとても残念だとも。

以前、目隠ししてフルコースを食べる企画に参加したことがあって、目が見えない分、味覚や嗅覚が鋭敏になって、素材そのものを味わって食べることができました。

これを塩尻の食材やワインで行うことで、その素晴らしさを体で実感してもらえるし、このイベントのために塩尻に行くという人が集まってくれるといいなと思い、企画してみました。

そんな戸田さん、なんとツーリズムに参加するまで、塩尻は山梨県だと思っていたようです。

他に、こんな展開も

また、ツーリズムで訪ねた坪田さんの「VOTANO WINE」のエチケット(ラベル)が今年から新しくなったのですが、このデザインはツーリズムに参加された曽我由里子さんが手掛けました。

曽我さん ツーリズム初日の夜の懇親会で、坪田さんから畑や醸造の話を聞かせていただき、塩尻の「洗馬」という土地にこだわりをもって、ワイン造りをされていることを知りました。

私はデザインの仕事をしているので、坪田さんのこだわりをラベルで表現できないか?と思い、坪田さんとお話して、これを「ツーリズム授業の宿題」として持ち帰り、後日ラベルデザインをご提案しました。

坪田さんが描いた山並みの絵をメインにしたデザイン案が2012年のヴィンテージから採用され、ラベル紙は「洗馬」という土地にちなんで馬の名を冠する紙を選びました。坪田さんの土地への思いが、ワインを飲む方に伝わればうれしいです。

その他にも、自分が勤めるPR会社全体を巻き込んで”自社のCSR×新人研修”として「nanodaを活用した塩尻PR企画コンペ」を実現させた方がいらしたり、塩尻の人に恋をした!という話もあったり。

旅を振り返って

ツーリズムの後、塩尻に月1ペースでリピートしている島守貴子さんはこう言います。

島守さん この旅に参加しての私なりの発見は、ふだん自分が生活している所とは物理的に少し離れた場所であっても、いいところ・面白いところ・自分に合うものと出会うことで心の距離が近づいて、これからも自分なりの関わり方でつながり続けていける、ということに気付けたこと。

ツーリズムをきっかけに「遠くに住んでいる、親戚でもない、でも仲良くしたい」と思える知り合いができました。土地より先に人にハマるというパターンです。結果、塩尻は”第三の故郷”というか、私にとってサードプレイス的な場所になりました。


島守さんが塩尻で出会った「ひと・もの・こと」。

﨑田さんによると、振り返ってみたとき、はじめての塩尻をこんなに堪能できたポイントは主に次の3つだったそうです。

﨑田さん ひとつは「バスツアー」だったこと。2日間あれば全員と話せるくらいの人数だったのもあって、参加者同士の一体感を育めました。次に、写真日記を残すという「取材する役割」があったこと。自分が聴いた塩尻の皆さんのお話がフリーペーパーになるのもあって、旅を主体的に作りだせたと思います。

最後に、塩尻の皆さんの「おもてなし」。塩尻ってほんといいところだなと終始思える歓迎と裏側でのサポート。山田さん(塩尻商工会議所職員・nanoda代表)に至っては帰りのバスにまで乗り込んできてくれて、渋谷で打ち上げにも参加しました!

そして「人に会いに行く旅」の感想として、こう続けてくれました。

﨑田さん 決して特別な観光地に行かなくても、見知らぬ地域で誰かと出会えれば、それが後々その土地を訪れる道しるべとなり得るのだと実感しました。観光は、後からついてくるんだなって。

誰かがどこかにいるから出かける楽しみ、そして、その人の暮らしや地域のことをスルスル自分の暮らしに手繰り寄せていける楽しみを、今回の旅で学べたように思います。

「nanoda」という、”懐の深い”場

ここまで色々な展開があったのは、ちょっと”出来過ぎた話”ではありますが、要因として大きかったのは、塩尻に「nanoda」があったこと。

島守さん 「nanoda」の由来は「~~なのだ」。なので「nanoda」は、~~にもなりうるし、~~にもなりうる。~~の部分は、誰もが考えて提案・活用・参加できる。

例えば、さっきまで町内会の集まりをしていたと思えば、今度は若者たちによるフューチャーセッション系のプチ会合が行われている。その時々によって臨機応変に変化できる状況が非常に面白くてワクワクしました。

首都圏にだったらそういう場所がたくさんあるか?といったら、そうとは限らない。だからこそ「次は何を一緒にやる?」という楽しい相談を持って、面白い人たちにまた会いに行きたい、と思ったんです。

「nanoda」のような「常に地元の誰かがいて、定期的にイベントが開催され、時にはイベントを新たに企画することもできる」という地域での拠点と、シブヤ大学のような「好奇心を持った人たちを集めて、その好奇心に応える体験を提供する」という都市部での機能は、継続する地域間交流の取り組みを考える上で、良い”掛け合せ”になることを実感しました。

塩尻商工会議所職員で、「nanoda」代表の山田さんはこういいます。


山田さん(右から3人目)とnanodaの皆さん

山田さん 今回の旅にご参加された方々は、観光目的の方と、Iターン・Uターンを検討される方の”間”だなと感じました。旅の後も塩尻のことをFacebookで語ってくれたり、わたしが仕事で東京に来ていると「飲みましょう!」ってコメントをくれて実際に”同窓会”になったり。

移住を検討されている方は、当たり前なのですが、会社や同僚などへのケアで、ここまでのオープンさはないので、ある種、対照的で面白いです。もちろんIターンもUターンも大歓迎ですが、塩尻との関わり方のグラデーションが増えるのもうれしいですね。

地域を視る目の解像度を上げる

「塩尻という街」が、「~~さんのの街」に変わる。
人を触媒にして、地域を視る目の解像度が上がると、景色がガラッと変わる。

人に会いに行く旅は、そんなことを体感できる旅でした。
 

2020年の東京オリンピックには、世界中からたくさんの方々が来日されると思います。その時、私たち一人ひとりが愛着を持って語れる土地土地の魅力を増やせたら、日本はきっともっと観光大国になれるんじゃないかなって。

自分の国をもっと知りたい。もっと色んなローカルに行ってみたい。
塩尻ともさらなる取り組みをご一緒させていただきつつ、日本中の色んなローカルとつながる「旅」の機会を、もっともっと増やしていきたいと思います。

(Text: 榎本善晃)