毎日うだるような暑さが続いていますね。でも、野外フェスなどのイベントを漫喫している方も多いのではないでしょうか。
鹿児島県南九州市の山あいに佇む「かわなべ森の学校」で毎年8月の最終週に開催される「グッドネイバーズ・ジャンボリー」も、その一つ。グッドネイバーズ・ジャンボリーは、大自然の中の廃校を舞台に、音楽、クラフト、デザインなどジャンルを超えたクリエイティブ活動を楽しめる全員参加型のフェスティバルです。
鹿児島出身のミュージシャン・坂口修一郎さん(Double Famous)が発起人となって4年前に始まったこのフェスティバルは、「グッドネイバーズ(善き隣人たち)」と呼ばれる地元のクリエイターたちが中心となって運営されています。
greenz.jpでは20種類も分別するゴミステーション、坂口修一郎さんのインタビューをお届けしましたが、今回ご登場いただくのは、第1回目から運営に携わっている4人の“グッドネイバーズ”たち。鹿児島の夏の終わりの風物詩として定着しつつある「グッドネイバーズ・ジャンボリー」を、どのように盛り上げているのか、お話を伺いました。
「踊る阿呆に見る阿呆」を体感!?
飯伏正一郎さん
ワークショップのブースを取りまとめているレザークラフト作家の飯伏正一郎さんは、1回目の開催時に坂口修一郎さんに連絡して、出店を希望しました。
これまで、自ら問い合わせて出店を希望した人は僕だけみたいで、今でも修一郎さんには良くしていただいています。
「地元のイベントだから参加してみたい」というシンプルな想いで開催したワークショップでしたが、参加者は100名以上。
大自然に囲まれて多くの人とものづくりをすることが本当に楽しくて、お祭りは見るものではなく参加するものだなと実感しました。
と当時を振り返ります。
この感動を胸に、飯伏さんは翌年から実行委員としてジャンボリーに携わることにしました。実行委員となった飯伏さんは、前年教室で行っていたワークショップを屋外で行う「青空ワークショップ」を提案します。これにより、外と隔離されることなくものづくり体験ができるようになりました。
青空ワークショップの様子
作家同士の仲の良さをカタチに
飯伏さんはワークショップを行う地元のものづくり作家たちの取りまとめ役も務めています。
「鹿児島はものづくり作家同士がとても仲が良く、いつも助け合っています。ジャンボリーにはそういう小さくて濃いコミュニティーの良さが表れている気がします」と飯伏さん。
ジャンボリーは、仲の良いグッドネイバーズとそれを面白がってくれる人たちが楽しいことをシェアする場。
そう考える飯伏さんは、出店者に対して基準を設けています。それは「ジャンボリーの趣旨を理解し共感し、損得勘定なくその場を心から楽しめること」。そして「できれば見ず知らずの人よりも、知り合いとか仲間の紹介で知り合った人のほうがいい」。出店者全員がグッドネイバーズであるための大切な基準なのでしょう。
仕事で県外に出向く機会も多い飯伏さん。最近では出張先でジャンボリーのことを尋ねられる機会が増えてきました。「お客さんとして楽しみたい気持ちもあるけれど、こんなに楽しいイベントの運営に携わっているということは僕の誇り。だからこれからも楽しみながら続けていきたい」と飯伏さんは言います。
参加者と一緒に作るステージとは?
