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誰もが表現者になれる社会を。奈良を面白くする”クリエイティブ・イントロデューサー”という仕事とは?

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

あなたは自分を“表現者”だと思いますか?「思わない」と感じたあなたに質問です。そもそも“表現者”とはどんな人のことを指すのでしょう。

映画監督や芸術家といった、いわゆるクリエイティブな職業についている人たちのことだと思う方が大半かもしれません。しかし、表現者とは本当にその人たちだけなのでしょうか?

今回取材した「クリエイティブ・イントロデューサー」の山本あつしさんは、“誰もが表現者になれる社会”を目指して、あらゆる方法で日々ユニークな“ヒト”“バショ”“コト””モノ”の紹介を行っています。そこには、人や町、物事の認識をおもしろく読み替えて、そこにあるはずの“お金以外の価値”を共有していきたいという思いが隠されていました。

多彩な活動の場

奈良県奈良市。この町を拠点とした山本さんの活動・プロジェクトは、実に多彩です。ここでは10のプロジェクトを駆け足でご紹介していきたいと思います。

1. 藝育カフェSankaku

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Sankaku」は奈良市の下御門(しもみかど)商店街の一角にあるカフェ。ここで、山本さんは展覧会やイベントのプロデュースを行っています。

かつてダンスホールやカラオケ喫茶として使われていたレトロな空間で、“まちをアートでいっぱいに”をコンセプトに、経験者だけでなく展覧会を初めて開催する人の表現活動も紹介。2011年からこれまでに、さまざまなジャンルの表現者の展覧会が100本以上開催されました。

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カラフルなタイルと三角のマークがお店の目印です

2. しもみかどカルチャーセンター『しもカル』

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カフェのオーナーとウクレレの先生が将棋部をスタート

普段、“人に教える”という機会のない人たちが先生やリーダーになり、自分たちの趣味や特技を伝え、共有するという企画。「あの人がこんなことするの?」というユニークな体験の場が生まれています。

3. NIJIプロジェクト

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http://narasora.com/niji.html

奈良の表現者と地域資産を掛け合わせ、それぞれの魅力を映像・フリーペーパー・展覧会で紹介するプロジェクト。

4. フリーペーパー「コトト」

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ムジークフェストなら2013実行委員会から依頼を受けて制作した“奈良の音や音楽にまつわる人の物語を紹介する”フリーペーパー。同イベントの出演者のほか、モンベルの創業者である辰野勇さん、sonihouseの鶴林万平さんなど、ユニークな顔ぶれの物語が掲載されています。

5. 私のマチオモイ帖

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my home town 私のマチオモイ貼」展覧会の“クリエーターがそれぞれ思いのある町を映像や冊子にして紹介する”という趣旨に賛同し、奈良・和歌山・三重の3つの県の地域主催者として参加。

6. ならサローネ

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アート・デザイン・音楽・演劇・ダンス・写真・映像・クラフトなど、ジャンルを超えた表現者たちのパネル展やトークセッション、交流会などを奈良のあちこちで同時展開し、奈良の表現者たちを紹介。

7. ならサローネ・INO 主催

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「ならサローネ」から派生した、公開インタビュー企画。毎回、ジャンルや立場を問わず、クリエイティブな活動に取り組んでいる人を紹介。写真は奈良県立図書情報館の乾聰一郎さんとの対談風景。

8. リユース瓶入り大和茶「と、わ」デザインコンペティション

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リユース瓶入り大和茶の商品パッケージデザインを募集する企画で、コンペのプロデュースを担当。奈良にデザインの仕事が生まれる可能性があること、地域を限定したマーケットで生きてくるリユース瓶のしくみ、大和茶という存在そのものを紹介。

9. ナレッジ・インクルージョン

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イントロデューサー(紹介者)2人が、おもしろいと思う友人を5人ずつ連れてきて、ジャンルを問わずそれぞれが興味を持っていることについてのショート・プレゼンを行い、新たな交流を生み出す試み。今話題のグランフロント大阪のナレッジサロンで不定期に開催。

10. ゼリヤナイト

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サイゼリヤで、年齢・性別・職業など関係なく、ユニークな視点を持った人たちを集めて紹介し合う企画。おいしく食べて飲んで交流して、毎回支払いは一人1,500円程度。サイゼリヤのある町ならどこでも開催可能なクリエイティブ・マッチングの試み。現在、奈良と大阪で開催。

さらに、奈良・町家の芸術祭「HANARART(はならぁと)」の立ち上げメンバー、奈良県障害者芸術祭「HAPPY SPOT NARA」の実行委員、「なら・ソーシャルビジネスコンテスト」のアドバイザー、下御門商店街の広報担当、奈良佐保短期大学で観光ビジネスを教える講師などなど。その活動の幅広さには脱帽です。また最近では、シェアハウスや福祉ホームの建築物をプロデュースする機会も生まれ始めているそう。

ご覧の通り、いろんなことをしている山本さんですが、その中心にあるのは全て同じ、ひとつのこと。“ヒト”“バショ”“コト”“モノ”の意味を読み替え、その価値を紹介していくことなのです。

活動のスタートは、自宅で開いた展覧会

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山本さんの自宅であるaalabo(エーエーラボ)

山本さんの“紹介”活動がスタートしたのは、2004年のこと。家業の材木店で建築士として働いているときに、モデルハウスを兼ねた自宅を建てることから始まります。

家を建てて、オープンハウスをしてお客さんに来てもらっていたんですけど、あるとき、ハコを見せるだけではおもしろくなくなってきて、そこでどう住まうかを提案していくほうが楽しいんじゃないかと思ったんです。

それがきっかけで「そもそも住むって何だ?」って考え始めたら、“住”という字って“人が主”って書くことに気がついて、「人が主役になるにはどうしたらいい?」と深めていったら「自分の好きなことをやればいいのか!」ってことになった。僕はアートを見るのが好きだったので、じゃあ家を美術館にして住んじゃえと。

でも、コレクションなんてなかったのでどうしようかと考えていたら、友達のアーティストたちが発表の場を求めていたことを思い出して、「うちでやって!」って声をかけたんです。そうすれば家だけじゃなく、作家さんのことも紹介できるなあと。思い返せば、それが始まりでしたね。

そして2008年、2日間の自宅展覧会を開催。すると、作家のお客とオープンハウスに来ていたお客の間で自然に会話が始まり、友達になるという状況が生まれます。これは予想外の出来事だったそう。

紹介と紹介を掛け合わせたら新しい出会いが生まれたんです。「これはおもしろい!」と思いましたね。以降、もっとそういう出会いを生むことができないかと考えるようになって、次は展示だけでなく、作家さんとお客さんが一緒につくるワークショップをしてもらうことにしました。作家さんとも話せるし、お客さん同士もより仲良くなれるんじゃないかなと。案の定、みなさんすごく仲良くなってくれました。

参加者同士がより深く交流できるようになった分、滞在時間が延び、必然的にお腹がすいてきます。そこで、元パティシエの奥様が作ったケーキなどを出すようにしたところ、これが大好評。この一連で生まれた、“展覧会 × ワークショップ × カフェ”という形が、Sankakuの原型になっていきます。

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左が奥さん。右はカメラを向けるとついついふざけてしまう山本さん

“家に住む”から“地域に住む”へ

そういったことを続けていると、山本さんの想定外の連鎖も続きます。地域のおっちゃん・おばちゃんが「何をやっているんだろう?」と覗きにくるようになったのです。当時大阪で働いていて近所付き合いがほとんどなかった山本さんは「家に人が集まってワイワイやっていたら人が来てくれるんや!」と、衝撃を受けます。

このときね、“家に住む”ということが“地域に住む”ということになるんじゃないかって思うようになったんです。どういうことかというと、家に住む、つまり「人が家の主役になるには?」って考えたら、家の意味がどんどん読み替えられて美術館になり、ワークショップスペースになり、カフェになりっていう風に機能が重層していって、最終的には勝手に地域に開かれていった。