坂口順一郎さん/撮影 石神和哉
ステージなどの設営を担当するのは坂口順一郎さん。現在は、花屋とギャラリーが融合したショップ「NOGLE(ノイル)」のオーナーですが、第1回のジャンボリー開催時には、イベント設営会社に勤務していました。
坂口さんは、主催者・坂口修一郎さんと名前が似ていることも手伝って、ジャンボリーの話を聞くや否や意気投合。「ローカルコミュニティから発信したい」という坂口修一郎さんの想いを形にしたいと思ったそうです。
参加者の視線が集まりやすいステージは、サイズやデザインにも気を遣います。「大自然の中でステージという無機物が違和感を与えないように、あまり作りこまないようにしています」。
ステージの様子
もちろん、ステージの仕様も毎年変わります。たとえば昨年はステージ後方の木々をいかすためにバックパネルを設けませんでしたが、今年はバックパネルを設けることになっています。
実は、鹿児島在住のイラストレーター・江夏潤一さんが、ジャンボリーのプレイベントで地元の商業施設の懸垂幕を使ったペナントを作るワークショップを開催し、そこで参加者たちが作ったペナントをバックパネルに貼る予定なのです。
ジャンボリーではステージも参加者と一緒に作り上げるんです。
その他にも、回を重ねるごとに雨風など天候による問題にも対応できるよう、改善を重ねています。
不便さがもたらす「協力」という喜び
「森の学校は、イベントをする上では決して便利な場所ではない。離島とよく似ていると思います」と坂口さんは言います。立地上不足してしまう電力は、環境のことを考えてグリーン電力を採用しています。
さらに、DJブースで使用する電力は、風力とソーラーパネルの力で電気を生み出す発電機によって賄われています。この発電機は、薩摩川内市の「豊瑛電研株式会社」がジャンボリーの趣旨に賛同し、ボランティアで貸し出しているのだそう。
ジャンボリーは、お客さんを含め同じ価値観を持つ人々の協力によって成立している。同じ価値観を持つ人=グッドネイバーズということなのかもしれませんね。
「はじめは試行錯誤だった設営も過去3回の経験を経て、スムーズにできるようになった」と語る坂口さん。このノウハウを若い世代に伝えていくことがジャンボリーの成熟に繋がると坂口さんは考えているそうです。
作り手集団だからできること
ディレクターの大迫祥一郎さんとデザイナーの清水隆司さん
「グッドネイバーズ・ジャンボリー」の広報・PRを担当するのはディレクターの大迫祥一郎さんとデザイナーの清水隆司さん。坂口さんがジャンボリーのことをランドスケーププロダクツの中原慎一郎さんに相談した際、鹿児島のクリエイターとして紹介されたのが大迫さんと清水さんだったのだそう。
広報・PRチームは全部で4名。清水さんが大迫さんと話し合いながらフライヤーやグラフィック、ウェブなどのデザインをし、ウェブディレクターの岡積直樹さんがホームページを制作します。プレス対応やニュースリリース関連を担当するのはPRの四元朝子さん。それらを取りまとめ、ディレクションするのが大迫さんです。
グッドネイバーズは作り手の集まりだから必要なものは自分たちで何でも作ります。広報・PRチームも、それぞれの職能を活かして補完し合うことで、うまく機能していますね。
と大迫さんは言います。
「グッドネイバーズ・ジャンボリー 2013」 フライヤー
「グッドネイバーズ・ジャンボリー」には、様々なコンテンツがあります。コンテンツが多いということは、伝えるべき情報が多いということ。それらを整理し、わかりやすく伝えるのが広報PRの役割といえます。
また、ミュージシャンの知名度に頼らず、総合力で人を楽しませているというのもジャンボリーの特徴の一つ。だから清水さんは、ホームページやフライヤーも全カテゴリーを同列で扱うようにしているそう。加えてファミリー層の参加者が多いことから、今年はサーカスをモチーフにした楽しいデザインを採用しました。
バッジ。デザインアワードはともにJudd. 清水さんによるもの。
植物を育てるようにフェスティバルを育てる
第1回目の参加者は500人ほど。その中には実行委員の知り合いも少なくありませんでした。大迫さんや清水さんもフェスの広告は体験したことがなく、「今思うとかなり不細工な広報だったかもしれませんが、不細工なりに反応はあって、一度経験したら次からはうまくやれそうな気はしていました」と振り返ります。
第3回目の昨年の参加者は1500人ほどで、県外からも多くの参加者が駆けつけるまでに成長しています。とはいえ、1500人という人数はフェスとしては決して大きな規模ではありません。
急成長させるのではなく、少しずつ「グッドネイバーズ・ジャンボリー」というカルチャーを浸透させていきたい。最近では年中誰かがジャンボリーの話をしています。3年を経て、確実に土壌が育ってきているということです。
と大迫さんは手応えを感じているようです。
4人のグッドネイバーズには、いくつもの共通点がありました。彼らはみな坂口修一郎さんの想いに共感し、同じ価値観と志を持ち、何より「グッドネイバーズ・ジャンボリー」を心から楽しんでいました。そんなグッドネイバーズの中で、夏が近づくとよく耳にする素敵な合言葉があります。
「グッドネイバーズ・ジャンボリー2012」 会場を襲った大雨の後に、雨具を来て踊りだす参加者たち
「森の学校で会いましょう」。
坂口修一郎さん個人の想いから始まったグッドネイバーズという楽しい連鎖。今年の開催は8月31日。この夏最後の思い出に、みなさんもこの楽しさを体感しに出かけてみてはいかがでしょうか。
(Text:さわだ悠伊/編集:四元朝子)
「グッドネイバーズ・ジャンボリー2012」 撮影:安藤アンディ