住むということを考えれば考えるほど、家というプライベートな空間がおもしろい場所になっていき、地域というパブリックな空間に開かれていく。であれば次は地域に住む、つまり「人が地域の主役になるには?」ってことを考えてみようと思ったんです。その手段は僕にとってはやっぱりアートだったので、それを地域で仕事にしたら良いんじゃないかと。それで、奈良でSankakuを始めたんです。

マイナスがプラスに変わるとき、価値が見えてくる

山本さんは自身の活動を通してたくさんの“ヒト””バショ””コト”“モノ”の紹介を行っていますが、その際にも見方を変える、意味の読み替えをしているそうです。

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人を誰かに紹介しようと思ったら、“いいところ”を見つけないといけないですよね? でもそれって、なかなかわかりにくかったりするんですよ。でもね、実は欠点だと思うところがいいところだったりする。その欠点を“いいところ”に変換するのは何かと言うと、“おもしろがる”ということなんです。とにかくそれを“おもしろい”と思ってみる。ただそれだけ。そうやって物の見方を変えるだけで、マイナスだったものがプラスになり、そこに今までなかった価値が生まれます。

この方法のすごいところは、自分の見方を変えるだけなので、エネルギーの消費がほぼゼロだということ。つまり、これってお金以外の価値が生まれるってことなんですよ。もちろんお金も大事ですけど、それよりも僕はいろんな価値や価値観があって、それを認め合える状況が“豊か”なんだと思っています。お金だけが価値だったら、お金持ちだけが強いってことになってしまいます。でも違うと思うしね。

そして、この考え方は町にも当てはまると山本さんは話します。

町ってハードの部分を変えようと思ったらお金も時間もかかるし、すごく大変ですよね? でも、見方を変えると、町のいろんな価値に気づくことができます。例えば奈良は観光地であるにもかかわらず、47都道府県中で、最も宿泊客室数が少ないと言われています。まともに考えたら「もっとホテルをつくろう」となるのですが、いや待てよと。

奈良には町家をはじめとする良質なストックがたくさんある。そして必ずしも泊まることだけが観光ではない。いっそのこと、そんな空き物件に“住む観光”をというのを考えてみてはどうだろうと。さらにアーティストやクリエイターに住んでもらって、作品をつくったり発表したりする場所にしてもらったら、もっとおもしろい。「奈良ヤバいやん!」となる(笑)。

みんなとにかく新しくておもしろそうな物をつくろうとするんですけど、もう町は十分におもしろいんですよ。これは全てに言えることですけど、見方を変えて、それらがもともと持っている価値に気づけばいい。内面的なものを、外面的・感性的形象として客観化すること。それこそが「表現」です。だから僕は、それができる人を表現者と呼んでいます。もしもみんなが、見方を変えて見ることできるようになったら、誰もが表現者になったとしたら、僕は世界が変わると思う。そして、これは誰もができること。みんな表現者になれるんですよ。

最後に、私たちが表現者になりたいと思った場合、まずは何をするとよいか、ヒントを教えてもらいました。

身近な物をおもしろがってみてください。人やモノを誰かに積極的に紹介してください。なにより、興味を持って、好きになってください。通り過ぎている風景の中に、きっと価値がたくさん眠っています。

あなたの周りの“ヒト””バショ””コト”“モノ”、なんでもかまいません、だまされたと思って、その欠点をいいところかもしれないと思って見てみてください。その人、その場所、その事、そのモノが、お金以外の価値を持つ“宝物”になるかもしれませんよ。

(Text:赤司研介)

赤司研介(Akashi Kensuke)
1981年生まれ。熊本出身の神奈川育ち。奈良県在住。広告制作会社でライター経験を積んだ後、フリーライターとして活動。現在は西日本最大級の生産力を誇る大阪八尾の印刷会社「株式会社シーズクリエイト」CSR室に所属。“生物多様性”“地域活性”をキーワードに、これからの社会に必要な“しくみ”と“人の居場所”をつくる活動に取り組む。情報発信と同時に、奈良県に外国人観光を受け入れるしくみをつくるバイリンガルフリーペーパー「naranara」副編集長。

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